月刊地震予報

月刊地震予報130)琉球列島M6.3,関東地震の前兆か相模Trough沈込地震M6.1,2020年7月の月刊地震予報

1.2020年6月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2020年6月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で30個0.393月分,千島海溝域で1個0.002月分,日本海溝域で5個0.549月分,伊豆・小笠原海溝域で3個0.185月分,南海・琉球海溝域で21個0.814月分であった(2020年6月日本全図月別).日本全域総地震断層面積比が2019年9月から1割前後の異常静穏化の後,2020年2月・3月に千島海溝域の活動によって1.5・3.1ヶ月分に活発化したが,2020年4月に6割,2020年5月に2割に減少し,2020年6月に4割に増加した.
 最大地震は石垣島北方沖2020年6月14日琉球Slab内地震M6.3と相模Trough沈込地震6月25日M6.1で,M6.0以上の地震はこの2つである.2020年4月22日から開始した飛騨連発地震および東北日本弧Mantle・Slab衝突地震とSlab平面化地震は継続している.

2.奄美大島沖琉球海溝Slab内地震M6.3

 2020年6月14日0時51奄美大島沖の琉球海溝Slab内でM6.3+np/深度165km(Slab上面深度+61km)が起こった(図367).
 2020年5月最大の薩摩半島沖沖縄Trough北端拡大地震M6.2+nt/9(-125)km(6404月刊地震予報129)の後に,沖縄Troughの下に沈込む琉球Slab内で起こったのが本地震M6.3+np/165(+61)kmであり,続いて6月14日5時18分与那国島M5.5nt/52(+33)kmそして石垣島沖の沖縄Trough南端で6月15日2時28分M5.0+nt/21(-25)kmから連発地震が起っている.

図367.2020年5-6月の琉球海溝域のCMT解歪軸方位.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字M:発生年月日と規模.
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 沈込む前の海洋底下に随行してきたMantleは沈込むSlabに行く手を阻まれ,Slabに沿って下降して下端を通過し,中国大陸Mantleとの間に割り込む.このMantleがSlab先端下を通り抜け上昇して沖縄Troughを拡大させ,琉球列島と琉球海溝・琉球Slabを南東方に押し出す.押し出された分,琉球Slabが琉球海溝から沈込み,Slab下端を随行Mantleが通過上昇して沖縄Troughを拡大させる過程(月刊地震予報117)が進行していることを示している.

3.関東地震の前兆か相模Trough沈込地震M6.1

 2020年6月25日4時47分M6.1P/36(-2km)が相模Troughに沿ってPhilippine海Plateが沈込む銚子沖の九十九里Slab(KjkoChs)下面で起こった(図368).
 図368左の震央地図には緑色の扇形として小円区が記入されている.青色の相模Trough軸は,弧状に湾曲した軸が幾重にも接続した輪郭を持つ.この弧状に湾曲した軸に最適な地球面上の小円を算出し,この小円中心を要とする扇形に広がる範囲を小円区としている.震央地図右端の開き切った扇形が勝浦小円区であり,小円中心は今回の震源より少し右上の小円境界直線上に在る.左隣は石堂小円区で,小円中心は相模Trough軸が房総半島の南東方で大きく方向を転換する南側に位置する.
 小円中心からTrough軸までの距離は等しいので,小円区内の震源と小円中心間の距離からToughから震源までの距離,海溝距離,が算出できる.この海溝距離を横軸に震源深度を縦軸に表示したのが海溝距離断面図(図368中図)である.
小円中心から震源の方位角を横軸,縦軸に震源深度を取った断面図が縦断面図(図368右上図)である.横軸を共通に縦軸を2020年の1月から6月の時系列にしたのが時系列図(図368右中図),縦軸をTrough軸に直交して沈込む方位であるTrough傾斜方位を中央横軸にしたのが主歪軸方位図(図368右下図)である.

図368.2020年1-6月のCMT解歪軸方位.
震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とM:2020年6月25日M6.1.
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 相模Trough域のCMT解最大地震は2011年3月11日の東北沖巨大地震29分後の太平洋Slabと阿武隈下部地殻との衝突地震oThkIbgM7.6,次大は2000年7月1日伊豆三宅島M6.5nt/16kmである(図369).

