月刊地震予報

月刊地震予報132)2020年8月の静穏化,2020年9月の月刊地震予報

1.2020年8月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2020年8月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で7個0.038月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で3個0.146月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.056月分,南海・琉球海溝域で2個0.024月分であった(2020年8月日本全図月別).日本全域総地震断層面積比は2020年7月に1割半に減少し,2020年8月に0.4割まで減少した.
 最大地震は2020年8月6日茨城沖島弧地殻・太平洋Slab衝突地震M5.6P深度54(Slab深度+31)kmであった.日本全域のCMT総地震断層面積規模はM5.9でM6.0以上の地震はなかった.

2.2020年9月の月刊地震予報

 2020年8月は,2020年1月以来7カ月ぶりにM6.0以上の地震がなかった.これが静穏期の始まりなのか,嵐の前の静けさなのか分からないが,新型Corona禍と豪雨の続く日本列島を襲う地震について警戒を怠ることはできない.

月刊地震予報131)伊豆海溝同心円状屈曲Slab・伊豆弧地殻衝突地震M6.0および伊豆・小笠原・Mariana海溝域の沈込Slab地震,2020年8月の月刊地震予報

1.2020年7月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2020年7月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で19個0.147月分,千島海溝域で4個0.036月分,日本海溝域で5個0.066月分,伊豆・小笠原海溝域で5個0.663月分,南海・琉球海溝域で5個0.061月分であった(2020年7月日本全図月別).日本全域総地震断層面積比は2020年2月・3月の千島海溝域の活動によって1.5・3.1ヶ月分に活発化し,2020年4月に6割,2020年5月に2割と減少した後,2020年6月に4割に増加したが,2020年7月に再び1割半に減少した.
 最大地震は2020年7月30日伊豆Slab・伊豆弧地殻衝突地震M6.0で,M6.0以上の地震は1つである.

2.伊豆海溝同心円状屈曲Slab・伊豆弧地殻衝突地震M6.0および伊豆・小笠原・Mariana海溝域の沈込Slab地震

 2020年7月30日9時35分鳥島沖の伊豆海溝軸付近で同心円状屈曲Slabと伊豆弧地殻との衝突地震M6.0Pe/深度20km(Slab上面深度+10km)が起こり,翌日ほぼ同所で7月31日14時16分M4.7Pe/45(+36)kmが起こっている(図376).
 2020年には4月18日に今年最大の垂直(Vertical)Slab地震M6.8/477(+73)km(月刊地震予報128)が起こり,5月23日には翼β(Wingβ)Slab地震M4.8p/371(+62)km,7月17日に翼γ(Wingγ)Slab地震M5.1+np/536(-135)kmが起こっている.

図376.2020年1-7月の伊豆・小笠原・Mariana海溝域のCMT解歪軸方位.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字M:発生年月日と規模.
 時系列図(右中図)右縁の数字:2020年の月数.
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 伊豆・小笠原・Mariana 海溝に沈込むSlab形態は多様で(月刊地震予報124),その中で注目されるのは2020年の5月に起こった深度410kmのMantleα>βの相転移面上に翼のように載る翼βと7月に起こった深度550kmのβ>γ相転移面上に載る翼γである(図377,Niitsuma, 2020).
 Plate運動する海洋底下には随行するMantleが連続するが,海溝に沿って同心円状屈曲Slabになった海洋底に行く手を阻まれSlabに沿って下方に運動方向を転じる.随行Mantle運動方向変化の反作用としてSlabを上方に押上げる応力が働く.Slab先端がMantle相転移深度に達していない場合には,Slabを翼状に押上げる.α>β・β>γのMantle相転移は低温程進行し易く,海洋底に近い随行Mantle程,深海水によって冷却されていることと,体積が地球中心からの半径に比例して大きくなるので,行き場を失った随行Mantleの中で海洋底冷却によって低温な地球中心半径の大きいMantleがSlab下面に沿って優先的に下降する.Slab先端が相転移深度に達する前にその下の高圧域まで下降して通過する随行Mantleは相転移する.相転移して高密度になった随行Mantleの上に相転移していないSlabは沈込めず相転移面の上に翼Slabを形成する.

