月刊地震予報118)東北日本沖巨大地震後の東北日本弧直交応力支配下で起こった新潟・山形地震M6.7,2019年7月の月刊地震予報

1.2019年6月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解によると,2019年6月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で12個0.476月分,千島海溝域で1個0.002月分,日本海溝域で9個2.555月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.561月分,南海・琉球海溝域で1個0.063月分であった(2019年6月日本全図月別).2019年5月に2割以下に低下した地震断層面積比が5割近くまで回復した.
最大地震は2019年6月18日出羽M6.7,次大は6月4日伊豆海溝M6.2である.M6.0以上の地震はこの2つであった

2.日本海岸沖帯出羽沖の2019年6月18日新潟・山形地震M6.7p

 2-1 脈震を含む連発地震は,大地震の前震か.

東北日本には渡島・仙北・出羽・中越・上越震源域からなる日本海沿岸震源帯(Jsc)およびその沖合の男鹿・出羽沖・中越沖・上越沖・佐渡・能登震源域からなる日本海岸沖震源帯(oJsc)がある.日本海岸帯の地震は島弧地殻上部で起こるが,日本海岸沖帯では地殻下部で起こる.
2019年6月18日22時22分に出羽沖の日本海岸沖帯深度14kmの下部島弧地殻でIS解・CMT解を兼備する逆断層p型M6.7が起こった.
今回の地震は日本海岸沖帯出羽沖域の地殻下部で起こった(月別東日本;図335).
IS解:6月18日22時22分19.9秒M6.7p14km 震源位置基準
____P292+14T128+75N23+4 Org=8.4[3-52OtoL]
CMT解    26.4秒M6.5p14km-4% fm4(4)/-1km
____P299+19T125+71N30+2 主応力軸方位基準
CMT震源はIS震源から北4km・1km上である.CMT主応力軸方位を基準にするとISは反時計回(外方Oが左Lへ)8.4°と殆ど変わらない.非双偶力成分比は-4%でやや圧縮過剰である.

図335.日本海岸帯(Jsc)・日本海岸沖帯(oJsc)の2011年3月11日東北沖巨大地震M9.0以後のCMT解.数字は小円区最大地震.圧縮主応力軸方位(赤線)が巨大地震と異なり,東北日本弧に直交している.
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最初の最大地震から6月21日までにIS解6個の脈震を含む連発となった(月別IS東日本).発生時刻・規模・発震機構型・深度・最大ISからの震央距離(方位)/深度差,主応力方位,応力場極性偏角(回転Euler極・回転方位[U上・O:外・I内・L左・R右);
6月21日5時33分M4.0p13km fm2(270)/-1km
____P142+16T318+74N52+1  Org41.6[42+32UtoO]
6月20日23時27分M3.3p10km fm9(227)/-4km
____P299+16T112+74N208+2 Org=5.2[81-18UtoR]
6月19日14時15分M3.4p12km fm8(271)/-2km
____P144+13T311+77N53+3 Org=40.1[40+37UtoO]
6月19日3時54分M3.3p12km fm7(251)/-2km
____P135+10T258+72N42+15 Org=35.8[12+27UtoO]
6月19日0時57分M4.2p12km fm9(234)/-2km
____P314+1T197+88N44+2 Org=23.2[37+39UtoO]
6月18日23時57分M3.3p12km fm8(252)-2km
____P285+8T159+76N17+11 Org=18.3[342-40UtoL]
最大ISからの震源位置は2-9kmと近接し,深度は1-4km浅い.最大地震CMT主応力軸方位基準の応力場極性偏角は,いずれも基準極性Orgで5.2-41.6°と変わらず,本破壊に到っていないことから,大地震の前震であることも考えられるので警戒が必要である.

 2-2 本震源域は東北沖巨大地震の引き金を引いたか

 本地震ISから西(259°)に19kmで2011年1月3日にM4.7P12km-12%が起こっている(図336).この震源は,東北沖巨大地震震源から巨大地震の圧縮P軸方位に位置し,巨大地震域のPlate間固着に直接関係していたはずである.しかも巨大地震の2ヶ月前に起き,その1ヶ月後の2月6日から飛騨の前震(速報55),2月16日から巨大本震源北方の前震が開始されており(速報8),巨大地震の引き金を引いた地震と言えよう.

図336.日本海岸帯(Jsc)・日本海岸沖帯(oJsc)の2011年3月11日東北沖巨大地震M9.0以前のCMT解.数字は小円区最大地震.圧縮主応力軸方位(赤線)が巨大地震とほぼ並行している.
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 2-3 日本海岸沖帯・日本海岸帯の地震活動と東北沖巨大地震.