図369.2020年6月までのCMT解歪軸方位.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とM:発生年月日と規模.
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 九十九里Slab(Kjk)のCMT解は,東北沖巨大地震2日後の誘導地震2011年3月13日M4.7t/12(-32)kmと3月14日M5.1P/23(-2)kmから開始し,銚子北方沖2011年3月16日M6.1Tr/10(-30)km・銚子北東沖2012年3月14日M6.1Tr/15(-22)km・今回の銚子南東沖地震と最大規模M6.1の地震が起こっている(図370).これらの地震は,関東平野下の上総層群と呼ばれる厚さ数千mの海底堆積物を説明するために提案した現在の利根川沿に沈込む九十九里Trough(新妻,1982;新妻,2007)の存在を支持している(速報66特報7).この上総層群上部の国本層には日本初の国際地質時代基準面GSSP「チバニアン」が認定されている(Okada et al., 2017).
 九十九里Slab内地震(Kjk)は相模Troughから同心円状屈曲して沈込むPhilippine海Plate上面より上に位置するが,今回の地震が扇状の勝浦小円区に属しており,逆断層型であるが,石堂小円区に属する他の九十九里Slab地震は正断層型である.これらの主歪軸方位は,野島小円区では相模軸方位(図370右下の方位図中軸[TrDp]及び上下端)に沿っているが,石堂小円区の正断層型地震では中間方位にある.

図370.九十九里Slab内地震(Kjk)CMT解の歪軸方位.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とM:発生年月日と規模.
 右下図:Philippine海Plateとの相対運動に対する歪軸方位.
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 九十九里Slab内地震の歪軸方位を,九十九里Slabの載る太平洋SlabのPlate運動に対して検討すると(図371右下図).正断層型の主引張T軸方位(△印)は海溝傾斜方位(TrDip図中央横線)・Plate沈込方位(Sub紫色折線)と上下端に分布し,太平洋Plate運動方位であるが,逆断層型の主圧縮P軸(丸印)は中間に分布する.

図371.九十九里Slab内地震(Kjk)CMT解の歪軸方位.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とM:発生年月日と規模.
 右下図:太平洋Plateとの相対運動に対する歪軸方位.
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 国内の地震観測網が整備され,1922年1月から定常観測が開始された.震源・規模と観測点における震度が気象庁Home Pageに震度Databaseとして公表されている(月刊地震予報124月刊地震予報126
九十九里Slab地震の総観測地震断層面積の7割が1923年9月の大正関東地震までに解放されている(図372右中図左端Benioff図)
 勝浦小円区の九十九里Slabの観測最大地震は銚子沖1937年10月17日M6.6/29(-10)kmで本地震から北東方に8kmに震央がある.石堂小円区の最大地震は銚子東方沖1923年9月2日M6.3/15(-24)km,足柄東区の最大地震は1923年9月1日大正関東地震5分後の三浦半島南西沖M7.3KjkSrg/0(-8)kmである.これらの小円区最大地震は,九十九里Slab地震が大正関東震源域の一部を構成していることを示している.

図372.1922年以降の九十九里Slab観測地震(Kjk).
 丸印:震源位置,CMTについては発震機構により彩色してあるが発震機構の不明なものは灰色.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とM:発生年月日と規模.
 右中図:時系列図.
 右下図:Philippine海Plateとの相対運動に対する歪軸方位.
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 Plate境界で接して九十九里Slabの下に沈込む相模Slab・足柄Slabの観測地震(TrPhSgm・TrPhAsg)は,銚子沖・南総・相模の3つの密集域に集中している(図373).
 勝浦小円区の銚子沖総観測地震断層面積規模は∑M7.0で,最大は2012年6月5日M6.3-np/37(+20)km,である.石堂・野島小円区の南総密集域総観測地震断層面積規模∑M6.7で最大は大正関東地震1時間15分後の1923年9月1日M6.2/19(+8)kmである.東足柄・足柄小円区の相模密集域総観測地震断層面積規模∑M7.9で最大は大正関東地震本震1923年9月1日11時58分M7.9/23(+14)kmである.
 相模・足柄SlabCMTのPhilippine海Plateに対する歪軸方位(図373右下図)は,銚子沖の逆断層型の圧縮P軸方位(赤色丸印)と横擦型の圧縮P軸方位(緑色丸印)はPlate運動と逆傾斜方位(図373右下図の上下端)である.足柄小円区と野島小円区の逆断層型(赤丸印)と横擦型(緑丸印)も圧縮P軸方位はPlate運動方位(Sub紫折線)および180°異なる逆方位で,Philippine海Plate運動に支配されている.逆断層型地震の圧縮P軸方位がPhilippine海Plate運動方位と逆が殆どであるのは,摩擦のあるPlate境界面に沿う断層運動では,境界面に直交する抗力が働くためにP軸傾斜が境界面傾斜と逆方位になるからである(月刊地震予報107).正断層型の引張T軸方位(黒・青三角印)は中間にある.

