月刊地震予報116)台湾花蓮の地震M6.5と琉球海溝外連発地震,東北沖震源帯明治三陸沖M6.2,東北沖巨大地震M9.0の歪蓄積,2019年5月の月刊地震予報
2019年5月19日 発行
1.2019年4月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2019年4月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で12個0.396月分,千島海溝域で2個0.060月分,日本海溝域で2個0.730月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.256月分,南海・琉球海溝域で6個0.659月分であった(2019年4月日本全図月別).2019年2月の1割以下から回復し,4月に4割近くに達した.
最大地震は2019年4月18日台湾花蓮M6.5,次大は4月11日日本海溝三陸沖M6.2で,M6.0以上はこの2個である.4月4日から14日まで琉球海溝外で連発地震があったが,4月13日から14日の2個の地震が24時間以内に起こり,脈震(月刊地震予報115)になった.
2.2019年4月18日台湾花蓮の地震M6.5と琉球海溝外連発地震
2019年4月18日14時01分に台湾の花蓮でM6.5Pe20kmがあった.琉球海溝が与那国で大屈曲して台湾東海岸に上陸する花蓮では死傷者の出た2018年2月7日M6.7-npo10km(月刊地震予報102・月刊地震予報103)以来の地震である(図314).その後,琉球海溝外152kmの海溝外最遠地震2018年7月25日M5.3(月刊地震予報108)が起り,2018年8月14日から琉球海溝域連発地震(月刊地震予報109),2018年10月23日から与那国連発地震(月刊地震予報110)が起った.
2019年2月16日には沖縄TroughM5.5nt12km(月刊地震予報114)があった.沖縄Troughは日本列島において海洋底拡大が進行している海域で地震活動も活発で131個のCMT解がある.その発震機構型には逆断層型が無く,横擦断層型67・正断層型64と拡大海域であることを特徴付けている.引張T軸方位は横擦断層型も正断層型もPlate運動方位に沿っており,Plate運動による拡大であることを示している(図315).震源深度増大とともに正断層型が増加することは,浅所では静岩圧による垂直方向の圧縮P応力がMantleの上昇によって相殺されていることを示している.
今回の琉球海溝外連発地震の最初で最大の2019年4月8日13時12分M5.6-to45kmを基準にすると震央距離/深度差と応力場偏角は,4/+0km38.0・3/+2km18.6・3/+0km20.1と震源距離4km以内,応力場偏角38°以内と一致しており,大地震の前震とも考えられるので警戒が必要である.この連発地震中に南西方の海溝軸上で208/+37km23.9が起こっており,応力場偏角に差がないことは,この応力場に琉球海溝域が広く覆われていることを示している.台湾花蓮の地震M6.5はこの連発地震の4日後に起こっている.
3.2019年4月11日の東北沖震源帯明治三陸地震域M6.2
2019年4月11日17時18分M6.2P5kmが三陸沖の島弧地殻内で起こった.本地震の圧縮P軸傾斜方位(図316右下図の○印)が主応力軸方位図の中央付近の紫色折線(Sub)のPlate運動方位から180°異なる逆方位に当たる上縁に位置しており,太平洋Slab上面に沿う剪断応力場にあることを示している(月刊地震予報107).
その後,4月15日5時28分に釧路沖の太平洋Slab上部でM5.1P43kmと4月23日2時45分三陸沖の太平洋Slab深部でM5.6p57kmがPlate運動方位と逆P軸傾斜の剪断応力で起っている.本地震基準の応力場偏角は25.2と8.7°と殆ど変わらず,2019年3月11日の茨城沖の脈震(月刊地震予報115)も22.6・15.4°と差がなく,日本海溝域が太平洋Slab上面に沿う一様な剪断応力場にあることを示している.
4.東北沖巨大地震M9.0の歪は何時から蓄積されていたのか
地震の規模と地震断層の長さ・ずれの関係(松田,1975)から東北沖巨大地震M9.0の地震断層面積は7.94km2と算出されるが,この歪みは何時から蓄積されていたのかを検討する.
東北日本の地震活動と日本海溝に沿う太平洋Plateの沈込を定量的に解析するため,太平洋Plateの沈込面積と全地震の地震断層面積(地震断層の移動面積)を積算した総積算地震断層面積(2002速報36)を比較した.総積算地震断層面積を地震断層面積とする1つの地震の規模を総地震断層面積規模とし,Plate運動面積との比較に用いる(月刊地震予報106).中村一明(談)はBenoff(1954)が導入した弾性反発説(Reid, 1910)の表示法を高く評価し,伊豆大島の火山噴出物解析に使用した(Nakamura, 1964).この表示法は活断層について用いられ,広く知られるようになった.中村の高い評価に基づきこの表示法を Benioff図と呼ぶことにする(特報5).
