速報38)2013年2月の地震予報・海洋プレート屈曲沈込過程と 2012年12月7日の地震・屈曲スラブ平面化過程と三つ目の宮城県沖地震
2013年2月18日 発行
1.2013年2月の地震予報
2013年1月の日本全域のCMT震源数は31個,地震断層面積比は0.096とプレート相対運動の10分の1と少なかった(2013年1月月別日本全域).しかし,東日本域は地震断層面積比が0.291と大きく,未だに東日本巨大地震の影響下にある(2013年1月月別東日本).注目されるのは,北海道・千島海溝域の地震活動活発化である.1998年から2007年にかけて地震活動域が,琉球海溝・南海トラフ域から伊豆・小笠原海溝域,東日本域そして千島海溝域へ移動した.東日本巨大地震による東日本域の地震活動に続いて,千島海溝域の地震活動の活発化が心配される.2012年7月には,大地震に到らなかったが得撫島沖で連発地震が起ったので(速報29:千島海溝の地震),警戒が必要である.
2. 海洋プレート屈曲沈込過程と2012年12月7日の地震
2012年12月7日の地震M7.4については,年が明けた2013年1月16日に気象庁からCMT解が公表された.12月7日の地震直後に気象庁報道発表で公表された震央位置は,日本海溝の外側23kmであったが(速報35),今回公表されたCMT解の初動震源は,日本海溝の内側11kmで深度49km,CMT震源深度は28kmである.また,マグニチュードが地震直後のM7.3からM7.4へ変更したと新聞報道されたが,公表されたCMT解では初動マグニチュードもCMTマグニチュードもM7.3となっている.
初動震源とCMT震源および中間主応力N軸方位から算出される地震断層面は(速報33:地震断層面の算出),北北西向きの走向342°と81°東北東への傾斜である.この断層面方位と圧縮主応力P軸方位から算出される地震断層の動きは,東北東側落ちの正断層になる.発震機構は非双偶力成分比+7%の引張過剰な引裂正断層「T型」であり,太平洋プレートが日本海溝に沿って屈曲する際に,引き裂かれて島弧側が上がった地震であることが分かる.算出された高角傾斜の正断層運動は海底面に大きな変位を与えるので,牡鹿半島先端部鮎川港で観測された1mの津浪を説明できる.
12月7日のM7.3の震源付近では,12月12日まで連日M4.5からM6.6の21個の余震が続き,12月14日・15日・18日・20日・24日・31日,そして2013年1月3日・29日の合計33個のCMT解が公表されている.余震の発震機構型は,押広正断層「-t型」19個・引裂正断層「T型」6個・正断層「t型」6個,応力軸入替調整移動「nt型」2個である(図86).
圧縮応力過剰の負非双偶力成分比を持つ「-t型」が19個と半数以上を占め,引張過剰の正非双偶力成分比を持つ「T型」と「nt型」が8個と正負両極が多く.±5%以内の双偶力地震が6個と少ない.過剰な圧縮応力軸は垂直方向で,過剰な引張応力軸は海溝軸に直交する水平方向である(図87).この非双偶力成分の両極分布は,2011年3月11日東日本巨大地震後の余震にも見出される(速報35:図82).
太平洋プレートは日本海溝に沿って沈み込む際に屈曲する.地震の初動震源が屈曲の中心に近い海溝外側の深部の場合には,圧縮応力過剰な負非双偶力成分比が多く,中心から離れた海溝内側の浅い地震には引張過剰な正非双偶力成分比が多い.この非双偶力成分比の分布は,屈曲変形において深層が圧縮して表層が引張する力学過程と合致し,太平洋プレートの屈曲沈込過程の進行を示している.
日本海溝域で屈曲沈込過程の地震が起こる区域を「Mg2」と名付け,屈曲沈込過程を検討する.2011年3月の東日本巨大地震以後現在までの,Mg2のスラブ内CMT震源総数は236個に達しているが,1994年9月から2011年2月15日までのCMT震源数は7個と少ない(図88).それら7個の地震は;
- 1998年5月4日の琉球海溝M7.7の後に起きた同年5月31日M6.4衝突逆断層「P型」
- 2003年5月26日の宮城県沖地震M7.1の後に起きた同年11月1日M5.2・M6.2逆断層「p型」
- 2005年8月16日の宮城県沖地震M7.2の後に起きた同年11月15日M7.2海溝外正断層「t型」・12月21日M5.1引剥逆断層「+p型」
- 2006年10月1日の千島海溝のM6.8・M6.6の後に起きた同年10月11日M6.0衝突逆断層「P型」
- 2010年1月17日M5.6引裂正断層「T型」
である.これらの地震は,殆どが宮城県沖地震などの大きな地震後に起きた逆断層型で,屈曲沈込過程を表す正断層型の地震は2005年11月15日の海溝外正断層「t型」と2010年1月17日の引裂正断層「T型」地震のみであり,東日本巨大地震によって様相が一変したことが分かる.
3.屈曲スラブ平面化過程と三つ目の宮城県沖地震
2012年12月7日の日本海溝域地震M7.3とその余震によって,太平洋プレートは屈曲しながら沈み込んでいることが明らかになった.屈曲して沈み込んだスラブは,宮城県沿岸下に到達すると,平面化して日本海の下に沈み込む(速報34).屈曲沈込過程が進行すれば平面化過程も進行するので,三つ目の宮城県沖地震への警戒を呼びかけた(速報36).
屈曲スラブの平面化過程では,屈曲の際に伸張したスラブ浅層が短縮するとともに.屈曲状態を平面に戻すために屈曲を引剥す引張力が働かなければならない.東日本沿岸域下のスラブ内では,伸張スラブ短縮に対応した圧縮応力過剰な衝突逆断層「P型」(2003年5月26日M7.1など)や,屈曲引剥に対応した引張応力過剰な引剥逆断層「+p型」(2011年4月7日M7.2など)が起こっており,屈曲スラブ平面化過程の進行を示している.屈曲スラブ平面化過程の地震は,圧縮主応力P軸方位がスラブ上面に並行して島弧側に傾斜しており,プレート相対運動による地震と区別できる.プレート相対運動による剪断応力で起こる地震のP軸は海溝側に傾斜している(速報35[1968]:図83).
2012年12月以後の屈曲スラブ平面化過程の地震は2012年12月15日宮城県沖M4.8「+p型」・福島県沖M5.3「P型」,2013年1月7日宮城県沖M4.9「+p型」,2013年1月13日岩手県沖M4.8「+p型」,2013年1月14日福島県沖M4.9「-np型」である(図89).
2011年3月11日の東日本巨大地震後,同日海溝外余震M7.5に続いて3月中に屈曲沈込過程による99個の地震が起こったが,屈曲スラブ平面化過程の地震は3月18日から3月24日にかけてM4.5-M5.2が4個起こったのみで,2011年4月7日にはじめて代表的な「一つ目の宮城県沖地震」M7.2引剥逆断層「+p型」が起こっている.2012年12月7日にM7.3の屈曲沈込過程の地震が起き,2013年1月29日にも引裂正断層「T型」M4.3が起こっていることから(図86),引き続き三つ目の宮城県沖地震への警戒が必要である.