月刊地震予報172)2023年12月16日の伊豆海溝域MarianaM5.7,12月28日の千島海溝域択捉M6.5,2024年1月の月刊地震予報

1.2023年12月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2023年12月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で14 個0.233月分,千島海溝域で1個0.554月分,日本海溝域で7個0.120月分,伊豆・小笠原海溝域で6個0.194月分,南海・琉球海溝域で0個であった(2023年12月日本全図月別).
 2023年12月の総地震断層面積規模はΣM6.6で,最大地震は,2023年12月28日択捉のM6.5(6.6)で,M6.0以上の地震は2023年12月16日MarianaのM5.7(6.3)があった(括弧内は初動規模).
 2023年12月までの日本全域2年間のCMT解は358個で,その総地震断層面積規模はΣM7.8,Plate運動面積規模はM8.2で,その比は0.322である(図538の中図上).Benioff曲線(図538右図上左端Total/4)には東北前弧沖震源帯ofAcJの2022年3月M7.3(月刊地震予報151)と琉球海溝域の歪解放周期更新の2022年9月M7.0(月刊地震予報157)の2つの大きな段が緩い傾斜の静穏期の中に認められる.2023年9月から千島・伊豆・琉球海溝域のM6級の活動によってTotal/4のBenioff曲線の全体的傾斜が増大しており,M7級地震に警戒が必要である.
 

図538 .2023年12月までの日本全域2年間CMT解.
 左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.数字とMは,2年間のM7.0以上のCMT解に加え2023年12月のM6.0以上のCMT解年月日・規模.
 右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間の開始(下端2022年1月1日)から終了(上端2023年12月31日)までの730日間で,右図右端の数字は年月数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36特報5).
 Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
 階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積のPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.2] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.2の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.2step)は,等分期間2.9日以内にM6.2以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
 地震断層移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分区間「2.9day」に前後区間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,逆断層型を赤色・横擦断層型を緑色・正断層型を黒色.
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2.2023年12月16日MarianaのM5.7

 伊豆海溝域のMariana小円区で12月16日18時50分深度10㎞の伊豆前弧震源帯のMariana震源区fAcPcMでM5.7が起こった.本破壊のCMT規模はM5.7であるが,破壊開始の初動規模はM6.3で,初動地震断層面積が5倍大きい.
 本地震は,先月2023年11月24日10㎞M6.9Tr(月刊地震予報171)の後続地震で,太平洋Plateが伊豆・小笠原海溝に沿って同心円状屈曲Slabとして沈込む際に,Slab上面と接する島弧地殻・MantleとのPlate境界に沿う伊豆前弧震源帯のMariana震源区fAcPcMの島弧地殻・Mantle側で起こった(図538,図539).
 伊豆前弧震源帯fAcPcの記録は,1902年まで遡ることできる.最初の2個は伊豆海溝域最大規模のM7.9で,Mariana小円区で1902年9月22日,海台小円区で19014年11月24日に起こっている(Seno & Eguchi, 1984;図539).本地震M5.7と先月のM6.9は,1900年代初頭の巨大地震の中間に位置し,未解放の歪が限界に達して解放を開始したと考えられるのでM8級の巨大地震に警戒が必要である.
 先月と今月の地震の非双偶力成分比は+24%と+11%で,引張T歪が圧縮P歪の2.4倍と1.4倍の引張過剰である.引張歪軸傾斜方位は330+20°と323+26°の北西で,震源の北緯20.4°と20.7°におけるPlate運動PC-PH方位303°と301°より24°と22°時計回り回転しており(図537右下図の主歪軸傾斜方位図の左下の青色△が紫色のSub折線の下方に位置している),Coliolis力を受けていることを支持する.
 同じ発震機構で,初動が主動より大きいこととCoriolis力による主引張歪軸方位の緯度程度の時計回り回転(月刊地震予報170月刊地震予報171)が確認されたことは,震源域の破壊・摩擦状況が変化しておらず,震源域の歪解放が開始された段階であることを示唆している.

図539.伊豆前弧震源帯fAcPcの歴史・観測震源図.
 数字とM:最大規模M7.9の発生年月日と規模.2023年のM6.0以上の発生年月日と規模.
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3.2023年12月28日択捉のM6.5

 千島溝域の択捉島南東沖深度40㎞で,2023年12月28日13時20分M6.5Pが起こった(図538).破壊開始の初動規模はM6.6で,初動地震断層面積は本破壊地震断層面積より1.3倍大きい.
 震度分布は,北海道沿岸で震度2,東北日本沿岸の仙台湾まで震度1を記録し,千島海溝から日本海溝へ連続したSlabが震動を伝えており,その接続部の襟裳岬付近に最大震度3がある(図540).
 本地震は,太平洋Slab上面が島弧地殻と衝突している千島弧沖震源帯択捉震源区oAcCEtrの太平洋Slab上面深度25㎞で発生した.非双偶力成分比は-9%でT/P=0.75の圧縮過剰で,地震断層面の走向はN76Eと海溝軸に並行し,傾斜は35SEの海洋側に傾斜する逆断層で,Plate境界面における衝突による剪断歪を解放している.
 千島弧沖震源帯択捉震源区oAcCEtrでは,66個のCMT震源が北緯44.0±0.5°東経148.6±0.9°で起こっているが,2022年8月16日M5.2pからのCMT震源7個は北緯44.1±0.2°東経149.0±0.2°と数分の1の範囲に集中し(図538),連発地震となっている.この集中域には,2023年9月29日M5.9P(月刊地震予報169)も含まれている.