 本震源域を含む日本海岸沖帯(oJsc)・日本海岸帯(Jsc)では東北沖巨大地震の半日後から上越と男鹿で巨大地震に誘導されたM6以上の誘震が起こっている(図335).2011年3月のCMT解と巨大地震CMT解基準の応力場極性偏角;
15日7時20分M4.5-np0km(P327+26T228+16N111+59) -6% 96.4[275+11]143.9tpn上越
12日 4時46分M6.4-np4km(P255+28T2+29N129+48) -25% 87.5[140-18]139.6tpn男鹿
12日 4時31分M5.9P 1km (P321+16T190+66N56+17) -33% 60.1[239+22] 上越
12日 3時59分M6.7P10km (P315+15T99+72N222+10) -27% 56.3[205+23] 上越
11日14時46分M9.0p24km (P113+36T296+54N204+2) -1% 東北沖巨大地震(基準)
巨大地震の非双偶力成分比が-1%と小さいのに比較し,その後の誘震では-25から-33%と大きく圧縮過剰になっており,巨大地震による歪の開放後に新たな圧縮応力が働いたことを示している.

 2-4 日本海岸沖帯・日本海岸帯・脊梁帯の巨大地震前後の応力場変化.

Plate運動によって歪が次第に蓄積して限界に達すると巨大地震を起し,歪が解消されると考えられている.歪蓄積・開放による応力場が変化する場合,その最大の変化は巨大地震の直前から直後に現れるはずである.東北沖巨大地震の前16年半・13年半と後8年半のCMT解・IS解があるので,歪蓄積・開放による応力場変化の解析に使用できる.
日本海岸沖帯・日本海岸帯(oJsc・Jsc)にはCMT解63個あるが,巨大地震より前と後の最大地震は;
__襟裳___________最上__________鹿島______
後 M6.4-np4km2011/3/12Oga M6.7p14km2019/6/18Dw M6.7P10km2011/3/12Jez
前 M5.8p29km1997/11/23Oga M4.7P12km2011/1/3Dw M6.9P11km2007/3/25Noto

 最上小円区の巨大地震後最大CMTは本地震,巨大地震前は直前の引き金地震である.他の最大地震は巨大地震の半日後誘震であり,巨大地震と密接な関係にある(図335,図336).
これらの最大地震を含む日本海岸沖帯・日本海岸帯IS解585個の発震機構型は,逆断層p型382個・横擦断層n型163個・正断層t型40個と逆断層p型優勢である(図337,図338).

図237. 日本海岸沖帯(oJsc)・日本海岸帯(Jsc)・脊梁帯(Bkb)の2011年3月11日東北沖巨大地震後のIS解圧縮主応力P軸方位.△:2018年1月23日に噴火した草津白根山.
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図238. 日本海岸沖帯(oJsc)・日本海岸帯(Jsc)・脊梁帯(Bkb)の2011年3月11日東北沖巨大地震前のIS解圧縮主応力P軸方位.
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これらの圧縮主応力P軸方位はほぼ東北日本弧に直交する太平洋Plate運動方位を向いているが,巨大地震前後の差を検討する.検討にはP軸が水平に近い逆断層p型と横擦断層n型の平均傾斜方位・±標準偏差・[個数]を使用する;
____襟裳______最上______鹿島____
日本海岸沖帯・日本海岸帯
後 P246+12±33[50]_P306+3±27[ 9]_P304+6±30[122]
前 P274+16±24[48]_P287+2±23[15]_P300+5±28[321]
差    -28______+19_______+4
 最上小円区のIS解個数が少なく,大きな差が出ているので脊梁帯(Bkb)についても検討すると;
後 P255+3±33[23]_P105+10±45[18]_P120+0±26[129]
前 P287+5±29[17]_P111+5±30[165]_P107+4±26[69]
差    -32_______-6______+13
 巨大地震前の方位は太平洋Plate運動方位に揃って一様なのに対し(図338),巨大地震後には襟裳小円区で約30°反時計回りするのに対し,鹿島小円区では時計回りしている(図338).この差は,南北に近い襟裳小円区から次第に東西方向に屈曲する東北日本弧方位に対応している.
巨大地震半日後誘震のP軸方位(上越P315+15・P321+16,男鹿P255+28)に既に東北日本弧方位に対応する変化を認めることができる.誘震の非双偶力成分比が圧縮過剰になっていることは,巨大地震によって歪の解放された東北日本に日本海岸に直交する圧縮応力が働いたことを意味している.

 2-5 東北日本弧を屈曲させる東北沖巨大地震後のMantle伝播.