図377.深度410km・550km・660kmのMantle相転移面支配下の伊豆・小笠原・Mariana海溝域Slabの沈込様式.
 八丈島を境界に北側の鹿島小円南区では410km相転移面上に載る翼β,南側の伊豆小円区では550km相転移面上に載る翼γ,小笠原小円区では660km相転移面を貫く垂直(Vertical)Slab,小笠原海台小円区とMariana小円区では横臥(Recumbent)Slabになっている.
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 本海溝域ではM7.0以上のCMT解が11個あり,Benioff図(図378右中図左縁)で累積地震断層面積が灰色斜線で示されるPlate運動面積の増大に対応して階段状に増大していることから,Plate運動によって歪が蓄積して限界に達すると地震によって解消されている様子が分かる.対数地震断層面積areaM図(図378右中図左端)ではBenioff図の階段に対応する突出した嶺が認められる.
 最大の地震は,正断層型(黒色)の下部Mantle上面深度660km相転移面を貫く垂直Slab先端地震2015年5月30日M8.1/682km(速報68)である.低温のSlabは下部Mantle上面で相転移できず軽いまま浮かぶが,その浮力以上に沈込めば相転移が連鎖的に進行することが予想される.最大地震の4日後にCMT最深695kmの引張過剰正断層型(紫色)2015年6月3日M5.6が起こり,下部MantleへSlabが引張られ落下していることが示された(速報69).

図378.伊豆・小笠原・Mariana海溝域Slab地震のCMT解歪軸方位.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字M:M7.0以上の発生年月日と規模.
 時系列図(右中図)右縁の数字:年数.
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 M7.0以上の地震は,震央地図(図378左図)の最大地震を境界として,北側に逆断層型(赤色・Pink色),南側に引張過剰正断層型(青色)のM7.0以上CMTが分布している.唯一の例外は最南端のMariana小円区の逆断層型(赤色)2013年5月14日M7.3である.
 逆断層型の規模はM7.0からM7.3と小さく,翼β・翼γ・横臥Slabの付根部に位置している.付根部に歪が蓄積するが,本海溝域のSlab沈込に付随する歪であり,Slab沈込を主動するものではない.
 正断層型地震の規模はM7.9にも及び大きいが,震源は翼βよりも浅い海溝沿同心円状屈曲部に位置している.厚さのあるSlabが同心円状屈曲すればSlab上面に引張力,下面に圧縮力が働くが,これらの大地震の震源はCMT震源分布域の下縁に位置しており,Slab下面に沿って下方に引張応力が働いていることを示している.
 同心円状屈曲したまま下部Mantle上面に載る横臥Slabに沿う随行Mantleの運動を検討する.横臥Slabの運動が下部Mantle上面に沿って海洋底拡大海嶺まで連続してBelt Conveyer状になっている場合には,海洋底がPlate運動によって距離r移動する間に厚さrの随行Mantleの断面積はr2になる.半径rの同心円状屈曲する横臥Slabの長さは,半径rの円周2πrの半分πrで,断面積は半径rの円の面積πr2の半分の(πr2)/2になる.Plate運動による断面積πr2の随行Mantleが(πr2)/2を通過するには,運動速度を3倍に加速して,平均2倍の速度で通過しなければならない(図379).

図379.半径rの同心円状屈曲したまま下部Mantle上面に載る横臥Slab内の随行Mantle移動幾何学.

 3倍まで加速する随行Mantleが接する横臥Slab上部の下縁には引張歪が蓄積し,正断層型地震によって解放される.横臥Slab上部に巨大正断層型地震が起っていることは,引張歪の蓄積を支持している.一方,横臥Slab下部を通過する随行Manlteは減速するので逆断層型地震が予想されるが,2013年5月14日逆断層型地震M7.3が起こっており,横臥Slabの地震活動が随行Mantleの移動速度の加速・減速に起因していることが分かる.

3.2020年8月の月刊地震予報

 2020年には伊豆・小笠原・Mariana海溝域の沈込Slab地震が活発化している中で7月30日に伊豆海溝軸でM6.0が起こった.この海溝域の太平洋Plate沈込は,関東地方や東北日本そして西南日本の地震活動に直結しているので今後の地震活動を注意深く見守る必要がある.

引用文献

Niitsuma, N.(2020) Push out and Phase Transition of Mantle under the Izu Slab, recorded in CMT solutions of JMA. 2020th Annual Meeting of Japan GeoScience Union and Amer. Geophys. Union, S-MP39-07.