図373.1922年以降の相模Slab観測地震(TrPhSgm・TrPhAsg).
 丸印:震源位置,CMTについては発震機構により彩色してあるが発震機構の不明なものは灰色.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とM:発生年月日と規模.
 右中図:時系列図.
 右下図:Philippine海Plateとの相対運動に対する歪軸方位.
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 足柄密集区の駿河・足柄Slab内震源は日本海溝から沈込む太平洋Slab上面よりもはるか上方の西南日本弧地殻・上部Mantle内にある.銚子沖・南総密集区では太平洋Slab上面を50km近く押し下げている(図374中図).
 太平洋SlabのPlate運動方位(図374右下図Sub紫色折線)は海溝傾斜方位(図374右下図中央横線TrDip)と一致しており.横擦型の引張T軸(空色三角)と正断層型の引張T軸(青色と黒色三角)および横擦型の圧縮P軸(緑色丸印)は上下端と中央の太平洋Plate運動とその逆方位を向き,太平洋Plate運動の支配が示されている.しかし,逆断層型の圧縮P軸方位(赤色丸印)は中間にある.
 これらの歪軸方位は,相模Slab上面はPhilippine海Plate上面に沿う逆断層型であるが,太平洋Slabを押し下げている下部は,太平洋Plate運動によって引張られ正断層型になっていることを示している.

図374.1922年以降の相模Slab観測地震(TrPhSgm・TrPhAsg).
 丸印:震源位置,CMTについては発震機構により彩色してあるが発震機構の不明なものは灰色.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とM:発生年月日と規模.
 右中図:時系列図.
 右下図:太平洋Plateとの相対運動に対する歪軸方位.
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 Plate境界に蓄積していた歪は,足柄から南総・銚子沖まで大正関東地震本震とほぼ同時に解放されており(図372・図373・図374).蓄積歪が最大に達していた本震直前の地震記録は,将来の関東地震を予報するために重要である.
 大正関東地震直前までの総観測地震断層面積規模は∑M7.4 であり(図375,表45),最大観測地震(10番)は,石堂小円区の阿武隈下部地殻と太平洋Slabとの衝突地震(oThkIbg)1923年6月2日M7.1/36(-23)kmであり,次大(30番)は東足柄小円区の浦賀沖東京湾の太平洋Slab平面化地震(fAcUrg)1922年4月26日M6.8/88(+74)kmである.
 歪軸方位(図374)が示すように相模Slabの地震は,それらの下に沈込む太平洋Slabの影響を受けていることから最大と次大の太平洋Slab地震が大正関東地震の御膳立をしたことは頷ける.

図375.大正関東地震以前の相模Trough域観測地震.
 灰色丸印:発震機構不明の震源位置.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)
  数字:地震番号(表45),数字とM:今回の地震発生年月日と規模.
 右中図:時系列図.右端areaMの色は地震番号(表45)の色.
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表45.大正関東地震以前の相模Trough域観測地震・歴史地震.
地震番号10の最大観測地震と連続発生した地震番号をPink色,最大観測地震前の連続地震番号を青色,次大観測地震の地震番号30と連続発生した地震番号を赤色に彩色した.緑色の34は最大歴史地震の元禄関東地震M8.2.

