速報16)テンデコ津波対処法

津波の規模とマグニチュード

10月11日の仙台地方裁判所における「石巻・日和幼稚園送迎バス被災訴訟」の第一回弁論において,訴えられた園側は答弁書で「震災2日前の地震でも津波が発生しなかった」,「津波情報確認が不可欠とまで言えなかった」と説明している(河北新報10月12日朝刊).

津波の規模は,海底の震源域における地震断層変位面積と変位量によって決まる.地震断層の変位は地震のマグニチュードに対応していることから,地震時にマグニチュードを推定できれば津波の規模も予想できる.同じマグニチュードであっても震源が遠ければ地震のゆれの程度を表す震度は小さくなるが,震源が地球の裏側のチリであっても津波は到来する.つまり津波の規模は震源からの距離ではなく,地震のマグニチュードに関係する.

津波についての地震学者の誤解

地震学者の間にも津波についての誤解がある.「日本被害地震総覧」(宇佐美,2003)には日本の歴史地震について記述されており,その簡略版が「理科年表」にも掲載されている.その中に,東日本巨大地震後に再来が心配された1677年11月4日のM8の地震がある.この地震は「磐城から房総にかけて津波があり,小名浜・中之作・薄磯・四倉・江名・豊間などで死・不明130余り,水戸領内で溺死36,房総で溺死246余,奥州岩沼領で死123」と記されている.この地震が大きな津波を伴っていたことは明らかであるが,末尾に「陸に近いM6級の地震とする説がある.」と加えられている.

東京電力は,スペインへの輸出用に設計された米国GE社製の原発を何の設計変更もなく600億円で購入し,福島第一原子力発電所に設置した.スペイン用の設計では冷却水の汲み上げ限界が10mであったため,標高30mの海岸段丘面を20m削って標高10mに原発を設置した(NHK教育テレビ9月18日22時放送「原発事故への道程」).歴史地震表末尾の記述を楯に取って,「歴史地震にはM8の地震など存在しない」とする地震学者が,この原発にお墨付きを与えたのであろう.地震学者が東日本大震災直後に「想定外の地震」であったとしきりに述べていたのも頷ける.

一般には,M6.3以上になると津波が発生すると言われている.1677年の地震が陸に近ければ,同じ震度を与えるためにはM6程度の地震でも良いかも知れないが,それでは津波を起こすことができない.津波の規模は,マグニチュードに関係しており,震源からの距離が遠くても震度のように小さくはならない.

マグニチュードと地震継続時間は対応している

図23.

図23.地震継続時間とマグニチュードの関係(新妻,1995).縦軸:地震継続時間の対数(F-P time),横軸:マグニチュード,数字は震央距離(km).1993年6月から8月までに静岡大学地殻活動観測所の地震計で観測された地震の地震継続時間と,気象庁発表のマグニチュードと震源から算出された震央距離.

我々は,地震動を感じた時に地震のマグニチュードを推測できるのであろうか.筆者が1993年に観測した結果では,地震動の継続時間はマグニチュードに関係している(図23).この図の継続時間は地震計で地震動が観測された時間である.地震継続時間の対数がM1からM7までの範囲でマグニチュードと良く対応している.縦軸の最大目盛は1000秒で約16分半であり,M7で約10分であるが,地震計で観測された時間なので体感する揺れはこれより短い.ただし,マグニチュードが1増えると継続時間が倍になる関係は成り立つ.

体感時間は大きく揺れている間に感じる時間なので地震計で測定した継続時間よりは短いが,マグニチュードとの間には対応関係がある.現在も東日本巨大地震の余震が続いているので,地震が起こったら地震継続時間を記憶し,テレビや新聞で発表されるマグニチュードと比較して,各自が継続時間とマグニチュードとの対応関係を体感し,その感覚を身に付けておけば適切な対処ができるであろう.マグニチュードが1増えると地震継続時間は倍になる.

つまり,地震動が長く継続すればマグニチュードが大きく,短ければマグニチュードは小さい.東日本巨大地震の継続時間はかつてない長さであった.揺れが小さいが長く継続する地震動は,遠くで大きな地震が起こったことを示しており,海岸付近では津波の襲来に警戒しなければならない.強い揺れが長く継続する地震動は,近くで大きな地震が起こったことを示しているので,直ちに津波の襲来に備える必要がある.震源までの距離は,初期微動P波と本震S波の到来時間差に比例することからも知ることができる.

三陸地方では,津波が来そうな地震を感じたら,各自の判断に従いてんでんばらばら-「テンデコ」-に高台に避難せよと言い伝えられている.上述の地震継続時間とマグニチュードの関係は,それぞれの判断に役立つであろう.

襲来が予想される地震津波

1986年6月15日明治三陸津波地震M8.5の後, 1897年2月20日M7.4,8月5日M7.7,1898年4月23日M7.2と宮城県沖地震が起こった.東日本巨大地震の後も,これに対応する2つの宮城県沖地震,4月7日M7.1と7月10日M7.3が起こった.3つめの宮城県沖地震の年内再来が予想される.この地震は牡鹿半島の北側を震源としており,東日本大震災の津波被災地を直撃することが心配される.上で述べた体感を身に付け,地震動を感じたら「テンデコ津波対処法」で対処していただきたい.

引用文献

新妻信明(1995)本州中部のテクトニクスと1993年の静岡の地震.静岡大学地球科学研究報告,22,11-22.

宇佐美龍夫(2003) 「最新版日本被害地震総覧」.東京大学出版会,605p.

国立天文台編「理科年表」丸善,毎年発行.