月刊地震予報130)琉球列島M6.3,関東地震の前兆か相模Trough沈込地震M6.1,2020年7月の月刊地震予報

1.2020年6月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2020年6月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で30個0.393月分,千島海溝域で1個0.002月分,日本海溝域で5個0.549月分,伊豆・小笠原海溝域で3個0.185月分,南海・琉球海溝域で21個0.814月分であった(2020年6月日本全図月別).日本全域総地震断層面積比が2019年9月から1割前後の異常静穏化の後,2020年2月・3月に千島海溝域の活動によって1.5・3.1ヶ月分に活発化したが,2020年4月に6割,2020年5月に2割に減少し,2020年6月に4割に増加した.
 最大地震は石垣島北方沖2020年6月14日琉球Slab内地震M6.3と相模Trough沈込地震6月25日M6.1で,M6.0以上の地震はこの2つである.2020年4月22日から開始した飛騨連発地震および東北日本弧Mantle・Slab衝突地震とSlab平面化地震は継続している.

2.奄美大島沖琉球海溝Slab内地震M6.3

 2020年6月14日0時51奄美大島沖の琉球海溝Slab内でM6.3+np/深度165km(Slab上面深度+61km)が起こった(図367).
 2020年5月最大の薩摩半島沖沖縄Trough北端拡大地震M6.2+nt/9(-125)km(6404月刊地震予報129)の後に,沖縄Troughの下に沈込む琉球Slab内で起こったのが本地震M6.3+np/165(+61)kmであり,続いて6月14日5時18分与那国島M5.5nt/52(+33)kmそして石垣島沖の沖縄Trough南端で6月15日2時28分M5.0+nt/21(-25)kmから連発地震が起っている.

図367.2020年5-6月の琉球海溝域のCMT解歪軸方位.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字M:発生年月日と規模.
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 沈込む前の海洋底下に随行してきたMantleは沈込むSlabに行く手を阻まれ,Slabに沿って下降して下端を通過し,中国大陸Mantleとの間に割り込む.このMantleがSlab先端下を通り抜け上昇して沖縄Troughを拡大させ,琉球列島と琉球海溝・琉球Slabを南東方に押し出す.押し出された分,琉球Slabが琉球海溝から沈込み,Slab下端を随行Mantleが通過上昇して沖縄Troughを拡大させる過程(月刊地震予報117)が進行していることを示している.

3.関東地震の前兆か相模Trough沈込地震M6.1

 2020年6月25日4時47分M6.1P/36(-2km)が相模Troughに沿ってPhilippine海Plateが沈込む銚子沖の九十九里Slab(KjkoChs)下面で起こった(図368).
 図368左の震央地図には緑色の扇形として小円区が記入されている.青色の相模Trough軸は,弧状に湾曲した軸が幾重にも接続した輪郭を持つ.この弧状に湾曲した軸に最適な地球面上の小円を算出し,この小円中心を要とする扇形に広がる範囲を小円区としている.震央地図右端の開き切った扇形が勝浦小円区であり,小円中心は今回の震源より少し右上の小円境界直線上に在る.左隣は石堂小円区で,小円中心は相模Trough軸が房総半島の南東方で大きく方向を転換する南側に位置する.
 小円中心からTrough軸までの距離は等しいので,小円区内の震源と小円中心間の距離からToughから震源までの距離,海溝距離,が算出できる.この海溝距離を横軸に震源深度を縦軸に表示したのが海溝距離断面図(図368中図)である.
小円中心から震源の方位角を横軸,縦軸に震源深度を取った断面図が縦断面図(図368右上図)である.横軸を共通に縦軸を2020年の1月から6月の時系列にしたのが時系列図(図368右中図),縦軸をTrough軸に直交して沈込む方位であるTrough傾斜方位を中央横軸にしたのが主歪軸方位図(図368右下図)である.

図368.2020年1-6月のCMT解歪軸方位.
震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とM:2020年6月25日M6.1.
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 相模Trough域のCMT解最大地震は2011年3月11日の東北沖巨大地震29分後の太平洋Slabと阿武隈下部地殻との衝突地震oThkIbgM7.6,次大は2000年7月1日伊豆三宅島M6.5nt/16kmである(図369).