番号 発生 規模M

深度km Slab
上面
深度
km
海溝
距離km


°
震源名
時分
0 1923 9 1 11.58 M7.9 Ash 23 14 5 7.7 TrPhAsg
1 1923 8 20 7.22 M5.9 Ish 51 -1 181 24.2 ofAcAbk
2 1923 7 21 17.30 M5.1 Ish 0 -4 146 36.4 KjkChs
3 1923 6 13 1.49 M5.4 Ish 36 14 69 27.4 BsMbr
4 1923 6 10 10.42 M4.6 Kat 31 1 96 84.0 TrPhSgm
5 1923 6 8 3.13 M4.6 Ish 10 -17 56 30.8 KjkMbr
6 1923 6 5 11.06 M5.6 Kat 58 23 106 89.9 TrPhSgm
7 1923 6 3 6.58 M5.1 Ish 63 18 128 345.4 TzGk
8 1923 6 2 12.12 M5.7 Ish 11 -42 159 40.1 oThkIbg
9 1923 6 2 5.15 M6.8 Ish 67 18 135 40.7 BsoKsm
10 1923 6 2 2.24 M7.1 Ish 36 -23 165 41.2 oThkIbg
11 1923 5 26 12.13 M6.2 Ish 75 23 141 39.3 uBdK
12 1923 5 9 22.20 M3.8 Ish 81 22 154 3.3 TzGk
13 1923 5 7 12.02 M5.1 Ish 40 -18 165 23.3 ofAcAbk
14 1923 5 6 20.25 M5.2 Ash 21 10 21 353.1 TrPhAsg
15 1923 3 15 14.23 M4.4 Ish 70 32 110 342.6 TzChb
16 1923 3 11 19.13 M5.1 Kat 78 70 0 216.8 TrPcK
17 1923 3 10 2.30 M4.4 Ish 28 -45 197 15.2 nShFtb
18 1923 2 12 3.26 M5.5 Ish 67 -8 191 24.7 uBdK
19 1923 1 26 21.35 M5.2 Ish 37 -19 158 358.1 TzSmz
20 1923 1 14 14.51 M6.0 Ish 87 35 138 354.9 TzGk
21 1922 12 27 18.30 M5.1 Ish 67 38 88 351.2 TzChb
22 1922 11 9 5.16 M5.6 Ish 32 11 68 16.0 BsMbr
23 1922 10 6 1.48 M5.7 Ish 40 21 57 8.3 BsMbr
24 1922 9 23 15.37 M5.6 Ish 57 -16 190 17.3 ofAcAbk
25 1922 8 25 4.45 M4.9 Ish 38 -15 153 351.6 TzSmz
26 1922 6 26 3.41 M4.7 Ish 45 -8 150 349.7 TzSmz
27 1922 5 9 12.28 M6.1 Ish 64 18 131 355.8 TzGk
28 1922 4 29 4.31 M4.6 Ish 35 25 16 357.3 TrPhSgm
29 1922 4 27 18.15 M5.9 Ish 23 -46 190 18.6 PfcHmd
30 1922 4 26 10.11 M6.8 eAs 88 74 29 55.5 fAcUrg
31 1922 4 10 22.57 M5.5 Ish 43 10 102 5.5 TzChb
32 1922 1 24 8.31 M5.1 Ish 24 -6 98 30.4 BsoChs
33 1922 1 4 15.32 M4.3 Ish 49 1 139 356.4 TzSmz
34 1703 12 31 ? M8.2 Noj ? ? -4 190.4 TrPhSgm

 相模Slabと足柄Slabには銚子沖・南総・相模の震源密集区があり(図372・373・374),1923年大正関東地震M7.9は相模Slabと足柄Slab境界付近の相模密集区で起こった.過去最大M8.2の元禄関東地震(図375の34)は南総密集区で起こっている.
 大正関東地震前の歪蓄積が極限に達していた銚子沖では,今回の2020年6月25日M6.1震源に隣接して相模Slab上面の1923年6月2日M5.6(6),1923年6月10日M4.6(,4)と九十九里Slabの1923年7月21日M5.1(2)が起こっており注目される.これらが前兆であれば,41日から90日後に関東地震が起こることになる.

4.2020年7月の月刊地震予報

 2020年6月14日奄美大島沖で琉球Slab内地震M6.3が起こった.この活動は先月5月3日の琉球海溝域の沖縄Trough地震M6.2に続いていることから,Philippine海Plate運動が活発化していることがうかがえる.
 2020年6月25日に起こった銚子沖の地震M6.1は九十九里Slab最大CMT規模であり,関東地震の再来が心配される.1923年9月1日大正関東地震M7.9の前年1922年1月から開始された定常地震観測によると,銚子沖の地震が関東地震の1-3月前に起こっており,台湾から琉球そして西南日本と関東域では今後の地震活動を注意深く見守るとともに,厳重な警戒必要である.

引用文献

新妻信明(1982)プレートテクトニクスの試金石-南部フォッサマグナ.月刊地球,4,326-333.
新妻信明(2007)プレートテクトニクス―その新展開と日本列島―.共立出版,292p.
Okada M, Suganuma Y, Haneda Y, Kazaoka 0 (2017) Plaeomagnetic direction and paleointensity variations during the Matuyama-Brunhes polarity transition from a marine succession in the Chiba composite section of the Boso Peninsula central Japan. Earth. Planets. Space 69:45. https//doi. org/10.1186/s40623-017-0627-1

月刊地震予報129)沖縄Trough拡大地震M6.2,2020年6月の月刊地震予報

1.2020年5月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解によると,2020年5月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で25個0.218月分,千島海溝域で2個0.048月分,日本海溝域で7個0.459月分,伊豆・小笠原海溝域で4個0.102月分,南海・琉球海溝域で12個0.342月分であった(2020年5月日本全図月別).日本全域総地震断層面積比が2019年9月から1割前後の異常静穏化の後,2020年2月・3月に千島海溝域の活動によって1.5・3.1ヶ月分に活発化したが,2020年4月に6割,2020年5月に2割に減少した.
最大地震は2020年5月3日沖縄Trough拡大地震M6.2で,M6.0以上の地震は他にない.2020年4月22日から開始した飛騨連発地震および東北日本弧MantleとSlab衝突地震は継続している.