 巨大地震によって東北日本弧の地殻と太平洋SlabはPlate境界面で50m移動したと言われている(速報28).東北日本弧から見ると太平洋Slab上面に沿って楔が50m打ち込まれたことになる.SlabはVladivostokで2009年4月18日M5.0P671km・2016年1月2日M5.7P,千島で2012年8月14日M7.3p654km,伊豆で2015年5月30日M8.1t682km・6月3日M5.6-t695kmと深度670kmの下部Mantle上面まで到達しており,Slabの上と下のMantleは隔離されている(図339).

図339.深度670kmの下部Mantle上面にまで達する太平洋SlabのCMT解主応力軸方位.
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Slab上のMantleは,50mの楔打ち込みによって行き場を失いMantle圧を上昇させる.Mantle圧上昇は最初に地表を押し上げ,津波のように周囲に拡大伝播される.P軸方位が東北日本弧に直交する半日誘震は,Slab上の日本海底を上昇させて拡大伝播したMantleが起こし,現在も東北日本弧の屈曲を成長させているのであろう.p型主体であったIS解の横擦断層n型19%(図338)を巨大地震後に48%に増加させたのも(図337).日本列島下に到達したMantle地表の引張応力を相殺させたからと考えられる.2018年1月23日には草津白根が噴火している(図337).
 本地震の震源では,太平洋Plate運動方位とMantle津波方位との差が小さいため,Mantle津波の盛衰を判別できなかったが,太平洋Plate運動による歪蓄積を解析するために重要な震源域である.

 2-6 Mantle伝播の歴史地震記録と稀発地震.

2011年3月11日の東北沖巨大地震では本震によるPlate間歪開放が1-2分に終了し,その1ないし2時間後に時間誘震が起こり,半日後に日本海沿岸で半日誘震が起っている.時間誘震は本震周辺の支柱崩壊に当たり.本震による歪開放による周囲の応力場が変化を解消するものである.半日誘震は行き場を失った太平洋Slab上MantleがSlab上の日本海底を押し上げ周囲に伝播して起こしたもので,現在も継続していると考えられる,
東北沖巨大地震の歪の蓄積開始は1611年慶長三陸地震以後である(月刊地震予報116)ので,慶長地震前後の地震活動と直接比較できれば良いが,東北日本の歴史地震記録が乏しく,1850年以降の1896年明治三陸地震・1933年昭和三陸地震M8.1と関連する襟裳・最上小円区の日本海岸帯・日本海岸沖帯・脊梁帯の地震記録(宇佐美,2003)を比較する(図340);
1939年5月1日M6.8男鹿2km
1933年3月3日M8.1昭和三陸
1914年3月28日M6.1仙北
1914年3月15日M7.1仙北
1906年10月12日M5.6仙北
1906年10月12日M5.4仙北
1896年8月31日M7.2陸羽
1896年8月31日M6.4陸羽
1896年8月31日M6.8栗駒
1896年8月23日M5.2陸羽
1896年6月15日M8.5明治三陸
1894年10月22日M7.0庄内

図340.1850年から1940年までの日本海岸沖帯・日本海岸帯・脊梁帯の歴史地震と明治三陸地震・昭和三陸地震.

1894年10月に庄内M7.0の1年8ヶ月後に1896年6月15日明治三陸地震M8.5があり,2ヶ月後に陸羽地震M7.2地震が起っている.1914年3月15日秋田仙北地震M7.1は明治三陸地震の27年9ヶ月後で,18年11ヶ月半後に1933年3月3日昭和三陸地震M8.1が起ったが,6年2ヶ月後の男鹿1939年5月1日M6.8のみである(図400).前後の地震活動が盛んな明治三陸地震と乏しい昭和三陸地震の差は明瞭であるが,島弧地殻と沈込Slab間のPlate境界地震の明治三陸地震と海溝外の沈込前の太平洋海洋底の破断の昭和三陸地震の差を反映しているのであろう.
稀発地震が東日本大震災後,北海道から韓半島まで日本海拡大境界で起っていることは(5482月刊地震予報106),東北沖巨大地震後の太平洋Slab上のMantle伝播拡大が日本海拡大時に形成されたと同様の拡大をもたらしたと考えられる.

3.2019年7月の月刊地震予報

 新潟・山形地震M6.7では脈震を含む連発地震が起きたが,応力場極性の逆転に至っておらず,大地震の前震とも考えられるので警戒が必要である.
本地震予報では東北日本の応力場とPlate運動の関係を検討し,長年の謎とされてきた東北日本弧の屈曲が,巨大地震による太平洋Slab沈込に伴うSlab上Mantleの伝播拡大によることを明らかにできた.今後更なる解析を進め,巨大地震の前に適切な地震予報を実現するために全力を尽くす所存である.

引用文献

宇佐美龍夫(2003)日本被害地震騒乱.東京大学出版会,605p.