図369.2020年6月までのCMT解歪軸方位.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とM:発生年月日と規模.
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 九十九里Slab(Kjk)のCMT解は,東北沖巨大地震2日後の誘導地震2011年3月13日M4.7t/12(-32)kmと3月14日M5.1P/23(-2)kmから開始し,銚子北方沖2011年3月16日M6.1Tr/10(-30)km・銚子北東沖2012年3月14日M6.1Tr/15(-22)km・今回の銚子南東沖地震と最大規模M6.1の地震が起こっている(図370).これらの地震は,関東平野下の上総層群と呼ばれる厚さ数千mの海底堆積物を説明するために提案した現在の利根川沿に沈込む九十九里Trough(新妻,1982;新妻,2007)の存在を支持している(速報66特報7).この上総層群上部の国本層には日本初の国際地質時代基準面GSSP「チバニアン」が認定されている(Okada et al., 2017).
 九十九里Slab内地震(Kjk)は相模Troughから同心円状屈曲して沈込むPhilippine海Plate上面より上に位置するが,今回の地震が扇状の勝浦小円区に属しており,逆断層型であるが,石堂小円区に属する他の九十九里Slab地震は正断層型である.これらの主歪軸方位は,野島小円区では相模軸方位(図370右下の方位図中軸[TrDp]及び上下端)に沿っているが,石堂小円区の正断層型地震では中間方位にある.

図370.九十九里Slab内地震(Kjk)CMT解の歪軸方位.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とM:発生年月日と規模.
 右下図:Philippine海Plateとの相対運動に対する歪軸方位.
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 九十九里Slab内地震の歪軸方位を,九十九里Slabの載る太平洋SlabのPlate運動に対して検討すると(図371右下図).正断層型の主引張T軸方位(△印)は海溝傾斜方位(TrDip図中央横線)・Plate沈込方位(Sub紫色折線)と上下端に分布し,太平洋Plate運動方位であるが,逆断層型の主圧縮P軸(丸印)は中間に分布する.

図371.九十九里Slab内地震(Kjk)CMT解の歪軸方位.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とM:発生年月日と規模.
 右下図:太平洋Plateとの相対運動に対する歪軸方位.
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 国内の地震観測網が整備され,1922年1月から定常観測が開始された.震源・規模と観測点における震度が気象庁Home Pageに震度Databaseとして公表されている(月刊地震予報124月刊地震予報126
九十九里Slab地震の総観測地震断層面積の7割が1923年9月の大正関東地震までに解放されている(図372右中図左端Benioff図)
 勝浦小円区の九十九里Slabの観測最大地震は銚子沖1937年10月17日M6.6/29(-10)kmで本地震から北東方に8kmに震央がある.石堂小円区の最大地震は銚子東方沖1923年9月2日M6.3/15(-24)km,足柄東区の最大地震は1923年9月1日大正関東地震5分後の三浦半島南西沖M7.3KjkSrg/0(-8)kmである.これらの小円区最大地震は,九十九里Slab地震が大正関東震源域の一部を構成していることを示している.

図372.1922年以降の九十九里Slab観測地震(Kjk).
 丸印:震源位置,CMTについては発震機構により彩色してあるが発震機構の不明なものは灰色.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とM:発生年月日と規模.
 右中図:時系列図.
 右下図:Philippine海Plateとの相対運動に対する歪軸方位.
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 Plate境界で接して九十九里Slabの下に沈込む相模Slab・足柄Slabの観測地震(TrPhSgm・TrPhAsg)は,銚子沖・南総・相模の3つの密集域に集中している(図373).
 勝浦小円区の銚子沖総観測地震断層面積規模は∑M7.0で,最大は2012年6月5日M6.3-np/37(+20)km,である.石堂・野島小円区の南総密集域総観測地震断層面積規模∑M6.7で最大は大正関東地震1時間15分後の1923年9月1日M6.2/19(+8)kmである.東足柄・足柄小円区の相模密集域総観測地震断層面積規模∑M7.9で最大は大正関東地震本震1923年9月1日11時58分M7.9/23(+14)kmである.
 相模・足柄SlabCMTのPhilippine海Plateに対する歪軸方位(図373右下図)は,銚子沖の逆断層型の圧縮P軸方位(赤色丸印)と横擦型の圧縮P軸方位(緑色丸印)はPlate運動と逆傾斜方位(図373右下図の上下端)である.足柄小円区と野島小円区の逆断層型(赤丸印)と横擦型(緑丸印)も圧縮P軸方位はPlate運動方位(Sub紫折線)および180°異なる逆方位で,Philippine海Plate運動に支配されている.逆断層型地震の圧縮P軸方位がPhilippine海Plate運動方位と逆が殆どであるのは,摩擦のあるPlate境界面に沿う断層運動では,境界面に直交する抗力が働くためにP軸傾斜が境界面傾斜と逆方位になるからである(月刊地震予報107).正断層型の引張T軸方位(黒・青三角印)は中間にある.

