速報15)緊急地震予報

8月25日に鹿島海山沖で起こった正断層型地震M4.7は,初動震源の深度99kmでCMT震源深度11kmと太平洋プレート底面から上面にあり,太平洋プレートを切断するものである(図22右中の25(1)).

太平洋プレートは日本海溝で同心円状屈曲して沈み込むため,プレート上半部は引っ張られ正断層型地震が起こり,下半分は圧縮されて逆断層型地震が起こる.しかし,今回の地震はプレート下底で起こった地震にもかかわらず正断層型であることは異常であり,プレート全体が引っ張られて切断されることも心配される.

この型の地震は最上小円の北縁で起こった1933年の昭和三陸津波地震であるが(図22左のS1933),今回は最上小円の南縁で起こっている(図22左).この付近では太平洋プレート内で8月17日M6.2(図22右中の17(5))・8月19日M4.5(図22右中の19(1))の正断層型地震が起こっている.7月10日に沈み込みプレート移動調整型地震M7.3が起こり(速報13),鹿島小円域の過剰プレートが移動することによって太平洋プレート沈み込みの障害が除かれためこの地震が起こったと考えられる.

図22.CMT震源図:×初動震源からの結線端がCMT震源

深度50kmより深い正断層型地震はこれまでも3月26日M5.2・4月6日M4.7・5月11日M5.2がいずれも鹿島小円域で起こっていることから(速報13の図18),昭和三陸津波型の地震が起こるとすれば関東東方沖の鹿島海山の北東方で起こると予想され,宮城県・福島県・茨城県・千葉県の太平洋沿岸域では津波の襲来に警戒が必要である.


1933年昭和三陸津波地震は,太平洋プレートが切断する地震として40年前から注目されている(Kanamori, 1971).東日本巨大地震発生後,週刊誌や新聞等で日本海溝の海洋側の高まりである周縁隆起帯(marginal swell)におけるこの型の地震発生の危険性が,「アウターライズ地震」と誤称されて取り上げられるようになった.ライズ(Rise)は,深海平坦面から海底が浅くなり始める地帯あるいは東太平洋海膨など幅広い中央海嶺を指す海洋地質学用語である.日本海外縁の高まりは,これらの地帯とは異なり,その存在は,海洋底拡大説を提唱したDietzによって認められ(Dietz, 1954),marginal swellと呼ばれている(新妻,2010).従って,周縁隆起帯(marginal swell)で発生する太平洋プレートが切断する型の地震は,「外縁隆起帯地震」あるいは「マージナルスウェル地震」と呼ぶべきである.今回の速報では,マージナルスウェル地震(誤称:アウターライズ地震)の予兆とみられる地震が発生していることを緊急に報告した.

引用文献

Dietz, R.S.(1954) Marine geology of northwestern Pacific: Description of Japanese bathymetric chart 6901. Bulletin of Gological Society of America, 65, 1199-1224.

Kanamori, H.(1971) Seismological evidence for a lithospheric normal faulting – The Sanriku earthquake of 1933. Physics of Earth and Planet Ineriors, 4, 289-300.

新妻信明(2010)プレートダイナミクス入門,共立出版,東京,57.