月刊地震予報

月刊地震予報118)東北日本沖巨大地震後の東北日本弧直交応力支配下で起こった新潟・山形地震M6.7,2019年7月の月刊地震予報

1.2019年6月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解によると,2019年6月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で12個0.476月分,千島海溝域で1個0.002月分,日本海溝域で9個2.555月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.561月分,南海・琉球海溝域で1個0.063月分であった(2019年6月日本全図月別).2019年5月に2割以下に低下した地震断層面積比が5割近くまで回復した.
最大地震は2019年6月18日出羽M6.7,次大は6月4日伊豆海溝M6.2である.M6.0以上の地震はこの2つであった

2.日本海岸沖帯出羽沖の2019年6月18日新潟・山形地震M6.7p

 2-1 脈震を含む連発地震は,大地震の前震か.

東北日本には渡島・仙北・出羽・中越・上越震源域からなる日本海沿岸震源帯(Jsc)およびその沖合の男鹿・出羽沖・中越沖・上越沖・佐渡・能登震源域からなる日本海岸沖震源帯(oJsc)がある.日本海岸帯の地震は島弧地殻上部で起こるが,日本海岸沖帯では地殻下部で起こる.
2019年6月18日22時22分に出羽沖の日本海岸沖帯深度14kmの下部島弧地殻でIS解・CMT解を兼備する逆断層p型M6.7が起こった.
今回の地震は日本海岸沖帯出羽沖域の地殻下部で起こった(月別東日本;図335).
IS解:6月18日22時22分19.9秒M6.7p14km 震源位置基準
____P292+14T128+75N23+4 Org=8.4[3-52OtoL]
CMT解    26.4秒M6.5p14km-4% fm4(4)/-1km
____P299+19T125+71N30+2 主応力軸方位基準
CMT震源はIS震源から北4km・1km上である.CMT主応力軸方位を基準にするとISは反時計回(外方Oが左Lへ)8.4°と殆ど変わらない.非双偶力成分比は-4%でやや圧縮過剰である.

図335.日本海岸帯(Jsc)・日本海岸沖帯(oJsc)の2011年3月11日東北沖巨大地震M9.0以後のCMT解.数字は小円区最大地震.圧縮主応力軸方位(赤線)が巨大地震と異なり,東北日本弧に直交している.
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最初の最大地震から6月21日までにIS解6個の脈震を含む連発となった(月別IS東日本).発生時刻・規模・発震機構型・深度・最大ISからの震央距離(方位)/深度差,主応力方位,応力場極性偏角(回転Euler極・回転方位[U上・O:外・I内・L左・R右);
6月21日5時33分M4.0p13km fm2(270)/-1km
____P142+16T318+74N52+1  Org41.6[42+32UtoO]
6月20日23時27分M3.3p10km fm9(227)/-4km
____P299+16T112+74N208+2 Org=5.2[81-18UtoR]
6月19日14時15分M3.4p12km fm8(271)/-2km
____P144+13T311+77N53+3 Org=40.1[40+37UtoO]
6月19日3時54分M3.3p12km fm7(251)/-2km
____P135+10T258+72N42+15 Org=35.8[12+27UtoO]
6月19日0時57分M4.2p12km fm9(234)/-2km
____P314+1T197+88N44+2 Org=23.2[37+39UtoO]
6月18日23時57分M3.3p12km fm8(252)-2km
____P285+8T159+76N17+11 Org=18.3[342-40UtoL]
最大ISからの震源位置は2-9kmと近接し,深度は1-4km浅い.最大地震CMT主応力軸方位基準の応力場極性偏角は,いずれも基準極性Orgで5.2-41.6°と変わらず,本破壊に到っていないことから,大地震の前震であることも考えられるので警戒が必要である.

 2-2 本震源域は東北沖巨大地震の引き金を引いたか

 本地震ISから西(259°)に19kmで2011年1月3日にM4.7P12km-12%が起こっている(図336).この震源は,東北沖巨大地震震源から巨大地震の圧縮P軸方位に位置し,巨大地震域のPlate間固着に直接関係していたはずである.しかも巨大地震の2ヶ月前に起き,その1ヶ月後の2月6日から飛騨の前震(速報55),2月16日から巨大本震源北方の前震が開始されており(速報8),巨大地震の引き金を引いた地震と言えよう.

図336.日本海岸帯(Jsc)・日本海岸沖帯(oJsc)の2011年3月11日東北沖巨大地震M9.0以前のCMT解.数字は小円区最大地震.圧縮主応力軸方位(赤線)が巨大地震とほぼ並行している.
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 2-3 日本海岸沖帯・日本海岸帯の地震活動と東北沖巨大地震.

