月刊地震予報

月刊地震予報106)2018年6月18日大阪府北部の地震M6.1の主応力軸入替・歴史地震断層面積規模・稀発地震,2018年7月の月刊地震予報

1.2018年6月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解によると,2018年6月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で16個0.122月分,千島海溝域で4個0.058月分,日本海溝域で5個0.034月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.027月分,南海・琉球海溝域で6個0.257月分であった(2018年6月日本全図月別).
2018年6月の最大地震は2018年6月18日大阪府北部M6.1で,この他にM6.0以上の地震はなかった.

2.2018年6月18日大阪府北部の地震M6.1の主応力軸入替・歴史地震断層面積規模・稀発地震

 2018年6月18日7時58分に紀南小円区,近畿震源域の大阪府北部でM6.1が起こった.IS解は深度13km・発震機構型が側方逆断層pr型,CMT解は深度16km・引張横擦断層-nt型と異なっている.
本地震の主応力軸方位と傾斜角は,IS解で(P287+10T169+69N20+18),CMT解で(P101+6T7+34N199+55)と異なる.ここでPが圧縮主応力軸,Tが引張主応力軸,Nが中間主応力軸である.発震機構型は,IS解でT軸傾斜が+69と最大なので逆断層p型,CMT解でN軸傾斜が+55と最大なので横擦断層n型である.震源の小円区方位は154°で,IS解のP軸方位287と45°以上異なっているため側方逆断層pr型,CMT解のP軸方位101よりもT軸方位7の逆方位187に近いので引張横擦断層nt型になる.更に,CMT解の非双偶力成分(nonDC)比が±5%を越える-33%なので,CMT解の発震機構型は圧縮優勢引張横擦断層-nt型になる.
これらの発震機構型の相違を応力場方位の変化で説明するには75.9°の大規模回転を要する.ただし,P波初動(IS解)を発する破壊開始から,最大振幅S波(CMT解)を発する最大破壊の2.5秒間に大規模応力場回転が起こったとは考え難い.破壊開始から主要破壊へ破壊進展によって破壊深度範囲が拡大するが,下方では上下方向の圧縮力が大きいので,下方への進展は圧縮力を増大させる.圧縮力の増大は上下方向の引張力T強度を相殺する. T強度が水平方向のN強度より減少すれば,応力強度順に名付けられる応力軸名称は,応力場方位が維持されていても,TとNが入替えられる.応力軸名称が入替えられれば,発震機構型もprから-ntになる( 速報37).本地震のCMT解を基準としたIS解の応力場極性偏角( 月刊地震予報87)はTexN23.1°であり,25°以内の応力場回転でT軸とN軸入替のみで発震機構型の相違を説明できる.
 CMT解の非双偶力成分比は,圧縮応力P強度と中間応力N強度の差とN強度と引張応力T強度の差が完全に一致する双偶力状態からのずれを定量的に表し,双偶力状態で0%,P強度とN強度が等しい場合に+50%,T強度とN強度が等しい場合に-50%になる.IS解に用いられる初動の向きのみでは応力強度を求めることができないので,IS解の主応力軸方位は双偶力状態を仮定して算出される.
本地震の非双偶力成分比が-33%であることは,T強度とN強度の差がT強度とP強度との差応力の17%しかなく,T軸とN軸が入替わり易いことを示している.IS解とCMT解との主応力軸方位において,P軸傾斜が西287と東101と逆ではあるが,傾斜角が10と6とほぼ水平で差がなく,IS解のN軸20とCMT解のT軸7がほぼ北向きであることは,P優勢な応力場においてT軸とN軸が入替わり,発震機構がpr型から-nt型に変わったことを支持する.
 2018年6月18日から26日までには速報解9個・IS解9個・CMT解1個が公表されたがIS最大解を基準にしてもCMT解を基準にしても応力場極性の逆転はなく,9個のIS解震央距離が7km以内に収まっている.6月18日の最大地震を起こした応力場は保持されていることから,今後の地震活動に警戒が必要である(図275).

図275.2018年6月の大阪府北部の地震の応力場極性偏角.
左図:震央地図,中図:海溝距離断面図,右上図:縦断面図,右下図:時系列図(左端は応力場極性偏角;右端の数字は2018年6月の日数);月の日数),右下図:主応力軸方位図.

西南日本の島弧地殻内の地震は上部地殻内でのみ起こり,下部地殻では起こらず,島弧マントル内の地震と区別できる.本地震を起こした近畿震源域の上部島弧地殻内では日本書紀以来の地震記録が残されており(宇佐美,2003),現在のCMT解と比較できる(図276).

