速報1)停電中に考えた地震と復興

東日本巨大地震

2011年3月11日14時46分,北緯38.2°東経142.7°深度10kmにおいてM9.0の地震が発生した.
震源に向って東北地方は4.4m水平移動するとともに太平洋沿岸は75cm沈降した.
この変動を説明するためのモデル2断層は,以下の通りである.
(更新:3月14日 国土地理院資料より)

北緯(度) 東経(度) 上深度 幅km 長km 傾斜 ずれm 走向 M
39.00 143.49 10.0 85 199 18 27.7 202 8.7
37.21 142.51 10.1 82 176 15 5.9 201 8.2

今回の震源は,上部深海平坦面と下部深海平坦面境界の隆起帯の基部に当たっており,下部深海平坦面西側が沈降し,上部深海平坦面の東縁が隆起したことに対応している.東縁の隆起によって上部深海平坦面の西縁に当たる海岸線が沈降したものであろう.

三陸沖から常磐沖まで一連の震源断層が形成されたことは,上部深海平坦面基部の隆起帯が連続していることを物語っている.この基部は1500万年前に日本海が拡大形成された時に,日本東縁の海岸域であった地帯が太平洋プレートと直接接して形成された初生日本海溝縁に当たる.

今回の地震は,日本海溝初生縁と現在の日本海溝の間に,太平洋プレート運動によって蓄えられた楔形の付加体が突き刺さった現象と見ることができる.楔の下面が太平洋プレート上面であり,楔の上面が上部深海平坦面の基底になる.楔が突き刺さる際,楔の上面が30m近く移動して日本列島を変形させたが,下面周辺においても多数の移動が発生したはずであり,この現象が津波の発生に寄与していることを検討する必要がある.


今回の地震で,最大の揺れである震度7を記録したのは栗駒地域であった.この地域は,千島海溝沿いの2003年十勝沖地震の後に起こった宮城岩手県境地震でも大きな被害を受けており,東日本において最も歪の集中する地域であることを示している.

テレビ解説で語られているプレート論では,今回の地震をプレート境界地震としているが,日本海溝はプレート境界ではなく,日本海溝と日本海溝陸側斜面が太平洋プレートに所属していることになる.

プレート論によると,太平洋プレートに固着して同じ運動をしていた東日本は今回の地震で東方に移動したが,伊豆弧は未だに太平洋プレートと同じ運動を継続している.そのため東日本と伊豆弧の接続部である関東北西部から新潟・長野にかけて歪みの集中が起こり,直下型地震の発生が予想された.そして翌3月12日未明3時59分,中越地方においてM6.7の地震が発生した.この地方では,2003年の十勝沖地震発生後の2004年にも直下型地震M6.8を今回とほぼ同じ震源域で発生させており,伊豆弧と東北日本弧の間の歪集中が発生の原因であることを明示している.

日本列島の地震記録について地震発生間隔を統計解析したところ,東日本弧以外ではポアソン分布をしているのに対し,東日本弧においてのみポアソン分布をしていないことが判明した.ポアソン分布していないことは,地震の発生に因果関係が存在することを意味し,連鎖反応的に地震が発生することを示している.今回の地震に連鎖する内陸直下型地震の発生に厳重な警戒が必要である.

プレート運動論に基づけば,太平洋プレートとともに西方に移動していた東日本と伊豆弧は,今回の地震によって東日本が東側に移動したが伊豆弧は未だに西進しており,東北日本弧の弧状変形を進行させた. 2003年の十勝沖地震M8.0が起こる前の数年間は,日本海溝・千島海溝に沿っては殆ど地震が発生しておらず,伊豆マリアナ海溝に沿ってのみ地震が発生していた.この経緯から,今回の地震の発生によって地震活動は伊豆マリアナ海溝沿いに移ることが予想される.

伊豆マリアナ海溝は太平洋プレートとフィリピン海プレートの境界に当たるが,フィリピン海プレートは南東部で太平洋プレートと同じ運動をしているために,時計回りに回転移動している.この回転によってフィリピン海プレートが太平洋プレートに載り上げて,伊豆マリアナ海溝に沿って地震が起こる.この移動に伴って台湾と伊豆において衝突が起き,関東地震・東海地震・東南海地震・南海地震が起こっている.台湾やフィリピンにおける移動量が大きいため,台湾での地震発生後に日本で巨大地震が起きている.このことからも,台湾で地震が発生した場合には警戒が必要である.今回の地震で太平洋プレート運動の歯止めが外れたことによって,フィリピン海プレート運動が加速され地震が発生し易くなっている.