2.沖縄Trough拡大地震M6.2

 2020年5月3日20時54分薩摩半島沖の沖縄TroughでM6.2+nt/深度9kmが起こった(図365).T軸方位はPlate運動と一致しているが,Philippine海Plateと南華Plateが収束するPlate運動とは逆に拡大している.琉球海溝に沿う琉球列島のGPSによる宇宙測距が開始された時から琉球列島は中国大陸から離れるように運動している.Plate収束帯で背弧海盆が拡大することは,Plate Tectonics確立期からの謎であった.
南華Plateの下にPhilippine海の海底が沈込みSlabになるが,海底とともにPlate運動してきた海底面下のMantleはSlabに行く手を阻まれ,Slabの下端を潜り抜け,中国大陸のMantleと衝突し,中国と琉球海溝の間を拡大させる.この拡大が沖縄Troughの拡大である(月刊地震予報117).
沖縄Trough拡大地震のCMT解は132個あり,最大は本地震の南南西42km の2015年11月14日M7.1+nt/17kmである(速報74,図365).全CMTの発震機構型は正断層t型64個,引張横擦nt型27個,圧縮横擦np型10個と引張優勢で沖縄Troughの拡大を支持している.本地震も最大地震も引張横擦nt型で沖縄Troughの典型的な地震と言える.

図365.沖縄Trough拡大地震(Okw)のCMT解
数字とM:地震発生年月日と規模:本地震とCMT最大地震.
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1922年からの全観測地震241個中の最大地震は宮古島北方沖1938年6月10日M7.2/22kmで,今回の地震M6.2は規模15位になる.この最大地震もCMT最大地震も沖縄Trough中軸部の横擦断層型震源(空色)密集部に位置している(図356).
Slab下端を通過したManlteは上昇して沖縄Toughを拡大させる.この上昇力が静岩圧と釣合うと圧縮P軸と引張T軸が水平になりN軸が直立して横擦断層型になる.最大地震が横擦断層型震源密集域に位置していることは,Mantle上昇が沖縄Troughを拡大していることを支持している.

図366.沖縄Trough拡大(Okw)観測地震.
数字とM:地震発生年月日と規模:本地震と最大観測地震.
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3.2020年6月の月刊地震予報

CMT最大の沖縄Trough拡大地震2015年11月14日M7.1の震源から42km北北東で5月3日M6.2起こったが,CMT最大地震の半年後の2016年4月16日には熊本地震M7.3が起こっており(速報79),警戒が必要である.
2020年2月からの千島海溝域のM7.2・M7.5に続き4月の小笠原海溝域M6.8の後に,北上島弧Mantle・Slab境界地震M6.2と飛騨連発地震が起こり,2020年5月まで継続している.東北日本・関東・中部日本の地震活動活発化に警戒が必要である.

月刊地震予報128)小笠原沖垂直Slab内地震M6.8,気仙沼沖島弧Mantle・Slab境界地震M6.2,飛騨連発地震,歪伝搬速度,2020年5月の月刊地震予報

1.2020年4月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2020年4月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で18個0.612月分,千島海溝域で1個0.004月分,日本海溝域で5個0.738月分,伊豆・小笠原海溝域で2個2.951月分,南海・琉球海溝域で10個0.123月分であった(2020年4月日本全図月別).日本全域総地震断層面積比が2019年9月から1割以下に急減し,1割前後の異常静穏化が5ヶ月継続したが(月刊地震予報125),2020年2月の千島海溝域の4ヶ月分によって停止し(月刊地震予報126),2020年3月の千島海溝域9ヶ月分によって更に3ヶ月分を越していたが(月刊地震予報127),2020年4月に6割に減少した.
 最大地震は2020年4月18日の小笠原海溝から沈込む垂直Slab内地震M6.8Pであった.M6.0以上の地震は,4月20日の北上沖島弧Mantle・Slab境界地震M6.2がある.飛騨では4月22日から連発地震が起っている.

