月刊地震予報100)鳥島南東沖連発地震・種子島東方沖連発地震・連発地震とオイラー緯度・2018年1月の月刊地震予報

1.2017年12月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2017年12月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で21個0.098月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で7個0.055月分,伊豆・小笠原海溝域で6個0.439月分,南海・琉球海溝域で8個0.053月分であった(2017年12月日本全図月別).
2017年12月の最大地震は12月21日の鳥島沖M6.0である.鳥島南東沖では最大地震M6.0を含む連発地震があり,種子島東方沖でも連発地震があった.
2017年の年間CMT解は192個で面積比が0.142と,最低記録であった1997年の0.107に次ぐ低さであった(2017年日本全図年別).

2.鳥島南東沖連発地震M4.6-M6.0

 2017年12月21日9時40分から12月23日8時10分にかけ鳥島南東方の伊豆海溝軸内側の太平洋スラブ内でM4.6からM6.0の連発地震が起こった(表27).発震機構は逆断層p型で最大地震を除き引張過剰+pである.沈込もうとしている太平洋スラブをフィリピン海プレートプレートが載上げて起こしたのであろう.最大地震M6.0の主応力軸方位(P97+20T308+67N191+11)を基準にすると,応力場極性区分は全て基準区分orgで,偏角は11°から34°に収まっており,応力場は最大地震後も変化せず保持されている.

表27.2017年12月鳥島南東沖連発地震.

M 北緯° 東経° 深度
(km)
Slab
(km)
距離
(km)
方位° 番号 応力場
2017 12 23 8 10 5.2 +pe 29.365 142.578 39 +29 15 295 CMT org11.1
2017 12 21 12 0 6.0 pe 29.308 142.717 53 +44 0 基準 CMT 基準
2017 12 21 10 56 5.4 +p 29.295 142.460 49 +37 25 267 CMT org28.6
2017 12 21 9 42 4.6 +p 29.295 142.277 55 +40 43 268 CMT org34.3
2017 12 21 9 40 4.6 +p 29.265 142.397 51 +38 31 261 CMT org25.9
2017 7 28 8 58 5.2 -t 29.262 142.542 47 +36 18 253 CMT PexT140.5
2017 4 11 5 42 5.0 +pe 29.642 142.465 48 +38 44 327 CMT org48.4
2016 5 26 8 1 4.9 Pe 29.355 142.582 48 +38 14 292 CMT org14.6
2014 1 18 14 0 5.6 P 28.973 142.480 30 +16 44 211 CMT org17.6
2013 2 21 23 5 5.3 Po 29.420 142.858 31 +24 18 48 CMT org11.5
2013 2 4 8 4 5.1 P 29.285 142.298 23 +8 41 266 CMT org7.5
2013 2 4 7 56 5.4 p 29.342 142.378 52 +39 33 277 CMT org14.5
2013 2 3 3 31 5.4 P 29.438 142.502 37 +26 25 305 CMT org25.7
2010 9 14 2 44 4.6 +pe 29.282 142.607 55 +45 11 255 CMT org17.7

 今回の連発地震の震央は基準から全て西方に15-43kmの範囲にある.震央距離50km以内に初動解や歴史地震はないが,2010年9月から2017年7月にM4.6-5.6のCMT解が9個ある(表27,図257).これらの応力場極性区分は,逆極性区分PexTの2017年4月M5.2を除き,基準区分orgであり,その偏角も8°から48°と連発地震の偏角と同程度である.

図257.2017年12月の鳥島南東沖連発地震のCMT主応力軸方位.
 左図:震央地図(円は基準地震から震央距離50km)・海溝距離断面図,右上:縦断面図(伊豆小円南区),右中:時系列図(右端数字:年数),右中図左端(Benioff:積算地震断層面積のBenoff図),右下:主応力軸方位図.

 2017年4月の逆極性区分M5.2の震源位置は,基準からの震央距離18kmと近く,連続地震の震源分布内にあることから,2017年4月に応力場に異変があったのであろう.