 本震源域を含む日本海岸沖帯(oJsc)・日本海岸帯(Jsc)では東北沖巨大地震の半日後から上越と男鹿で巨大地震に誘導されたM6以上の誘震が起こっている(図335).2011年3月のCMT解と巨大地震CMT解基準の応力場極性偏角;
15日7時20分M4.5-np0km(P327+26T228+16N111+59) -6% 96.4[275+11]143.9tpn上越
12日 4時46分M6.4-np4km(P255+28T2+29N129+48) -25% 87.5[140-18]139.6tpn男鹿
12日 4時31分M5.9P 1km (P321+16T190+66N56+17) -33% 60.1[239+22] 上越
12日 3時59分M6.7P10km (P315+15T99+72N222+10) -27% 56.3[205+23] 上越
11日14時46分M9.0p24km (P113+36T296+54N204+2) -1% 東北沖巨大地震(基準)
巨大地震の非双偶力成分比が-1%と小さいのに比較し,その後の誘震では-25から-33%と大きく圧縮過剰になっており,巨大地震による歪の開放後に新たな圧縮応力が働いたことを示している.

 2-4 日本海岸沖帯・日本海岸帯・脊梁帯の巨大地震前後の応力場変化.

Plate運動によって歪が次第に蓄積して限界に達すると巨大地震を起し,歪が解消されると考えられている.歪蓄積・開放による応力場が変化する場合,その最大の変化は巨大地震の直前から直後に現れるはずである.東北沖巨大地震の前16年半・13年半と後8年半のCMT解・IS解があるので,歪蓄積・開放による応力場変化の解析に使用できる.
日本海岸沖帯・日本海岸帯(oJsc・Jsc)にはCMT解63個あるが,巨大地震より前と後の最大地震は;
__襟裳___________最上__________鹿島______
後 M6.4-np4km2011/3/12Oga M6.7p14km2019/6/18Dw M6.7P10km2011/3/12Jez
前 M5.8p29km1997/11/23Oga M4.7P12km2011/1/3Dw M6.9P11km2007/3/25Noto

 最上小円区の巨大地震後最大CMTは本地震,巨大地震前は直前の引き金地震である.他の最大地震は巨大地震の半日後誘震であり,巨大地震と密接な関係にある(図335,図336).
これらの最大地震を含む日本海岸沖帯・日本海岸帯IS解585個の発震機構型は,逆断層p型382個・横擦断層n型163個・正断層t型40個と逆断層p型優勢である(図337,図338).

図237. 日本海岸沖帯(oJsc)・日本海岸帯(Jsc)・脊梁帯(Bkb)の2011年3月11日東北沖巨大地震後のIS解圧縮主応力P軸方位.△:2018年1月23日に噴火した草津白根山.
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図238. 日本海岸沖帯(oJsc)・日本海岸帯(Jsc)・脊梁帯(Bkb)の2011年3月11日東北沖巨大地震前のIS解圧縮主応力P軸方位.
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これらの圧縮主応力P軸方位はほぼ東北日本弧に直交する太平洋Plate運動方位を向いているが,巨大地震前後の差を検討する.検討にはP軸が水平に近い逆断層p型と横擦断層n型の平均傾斜方位・±標準偏差・[個数]を使用する;
____襟裳______最上______鹿島____
日本海岸沖帯・日本海岸帯
後 P246+12±33[50]_P306+3±27[ 9]_P304+6±30[122]
前 P274+16±24[48]_P287+2±23[15]_P300+5±28[321]
差    -28______+19_______+4
 最上小円区のIS解個数が少なく,大きな差が出ているので脊梁帯(Bkb)についても検討すると;
後 P255+3±33[23]_P105+10±45[18]_P120+0±26[129]
前 P287+5±29[17]_P111+5±30[165]_P107+4±26[69]
差    -32_______-6______+13
 巨大地震前の方位は太平洋Plate運動方位に揃って一様なのに対し(図338),巨大地震後には襟裳小円区で約30°反時計回りするのに対し,鹿島小円区では時計回りしている(図338).この差は,南北に近い襟裳小円区から次第に東西方向に屈曲する東北日本弧方位に対応している.
巨大地震半日後誘震のP軸方位(上越P315+15・P321+16,男鹿P255+28)に既に東北日本弧方位に対応する変化を認めることができる.誘震の非双偶力成分比が圧縮過剰になっていることは,巨大地震によって歪の解放された東北日本に日本海岸に直交する圧縮応力が働いたことを意味している.

 2-5 東北日本弧を屈曲させる東北沖巨大地震後のMantle伝播.