図276.近畿震源区のCMT解と歴史被害地震の総地震断層面積規模と震央分布.
 上図:CMT解,下図:歴史被害地震.
左図:震央地図,中図:海溝距離断面図:右上図:縦断面図,右下図:時系列図(左端は積算地震断層面積のBenioff曲線と積算プレート運動面積の斜直線;右端の数字は年数).

歴史地震とCMT解の各地震の規模(M)から算出される地震断層面積(=10^(1.2M-9.9))を積算した総地震断層面積を地震活動の定量的比較に用いてきた(速報36).総地震断層面積(平方km)相互の比較を容易にするため,その総地震断層面積が1個の地震の地震断層面積と等しい規模(M)を,総地震断層面積規模として比較に用いることにする.
CMT解についてはM6.4,歴史被害地震についてはM8.2と算出される(図276:上[CMT解]・下[歴史被害地震]右図左端のBenioff曲線下).歴史被害地震の総地震断層面積規模M8.2とCMT解の規模M6.4の差をd1.8と記すことにする.規模差d1.0は歴史被害地震の総面積がCMT解よりも16倍(=10^1.2)大きく,d1.8は145倍(=10^(1.8*1.2))大きいことを示す.近畿震源区における過去24年間のCMT解の地震活動が歴史地震の145分の1にしか起こっていないことを意味している.
 今回の近畿震源区の地震と同様に西南日本全域についても歴史被害地震と現在のCMT解と比較できる(図277).

図277.南海トラフ域の上部地殻のCMT解と歴史被害地震の総地震断層面積規模と震央分布.
 上図:CMT解,下図:歴史被害地震.
左図:震央地図,中図:海溝距離断面図:右上図:縦断面図,右下図:時系列図(左端は積算地震断層面積のBenioff曲線と積算プレート運動面積の斜直線;右端の数字は年数).

歴史被害地震が最初に記録された年代(初年)は,四国と紀伊を除き,西暦600-800年で1200年以上の記録期間があり,過去24年間のCMT解の50倍になる.歴史地震とCMTの期間長の相違の50倍はd1.4に相当する.従って,d1.4以上の場合には,CMT年間総地震断層面積が歴史地震年間総地震断層面積よりも少なく静穏であり,大地震の再来危険度が高いことを意味する.
歴史被害地震の総地震断層面積規模とCMT解の総地震断層面積規模との差(歴-CMT)を算出して比較すると,美濃が最大d2.4で,飛騨のd1.9,近畿のd1.8,そして紀伊のd1.5と続く.1995年1月17日阪神淡路大震災M7.3nt・2000年10月6日鳥取県西部地震M7.3-nt・2016年10月21日島根県中部M6.6+np( 月刊地震予報85)・2018年4月9日島根県西部M6.1+np( 月刊地震予報104)の起こった中国震源区はd0.4,2016年4月16日熊本地震M7.3+nt( 速報79)の起こった九州震源区はd0.5と最も小さい.九州から中国へと東進してきた上部地殻の直下型地震が近畿震源区に到着し,今後,美濃震源区・近畿震源区・飛騨震源区でM7からM8の地震を起こすことが予想されるので警戒が必要である.

表31.南海トラフ域の上部地殻CMT解と歴史地震の総地震断層面積規模の比較.

震源区 歴史被害地震 CMT
記号 初年 総面積 最大 総面積 規模差
九州 Kys 679 M8.0- M7.6 M7.5 d0.5
中国 Chgk 868 M8.0- M7.4 M7.6 d0.4
四国 Shkk 1649 M7.2- M7.0 M6.3 d0.9
紀伊 Kii 1929 M7.0 M6.8 M5.5 d1.5
近畿 Knk 827 M8.2 M7.6 M6.4 d1.8
美濃 Mino 715 M8.0 M7.0 M5.6 d2.4
飛騨 Hida 762 M8.3 M8.0 M6.4 d1.9

本地震前日の2018年6月17日15時27分に群馬県南部の磐越震源区でM4.6+p14kmのCMT解とIS解が公表された(図278).

図278.稀発地震の現在 (0Ma:左)と日本海拡大直前(15Ma右)の震央位置.

この地震は1923年以降の気象庁観測史上初の稀発地震である.稀発地震は2016年から渡島震源区( 月刊地震予報81)・韓半島震源区( 月刊地震予報82 月刊地震予報84 月刊地震予報99 月刊地震予報102)で起こっていたが,今回,磐越震源区が加わった(表32).

表32.2016年からの稀発地震.