大正関東大震災後の1923年9月2日から東日本大震災前の2011年3月10日までの地震760個の総地震断層面積はBenioff図で斜直線のPlate運動面積増大に沿って階段状に増加し(図317の右中図左端),東北日本の地震活動が太平洋Plateの日本海溝に沿う沈込に起因していることを示している.また,その総地震断層面積は巨大地震と同じ7.94km2で総地震断層面積規模はM9.0と等しいが,その間のPlate運動面積の1.10倍になり,地震活動はPlate運動より1割多く消費していたことになる.
表37.総歴史地震面積とPlate運動面積(単位:M9.0)
期間 | Plate運動 | 地震活動 | 地震活動 | 歪蓄積 | |
---|---|---|---|---|---|
(東北日本) | (東北日本) | (西南日本) | (東北日本) | ||
2011年3月10日 | |||||
(東日本大震災前日) | |||||
88年間 | 0.91個 | 1.00個 | 0.44個 (M8.7) | -0.09個 | |
1923年9月4日 | |||||
(大正関東大震災翌日) | |||||
130年間 | 1.34個 | 1.00個 | 0.77個 (M8.9) | +0.34個 | |
1793年 | |||||
698年間 | 7.22個 | 1.00個 | 1.55個 (M9.2) | +6.22 個 | |
1095年 | |||||
1923年の関東大震災までに総地震断層面積規模がM9.0になるには1793年からの130年間の地震150個が必要である(表37).その間のPlate運動面積はM9.0の1.34個分で,0.34個分しか東北沖巨大地震の歪に蓄積できず,1793年以前からの歪蓄積が必要である(図318).
1793年以後の総地震断層面積規模は東北日本が西南日本より大きいが,以前は西南日本より小さくなっている.この逆転は,東北日本の歴史地震記録の不備が原因と予想される.この不備を西南日本の充実した歴史地震記録を用いて補う.1793年から2011年の総地震断層面積は,東北日本でM9.0の2個分に対し西南日本で1.21個分であるので,この比率を一定と仮定して西南日本の総地震断層面積から東北日本の総地震断層面積を算出し,Plate運動面積と比較する(表38).
表38.総歴史地震面積とPlate運動面積(単位:M9.0) [東北日本/西南日本=1/0.60]
期間 | Plate運動 | 地震活動 | 地震活動 | 歪蓄積 | |
---|---|---|---|---|---|
(東北日本) | (東北日本) | (西南日本) | (東北日本) | ||
2011年3月10日 | |||||
(東日本大震災前日) | |||||
88年間 | 0.91個 | 1.00個 | 0.44個 (M8.7) | -0.09個 | |
1923年9月4日 | |||||
(大正関東大震災翌日) | |||||
130年間 | 1.34個 | 1.00個 | 0.77個 (M8.9) | +0.34個 | |
1793年 | |||||
182年間 | 1.88個 | [0.83個] | 0.50個 (M8.7) | +1.05個 | |
1611年 | |||||
(慶長三陸地震) | |||||
516年間 | 5.33個 | [1.75個] | 1.05個 (M9.0) | +3.58個 | |
1095年 | |||||
1611年慶長三陸地震後から1793年までの東北日本の補正地震断層面積はM9.0の0.83個分になり,1.88個分のPlate運動面積から1.05個分を歪蓄積に充てることができる.この経過は,巨大地震用の歪は歪蓄積満了後にもPlate運動による歪を通常地震活動として消化しながら保持できることを示している.
5.2019年5月の月刊地震予報
琉球海溝域では地震活動が活発化しているが,広域応力場が安定していることから,予想されている南海Trough巨大地震に警戒が必要である.
日本海溝域では太平洋Slab上面と島弧地殻の剪断応力に地震が広く起っており,その動静に警戒が必要である.
東北沖巨大地震以前は慶長三陸地震以後蓄積された歪を抱えた状態でPlate運動を地震活動として消化していたが,東北沖巨大地震によって歪を解放された後にどのような地震活動を展開するか注意深く見守る必要がある.特に西南日本に予想される巨大地震にも東北日本との強い相互関係が予想されるので発震機構に基づく力学的解析が不可欠である.
巨大地震の前震は連発地震(速報66)や脈震(月刊地震予報115)として捉えることが十分可能で,本震・前震の区別も応力場極性偏角(月刊地震予報99;月刊地震予報87)と規模差(月刊地震予報110)から判定でき,対症療法は完成の域に近付いているが,地震発生の力学への道はまだ先である.
引用文献
Benioff, H.(1954)Orogenesis and deep crustal structure: additional evidence from seismology. Geological Society of America, Bulletin, 66,385-400.
松田時彦(1975)活断層から発生する地震の規模と周期について.地震第2輯,28,269-283.
Nakamura, K.(1964) Volcano-stratigraphic study of Oshima Volcano, Izu. Bulletin of Earthquake Research Institute, 42, 649-728.
Reid, H.F.(1911) The mechanics of the earthquake, vol. 2 of the California Earthquake of April 18, 1906: Report of the State Earthquake Investigation commission: Carnegie Institution of Washinton Publication 87, C192 p.2 vols.