図540.2023年12月28日の千島弧沖震源帯択捉震源区oAcCEtr深度40㎞のM6.5Pの震度分布.
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 千島海溝域の地震記録は,明治三陸地震1896年M8.5後の1897年11月23日M7.9・1899年5月8日M6.9からある(Seno & Eguchi, 1983).総地震断層面積規模ΣM9.2は,Plate運動面積規模M9.4の66%に達し,Plate運動歪の主要部分が地震によって解放されている(図541).時系列のBenioff図(図541左中図左端)で作図開始の1885年から1930年までは,Benioff図の左下端から右上端を結ぶPlate運動面積累積斜線に累積地震断層面積Benioff曲線が沿っているが,1930年から1950年まで静穏化してBenioff曲線の増加はなく真上に向かい,1950年から1970年まではPlate運動面積斜線に並行に増大する活動期で,1970年から1990年まで静穏化し,1990年から2013年まで活動期,2013年から静穏化している.
 千島海溝域の地震活動は,ほぼ20年毎に活動期と静穏期を繰り返すが,活動期の地震断層面積はPlate運動面積にほぼ等しく,Plate運動歪が地震によって解放されているが,静穏期には地震で解放されず,そのまま蓄積されていることを意味している.弾性反発説(Reid,1911)では,地震間に蓄積した歪が次の地震によって解放され,単純な階段状のBenioff曲線になる.しかし,千島海溝域の活動期初期のBenioff曲線にそのような段差は認められない.
 千島小円区とKamchatka小円区の小円中心は共通で島弧側に位置し,千島海溝軸の輪郭は太平洋側に凸の弧状を成しているので,太平洋Slabは沈込むに従いSlab面積不足が増大し,沈込めなくなる.このSlab面積不足によるSlab沈込停止が,20年毎に訪れる静穏期と考えられる.Slab沈込停止の静穏期でも南北に接続する日本海溝とAleutian海溝との境界域では,海溝軸の輪郭が島弧側に凸なため,沈込みSlab面積過剰となる.この余剰Slabが千島海溝中央部に移行してSlab不足を緩和し,Slab沈込みを開始させ,活動期になるのであろう.縦断面時系列図(図541右中)では,活動期に震源分布が北方のKamchatka小円区に広がり,この予想を支持する.
 北米Plateに対する太平洋Plateの速度PC-NAは,年間8.3cmであるので(図541左図右縁),20年間で16.6cm沈込毎にSlab不足による停止と活動を繰り返していることになる.16.6cmの地震断層のずれD(m)は, D = 10 0.6M-4 (松田,1975)に基づきM8.0と算出される.現在の静穏期は2013年から開始しており,2033年から活動期に入ることが予想される.静穏期直前に下部Manlte上面付近で2012年8月14日M7.7p深度610㎞(速報30)・2013年5月24日M8.3P深度632㎞・2013年10月1日M6.7-np深度590㎞が発生していることは,Slab深部の沈込みによってSlab上部の面積不足が限界に達し,沈込停止に至ったと考えられる.
 Slab面積不足による沈込停止のない千島海溝両端部から最も遠い千島海溝中央部では,Slab面積不足が補われ難く沈込停止している期間が長期間に及ぶであろう.沈込めなかった期間のPlate運動面積が海溝外の太平洋底の圧縮歪を増大させ,千島海溝中央部の摩擦抵抗限界を超えてM8.0以上の巨大地震が予想される.

図541.1895年以降の千島海溝域の地震活動.
 震央地図(左)の左上から右下に向かう曲線は太平洋 PCの北米 NAに対するPlate運動.下縁にPlate運動のEuler極定数,右縁はEuler緯度と年間速度(cm).
 Benioff図の幅は,総Plate運動面積M9.4に併せてあり,ΣM9.2の総地震断層面積は66%に達している.現在は2013年からの静穏期にある.
 〇印が震源.CMT解については発震機構によって彩色し,〇印の初動震源の中心から出る直線の先端がCMT震源.数字とMは地震発生年月日と規模.
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4.2024年1月の月刊地震予報

 千島海溝域では10月1個M5.3・11月1個M5.1と静穏化していたが,2023年12月に択捉沖M6.5Pが起こった.この震源域の緯度0.2°範囲の約20㎞以内で2022年8月16日M5.2pから7個のCMTが起こっており,連発地震となっている.この連発地震は,M7級の前震とも考えられるので警戒が必要である.得撫島等の千島列島中央部でM8級の巨大地震について警戒を呼び掛けていたが,2013年から続く静穏期終了後に予想される.
 伊豆海溝域では,伊豆前弧震源帯Mariana震源区で11月のM5.9Tに続き12月にもM5.7Tが発生した.これらの発震機構に変化が認められず,M7級の地震や津波・火山噴火にも警戒が必要で,ある.

引用文献

松田時彦 (1975) 活断層から発生する地震の規模と周期について. 地震第2輯, 28, 269-283.
Reid, H.F.(1911) The mechanics of the earthquake, vol. 2 of the California Earthquake of April 18, 1906: Report of the State Earthquake Investigation commission: Carnegie Institution of Washinton Publication 87, C192 p.2 vols.
Seno, T. & Eguchi, T. (1983) Seismotectonics of the western Pacific region. Geodynamics of the western Pacific-Indonesian region, Geodynamics Series, 11, American Geophysical Union, 5-40.