速報13)沈み込みプレート調整地震
2011年8月14日 発行
沈み込み境界輪郭と沈み込みプレートの過不足
今,長方形の机があったとしよう.海洋底プレートを1枚のテーブルクロスに例えると,机の端が海溝となる.机の長辺と短辺では,テーブルクロスはまっすぐ垂れ下がるが,机の角では,テーブルクロスが余ってひだになる.また,円形の机の場合には,テーブルクロスは,均等に余ってひだ状に垂れ下がることが想像できるであろう.
マントルに沈み込んだ海洋底プレートも机に垂れ下がるテーブルクロスと同様に、海溝の形状によって、過不足が起きていると考えられる。海洋底が海溝に沿って沈み込む場合,海溝の輪郭が海洋底側から突き出している「く」の字型境界では,テーブルクロスが机の角から垂れ下がってひだを作るように沈み込んだ海洋プレートが過剰になる(図17a).
逆に海溝の輪郭が海洋側へ突き出している逆「く」の字型境界では,沈み込んだ海洋プレートが不足する.沈み込みを継続するためには,沈み込みプレートの不足を調整しなければならない.この不足を調整するには,不足している沈み込みプレートが裂開することと(図17b),過剰な沈み込みプレートを不足している方へ移動することが必要である.
逆S字型の日本海溝輪郭に沿って沈み込む太平洋プレートが不足するのは逆「く」の字型の最上小円域であり,過剰になるのは「く」の字型の鹿島小円域および襟裳小円*域である.沈み込んだ太平洋プレートが裂開すれば,プレート運動方向に直交した引張T軸を持つ正断層型地震が起こるはずであり,過剰域から不足域へ移動すれば横ずれ断層型地震が起こるはずである(速報11).
*これまで日本海溝北部の直線的な区域を「襟裳大円」域としてきたが,日本海溝北端で接合する千島海溝の輪郭と合わせて最適な小円「襟裳小円」を算出し,襟裳小円の中心(北緯39.43°,東経148.18°)を通り日本海溝と交わる大円に沿った断面線に震源を投影して示すことにし,「襟裳小円」域と呼ぶことにする.
沈み込む太平洋プレート内の地震
太平洋プレートは日本海溝に沿って同心円状に屈曲して沈み込むので,プレート表面付近が引っ張られ正断層型地震(黒)が起こる(図18).これらは,沈み込みプレートが不足する「最上小円」域で典型的に見られる.沈み込みプレートが過剰になる「襟裳小円」域と「鹿島小円」域では,過剰な沈み込みプレートが障害となるため逆断層型地震(赤)も多数起こっている.これらのプレート内地震は,初動震源(×)深度が深く,CMT震源(結線端)の深度が浅い.また,正断層型地震の引張T軸と逆断層型地震の圧縮P軸方向がプレート運動方向を向いているという特徴がある.
これらのプレート内地震を起こしながら,沈み込んだプレートには過不足が生ずる.この過不足を調整するために発生する「沈み込みプレート調整地震」には、次の2種類の地震がある.1つは,逆「く」の字型の海溝部分(最上小円域)のプレート不足部分でプレートが裂開する正断層型地震であり,「沈み込みプレート裂開地震」と呼ぶことにする.2つ目は,「く」の字型の海溝部分(襟裳小円域、鹿島小円域)のプレート過剰部分から不足部分へ移動する横ずれ断層型地震であり,「沈み込みプレート移動調整地震」と呼ぶことにする。
沈み込みプレート裂開地震
沈み込みプレート内の正断層型地震は,引張T軸がプレート運動方位とほぼ一致するものが大部分を占めるが,引張T軸方位がプレート運動方位に直交して日本海溝に並行する地震もある.後者の日本海溝に並行する引張T軸方位の正断層型地震が「沈み込みプレート裂開地震」に相当する.
この沈み込みプレート裂開地震は,2011年の東日本巨大地震翌日の3月12日にM6.0とM5.5 の2回,3月22日にM6.4,5月15日にM5.3が起こっている.この正断層型地震(青)の震源は逆「く」の字型の「最上小円」域に分布している(図19).これらの裂開地震では初動震源とCMT震源の深度変化が少ない.
東日本巨大地震の前年2010年4月26日にも同様の裂開地震,M5.1(図19中 青10:4/26-1)が起こっており,太平洋プレートが沈み込みやすく調整され,3月11日の本震を引き起こすきっかけとなった可能性がある.
沈み込みプレート移動調整地震 (2011年7月10日宮城県沖地震M7.3)
沈み込みプレートの不足域で,過剰域からのプレートの移動によって調整が行われる場合には,プレート運動方向の引張T軸方位と過剰プレート供給方向の南北方向の圧縮P軸方位を持つ横ずれ型地震が起こる(図19の緑色).このような地震が「沈み込みプレート移動調整地震」に相当し,同じ応力軸方向でも2つの共役横ずれ断層が形成されるが,逆「く」の字の頂点より北側では右横ずれ断層,南側では左横ずれ断層が形成される.日本海溝の海底地形(図19左)を見ると,深海平坦面と日本海溝との中間に千切れながら続く平坦面が,逆「く」の頂点に向かって深度を増している.この海底地形は,移動調整によってできた横ずれ断層によって形成されたのであろう.
7月10日に起こった横ずれ断層型地震M7.3は,「沈み込みプレート移動調整地震」として最大の地震であった.このような沈み込みプレート移動調整地震は,東日本巨大地震の翌3月12日にM6.0が起こり,4月に1回,5月に3回,6月に1回,そして7月に5回起こっており,逆「く」の字型の最上小円域の日本海溝近くに震源を持つ.これら横ずれ断層型の沈み込みプレート移動調整地震には,日本海溝に並行する圧縮P軸を持つ逆断層型地震(図19中 赤7/19-2)を伴う場合がある.