速報78)地震活動の異常静穏化・2016年4月の地震予報

1.2016年3月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2016年3月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で14個0.033月分,千島海溝域で3個0.019月分,日本海溝域で8個0.064月分,伊豆・小笠原海溝域で0個,南海・琉球海溝域で3個0.047月分であった(2016年2月日本全図月別).
2016年3月の最大地震は2016年3月1日八重山のM5.3+pr31kmで,M6以上の地震はなかった.
初動発震機構解(精査後)では,浦河沖・金華山沖・浜通・九十九里の地震活動が注目される(東北日本IS月別).

2.地震活動の異常静穏化

2016年3月の地震断層面積のプレート運動面積に対する比が0.033月分と30分の1であった.この低比率は2015年12月の0.032に次ぐものであり[2016年5月21日訂正],これより低かったのは,2009年11月の0.004である.
1994年9月からのCMT解255ヶ月中には,0.033月分以下の月が32ケ月ある.この平均出現率は8ヶ月に1回になる.この中で1990年代の64ヶ月中には,20ヶ月もあり,3か月に1回の頻度になる.この高い出現率は観測体制の構築中であったためと考えられる.2000年代になると,年に2カ月出現が2000年・2001年・2009年,年間1ヶ月出現が2002年・2003年・2005年・2006年・2007年・2008年と,年間1~2回に収まっている.しかし,2010年以降2016年3月まで,地震断層面積のプレート運動面積に対する比率が30分の1より小さくなることはなかった.
2016年3月の低比率は,2010年に開始された東日本大震災を含む地震活動活発期がようやく終了し,2009年以前の静穏状態に戻ったことを示しているかもしれない.2009年4月18日に最初の下部マントル地震M5.0t671kmが起こっていることから,2009年以前の静穏期がスラブの下部マントルへの転移が進行と関係していたとも予想され,今後の下部マントル地震の動静が注目される.

3.2016年4月の地震予報

2016年の地震活動の異常な静穏化は,嵐の前の静けさとも考えられ,大地震に警戒が必要である.特にフィリッピン海プレート沈込帯については,地震断層面積のプレート運動面積に対する比が2000年以来低迷していることから(速報77,図179)注意が必要である.特に2015年11月14日に沖縄トラフ最大の地震M7.1+nt17km(速報74),続いて2016年2月6日に台湾南部でM6.4+pr16kmが起こった(速報77).これらの地震により沖縄トラフの拡大,およびフィリッピン海プレートの沈込易い状態になったことで,関連する地域に対する警戒が必要である.
本報稿了時の2016年4月14日21時26分にM6.3nt10kmの熊本地震が起こった。その後の多数の地震の発震機構の速報値も地震発生後ほぼ2時間後に公表されており、解析を進めている。
 2016年2月6日の台湾南部の衝突に起因する地震によって、沖縄トラフを拡大させる応力が増大し、その東方の別府-島原地溝帯で熊本地震が起こった。この拡大応力は別府-島原地溝帯から瀬戸内にまで及んでいることから、これらの地域での警戒が必要である。
 台湾衝突・沖縄トラフ拡大は、フィリピン海プレートの沈み込み障害を取り除く役割を果し、フィリピン海プレートは沈み込み易くなっているので、南海トラフ・駿河トラフ・南部フォッサマグナにおける地震にも警戒が必要である。