月刊地震予報115)千島海溝外地震M6.2,東北沖震源帯茨城沖M6.0,脈震,2019年4月の月刊地震予報
2019年4月21日 発行
1.2019年3月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2019年3月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で12個0.173月分,千島海溝域で2個0.245月分,日本海溝域で4個0.365月分,伊豆・小笠原海溝域で0個,南海・琉球海溝域で6個0.099月分であった(2019年3月日本全図月別).2018年12月に2か月分近くまで増大したが,2019年2月に1割以下まで低下して1割以上に戻った.
最大地震は2019年3月2日千島海溝外のM6.2で,次大は3月11日日本海溝域のM6.0で,M6.0以上はこの2個である.
2.2019年3月2日千島海溝外地震M6.2
2019年3月2日12時22分に千島小円区と襟裳小円北区境界付近の千島海溝外24kmでM6.2nto深度51kmがあった.本震源から100km以内にCMT解のない稀発地震で,千島海溝域で初の海溝外地震である(図312).
3.2019年3月11日の東北沖震源帯茨城沖M6.0
2019年3月11日2時10分M6.0P18kmが最上小円区南西縁の茨城沖東北沖震源帯の島弧地殻と太平洋Slabの接触面であった.圧縮主押力P軸の傾斜が接触面傾斜と逆方向であるので,接触面における剪断応力による地震である.
この14分後の2時24分にもM4.9P28kmがあった.初動震源位置は東南東(119°)に8kmしか離れておらず,応力場偏角も8.1°と同じでM6.0の応力場を保持しており,将来起こる大地震の前震であることが予想される.
東北沖震源帯では,8年前の3月11日14時46分M9.0の東日本巨大地震と15時15分M7.6の茨城県沖が起こっており,M6.0以上のCMT解は62個ある(図313).
そのP軸方位はPlate運動方位(右下の方位図中央の紫色折線)から上下に180°離れた上下端の逆方位に集中しており,太平洋Slab上面に沿う剪断応力場による地震であることを示している.本震源域では南東(134°)に37kmの2008年12月20日M6.6P0kmと南南東(163°)に19kmの2008年12月21日M6.2T0kmがあるのみで,東日本巨大地震後には起こっていないので警戒が必要である.
4.2019年3月の脈震
2019年3月には1日以内にほぼ同所でCMTが3月11日東北沖震源帯茨城沖および3月27日に日向灘,ISが3月7日前弧沖震源帯の志津川沖と30日浦河沖および27日に日向灘で発生した.月刊地震予報では24時間以内に同所で発生する地震を「脈震(pulsating shock)」と名付け,今後検討解析の対象とする.
脈震は大地震本震後の余震に多いが,前震にも起こる.前震は本震域の歪の増大によって破壊強度の小さな箇所から順次進行する破壊であり,本破壊に到るまで応力場は変わらない.余震は,本震の本破壊によって震源域の歪が解放され,破壊域周辺の応力場が急変するために起こる.余震の中には本震の応力場と逆極性の地震も含まれるので前震と区別できる(特報4).
前述の「2. 2019年3月2日千島海溝外地震M6.2」の17日前の2月13日にも北東548kmの得撫島沖の太平洋Slab上面剪断震源帯でM4.9p・M5.3+p・M5.2pの脈震が起こっている.最大のM5.3を基準にした応力場極性偏角は,M4.9が16.9°・M5.2が12.0°と応力場の変化は認められない.脈震による太平洋Slab上面の抵抗が減少し,Slabが沈込み,海溝外地震M6.2が起こったと考えられる(図312).
また,「3. 2019年3月11日の東北沖震源帯茨城沖M6.0P18km」の14分後にM4.9P28kmが起こっているので,脈震である.
5.2019年4月の月刊地震予報
千島海溝域では太平洋Slab沈込歪増大に対応する前震が択捉島・国後島・得撫島で起っていたが,3月2日にCMT初の海溝外地震M6.2が起こり,択捉島沖の巨大地震に警戒が必要である.
東北沖震源帯茨城沖でM6.0脈震が起こったが,東日本巨大地震後には起こっていないので警戒が必要である.
日向灘では3月27日にCMTの脈震が起こったが,2013年3月11日の初脈震から起っていなかった.これまでの大阪府北部・島根県西部・琉球海溝・与那国島・台湾の地震は本震に到らない前震段階にあり,警戒を呼び掛けていたがこれに日向灘の脈震が加わり,更なる警戒が必要である.