図373.1922年以降の相模Slab観測地震(TrPhSgm・TrPhAsg).
 丸印:震源位置,CMTについては発震機構により彩色してあるが発震機構の不明なものは灰色.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とM:発生年月日と規模.
 右中図:時系列図.
 右下図:Philippine海Plateとの相対運動に対する歪軸方位.
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 足柄密集区の駿河・足柄Slab内震源は日本海溝から沈込む太平洋Slab上面よりもはるか上方の西南日本弧地殻・上部Mantle内にある.銚子沖・南総密集区では太平洋Slab上面を50km近く押し下げている(図374中図).
 太平洋SlabのPlate運動方位(図374右下図Sub紫色折線)は海溝傾斜方位(図374右下図中央横線TrDip)と一致しており.横擦型の引張T軸(空色三角)と正断層型の引張T軸(青色と黒色三角)および横擦型の圧縮P軸(緑色丸印)は上下端と中央の太平洋Plate運動とその逆方位を向き,太平洋Plate運動の支配が示されている.しかし,逆断層型の圧縮P軸方位(赤色丸印)は中間にある.
 これらの歪軸方位は,相模Slab上面はPhilippine海Plate上面に沿う逆断層型であるが,太平洋Slabを押し下げている下部は,太平洋Plate運動によって引張られ正断層型になっていることを示している.

図374.1922年以降の相模Slab観測地震(TrPhSgm・TrPhAsg).
 丸印:震源位置,CMTについては発震機構により彩色してあるが発震機構の不明なものは灰色.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とM:発生年月日と規模.
 右中図:時系列図.
 右下図:太平洋Plateとの相対運動に対する歪軸方位.
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 Plate境界に蓄積していた歪は,足柄から南総・銚子沖まで大正関東地震本震とほぼ同時に解放されており(図372・図373・図374).蓄積歪が最大に達していた本震直前の地震記録は,将来の関東地震を予報するために重要である.
 大正関東地震直前までの総観測地震断層面積規模は∑M7.4 であり(図375,表45),最大観測地震(10番)は,石堂小円区の阿武隈下部地殻と太平洋Slabとの衝突地震(oThkIbg)1923年6月2日M7.1/36(-23)kmであり,次大(30番)は東足柄小円区の浦賀沖東京湾の太平洋Slab平面化地震(fAcUrg)1922年4月26日M6.8/88(+74)kmである.
 歪軸方位(図374)が示すように相模Slabの地震は,それらの下に沈込む太平洋Slabの影響を受けていることから最大と次大の太平洋Slab地震が大正関東地震の御膳立をしたことは頷ける.

図375.大正関東地震以前の相模Trough域観測地震.
 灰色丸印:発震機構不明の震源位置.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)
  数字:地震番号(表45),数字とM:今回の地震発生年月日と規模.
 右中図:時系列図.右端areaMの色は地震番号(表45)の色.
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表45.大正関東地震以前の相模Trough域観測地震・歴史地震.
地震番号10の最大観測地震と連続発生した地震番号をPink色,最大観測地震前の連続地震番号を青色,次大観測地震の地震番号30と連続発生した地震番号を赤色に彩色した.緑色の34は最大歴史地震の元禄関東地震M8.2.