2.小笠原海溝から沈込む垂直Slab内地震M6.8P

 2020年4月18日17時25分小笠原沖でM6.8P/深度477kmが,垂直に沈込むSlab内で起こった(図362).この地震のCMT解の圧縮P歪軸傾斜は57°とSlab同様に垂直に近い.垂直Slabの下部では2015年5月30日M8.1t/682km・6月3日MM5.6-t/695kmが深度660kmの下部Mantle上面以深で起こっており(速報69),下部Mantleより密度の小さいSlabには,自重と下部Mantleからの浮力に挟まれて圧縮歪が蓄積すると考えられる.今回の地震はこの圧縮歪が限界に達して解放されたのであろう.

図362.2020年4月18日小笠原沖の垂直沈込Slab内地震M6.8P/477km.
△:活火山.
数字とM:地震発生年月日と規模:本地震と下部Mantle上面以深の地震.
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 2020年2月13日択捉沖で千島海溝に沿う同心円状屈曲Slabの平面化地震M7.2(月刊地震予報126)が起こって太平洋Plateの沈込障害が除かれ,Kamchatka沖の千島海溝軸で3月25日M7.5が起こっている(月刊地震予報127).これらの地震は,千島海溝に沿う太平洋Slabを沈込ませ,小笠原海溝における太平洋Slabの沈込を促進させ,Slab上部からの歪を増大させ,今回の地震が起こったと考えられる.

3.気仙沼沖の北上島弧Mantle・Slab境界地震M6.2p

 2020年4月20日5時39分宮城県気仙沼沖でM6.2p/46kmが,同心円状屈曲して沈込むSlab上面からの深度(Slab深度)+2kmで起こった(図363).この地震は,島弧で最大の力学的強度を持つ上部Mantleと沈込Slab上面との境界で起こった.この境界面の摩擦はSlab沈込障害になると共に,Slab上面に摩擦力で固着した島弧に圧縮歪を蓄積する.

図363.2020年4月20日気仙沼沖の北上島弧Mantle・Slab衝突地震M6.2/46km.
△:活火山.
数字とM:地震発生年月日:本地震・飛騨連発地震.
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 今年2020年の2月と3月には千島海溝域でSlab沈込が進行し,4月18日には小笠原海溝でもSlab下部の地震M6.8によって沈込が進行した.日本海溝における沈込は両脇の千島海溝と小笠原海溝で進行したSlabの沈込によって促進され,摩擦力が限界に達して今回の地震になったと考えられる.
 今回の地震のCMT解の圧縮P軸の方位は海溝傾斜方位(図363右下の主歪方位図の中軸線TrDp及び上下縁)よりもやや下方の右寄りでPlate運動方位(図363右下の主歪方位図中軸部の紫色折線)に沿っており,傾斜が海溝側に傾斜していることは(図363中の海溝距離断面図),島弧側に傾斜する島弧MantleとSlabの境界面に沿う滑りの圧縮歪に加え,摩擦による境界面に直交する抗力による歪が合成されていること示している.
 4月18日小笠原沖M6.8がSlab沈込を促進し,36時間14分後に気仙沼沖M6.2を起こしたとすると,両震源間の距離が1325kmであることから,歪伝達速度を時速36.6km以上と算出できる.

4.飛騨連発地震

 2020年4月22日2時26分M3.8np/4kmから開始した飛騨連発地震は東北日本と伊豆の活火山弧が交叉する焼岳の北東方で起こった(図363).本連発地震についてはCMT解4個(図363)・IS解12個(図364)の計13個の地震解が報告されている(表43).
 IS解には地震開始の初動の発生時刻・震央・深度・発震機構,CMT解には初動と複数の主動の重心(Centroid)についての発生時刻・震央・深度および主動の発震機構と非双偶力成分比がある.M4.7からM5.2のCMT解発震機構は全て圧縮横擦np型で,M3.2からM5.5のIS解の発震機構は圧縮横擦np型11個と正断層型1個である.

