月刊地震予報124)鳥島沖地震M6.1Pと伊豆Slab翼の変動,2020年1月の月刊地震予報

1.2019年12月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2019年12月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で20個0.138月分,千島海溝域で2個0.085月分,日本海溝域で11個0.217月分,伊豆・小笠原海溝域で3個0.444月分,南海・琉球海溝域で4個0.022月分であった(2019年12月日本全図月別).2019年8月まで4割以上を保持していた日本全域総地震断層比の1割以下への急減が継続していたが,やっと1割以上に回復した.
 最大地震は2019年12月11日鳥島沖M6.1Pで,M6.0以上の地震は最大地震1個のみであった.1994年9月から開始されこれまで9221日間になるCMT解の中でM6.0以上は469個で,19.7日毎に1個起っている.今回の最大地震M6.1は,2019年8月29日のM6.1(月刊地震予報120)以来104日ぶりで,平均間隔の5倍以上に達し,静穏化が進行している(月刊地震予報122).

2.2019年12月11日の鳥島沖地震M6.1Pと伊豆Slab翼の変動

 伊豆小円北区・南区境界よりやや南側の海溝軸から32km西方深度42kmでM6.1Pが起った.この震源から震央距離50km以内には,CMT解27個が報告されており,総地震断層面積規模はM7.0で,最大地震は2016年9月21日M6.5(月刊地震予報84),平均規模がM5.8で,今回のM6.1はやや大きな地震と言える.
 今回のM6.1が起った伊豆海溝からは,伊豆小円区に沈込む伊豆Slabに沿って震源iPcが配列するが,深度500km付近から傾斜を減じ,深度550kmのβからγへのMantle相転移面上に浮き上がる翼のように配列している(月刊地震予報119).この異常緩傾斜の部分を翼(iPcWγ)と呼ぶことにする(図352).翼の付け根の深度300kmから震源数は増大し,全233個中98個の42%を占める.総地震断層面積規模もM8.2中M8.2と殆どを占め,大きな地震が翼で多数起っている.

図352.伊豆小円南・北区の太平洋Plate伊豆Slabの震源iPc分布.
深度300km以下で震源が密集し,下端部が深度550kmのβからγへのMantle相転移面に載る異常緩傾斜の翼(iPcWγ)になっている.
 今回の2029年12月11日M6.1は,右上の縦断面図に+印で示した.左の震央図に震央距離50kmの円と中央の海溝距離断面図に+印を記入したが,震源分布に覆われて見えない.しかし,北隣の鹿島小円南区の図353にも記入したので見ることができる.灰色丸印:気象庁震度Databaseの震源.
Clickすると拡大します.

 北側の鹿島小円南区でも沈込む伊豆Slab震源kPcの配列傾斜が急減して翼を形成するが,その深度は410kmのαからβへのMantle相転移面の上に載る(図353).翼(kPcWβ)で起る地震数は全156個中70個の45%を占め,総地震断層面積も全M7.9中M7.6と主体を占める.

図353.鹿島小円南区の太平洋Plate伊豆Slabの震源kPc分布.
深度300km以下で震源が密集し,下端部が深度410kmのαからβへのMantle相転移面に載る異常緩傾斜の翼(kPcWβ)になっている.
 今回の2029年12月11日M6.1は,左の震央図に震央距離50kmの円と中央の海溝距離断面図に+印を記入してある.灰色丸印:気象庁震度Databaseの震源.
Clickすると拡大します.