番号 発生 規模M

深度km Slab
上面
深度
km
海溝
距離km


°
震源名
時分
0 1923 9 1 11.58 M7.9 Ash 23 14 5 7.7 TrPhAsg
1 1923 8 20 7.22 M5.9 Ish 51 -1 181 24.2 ofAcAbk
2 1923 7 21 17.30 M5.1 Ish 0 -4 146 36.4 KjkChs
3 1923 6 13 1.49 M5.4 Ish 36 14 69 27.4 BsMbr
4 1923 6 10 10.42 M4.6 Kat 31 1 96 84.0 TrPhSgm
5 1923 6 8 3.13 M4.6 Ish 10 -17 56 30.8 KjkMbr
6 1923 6 5 11.06 M5.6 Kat 58 23 106 89.9 TrPhSgm
7 1923 6 3 6.58 M5.1 Ish 63 18 128 345.4 TzGk
8 1923 6 2 12.12 M5.7 Ish 11 -42 159 40.1 oThkIbg
9 1923 6 2 5.15 M6.8 Ish 67 18 135 40.7 BsoKsm
10 1923 6 2 2.24 M7.1 Ish 36 -23 165 41.2 oThkIbg
11 1923 5 26 12.13 M6.2 Ish 75 23 141 39.3 uBdK
12 1923 5 9 22.20 M3.8 Ish 81 22 154 3.3 TzGk
13 1923 5 7 12.02 M5.1 Ish 40 -18 165 23.3 ofAcAbk
14 1923 5 6 20.25 M5.2 Ash 21 10 21 353.1 TrPhAsg
15 1923 3 15 14.23 M4.4 Ish 70 32 110 342.6 TzChb
16 1923 3 11 19.13 M5.1 Kat 78 70 0 216.8 TrPcK
17 1923 3 10 2.30 M4.4 Ish 28 -45 197 15.2 nShFtb
18 1923 2 12 3.26 M5.5 Ish 67 -8 191 24.7 uBdK
19 1923 1 26 21.35 M5.2 Ish 37 -19 158 358.1 TzSmz
20 1923 1 14 14.51 M6.0 Ish 87 35 138 354.9 TzGk
21 1922 12 27 18.30 M5.1 Ish 67 38 88 351.2 TzChb
22 1922 11 9 5.16 M5.6 Ish 32 11 68 16.0 BsMbr
23 1922 10 6 1.48 M5.7 Ish 40 21 57 8.3 BsMbr
24 1922 9 23 15.37 M5.6 Ish 57 -16 190 17.3 ofAcAbk
25 1922 8 25 4.45 M4.9 Ish 38 -15 153 351.6 TzSmz
26 1922 6 26 3.41 M4.7 Ish 45 -8 150 349.7 TzSmz
27 1922 5 9 12.28 M6.1 Ish 64 18 131 355.8 TzGk
28 1922 4 29 4.31 M4.6 Ish 35 25 16 357.3 TrPhSgm
29 1922 4 27 18.15 M5.9 Ish 23 -46 190 18.6 PfcHmd
30 1922 4 26 10.11 M6.8 eAs 88 74 29 55.5 fAcUrg
31 1922 4 10 22.57 M5.5 Ish 43 10 102 5.5 TzChb
32 1922 1 24 8.31 M5.1 Ish 24 -6 98 30.4 BsoChs
33 1922 1 4 15.32 M4.3 Ish 49 1 139 356.4 TzSmz
34 1703 12 31 ? M8.2 Noj ? ? -4 190.4 TrPhSgm

 相模Slabと足柄Slabには銚子沖・南総・相模の震源密集区があり(図372・373・374),1923年大正関東地震M7.9は相模Slabと足柄Slab境界付近の相模密集区で起こった.過去最大M8.2の元禄関東地震(図375の34)は南総密集区で起こっている.
 大正関東地震前の歪蓄積が極限に達していた銚子沖では,今回の2020年6月25日M6.1震源に隣接して相模Slab上面の1923年6月2日M5.6(6),1923年6月10日M4.6(,4)と九十九里Slabの1923年7月21日M5.1(2)が起こっており注目される.これらが前兆であれば,41日から90日後に関東地震が起こることになる.

4.2020年7月の月刊地震予報

 2020年6月14日奄美大島沖で琉球Slab内地震M6.3が起こった.この活動は先月5月3日の琉球海溝域の沖縄Trough地震M6.2に続いていることから,Philippine海Plate運動が活発化していることがうかがえる.
 2020年6月25日に起こった銚子沖の地震M6.1は九十九里Slab最大CMT規模であり,関東地震の再来が心配される.1923年9月1日大正関東地震M7.9の前年1922年1月から開始された定常地震観測によると,銚子沖の地震が関東地震の1-3月前に起こっており,台湾から琉球そして西南日本と関東域では今後の地震活動を注意深く見守るとともに,厳重な警戒必要である.

引用文献

新妻信明(1982)プレートテクトニクスの試金石-南部フォッサマグナ.月刊地球,4,326-333.
新妻信明(2007)プレートテクトニクス―その新展開と日本列島―.共立出版,292p.
Okada M, Suganuma Y, Haneda Y, Kazaoka 0 (2017) Plaeomagnetic direction and paleointensity variations during the Matuyama-Brunhes polarity transition from a marine succession in the Chiba composite section of the Boso Peninsula central Japan. Earth. Planets. Space 69:45. https//doi. org/10.1186/s40623-017-0627-1