3.種子島東方沖連発地震M4.2-M5.2

 種子島東方沖の琉球海溝内スラブで2017年12月19日から12月21日にかけてM4.2-M5.2の連発地震が起こった(表28).発震機構は全て圧縮過剰正断層-t型であり,フィリッピン海プレートの九州-パラオ海嶺が九州の下に沈込みを開始するため同心円屈曲して体積過剰とになったスラブ上部で起こっている.2017年12月20日22時40分の最大地震M5.2の主応力軸方位(P218+72T97+10N4+15)と震源を基準にすると連発地震の応力場極性区分は全て基準区分orgに属し,偏角は21°から51°で応力場の逆転が認められず,連発地震を起こした応力場が保持されたまま終息している.連発地震の震源は基準からの震央距離10km以内に収まっている.

表28.2017年12月種子島東方沖連発地震.

M 北緯° 東経° 深度
(km)
Slab
(km)
距離
(km)
方位° 番号 応力場
2017 12 21 12 40 4.4 -t 30.663 132.082 56 +45 6 9 CMT org51.6
2017 12 21 0 39 4.2 -t 30.637 132.102 53 +43 4 42 CMT org21.2
2017 12 20 23 45 4.5 -t 30.697 132.090 54 +43 10 10 CMT org42.3
2017 12 20 22 40 5.2 -t 30.608 132.072 61 +50 0 0 基準 0
2017 12 19 8 28 4.7 -t 30.600 132.175 51 +42 10 95 CMT org42.9
2015 8 4 13 39 4.7 +p 30.647 131.605 38 +20 45 276 CMT PexT163.6
2015 8 2 6 51 4.4 P 30.612 131.583 41 +23 47 271 CMT PexT163.6
2014 11 19 23 34 4.7 p 30.607 131.570 38 +20 48 270 CMT PexT153.3
2014 6 2 0 27 4.1 t 30.443 131.813 45 +32 31 233 CMT org39.5
2010 8 30 13 25 4.4 Te 30.728 132.295 54 +45 25 58 CMT org22.2
2002 7 16 20 57 5.2 To 30.777 132.495 61 +54 45 65 CMT org26.9

 本連発地震の基準地震から震央距離50km以内には初動解や歴史地震はないが,2002年7月16日から2015年8月4日までにM4.1-M5.2のCMT解6個が報告されている(表28,図258).これらの応力場極性区分は2002年7月から2014年6月までは基準区分orgに属し,偏角も22°から39°と今回の連発地震よりも小さい.しかし,2014年11月から2015年8月まではP軸方位とT軸方位が入替るPexTの逆応力場で,偏角が153°から164°と基準の逆応力場偏角180°から16°から27°しか偏っていない.震源位置を比較すると,震央方位が西方の270-276で基準震源から38-41kmに位置し,スラブ深度が20-23kmと浅く,発震機構が逆断層型であることが異なっている.

図258.2017年12月の種子島東方沖連発地震のCMT主応力軸方位.
 左図:震央地図(円は基準地震から震央距離50km),中:最上小円区海溝距離断面図,右上:縦断面図,右中:時系列図(右端数字:年数),右中図左端(Benioff:積算震断層面積のBenioff図),右下:主応力軸方位図.

 琉球海溝軸付近のスラブ深度が30km以上の基準地震と,西方に海溝軸から離れたスラブ深度が30km以下の震源の間には応力場の逆転が存在しており,海溝軸付近ではスラブ同心円状屈曲に伴う正断層型地震が起こるが,西方で沈込スラブ上面が島弧地殻との接触によって剪断応力による逆断層型地震を起こすため,応力場が逆転したと考えられる.

4.連発地震とオイラー緯度

2017年12月の同時期に鳥島南東沖連発地震(表27)と種子島東方沖連発地震(表28)が起こり,その関係が注目される.両連発地震はフィリピン海プレートが載り上げる太平洋スラブ内とアムールプレートの下に沈込むスラブ内で起こっている.この連発地震にフィリピン海プレートと太平洋プレートのプレート相対運動の関係が予想される.太平洋プレート・フィリピン海プレート相対運動のオイラー極はパラオ海溝とアユ海盆の間(1.2N134.2E)とされており,両連発地震の基準震源のオイラー緯度を算出すると(新妻,2007),60.7°・60.5°と殆ど一致する.
種子島東方沖連発地震は,フィリピン海プレートとアムールプレートとの相互作用によって起こっているが,アムールプレートのホットスポット系に対する回転速度は百万年間に0.07°と,太平洋プレートの0.98°・フィリピン海プレートの1.14°に比較し桁違いに小さいことから,種子島東方沖に影響を与えるのはフィリピン海プレートの運動であり,アムールプレートとはプレート境界の物理状態が影響を与えるに留まるであろう.フィリピン海プレート運動は太平洋プレートとの相互作用に支配されており,相対運動はオイラー極の周りの回転運動で記述される.オイラー極の回りの回転運動では,オイラー極から等角距離の等オイラー緯度に沿って同じ回転運動をすることが予想される.今回の等オイラー緯度における連発地震の同時発生は,太平洋プレート・フィリピン海プレート間の回転運動に関係していること示している.
従来,プレート運動とプレート境界の状態を区別できなかったため,プレート境界の状態のみを重視する「アスぺリティー仮説」などが提唱されてきたが(特別報告2),プレート運動も断続的であればプレート相対運動の等オイラー緯度の地震活動を比較することによって,プレート運動の変動を分離して検討することができる.

