速報11)CMT震源と初動震源
2011年6月25日 発行
地震断層
1995年の阪神大震災を契機として,全国の1000か所以上に地震計が設置された.気象庁では2011年3月末から台湾の地震計も加えて一元的に計算機処理を行い,ホームページで震源位置と発震機構の公開を開始した.防災科学技術センターでもホームページで,地震発生直後から震源位置と発震機構を公開している(Hi-Net).
地震で破壊されるのは地下の岩石であり,地質学では岩石が破壊面に沿ってずれた状態を断層と呼んでいる.断層は,岩石にかかる外力の方向により,引張力によって形成される正断層・圧縮力によって形成される逆断層・横ずれ力によって形成される横ずれ断層に区分される.地下の岩石はその深度に対応する地圧(静岩圧)のもとに置かれているが,その地圧に加えて外力がかかり岩石は破壊する.岩石にかかっている地圧と外力を合せた力を応力と呼び,直交する最大P・中間N・最小Tの主応力によって定量的に解析できる.地質断層の3つの型は,P軸が立っていれば正断層型,T軸が立っていれば逆断層型,N軸が立っていれば横ずれ断層型になる(図11).破壊面は,N軸を含み,直交するP軸とT軸の間をほぼ2等分する2つの共役断層面が同じ確率で形成される.共役断層のいずれが断層面になるかは,岩石に潜在する亀裂などに支配される.
放出される地震波動は,主応力軸方位により定まる2つの共役断層を節面によって区切る4つの象限ごとに異なり,到達時刻は震源までの距離によって決まる.複数の観測地点で観測された地震波動から,震源位置といずれの象限から放出されたかが解析され,共役断層方位が算出される.共役断層の方位から主応力軸方向も求められ,発震機構として公表される.地震の際にいずれの共役断層が断層として活動したかは,津波や地殻変動によって判定される.地震波動を放出した断層を地震断層と呼ぶ.
初動震源とCMT震源とは
気象庁から公開されている震源位置には,初動震源位置とCMT震源位置がある.初動震源とは,多くの地震計で観測された地震波の初動到達時刻から算出された破壊発生位置である.CMTとはCentroid Moment Tensorの略で,CMT震源は長波長地震波動の放出中心位置であり,地震断層面の中心位置と考えられる.初動震源とCMT震源の位置と初動時刻は一致せず,初動震源から破壊が開始し,進展してCMT震源を中心とする地震断層面となって地震波動を放出したと考えることができる.
東日本巨大地震の震源移動
初動震源位置からCMT震源を中心とする地震断層面に進展したとすれば,初動震源とCMT震源を結ぶ移動経路は発震機構から算出される共役断層面に沿っているはずである.
東日本巨大地震M9.0はT軸傾斜が54°・P軸傾斜が36°・N軸傾斜が2°でT軸が最大傾斜の逆断層型である.初動震源とCMT震源を結ぶ震源移動経路は,応力主軸から算出される東急斜と西緩傾斜する共役断層面の中で西緩傾斜面に沿っており,19°の離角で移動している(図12).移動速度は秒速0.5kmで日本海溝に向って上向き南東方向に39km移動した.移動面は国土地理院がGPSによる地殻変動に基づいて算出した地殻変動断層面にほぼ沿っているが,CMT震源は地殻変動断層の東縁をはみ出し,地震波動の主体が海底面付近で放出されたことを示している(図13右中).
本震直後に地殻変動断層面北縁北側の田老沖で起こった第一余震M7.4(図13右上:11-2)はT軸傾斜55°の逆断層型で,東急斜する共役断層面に沿って離角15°で上方南に秒速2.9kmで12km移動している.地殻変動断層南縁付近の水戸沖の第二余震M7.7(図13右下:11-3)もT軸傾斜が74°の逆断層型で,東急斜する共役断層面に沿って離角2°で上方北方に秒速0.4kmで11km移動している.日本海溝東側の太平洋プレート内で起こった第三余震M7.5(図13右中:11-4)はP軸傾斜が81°の正断層型で,東傾斜の共役断層面に沿って離角2°で北方に29km移動している.
3月12日以降の余震の震源移動
本震の翌3月12日以後の余震の震源移動経路は必ずしも共役断層面に沿っておらず,垂直方向が多い(図14右).太鼓は何処を敲いても太鼓の中心から波動を放出するように,既存の振動体の一部に破壊による振動が与えられ振動体が共振して振動体中央から波動を放出し,初動時刻とCMT時刻との差が殆ど無くなる.このような震源移動の地震は,少なくとも移動経路は同一振動体内にあることを意味する.地下の複数の振動体が境界面で接していれば,境界面付近にCMT震源が並ぶ.3月12日以後の余震では移動速度が秒速10km以上と算出されるものもあり,一体振動体内移動が主体を占め,共役断層との離角が30°を越すものもある.しかし,これらの震源移動経路が太平洋プレート上面や地殻変動断層面に達するものが多いことは,これらの面が振動体境界になっていることを示している.
前震の震源移動
本震前日の3月10日の太平洋プレート内で起こった逆断層型前震M5.9(図13右中:10-4)とM5.9(図13右中:10-5)の震源移動は上方に28kmと19kmで太平洋プレート上面を越えて海底付近にまで達している.共役断層面との離角は4°と23°と近いが,移動速度が秒速5.9km・2.7kmと速いので振動体内移動と考えられ,本震前日まで本震震源域の太平洋プレート上面と前弧海盆側は固着して同一振動体をなしており,3月9日M7.3(図13右中:9-1)の前震で固着が解除されていなかったことを示している.
初動震源とCMT震源から算出された移動速度は遅いものでも秒速0.3km,時速1000km以上とジェット機以上の速度であり,断層運動は非常に高速である.近年の地質断層の調査によっても,断層運動に伴う摩擦熱によって岩石が溶解して「シュードタキライト」脈になっていることが報告され(例えば,高木,2006),地質断層が長い時間をかけて移動したという常識を転換させた.
参考文献
高木秀雄(2006)足助剪断帯のシュードタキライトー領家花崗岩中の震源面―.日本地質学会編「中部地方」,日本地方地質誌,4,朝倉書店,東京,436-437.