月刊地震予報144)日本海溝域茨城沖の東北沖震源帯M6.0連続地震,琉球海溝域台湾沖M6.3,2021年9月の月刊地震予報

1.2021年8月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2021年8月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で12個0.234月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で8個0.700月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.059月分,南海・琉球海溝域で3個0.344月分であった(2021年8月日本全図月別).
 8月に起きた地震の最大は,琉球海溝域台湾沖の2021年8月5日M6.3で,日本全域の総地震断層面積規模はΣM6.6.M6.0以上の地震としては次に2021年8月4日茨城沖東北沖震源帯M6.0が続く.M6.0以上の地震の震度分布は,茨城沖M6.0で本州北東部が広く震度1以上を観測したが,これより規模の大きな台湾沖M6.3は八重山諸島に限られている(図421)

図421. 2021年8月のM6.0以上のCMT解の震度分布.
 2021年8月4日東北沖震源帯茨城沖M6.0・2021年8月5日琉球海溝域台湾沖M6.3の震度分布.
赤色×:震央,1-3:震度.気象庁HomePageより.
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2.年間地震動向

 2020年9月から2021年8月までのCMT解による年間地震活動(図422)は,日本海溝域Japanでのみ総地震断層面積がPlate運動面積の2.13年分と大きく超過し,他の海溝域では0.1以下と静穏であった.日本海溝域では,2021年2月までPlate運動面積の蓄積(図422上図JapanのBenioff図左下端から右上に向かう灰色直線)に沿って積算地震断層面積が増大したが,2021年2月13日M7.3(月刊地震予報138)による大きな段差でPlate運動面積を上回り,3月20日M6.9 (月刊地震予報139)と5月1日M6.8(6794>月刊地震予報141).の2つの段差の後の静穏化の中で8月4日M6.0が起った.琉球海溝域RykNnkのBenioff曲線には8月5日M6.3の段差が認められる.

図422.2020年9月から2021年8月までの日本全域年間CMT解の海溝距離断面(左図)と地震断層面積変遷(右図).
 海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時間経過で,開始(下2020年9月1日)から終了(上2021年8月31日)までの設定期間.右図右端の数字は2020年と2021年の月数である.設定期間を150等分した等分期間2.4day(右上図左下端)毎に地震断層面積を集計している.
 Benioff図(上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4では4分の1に縮小している.下縁の鈎括弧内の数値[8.0] [7.6] [7.3] [7.3] [7.6]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震の地震断層面積として解放された場合の規模で,日本全域では毎年M8.0の地震が1個起ることを意味している.上図右下端の(6.2step)は,等分期間2.4日以内にM6.2以上の地震が起ればBenioff曲線に段差が生じることを示している.
 日本海溝域Japanでは累積地震断層面積がPlate運動面積の2.13(右上のBenioff図上縁)倍とBenioff図枠を大幅に超過して重なるので,右隣の千島海溝域Chishimaの枠を右方にずらしてある.
 地震断層移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は断層面積規模で,等分区間「2.4day」に前後区間を加えた約1週間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算(2002>速報36)した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積の規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
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3.日本海溝域茨城沖の東北沖震源帯M6.0連発地震

 2021年8月4日5時33分に日本海溝域茨城県沖海溝距離76km深度18kmの島弧下部地殻・太平洋Slab境界の東北沖震源帯でM6.0Pが起った(図421左,図423).
 2021年8月4日M6.0の震央は,海溝傾斜方位(図423右下の主歪軸方位図中央横線TrDip)とPlate運動方位(図423右下図のSub紫色折線)が一致する鹿島小円北部に位置する.この震源域では,8月3日0時35分から8月4日13時40分の間にM4.7PからM6.0PのCMT解6個が震減距離10km以内で連発した.これに先行して2021年5月29日8時21分M5.3P・9時4分M5.0P・10時2分M5.7Pの連発地震があった.先行した5月29日の連発地震の震央も8月4日M6.0から20km以内に収まっている.
 連発地震の圧縮主歪軸方位は主歪軸方位図(図423右下図)下端に重なり会うPink色丸印である.主歪軸方位図の中央横線が基準の島弧側へのSlab上面傾斜方位で,下端は時計回りに180°回転した海溝側傾斜である.Slab上面傾斜と逆の海溝側傾斜の主圧縮軸方位は,摩擦のあるSlab上面に沿う剪断歪が解放された地震であることを意味する(月刊地震予報107 6648>月刊地震予報136).