震源区 発生 規模 震央 深度
M 北緯° 東経° km
磐越 2018 6 17 4.6 +p 36.455 139.172 14
韓半島 2018 2 11 4.6 Pr 36.098 129.457 4
2017 11 15 5.6 p 36.195 129.393 11
2016 9 12 5.8 -nt 35.797 129.272 36
2016 9 12 5.2 nt 35.820 129.262 40
2016 7 5 4.9 -nt 35.613 129.873 37
渡島 2016 6 16 5.3 pr 41.948 140.987 11

これらの稀発地震は,1500万年前に日本列島がアジア大陸から分離した日本海拡大境界付近に位置していることは,局地的異変による稀発地震ではなく,アジア大陸と日本列島全域に渡る応力状態の異変と関係していることが予想される.これまで地震が起こらないとされてきた地域でも直下型の地震を警戒する必要がある.
 また,関東地方の房総半島東方沖の茂原震源密集域(特報7)では6月12日5時9分M4.9pr17(+1)kmから6月27日4時16分M4.1p25(+7)kmまで5個の初動IS発震機構解が公表されている.関東地方の地下には西南日本東端の関東山地の下に沈込だ丹沢スラブ,そして丹沢地塊の下に沈込む伊豆半島に繋がる上総スラブが存在するため,西南日本の上部地殻内地震との関係も予想される.

3.2018年7月の月刊地震予報

2018年4月9日に島根県西部M6.1が起こったが,4月28日のM3.6でも応力場極性の変化が認められなかったことから,M7級の地震への警戒を呼び掛けていたが( 月刊地震予報104),大阪府北部で2018年6月18日7時58分にM6.1が起こった.この地震でも応力場の極性の変化が認められない.これらの地震は,2015年11月14日沖縄トラフ最大地震M7.1( 速報74)の後の2016年4月16日熊本地震M7.3( 速報79)から開始された一連の西南日本内陸域地震と考えられるが,今後,西南日本域を更に東進することが予想されるので警戒が必要である.

引用文献:

宇佐美龍夫(2003)日本被害地震騒乱.東京大学出版会,605p.

月刊地震予報105)2018年5月18日釧路沖の地震M5.8・2018年6月の月刊地震予報

1.2018年5月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解によると,2018年5月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で19個0.103月分,千島海溝域で2個0.099月分,日本海溝域で8個0.177月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.136月分,南海・琉球海溝域で8個0.061月分であった(2018年5月日本全図月別).
2018年5月の最大地震は2018年5月18日釧路沖M5.8で,M6.0以上の地震はなかった.

2.2018年5月18日釧路沖の地震M5.8

 2018年5月18日3時42分に釧路沖でM5.8P深度47(スラブ深度30)kmが起こった.その半日後の5月18日17時50分に得撫島沖M5.0+p深度30(-32)kmが起こっている.また,2018年5月31日6時15分にも釧路沖M4.1nt53(+20)km(IS発震機構解)があった(図273).

図273.2018年5月の千島海溝域の発震機構解.
左図:海溝距離断面図,中下図:震央地図,右上図:縦断面図,右中図:時系列図(左端は移動平均断層面積対数;右端の数字は2018年5月の日数),右下図:主応力軸方位図.

 千島海溝域の地震については,これまで速報29速報30速報41速報58速報74速報76地震予報80地震予報101地震予報103に取り上げてきた.千島海溝域の1994年9月以降のCMT解総地震断層面積のプレート運動面積(斜直線)に対する比は0.96で,ほぼプレート運動面積と等しい地震活動が起こっている.
千島海溝域では488個のCMT解が報告されているが,その68%が逆断層p・pr型で,その圧縮P軸方位は(赤色丸印)は方位図の上縁と下縁および中央線付近に分布している(図274右下図).方位図の中央線は千島海溝から沈込む太平洋プレートの傾斜方位(TrDip)である.中央線付近のP軸傾斜はプレート傾斜方向であり,上下縁のP軸傾斜は海溝方向である.中央線付近の紫色線(Sub)は太平洋プレート運動方向で,中央線のプレート傾斜方向と多少異なり,右下方にずれている(図273・図274).P軸方位もプレート運動方向に沿って右下方にずれている.

図274.千島海溝域のCMT解.
左図:海溝距離断面図,中下図:震央地図,右上図:縦断面図,右中図:時系列図(左端は積算地震断層面積のBenioff曲線と積算プレート運動面積の斜直線;右端の数字は年数),右下図:主応力軸方位図.

