速報12)2011年6月の地震予報

日本海溝は,北端の襟裳海山から大円に沿うほぼ直線的な北部,逆S字型の輪郭に合わせ日本海の最上沖を中心とする小円に沿う中部,太平洋の鹿島沖を中心とする小円に沿う南部に区分できる(速報2,図1).今後は,速報5より掲載している日本海溝北部・中部・南部の3つの断面図をそれぞれ「襟裳大円」「最上小円」「鹿島小円」と呼ぶこととし,それぞれの地域について地震活動を考察する.

襟裳大円域

日本海溝北部の「襟裳大円」域(図15・図16の上)の逆断層型地震は,少数ながら継続して起きている.これらは前弧海盆地殻を震源としており,太平洋プレート内を震源とする地震は起こっていないので,太平洋プレート上面の地震の心配は遠のいた(図15上).また,三陸沿岸部では6月14日から正断層型地震が起こり静穏化したかに見えた(図16上).しかし,6月22日から再び逆断層型地震が活発になり,6月23日には3月11日の東日本巨大地震直後の第一余震震源(図15上:11-2)近くでM6.7が観測された(図15上:23-2).

図15.2011年6月6日-6月25日の初動震源.震源番号の先頭の数字は日付.右図)黒×:正断層 赤×:逆断層 緑×:横ずれ断層.北部断面「襟裳大円」:襟裳大円(=日本海溝)に直交する大円に襟裳大円域の震源を投影.中部断面「最上小円」:最上小円の中心と日本海溝を通る大円に最上小円域の震源を投影.南部断面「鹿島小円」:鹿島小円の中心と日本海溝を通る大円に鹿島小円域の震源を投影.

図16.2011年6月9日-6月22日の初動震源×とCMT震源への移動経路.右図)黒×:正断層 赤×:逆断層 緑×:横ずれ断層

鹿島小円域

日本海溝南部の「鹿島小円」域(図15・図16の下)でも太平洋プレート上面付近の地震はあるが,太平洋プレート内を初動震源としCMT震源が前弧海盆地殻に到る逆断層型地震は5月30日を最後に起こっていない.そのため水戸沖の津波地震の危機は遠のいたように見えたが,6月22日に深度73kmの太平洋プレート内で逆断層型地震M5.0(図16下:22(1))が起こった.このCMT震源は10kmと浅く,震源移動面の共役断層との離角は12°であるが,秒速105kmの移動速度は断層進展ではなく同一振動体であることを示している.その移動経路は太平洋プレート上面と東日本巨大地震の地殻変動断層面を貫いている.6月12日と17日の逆断層型地震は太平洋プレート上面を初動震源とし,移動経路は東日本巨大地震の地殻変動断層面を貫いている(図16下:12(2), 17(1)).6月12日までに地殻変動断層面が固着して同一振動体になり,22日までに太平洋プレート上面も固着して同一振動体になったと見ることができ,水戸沖の津波地震には依然警戒を要する.4月11日の正断層型余震M7.0のあった浜通りの正断層型地震が震度と数を減少させながらも続いている(図15下).

最上小円域

日本海溝中部の「最上小円」域(図15・図16の中)では,太平洋プレート内を初動震源とし垂直移動して,海底近くにCMT震源をもつ正断層型地震が6月13日から15日に起こっているが(図16中:13-4,15-3),5月に比べ数も減少し,静穏化に向っている.4月7日の逆断層型宮城県沖地震M7.1の震源域における逆断層型地震活動は5月19日を最後に正断層型地震活動に変わり(図15中・図16中:9-1),太平洋プレート上のマントルと東日本弧下マントルの衝突が一段落した.しかし6月23日に逆断層型地震M5.3が起き(図15中:23-3),新たなマントル衝突による東北日本弧の本格的西進が開始されたと見られる.この後,心配されるのは脊梁山地周辺の内陸直下型地震である.3月以来続いた秋田県内陸部・山形県-福島県境・新潟県-長野県境での地震活動も低下しているが,6月24日に山形県-福島県境で逆断層型地震が起こり(図15下:24-1),地震発生の様相が変化したので警戒が必要である.同様に警戒を要するのは,宮城県北部を含む阿武隈-北上低地帯であり,6月15日に横ずれ型地震が起こっている(図15上:15-1).

北米プレートとアムールプレートの境界である糸魚川-静岡構造線を越して,6月6日から石川県や飛騨で地震が起きたのは(図15左),東北日本の西進によるものと考えられる. 6月22日には南海トラフ沿いの遠州灘でも地震が起こり(図15左),西南日本における直下型地震に気を付ける必要がある.また,東北日本の西縁の日本海沿岸や北海道の地震にも警戒が必要である.6月25日には浦河沖・日高で逆断層型地震が起こっており,東日本巨大地震の余震も新たな段階に移行したといえる.