図423. 茨城県沖の日本海溝域東北沖震源帯M6.0連発地震
2020年9月から2021年8月までの年間日本海溝域CMT解の主歪軸方位.
数字とM:M6.8以上のCMT解と2021年8月4日M6.0の震源.
時系列図(右中図)右縁の数字は2020年と2021年の月数.
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 今回の連発地震最大の2021年8月4日M6.0の主歪軸方位を基準とした歪軸方位偏角は15°以内て,ほぼ一定に保たれている.同一小円方位には,連発地震後の8月27日M5.1P海溝距離143kmが島弧Mantle・Slab境界面の前弧沖震源帯,8月22日M5.3Pe海溝距離16kmの島弧上部地殻・Slab境界面の日本海溝地震帯でも起っており,その主圧縮軸方位は主歪軸方位図の下端と上端の海溝側傾斜で,偏角は12°と25°と近接し,同一剪断歪場における地震であることを示している.
 大地震の前には前震が繰り返し,連発地震となる.前震の主歪軸方位は本震で主歪が解放されるまで主歪方位を保つことが東北沖平成巨大地震M9.0(速報29)・熊本地震M7.3(速報79)・鳥取県西部地震M6.1(月刊地震予報)で知られている.今回の連発地震の主歪方位が5月から8月まで一定に保たれていることと,両隣の島弧沖震源帯から日本海溝震源帯までの広い範囲のSlab上面で保たれていることは,広大な剪断歪場が形成されていることを物語り,大地震の発生が心配される.
 今回の2021年8月4日M6.0の震源域は2011年3月11日東北沖平成巨大地震の茨城沖誘導地震M7.9の東方で,1677年11月4日の延宝地震M8.0の北方に位置する(図424).1611年12月2日慶長地震M8.1によって慶長歪蓄積周期の歪が解放され,新たに開始した平成歪蓄積周期最初の大地震が延宝地震である(月刊地震予報122).現在は,2011年3月11日東北沖平成巨大地震によって平成歪蓄積周期の歪が解放され,新たな歪蓄積周期を開始した.最初の巨大地震が何時何処で起るかは,地震予報における最大の課題であるが,その有力候補として延宝地震(1677年)に対応する地震が挙げられる.

図424.1600年以降のM6.5以上の日本海溝域歴史被害地震・震度観測地震・CMT解.
2021年8月4日M6.0(桃色×印)を図397(6712>月刊地震予報138)に加筆.
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 日本海溝域の平面化地震帯・東北沖地震帯・日本海溝地震帯のM6.5以上のCMT解・震度観測地震の総地震断層面積は,1952年M8.2までPlate運動面積蓄積直線(図425右図左下のBenioff図左下端から右上へ伸びる灰色直線)に沿って増大していたが,1994年まで静穏化し,2003年M8.0と2011年平成M9.0が大きな段差を形成している.海溝距離断面図(図425中図)では襟裳小円区(上図)にのみ海溝距離150km以上の太平洋Slab中軸部に震源が分布し,鹿島小円区(下図)には海溝外地震が分布せず,日本海溝域の南北による地域差が認められる.

図425.1922年1月から2021年8月までのCMT解・震度観測地震による,平面化地震帯・東北沖震源帯・日本海溝震源帯のM6.5以上の地震および2021年8月4日M6.0震源から震央距離20km以内の地震.
震央地図(左図)の数字とM:M8.0以上の地震の発生年と規模.
2021年8月4日M6.0から震央距離20km以内の地震を震央地図(左図)にPink色数字とMで示すとともに時系列図(右下図)の右縁に移動平均地震断層規模areaM・Benioff図.下端のPink色太線は縦断面位置を示す.
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 2021年8月4日M6.0の地震から震央距離20km以内の地震について,2年間に地震が起らない(この場合地震断層面積移動平均規模曲線が基線まで低下する)のは1930年~1935年・1967年~1972年・1995年~2004年の3回ある(図425右下図右端のareaM図).後の2回の空白期間は,平面化・東北沖・日本海溝の震源帯でもM6.5以上の地震のない空白期と重なるが,最初の空白期間には海溝外の日本海溝震源帯で1933年昭和三陸地震M8.1が起っている.
 今回の連発地震は,2016年以降,平面化・東北沖・日本海溝の震源帯でM6.5以上の地震が起っていない空白期が続く中で起った.このような連発地震域と各地震帯との対応は過去100年間に見当たらず,日本海溝域の地域性とともに平成歪蓄積周期末期と新たな歪蓄積周期開始期との相違とも考えられるが,今後の動向が注目される.

4.琉球海溝域台湾沖M6.3

 琉球海溝域の八重山・花蓮小円区境界の台湾沖において,2021年8月5日6時50分,M6.3T深度55kmが起った.これは琉球海溝震源帯Slab内の地震である (図421右図,図426).
 