千島海溝域で起こっている地震の地震断層面積がプレート運動面積にほぼ等しいことと,P軸方位が太平洋プレートの運動方向に沿っていることは,千島海溝域の地震が太平洋プレート運動と関係していることを明確に示している.
積算地震断層面積のBenioff曲線ではその間に,2007年と2013年に大きな段がある(図274).これらの段には2006年11月15日M7.9P30(+8)km・2007年1月13日M8.2Te30(+17)kmおよび2013年5月24日カムチャツカのスラブM8.3P609(+87)kmの地震が対応している.2013年5月の最後の段から現在までの5年間の総地震断層面積はプレート運動面積の0.16と静穏を保っている.2007年1月から2013年5月までの中段の静穏期は6年4か月,1994年9月から2006年11月までの最初の静穏期は12年2か月続いた.これらの静穏期の長さを参考にすると,千島海溝域では2年ないし数年以内にM8以上の地震が起こると考えられるので警戒が必要である.

3.2018年6月の月刊地震予報

2018年4月9日に島根県西部M6.1が起こったが,4月28日のM3.6でも応力場変化が認められなかったことから,M7級の地震への警戒を呼び掛けていたが(地震予報104),大阪府北部で2018年6月18日7時58分にM5.9(速報発震機構)が起こった.これらの地震は,2015年11月14日沖縄トラフ最大地震M7.1の後の2016年4月16日熊本地震M7.3から開始された一連の西南日本内陸域地震と考えられるので,西南日本域では今後も警戒が必要である.

月刊地震予報104)厳重警戒を要する2018年4月9日島根県西部の地震M6.1・2018年5月の月刊地震予報

1.2018年4月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解によると,2018年4月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で18個0.116月分,千島海溝域で4個0.071,日本海溝域で7個0.109月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.007月分,南海・琉球海溝域で6個0.209月分であった(2018年4月日本全図月別).
2018年4月のM6.0以上の地震は,島根県西部の2018年4月9日M6.1であった.

2.2018年4月9日島根県西部の地震M6.1

 2018年4月9日1時32分に島根県西部でM6.1+np深度12kmが起こった(図272).CMT解は4月9日1時32分から5時5分にM4.6-6.1の4個あり,初動解は2018年4月9日1時32分から4月28日3時42分にM3.5-6.1の8個あった.速報解は2018年4月9日1時32分から4月28日3時42分にM3.5-6.1の13個公開されている.

図272.2018年4月の島根県西部の地震の初動解応力場極性偏角Π.
 左:震央地図,右上:海溝距離断面図,右中:縦断面図,右下:応力場極性偏角Πの時系列図.右端の数字は2018年4月の日数.

 2018年4月9日1時32分の最初の地震が最大のM6.1であり,このCMT解を基準とすると,全ての解の震央距離は2km以内に収まる.深度差も2km以内であり,同一震源の活動と言える.
基準発震機構解[P283+4T14+5N157+84]は中間主応力N軸傾斜が垂直に近い84°で圧縮主応力P軸傾斜が4°・引張主応力T軸傾斜が5°と水平に近いので,横擦断層型である.しかし,東西方向のP軸方位と南北方向のT軸方位が北西-南東方向の小円方位の中間なので圧縮横擦断層型npであったり引張横擦断層型ntであったりする.CMT解の非双偶力成分比は基準地震が+5%で他は+1%でやや引張応力過剰である.
応力場極性区分は全て基準地震と同じ基準区分orgに属し,偏角25°以内がCMT解4個中2個,初動解8個中7個,速報解13個中4個と変わりなく,1か月に及ぶ同一震源における地震活動であるが,応力場偏角に変化が認められない.
 震源域内で最も破壊強度の小さいところから破壊が起こり,地震活動が開始される.破壊による歪解消が周囲に及び,破壊強度の大きな箇所に歪が集中して次の破壊を起こす.最大破壊強度の箇所は,周囲の弱破壊強度域の歪が集中することによって破壊するので最大地震が起こる.歪集中に要する時間は破壊強度差が大きいほど長くなることから,最大前震の後の長い地震休止期に地震活動が終了したと誤解し,避難所からの帰宅によって熊本地震(速報79)では被害を大きくした.本震では震源域が破壊して歪が解消されるので,応力場極性が逆転し,次に起こる地震の応力場極性で判定できる.
 今回の地震では1か月たっても応力場極性偏角に変化が認めらないことから,前震が継続中で1か月以内にM7以上の本震が起こる可能性が大きいので,厳重な警戒が必要である.
 

3.2018年5月の月刊地震予報

2018年4月9日に島根県西部M6.1が起こったが,同一震源で4月28日にもM3.6が起こっている.この間に起こった8個の初動発震機構解の応力場に変化が認められないことから,M6.1を起こした歪による応力場は変化しておらず前震の段階に留まっていると考えられる.1か月以内にM7級の本震が起こる可能性が大きいので厳重な警戒が必要である.
同様に応力場極性逆転が認められなかった2018年3月の台湾花蓮の地震(月刊地震予報102)も前震段階に留まっている可能性があるので警戒が必要である.