速報2)太平洋プレート沈み込みと東日本巨大地震
2011年3月15日 発行
太平洋プレートの沈み込み
今回の東日本巨大地震は,世界最大の面積を持ち最高速で運動する太平洋プレートが東日本に沈み込むプレート運動によって発生した.殆ど変形しないで移動するプレートがどのように沈み込むかは,地球科学における第一級の問題である.
太平洋プレートは,地球上で最も古く厚いプレートなので簡単に曲げることができない.日本海溝に沿って沈み込んでいる形が「逆Sの字」型に曲がっていることは(図1:新妻,2007),曲げることのできる限界の最小曲率半径に沿って沈み込んでいることを示している.日本海溝に接する円を描いてみると,最上沖と太平洋を中心とする半径400kmの円となる.このことから,最小曲率半径が400km程度であることが分かる.
最近,地震波の伝わる速度をCTの手法で解析した東北日本の結果が報告されている(図2:Zhao, 2009).この報告では,日本海溝から沈み込む太平洋プレートは冷たいために地震波速度が速く青い板として表され,地震波速度の小さい緑や赤色の東北日本の下に沈み込んでいる.
太平洋を平に進んできた太平洋プレートが東日本の下に沈み込むには曲がらなければならないが,古くて厚いので曲げるための最小半径は大きい.太平洋プレートは,この最小半径に沿ってほぼ同心円状に屈曲して沈み込んでいる.A-B断面に沿って日本海溝から屈曲して沈み込む太平洋プレートの上面に最も良く合致する円は,半径が375kmとなり,日本海溝の屈曲から推定された400kmの最小曲率半径とほぼ合致する.太平洋プレートが日本海溝に沿って円形に屈曲すると外周は引き伸ばされ内周は圧縮されるが,円周を離れて平面に戻る際にこの歪みが解消され,図2に白丸で表した2つの層で深発地震が発生する.これは二重深発地震面と呼ばれている.上面では屈曲で伸長した外周が圧縮されて地震が発生し,下面では屈曲で圧縮された内周が伸長して地震が発生していることから,太平洋プレートの屈曲に伴う変形が支持される.
国土地理院は全国に設置してある地殻変動観測用GPSの観測結果を最も良く説明する断層を算出して3月14日に公表している(図1・図2の赤四角).気象庁が発表した第4報,北緯38.2°東経142.7°深さ24kmの震源(赤星印)はこのモデル断層面に近い.
図2に赤線で記入した地震のモデル断層の下限は,太平洋プレートが同心円に沿って屈曲して平面に戻る領域まで達しており,太平洋プレート内で二重深発地震面の形成が始まる領域に近い.
図3では日本海溝域の断面を縦に5倍引き伸ばして示してある.震災直後の停電中に作成した前回の速報では,下部深海平坦面と上部深海平坦面の間に位置する気象庁震源(赤星印)がモデル断層面(赤線)に載っているものとして検討したが,今回の再検討で,モデル断層面が下部深海平坦面の基底を通過していることが判明した.
断層面を日本海溝前弧海盆域の地図と断面図に記入してみると,太平洋プレートはほぼ同心円状に屈曲して日本海溝から沈み込み,海岸線付近で平面に戻る.今回の断層面は太平洋プレートが平面に戻った延長上に当たる.日本海溝で屈曲した太平洋プレート上面と戻った平面の延長上の間の楔状の付加体が東日本東方海域に突き刺さり,今回の大地震を起こしたことになる.
日本海溝と東北日本の間に在る広大な面積を持つ深海平坦面は,平坦面の東縁が隆起してダムとなり,東北日本から供給される堆積物を堰き止めるために形成されたものである.反射法地震探査によって,埋積した堆積物の堆積面が捉えられている.下部深海平坦面下の堆積物では,下の古い堆積面ほど西に傾斜していることが明瞭であり,下部深海平坦面の東縁が隆起を続けていることを示している.この海域では1977年・1982年・1999年に深海掘削が行われ,堆積物の年代が明らかにされている.1999年の深海掘削の掘削抗(Site 1150・1151)はモデル断層上縁の真上に位置し,抗底に地震計や傾斜計が設置されている.
下部深海平坦面東縁と日本海溝との間にも,小規模な平坦面が存在するが,平坦面下の古い堆積面ほど西に大きく傾斜していることは,下部深海平坦面と同様に東縁が隆起して形成されたことを物語っている.
今回の東日本大地震によって,下部深海平坦面の東縁が隆起し,堆積面が西に傾斜を増したであろう.
富士宮地震について
3月15日夜の富士宮で起こったM6.4の地震を,気象庁はフィリピン海プレートで起こったもので東海地震に無関係と報告していた.しかし,この地震により仙台で震度4と強い揺れが観測された他,関東地方および中部地方で強い揺れが観測されている.もし,この地震がフィリピン海プレートで起こったのであれば,フィリピン海プレート上にある伊豆半島が最も強く揺れなければならないのに,関東各地のみならず仙台よりも揺れが小さいのは,この地震がフィリピン海プレートと接する東日本の南西縁で起こったことを示している.フィリピン海プレートと東日本の北米プレートの境界は足柄地域の神縄断層とされており,その西方延長は富士山のところで方向を南に変えて駿河トラフに連続している.地震が発生した富士山の西側は,フィリピン海プレートに沈み込み衝突されている丹沢山地の西方延長部である.東日本巨大地震で大きく変位した東日本南西縁と接するフィリピン海プレートとの間が不安定になって地震が発生したものと考えられる.従って,プレート境界で起こることが予想されている東海地震とは異なるが,プレート境界が不安定になっていることは,東海地震を発生し易くしていると考えられる.
引用文献
Niitsuma,N.(2004) Japan Trench and tectonics of the Japanese Island Arcs. Island Arc, 13, 306-317.
新妻信明(2007) プレートテクトニクス—その新展開と日本列島.共立出版,東京,292p.
新妻信明(2010) プレートダイナミクス入門,共立出版,東京,276p.
Zhao,D.(2009) Multiscale seismic tomography and mantle dynamics. Gondwana Research, 15, 297-323.