 巨大地震によって東北日本弧の地殻と太平洋SlabはPlate境界面で50m移動したと言われている(速報28).東北日本弧から見ると太平洋Slab上面に沿って楔が50m打ち込まれたことになる.SlabはVladivostokで2009年4月18日M5.0P671km・2016年1月2日M5.7P,千島で2012年8月14日M7.3p654km,伊豆で2015年5月30日M8.1t682km・6月3日M5.6-t695kmと深度670kmの下部Mantle上面まで到達しており,Slabの上と下のMantleは隔離されている(図339).

図339.深度670kmの下部Mantle上面にまで達する太平洋SlabのCMT解主応力軸方位.
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Slab上のMantleは,50mの楔打ち込みによって行き場を失いMantle圧を上昇させる.Mantle圧上昇は最初に地表を押し上げ,津波のように周囲に拡大伝播される.P軸方位が東北日本弧に直交する半日誘震は,Slab上の日本海底を上昇させて拡大伝播したMantleが起こし,現在も東北日本弧の屈曲を成長させているのであろう.p型主体であったIS解の横擦断層n型19%(図338)を巨大地震後に48%に増加させたのも(図337).日本列島下に到達したMantle地表の引張応力を相殺させたからと考えられる.2018年1月23日には草津白根が噴火している(図337).
 本地震の震源では,太平洋Plate運動方位とMantle津波方位との差が小さいため,Mantle津波の盛衰を判別できなかったが,太平洋Plate運動による歪蓄積を解析するために重要な震源域である.

 2-6 Mantle伝播の歴史地震記録と稀発地震.

2011年3月11日の東北沖巨大地震では本震によるPlate間歪開放が1-2分に終了し,その1ないし2時間後に時間誘震が起こり,半日後に日本海沿岸で半日誘震が起っている.時間誘震は本震周辺の支柱崩壊に当たり.本震による歪開放による周囲の応力場が変化を解消するものである.半日誘震は行き場を失った太平洋Slab上MantleがSlab上の日本海底を押し上げ周囲に伝播して起こしたもので,現在も継続していると考えられる,
東北沖巨大地震の歪の蓄積開始は1611年慶長三陸地震以後である(月刊地震予報116)ので,慶長地震前後の地震活動と直接比較できれば良いが,東北日本の歴史地震記録が乏しく,1850年以降の1896年明治三陸地震・1933年昭和三陸地震M8.1と関連する襟裳・最上小円区の日本海岸帯・日本海岸沖帯・脊梁帯の地震記録(宇佐美,2003)を比較する(図340);
1939年5月1日M6.8男鹿2km
1933年3月3日M8.1昭和三陸
1914年3月28日M6.1仙北
1914年3月15日M7.1仙北
1906年10月12日M5.6仙北
1906年10月12日M5.4仙北
1896年8月31日M7.2陸羽
1896年8月31日M6.4陸羽
1896年8月31日M6.8栗駒
1896年8月23日M5.2陸羽
1896年6月15日M8.5明治三陸
1894年10月22日M7.0庄内

図340.1850年から1940年までの日本海岸沖帯・日本海岸帯・脊梁帯の歴史地震と明治三陸地震・昭和三陸地震.

1894年10月に庄内M7.0の1年8ヶ月後に1896年6月15日明治三陸地震M8.5があり,2ヶ月後に陸羽地震M7.2地震が起っている.1914年3月15日秋田仙北地震M7.1は明治三陸地震の27年9ヶ月後で,18年11ヶ月半後に1933年3月3日昭和三陸地震M8.1が起ったが,6年2ヶ月後の男鹿1939年5月1日M6.8のみである(図400).前後の地震活動が盛んな明治三陸地震と乏しい昭和三陸地震の差は明瞭であるが,島弧地殻と沈込Slab間のPlate境界地震の明治三陸地震と海溝外の沈込前の太平洋海洋底の破断の昭和三陸地震の差を反映しているのであろう.
稀発地震が東日本大震災後,北海道から韓半島まで日本海拡大境界で起っていることは(5482月刊地震予報106),東北沖巨大地震後の太平洋Slab上のMantle伝播拡大が日本海拡大時に形成されたと同様の拡大をもたらしたと考えられる.

3.2019年7月の月刊地震予報

 新潟・山形地震M6.7では脈震を含む連発地震が起きたが,応力場極性の逆転に至っておらず,大地震の前震とも考えられるので警戒が必要である.
本地震予報では東北日本の応力場とPlate運動の関係を検討し,長年の謎とされてきた東北日本弧の屈曲が,巨大地震による太平洋Slab沈込に伴うSlab上Mantleの伝播拡大によることを明らかにできた.今後更なる解析を進め,巨大地震の前に適切な地震予報を実現するために全力を尽くす所存である.