5.2018年1月の月刊地震予報

2017年12月の日本全域CMT解個数は21個と多かったが,地震断層面積のプレート運動面積に対する比は0.098と1割以下で,2017年の年間CMT解は192個で面積比が0.142と,1997年の最低記録0.107に次ぐ低さで,嵐の前の静けさは続いている(図259).

図259.1994年9月から2017年12月までのCMT解の地震断層面積.
上図:積算地震断層面積のBenioff図,灰色斜線はプレート運動積算面積,上の数字は地震断層面積のプレート運動面積に対する比,下の数字は総地震断層面積相当規模.
下図:170.4日間の移動平均の対数曲線,発震機構型による彩色は線形分配,上の数字は総地震断層面積.
Total:日本全域,RykNnk:琉球海溝・南海トラフ域,OgsIz:小笠原・伊豆海溝域,Jpn:日本海溝域,Chishima:千島海溝域.

CMT解の地震断層面積のプレート運動面積に対する比は,日本全域(Total)で1.76と大きく超過しているが,これは2011年の東日本大震災本震による日本海溝域(Jpn)の6.96が大きく関与している.
千島海溝域(Chishima)では比が0.97と地震断層面積がほぼプレート運動面積(灰色斜直線)と一致するとともに2013年5月24日カムチャツカ沖M8.3Pと2007年1月13日千島海溝M8.2Teの2つの大きな段があり,その間の6年半を再来周期と仮定すれば,2020年にM8.2以上の地震が予想できる.
小笠原・伊豆海溝域(OgsIzu)の比は1.47と地震活動がプレート運動に比較して過剰であるが,ほぼプレート運動に沿う地震活動が続いている.
琉球海溝・南海トラフ域(RykNnk)の比は0.49と地震活動がプレート運動の半分以下である.しかし,1994年から2001年までの比は0.74とプレート運動(灰色斜直線)にほぼ沿っていたが,2002年以後の比は0.37と地震活動が半減している.2002年以後の発震機構型比は,2001年以前に比較して逆断層型(赤色)を主体とし,横擦断層型(緑色)が減少している.ただし,2015年末からは,2015年11月14日沖縄トラフ最大CMT解M7.1+nt(速報74)・2016年4月16日熊本地震M7.3(速報79)・2016年10月21日鳥取県中部地震M6.6+np(月刊地震予報85)が続き横擦断層型が主体を占めるようになって現在に到っており,Benioff図(特別報告5)に明確に表れていないが,地震活動活発化が窺われる.
日本全域CMT解の地震断層面積のプレート運動面積に対する比の年間最低記録となった1997年には,琉球海溝・南海トラフ域の発震機構型比率が現在と同様横擦断層型優勢であり,翌1998年5月4日琉球海溝域最大CMT解八重山沖M7.7-nto,2年後1999年9月21日台湾域最大CMT解集集地震M7.7+pが起こっている.2018年・2019年には台湾・琉球海溝・南海トラフ域におけるM8級の巨大地震に警戒が必要である.
フィリピン海プレート・太平洋プレート相対運動の等オイラー緯度に位置する鳥島南東沖と種子島東方沖でほぼ同時に連発地震が起こったことは,この連発地震が太平洋プレートに対するフィリピン海プレートの運動に支配されていることを示している.南海トラフ巨大地震襲来前の予報が急務とされる現在,琉球海溝・南海トラフ域の地震活動を伊豆海溝の地震活動と比較することによってフィリピン海プレート運動の変動を解析する道が拓かれたことから,今後の発展が期待される.

引用文献

新妻信明(2007)プレートテクトニクス―その新展開と日本列島―.共立出版,292p.