 2021年の琉球海溝域では,2021年3月27日M6.2が八重山小円区の平面化震源帯Slab内で起っており(月刊地震予報139),Benioff曲線の段差となっている(図426の右中図の時系列図左端).
 2021年8月5日M6.3Tの引張主歪軸方位(図426右下の主歪軸方位図の青色三角印)は方位図の基準の中央横線上に位置し,Plate運動方位(図426右下の方位図のSub紫色折線)とは異なる.一方,2021年3月27日M6.2npの圧縮主歪軸方位(図426右下の方位図の黄緑色丸印)は,対照的にPlate運動方位の紫色折線上に位置する.
 琉球海溝域地震のCMT解に震度観測地震と歴史被害地震も加え,1922年以降100年間2472個の地震について,古い震源図上に新しい震源を加えた震央地図と海溝距離断面図(図427左図・中図)を作成した.発震機構の判明している1994年以降の彩色されたCMT解が,発震機構不明の以前の震源(灰色丸印)をほぼ覆っていることから,1994年前後で震源分布に大きな変動がなかったことが分かる.

 累積地震断層面積のBenioff曲線は,Plate運動面積の3分の1程度でほぼ一定に増大している(図427右中時系列図左端)ことが判明している(月刊地震予報139).
 時系列図の震源分布は一様でなく空白域があり,地震活動が断続的に変動している.しかし,最北端の九州小円区では空白域はなく地震活動が継続している.九州小円区は南海Troughと琉球海溝の接続部に当り,Philippine海Plateの沈込軸が島弧側に凸に屈曲している,島弧側へ屈曲した沈込境界に沿った沈込SlabはTable Clothのように過剰なSlab面積によって形成される襞(図332:月刊地震予報117)と関係していよう.
 琉球海溝域のCMT解の総地震断層面積は,Plate運動面積の4分の1ではあるが,ほぼ一様に増大している.CMT解についても一様に増大しているが,琉球海溝・琉球平面化・沖縄海盆の震源帯の各Benioff曲線には同期しない段差が認められ,Plate運動による歪が琉球海溝から平面化そして沖縄海盆の震源帯順に移行伝播していることが分かる(月刊地震予報139の図409).
CMT解に震度観測地震・歴史被害地震を加えた100年間(図428)についても検討する(図428).

各震源帯の上位3位の地震(鈎括弧内の数字は順位)を新しい順に示すと;
 琉球海溝震源帯(図428右下)
[1] 1984年11月15日M7.8花蓮小円区,
[3] 1978年7月30日M7.4八重山小円区,
{2} 1972年1月25日M7.5八重山小円区,
{3}1947年9月27日M7.4八重山小円区.
琉球平面化震源帯(図428左下)
[3] 2011年11月8日M7.0tr琉球小円区,
[1] 1959年4月27日M7.7八重山小円区,
[2] 1958年3月11日M7.2八重山小円区,
[3] 1926年6月29日M7.0琉球小円区.
琉球島弧震源帯(図428右上)
[3] 2016年4月16日M7.3+nt九州小円区熊本地震
[1] 1999年9月21日M7.7 +p台湾小円区集集地震,
[3] 1951年11月25日M7.3台湾小円区
[2] 1922年9月2日M7.4八重山小円区.
 沖縄海盆震源帯(図428左上)
[2] 2015年11月14日M7.1+nt琉球小円区,
[1] 1938年6月10日M7.2八重山小円区,
[3]1922年9月15日M7.0花蓮小円区.
である.
 琉球海溝震源帯(図428右下)の総地震断層面積のPlate運動面積に対する比は0.21で,琉球海溝域全体の0.34(図427)の3分2を占め,Benioff曲線はほぼ一様に増大するが,2}・{3}・{1}の大地震を含む1960年から1985年まで傾斜が大きく,活発化している.
 琉球平面化震源帯(図428左下)の総地震断層面積の比は0.04で,1958・1959年{1}・{2}による大きな段差によって特徴付けられる.この段差は琉球海溝震源帯(図428右下)の活発化に先行している.両震源帯の活発化の前に空白域が広がるが,この広がりも琉球平面化震源帯が先行している.
 沈込Slabと島弧地殻・Mantleが衝突している琉球島弧震源帯(図428右上)の総地震断層面積の比は0.07で,Benioff曲線は1952年まではほぼ一様に増加したが1999年の集集地震M7.7[1]まで静穏化し,1960年から1985年まで活発化した琉球海溝震源帯(図428右下)・琉球平面化震源帯(図428左下)とは対照的である.
 背弧海盆が拡大している沖縄海盆震源帯(図428左上)の総地震断層面積の比は0.02と最小で空白域の拡大が最も大きいが,大局的に琉球島弧震源帯(図428右上)と類似している.2000年以降は九州小円区から花蓮小円区まで活動が活発で2015年M7.1[2]が起っており,2016年M7.3熊本地震{3}の起った琉球島弧震源帯{図428右上}と類似している.

4.2021年9月の月刊地震予報

 M6.5以上の地震は起っていないが,2021年2月から活発化した日本海溝域茨城沖の延宝地震震源付近で連発地震が継続し,巨大地震の前震の可能性もあることから警戒が必要である.
 静穏化中の琉球海溝でもM6.3が起り,Philippine海Plate沈込に新たな動きが開始されることも考えられるので警戒が必要である.