 太平洋Plate表層が沈込み伊豆Slabになるが, Slab下に連続するMantleはSlabによって行手を遮られ.Slab下端から背弧側に押出されてPlate運動を継続させる.Slab下端から押出されるMantleはSlab下端部を押上げ,大きな地震の多発する翼を形成する(月刊地震予報119).従って,翼の地震活動はSlab下Mantleの押出に対応する.
 日本列島の南縁に位置するこの翼は,1921年から開始された定常地震計観測網によって震源の位置・規模が観測・記録されており,震度Databaseとして気象庁Home Pageに公表されている.図352と図353にはCMT解とともにDatabaseなどの震源も灰色丸印で表示した.両図中央の海溝距離断面図で発震機構別彩色されたCMT解分布域内に灰色のDatabase震源が収まっている.この一致は,定常観測初期の震源決定精度がCMT解と比較するためにも十分であることを確認させ,Slab下Mantle噴出の100年間に渡る変動解析を可能にする.
 過去100年間の翼を含む全Slabの総地震断層面積変化を検討するため移動平均曲線を比較する(図354).1920年初から2019年末までの100年を作図期間とし,150等分(243.5日)し,その間の総地震断層面積を算出する.前後を含めた3区間の移動平均面積を算出し(速報68),規模(areaM)に変換し(月刊地震予報116),移動平均曲線を作図し,見易くするために曲線の左側を図枠の左端まで赤色塗色した.

図354.翼を含むSlab地震の総地震断層面積規模移動平均曲線.
 左図が通常比較,右図はiPcWγ曲線の左右を反転させて比較したもの.

 翼Wγを主体とする伊豆Slab震源iPcと翼Wβを主体とする鹿島Slab震源kPcとの地震断層面積規模移動平均曲線を並べて左に示した.550km・410kmと深度の異なるMantle相転移面に対応するこれらの曲線は,同調して増減しておらず,増減が逆相にも見える.逆相になっているかを確かめるため,iPcWγの曲線を左右反転させて右側に示した(図354右図).今回の地震の起ったiPcMγの曲線は2015年から減少しているが,kPcMβの曲線は増加している.2005年頃は2つの曲線がほぼ並行に変化しており,増減が逆になっていることが確認できる.
 iPcWγ側を反転させた比較移動平均曲線は,Mantleの押出しが相転移を伴いながら10-20年周期で大河の屈曲のように変動しているように見える.これまでこのような変動を被害地震(宇佐美,2003;渡辺,2011)や地震Catalog(Seno & Eguchi, 1983)掲載の地震と比較してきたが,今回は気象庁震度Databaseの最大震度2以上(1921-1966年)・最大震度3以上(1967-1995年)の地震1万個余を加え,移動平均曲線を作成した.この中には1923年大正関東地震・1933年昭和三陸地震・1944年東南海地震・1946年南海地震・1952年十勝沖地震・1995年兵庫県南部地震など再来が危惧されている巨大地震活動が含まれている.これらの巨大地震と翼を含むSlab地震の地震断層面積移動平均曲線との対応を図355に示す.翼の直上に震源を持つ東南海地震や南海地震の活動とMantle押出し変動との関係が解明されれば,地震予報精度の向上に貢献するであろう.

図355.総地震断層面積規模移動平均曲線と巨大地震の比較.


 

2.2020年1月の月刊地震予報

 2019年12月にはM6.0以上の地震が1個起ったが,2019年9月からの地震活動静穏化は継続しており,慶長地震後の静穏期(月刊地震予報122)に対応するか注意深く見守ることにする.
 現在,東海・東南海・南海・日向灘に沿って同時に沈込む南海Trough巨大地震の発生が最も心配されている.過去に起った南海Trough域の巨大地震と翼に働くMantle運動変動との力学的解明が,それらの予報の鍵を握っているであろう.
 地震発生の力学の確立を念頭に,気象庁の震度Databaseの震源を解析し,巨大地震発生前に的確な地震予報のできる体制確立を目指している.その進捗状況を今後も本月刊地震予報に順次紹介するとともに地球惑星連合大会や地質学会で報告するので,ご支援いただきたい.

引用文献

Seno, T. & Eguchi, T. (1983) Seismotectonics of the western Pacific region. Geodynamics of the western Pacific-Indonesian region, Geodynamics Series, 11, American Geophysical Union, 5-40.
宇佐美龍夫(2003)日本被害地震総覧.東京大学出版会,605p.