フィリピン海プレートは,同プレートの北縁に位置する関東地方で東日本の北米プレートと接している.東日本が東に数m移動することによってプレート境界に沿う歪みが増大し,関東地震発生の危険性が増した.同時にフィリピン海プレートに沿う太平洋プレート運動の加速により,台湾やフィリピンに地震が発生すると,関東地震発生の可能性が高まる.関東地震の発生によってフィリピン海プレートが北西進すると,南海トラフに沿う歪みが増大し,東海・東南海・南海地震の発生が予想される.これまでこれらの段階には約20年程度を要していることから,関東地震までに20年そして東海地震までに40年程度を要するであろう.いずれにせよ,関東・東海の地震は台湾および伊豆マリアナ海溝の地震と密接に関係しているので,これらフィリピン海プレート周縁域で起こる地震に注意する必要がある.(「プレートテクトニクス-その新展開と日本列島」新妻信明,共立出版,2007)

東日本大震災復興計画

現在は国土再興についての構想を構築する時期である.まず,今回明らかになったことは,被害状況を把握する役割を担っている役場が津波でさらわれた例が多いことである.これらの場所では遺体数千という惨状を呈しており,役場はM10.0の地震津波でもさらわれない場所に直ちに建設して復興の拠点とすることが必須である.次に,被害状況の報告の通信手段が無いことである.地震後数日経ってもネット接続が切断され,携帯電話の接続拒否状況が続いた経験から考えると,情報交信の生命線は衛星通信を基本とする方針に転換する必要がある.

被災した役場,学校や病院には,電力供給の自立が必要である.太陽光発電は,日照時には十分な電力を供給することができるので,各施設の屋根にソーラーパネルを設置することが求められる.また,水の確保に関しては,温水器に蓄えられていた200リットルの水が3日間の飲料水の確保に大変役立った経験からも,太陽光発電施設と共に温水器を併設する必要がある.

仙台市は1978年の宮城県沖地震の経験から,ブロック塀の生垣化や家屋の耐震工事に助成金を提供してきた.この行政措置が津波被害域以外の地域の被害を小さく抑え,東日本復興の拠点としての役割を担うことを可能にした.これらの対応は高く評価されるべきである.

復興および救助の最初の一歩は津波で切断された道路の建設である.道路建設を考える路線を自力走行する車両の確保が必要である.現在思い当たる車両としては戦車である.戦車がこの役に立たないのであれば,戦闘時には無用の長物である.戦車を先頭に,土砂を積載したダンプとそれをならすローラー車を兼ねた車両の建造が急務である.その前進速度を競って,必要幹線の接続所要時間を最小限に抑えることが,その後の復興を推進する重要な鍵を握る.しかし,どんなに速くても1時間数mのオーダーであろう.海岸域の沈降によって水没している部分が多いが,できるだけ早く水路と堤防を建設し,排水作業をする.

津波に洗われた平地は早急に除塩し,稲作のための大規模田圃を建造して,国際価格に対応できる大規模高効率の稲作を開始する農耕組織を設立する.今回のような規模の津波は数百年は来ないので,これまでの津波に対応できる6m程度の防潮堤を改修し,漁村・農村の定常生活は作業に便利な平地で行う.現在の避難生活から移る仮設住宅を高台に建設し,平常生活に戻った時には避難民の別荘とし,将来起こる今回規模以上の大津波に備える.同時に今回の教訓を子々孫々まで伝える.別荘地建設のための高所から削り取った土砂は,今回津波に洗われ,水没している平野部の改修に使用する.

今回,東日本に起きた大地震は,40年後に予想される西日本の大地震を考えるために非常に重要な示唆を与えている.現在,関東地域の電力を主に供給している東北地方南部の被災によって計画停電が実施されるが,今回の復興のためには莫大な費用を必要とする.この復興を担うのは関東・東海域の工業生産である.しかし,西日本の大地震の際には今回の復興を担った地域が崩壊するため,東日本が復興を担わなければならない.現在,トヨタ自動車が生産拠点を東北地方に移動させていることは,この観点から高く評価される.西日本大震災の復興を担えるだけの食糧生産と工業生産の基盤をこれから確立して行くことが必要である.

東日本大震災における人類史上最大の出来事として,3発電用原子炉の炉心融解と30kmの避難地域が設定された.地震による原子炉内の核分裂反応の停止は当然実施されるべきことであり,自動停止は全ての原子炉で正常に行われた.しかし,「震災列島」の著者・石黒耀が心配していたように,自動停止後の冷却水の喪失によって,原子炉内の圧力上昇と燃料棒の露出,原子炉圧力上昇を防ぐためのバルブの解放による放射性物質の放散,燃料棒露出による水素の発生と爆発が起こっている.

核分裂の停止が起こった時に,別系統のポンプを利用した送水冷却をしなければならない設計に,基本的問題があるのではないか.正常運転時には大量に発生する熱が水蒸気を作り,タービンを回して発電している.その状態のままで核分裂連鎖反応のみを停止し,余熱で発電を継続すれば次第に出力は低下する.この低出力を継続できれば,補助電源の負荷も軽減できるのではないだろうか.出力低下にともないタービンを発電機から切り離してタービン負荷を減少させ,回転を継続させて炉心冷却させる設計にできないのであろうか.

これまでの原子力発電は,絶対事故は起こらないという考えの下に設計されてきた.従って緊急停止関係設備は,緊急時のみに作動する小規模,且つ試験運転も不充分であったことが明らかになった.炉心の緊急冷却に充分な水を供給できる水力発電所を併設すると共に,ポンプ電力を供給できる火力発電所を併設し常時運転していたならば,今回のような事故は未然に防げたはずである.水力発電用水が不充分な場合には,水源地あるいは水路に給水することにより対応可能であろう.