速報21)2011年の地震活動

東日本巨大地震の2011年も暮れ,新年を迎えるに当たって,2011年の地震活動を過去16年半の地震活動と比較しながら振り返ることにする.

震源分布については,本速報における毎月の地震予報に掲載してきた襟裳小円・最上小円・鹿島小円断面図に,東日本巨大地震の前震の始まった2011年2月16日から2011年12月31日までの震源を図36に示す.また比較のために,過去16年半の震源分布も同じ断面に示す(図37).

Fig37

図37.1994年9月から2011年3月までの16年半の初動震源とCMT震源分布.

Fig36

図36.東日本巨大地震の前震から2011年末までの初動震源とCMT震源分布.



図36と図37の凡例

x 初動震源
xからの結線先端 CMT震源
赤色 逆断層型の圧縮P軸が海溝軸に直交する場合
ピンク色 逆断層型の圧縮P軸が海溝軸に平行な場合
黒色 正断層型の引張T軸が海溝軸に直交する場合
青色 正断層型の引張T軸が海溝軸に平行な場合
緑色 横ずれ断層型で引張T軸が海溝軸に直交する場合
黄緑色 横ずれ断層型で圧縮P軸が海溝軸に直交する場合

東日本巨大地震後,最上小円の断面図において日本海溝に沈み込む太平洋プレート内に多数の正断層型地震が起こっているが,過去16年半には殆ど起こっていない.また,本震の震源断層上盤に当たる上層で正断層型地震が多数起こったが,過去16年半に殆ど起こっていない.正断層型地震も逆断層型地震も海溝軸に直交する引張T軸と圧縮P軸を持つ地震が多いことは,これらの地震が日本海溝に沿って沈み込む太平洋プレートに支配されていることを示している.

地震活動は,震源分布および規模と回数によって表されるが,地震の規模を表すマグニチュードMから算出される個々の地震移動面積S(速報9)を積算した総地震移動面積を用いることによって一括して捉えることができる.地震移動面積を直感的に比較するため,地震移動面積に比例した図形で表現して図38に示す.左上の正方形が東日本巨大地震とその前震である.右の柱状の四角が本震後,年末までの総地震移動面積である.左下は過去16年半の総地震移動面積である.彩色は,地域を表しており,南方の琉球・台湾から順に北方の千島までの各地域の総地震移動面積を積み上げて表示した.千島・襟裳・最上・鹿島・伊豆・小笠原は海溝輪郭小円によって区分される小円区である(速報18).

Fig38

図38.東日本巨大地震および2011年と過去16年半の総地震移動面積の比較.

東日本巨大地震M9.0の地震移動面積は7.94km2であるが,過去16年半の総地震移動面積は5.51km2である.1つの地震のマグニチュードに換算するとM8.87になり,東日本巨大地震が如何に巨大であったかが分かる.本震前の23日間に起こった前震の総地震移動面積は0.11km2であり,M7.44の地震に換算され,過去16年半に起こった最上小円区の最大年間活動に匹敵する.

過去16年半の総地震移動面積は5つの鋭く巨大な山を持って変遷し,今回の東日本巨大地震は5回目の山に当たる.過去4回の山の主体は千島,襟裳,伊豆小笠原の小円区であり,著しい盛衰を見せる.隣接している千島と襟裳の活動は同調せず独立し,入れ換わりながら総地震移動面積の山を形成している.最も高い山は2007年の千島小円区によるものであるが伊豆・小笠原小円区も同調している.今回の巨大地震は,最も高い山の活動が減衰し,伊豆・小笠原の活動が活発化し始めた所で起こっている.鋭く巨大な山を持つ地震活動の変遷は,海溝を取り巻く周縁隆起帯(速報18)の巨大振動を反映しているであろう.

東日本巨大地震後から年末までの地震移動面積は1.06km2でM8.27に換算され,2007年の最大の山を上回っている.この地震活動の主体は,本震の起こった最上小円区とその両隣の鹿島・襟裳小円区である.千島と伊豆・小笠原の地震は低調である.西南日本や琉球・台湾域に特に大きな変化は認められない.