図364.2020年4月の飛騨連発地震のIS解主歪軸方位.
△:活火山.
数字とM:地震発生年月日(規模):飛騨連発地震・犬山と伊勢湾奥の地震.
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 3個のCMT解地震はIS解も兼備する地震(月刊地震予報109)である.最大地震は2020年4月23日13時44分の最初の兼備地震で,初動M5.5np/3km・主動M5.2np/10kmである.連発地震全ての震央は最大地震震央の3km以内に収まり,初動深度は3-6km,主動深度は10kmと集中している.
 発震機構の主歪軸方位は,西北西-東南東のP軸と北北東-南南西のT軸そして垂直に近いN軸を持ち,P軸とT軸が載りN軸に直交する主歪面はほぼ水平である.地下岩石に分布する歪は方位によって変化し,圧縮歪が最大となる方位をP軸方位とし,引張歪が最大となる方位をT軸方位とする.P軸方位における圧縮歪の大きさを負,T軸方位の引張歪の大きさを正とする一連の値で表す.P軸方位とT軸方位の載る主歪面に直交する方位を中間N軸方位とし,これらの軸が互いに直交しているとして算出されるのが主歪軸方位である.N主歪軸方位の歪の大きさは負のPと正のTとの中間の値を持つが,0になるのは地下岩石に働く応力が双偶力の場合であり,現実には多少ずれる.CMT解ではこのずれを非双偶力nonDC成分比として算出している.
 主歪軸方位を変化させない一様な引張歪を地下岩石に与えると,TとNの値は増大し,Pの値は減少し,非双偶力成分比は引張過剰の正になる.一様引張歪がP歪を相殺するまで増大させると,非双偶力成分比は最大の+50%に達する.一様な圧縮歪を与えれば非双偶力成分比は負になり,T歪を相殺するまで増大させると最小非双偶力成分比-50%に達する.一様な圧縮歪の増減は,震源深度に対応する静岩圧の増減と対応する.
 直交3主歪軸は,正から負への歪の順にT・N・P軸と名付けられる.N軸歪の値のみが変化し,P軸の圧縮歪の値より小さい圧縮過剰になると,自動的にP軸とN軸は入替わる.このような入替はP軸圧縮歪とN軸圧縮歪との差の小さい引張過剰の正非双偶力成分比に起こり易い.
 地表は歪を伝達しない大気に覆われているため引張応力場にあり,Plate運動等で地表に並行な圧縮応力が懸かれば東北日本のように水平な圧縮歪と垂直な引張歪の逆断層型歪が蓄積する.地下深部の温度が上昇すると地下岩石が次第に部分溶解し,歪を伝達できず地震も起せなくなる.歪を伝達できなくなる境界面には圧縮P歪軸と引張T歪軸が載り,歪主面となる.歪主面が水平であれば歪主面に直交するN歪軸は垂直になり,そこで起こる地震の発震機構は中国地方や中部地方のように横擦型になる.
 今回の飛騨連発地震が横擦型であることは地下に部分溶融した歪主面が存在することを示唆し,震央南西に活火山の焼岳が存在するとともに(図364),世界で最も新しい第四紀の滝川花崗岩等が地表に露出していること(原山,2006)が地質学的根拠を与えている.
 本震源西方の白山連峰の毘沙門岳からは,Slab溶融によるMagnaを特徴付けるadakiteが噴出している(石渡,2006).adakiteの噴出は中国地方の大山にも知られており(佐々木,2009),1500万年前に拡大直後で高温の四国海盆北縁が日本海拡大に伴って西南日本に載り上げられ(高橋,1986),700万年前から沈込で深度100km付近の西南日本北縁に達しadakaite Magmaを供給していると考えられている.中部地方と中国地方では下部地殻から上部Mantleで地震が発生せず,上部地殻の地震が横擦型であることが高温Slabの存在を支持している.
 飛騨の地震は,2011年3月11日東北沖巨大地震M9.0の前震と交互して2011年2月27日にM5.0とM5.5が起こったことで注目されている(速報55速報56).東北沖巨大地震後も2011年10月5日にM5.4・M5.2が起こり静穏化した後,2017年6月25日M5.6が起こって3年後に今回の活動が起こった.
 今回の活動は,2020年4月20日5時39分北上島弧Mantle・Slab衝突地震M6.2の42時間40分後から開始している.これらの地震が歪の伝搬によって関係しているとすると両震源間距離490kmから,歪伝搬速度は時速11.5km以上と算出される.Slab上面摩擦による東北日本弧の圧縮歪は4月20日M6.2によって解放され,Slabが沈込み,周辺のSlab上面の摩擦力は増大して東北日本弧の圧縮歪は増大する.この圧縮歪の増大が飛騨にも及んだと考えられる.
 最大地震は4月23日13時44分の最初の兼備地震で,初動M5.5np深度3kmの発震機構は[P323+0T53+15N233+75],主動重心M5.3np/10km非双偶力成分比-4%の発震機構は[P134+18T40+13N276+67]である.以後の歪方位偏角の算出には最大主動の発震機構を基準とする.最大地震の初動の偏角は20.1°と算出される.13分後の2つ目の兼備地震は,初動M5.0/5km偏角10.1°・主動重心M4.7/10km-6%偏角3.9°と殆ど変化していない.これらのCMT解以前のIS解の震央は最大地震の震央の南側で起こっているが,以後は北西側で起こっている.

表43 2020年4月飛騨連発地震の(主動/)初動.
基準は2020年4月23日13時44分M5.2の主動[P134+18T40+13N276+67].

発生 規模M 発震 機構型 深度km 非双偶力 偏差
時:分 成分% 距離km 方位° 深度km 歪偏角°
4 30 21:11 3.3 np 4 3 317 -6 12.5
4 27 4.7 -np 10 -23 13 347 0 26.6
4 27 11:32 4.8 10 3 288 0
4 26 8:56 3.5 np 5 3 292 -5 28.5
4 26 5:00 3.2 t 5 3 285 -5 63.7
4 26 4.8 +np 10 +14 5 331 0 11.6
4 26 2:22 5.0 np 6 3 300 -4 38.1
4 26 1:16 2.8 p 16 154 207 +6 104.2
4 24 21:12 3.4 np 5 2 287 -5 47.3
4 24 19:57 3.4 np 5 2 280 -5 52.4
4 24 6:31 3.3 np 3 4 251 -7 47.0
4 23 21:03 4.3 np 6 2 296 -4 36.5
4 23 20:47 3.6 nt 47 109 206 +37 39.6
4 23 4.7 -np 10 -6 1 305 0 3.9
4 23 13:57 5.0 np 5 1 242 -5 10.1
4 23 5.2 np 10 -4 基準 基準 基準 基準
4 23 13:44 5.5 np 3 2 180 -7 20.1
4 22 2:47 3.6 np 4 2 191 -6 11.7
4 22 2:26 3.8 np 4 1 188 -6 15.7

 2つ目の兼備地震の6時間50分後の4月23日20時47分に南南西114kmの犬山付近でM3.6nt/47km偏角39.6°が起こった(図364).この地震が2つ目の兼備地震による歪解放と関係していれば歪伝達速度は時速16.7kmと算出される.飛騨連発地震初動偏角は10.1-20.1と小さかったが,犬山の地震後には36.5-52.4°に増大する.
 4月26日1時16分には飛騨から南南西154kmの伊勢湾奥でM2.8p/16km偏角104.2°が起こり(図364),1時間6分後の4月26日2時22分に3つ目の兼備地震の初動M5.0np/6km偏角38.1°・主動M4.8+np/10km 非双偶力成分比+14%偏角11.6°が起こった.その2時間48分後の4月26日5時00分にIS解唯一の正断層型M3.2t/5km偏角63.7°が起こった.この正断層型地震は,圧縮歪の減少による垂直なN軸と水平なP軸の入替によるであろう.正断層型地震以後4月30日までに,IS解2個とCMT解1個あるが,偏角は12.5-28.5°と基準に近付き,非双偶力成分比も-23%と圧縮過剰に変化し,引張歪の解放を示している.
 これらの経過をまとめると,4月20日の北上島弧Mantle・Slab境界地震M6.2によって東北日本弧の圧縮歪が増大し,4月22日から横擦型の飛騨連発地震が南端から開始された.4月23日には最大のM5.5とM5.0によって圧縮歪が解放され,歪方位が変化し震央も北西方に移り,南南西方の犬山でM3.6が起きた.4月26日には伊勢湾奥のM2.8に続き飛騨で引張過剰のM5.0の後に正断層型M3.2が起きた後,引張歪が解放され開始時の歪方位に戻った.

5.2020年5月の月刊地震予報

 千島海溝域の2020年2月Slab平面化地震M7.2と3月の海溝軸部地震M7.5に続き今月4月の小笠原海溝域でSlab内地震M6.8が起こった後に,日本海溝域で北上島弧Mantle・Slab境界地震M6.2が起こり,飛騨連発地震が続いた.日本海溝域と飛騨・関東域の地震活動の活発化に警戒が必要である.
 飛騨は地震観測網の中央に位置し,M3.0以下の地震についても発震機構解が報告され,日本列島地殻の歪変化を監視するための重要な地域である.飛騨の地震が歪の伝搬と解放によってどの様に支配されているかが明らかになれば,地震予報に大きな役割を担うであろう.

引用文献

原山 智(2006)爺ケ岳転倒コールドロン―横倒しのカルデラ火山岩類.地方地質誌「中部地方」,朝倉書店(東京),326-327.
石渡 明(2006)中部地方の火成岩.地方地質誌「中部地方」,朝倉書店(東京),83-88.
木村純一(2009)第四紀の火山岩.地方地質誌「中部地方」,朝倉書店(東京),354-361.
高橋正樹(1986)日本海拡大前後の“島弧”マグマ活動.科学,56,103-111.

更新

2020年6月7日: 「表43」挿入.