引用文献

宇佐美龍夫(2003)日本被害地震騒乱.東京大学出版会,605p.

月刊地震予報117)西南日本のPlate運動が交錯する日向灘の地震M6.3P,2019年6月の月刊地震予報

1.2019年5月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2019年5月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で15個0.1796月分,千島海溝域で2個0.029月分,日本海溝域で7個0.075月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.034月分,南海・琉球海溝域で5個0.437月分であった(2019年5月日本全図月別).2019年2月の1割以下から4月に4割近くに回復したが,再び2割以下に低下した.
 最大地震は2019年5月10日日向灘M6.3,次大は5月15日屋久島沖M5.7ある.最大地震は1時間前のM5.6との脈震(月刊地震予報115)であった.

2.西南日本のPlate運動が交錯する日向灘の2019年5月10日地震M6.3P

 2019年5月10日8時48分に日向灘の比海Slab上面と島弧Mohoの境界付近でM6.3発震機構型P深度25kmがあった.この地震は,5月10日から12日までのCMT解4個,26日までのIS解10個は脈震を含む連発地震となっている(図319).

図319 2019年5月の日向灘連発地震.赤文字は最大地震.
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 最大地震のCMT発震機構(P119+22T307+67N210+3)を基準に算出したIS解応力場極性偏角は,12.3から54.1°で25°以下が基準と同じ逆断層型で圧縮P軸傾斜方位がPlate運動と逆方位(右下の主応力方位図の上下縁の黒丸印)のSlab上面に沿う剪断応力であり,25°以上が正断層型で引張T軸方位がPlate運動方位(主応力方位図中央の紫折線)に一致している.いずれも基準極性を保持しており,本破壊に至っていない(図320).

図320 2019年5月の日向灘地震の最大地震を基準にした応力場極性偏角.
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2-1 日向灘に並行する急傾斜Slabと活火山活動

 比海Plateが南海Trough-琉球海溝に沿って沈込んだSlabは同心円状屈曲上面に沿う震源分布として認められるが,Slabは 南海小円区西境界付近の海溝距離250kmから急に傾斜を増す.九州小円区では海溝距離200kmから急傾斜になり(図321),琉球小円区の吐噶喇(トカラ)列島では海溝距離150kmから急傾斜になる.
奄美で急傾斜の程度を減じ,沖縄本島では同心円状屈曲上面に戻っている(図322).
 日向灘のIS解の震央は,急傾斜Slabに並行する北北東-南南西方向に直線的に配列し,震源深度は島弧地殻と沈込Slabの間のMoho面付近にある(図323).

図321 比海Plate沈込Slab.
同心円状屈曲上面から傾斜を増大させるSlab内IS解
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図322 琉球海溝から沈込む比海Slab内CMT解.
吐噶喇列島Slabの急傾斜の程度は,奄美で減じ,沖縄本島では同心円状屈曲Slab上面付近に戻る.
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図323 日向灘周辺域のIS解.
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 急傾斜Slabと地表の活火山の分布には密接な関係がある.Slab内のIS解深度が100kmから150kmに達すると活火山が配列する.世界各地の沈込Slabにも同様な関係が認められることから,本地域の急傾斜Slabも通常のSlab同様に地表へMagmaを供給していることが確認される(図324).
 Slabが深度100-150kmに達すると,圧力による脱水反応によってMantleに水が供給され,Magmaが形成されると考えられているが(巽,1995),Slab傾斜が急な場合には給水範囲が狭まり,大量の水が集中的に供給される.九州から吐噶喇列島の急傾斜Slab上の巨大Caldera火山は集中供給される大量の水と対応しているのであろう.

図324 活火山(△印)と急傾斜Slab内の深度100-150kmのIS解.
九州までは急傾斜Slabと活火山の密接な関係が確認できるが,中国地方の活火山の下にはIS解が観測されていない.
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2-2 Slab震源のない中国地方の部分溶融Mantleと東北沖巨大地震の応力変化を記録する横擦断層型直下型地震

 震源を伴う急傾斜Slabは別府湾で途絶え,中国地方には認められない.しかし,活火山は中国地方北縁の日本海沿岸に配列している.これらの活火山は,南海Troughから同心円状屈曲して沈込むSlab上面が100-150kmに達する位置から配列している(図324の中上図).
 1600万年前の四国海盆拡大末期に四国海盆北縁に形成された拡大軸は,1500万年前の日本海拡大によって西南日本に覆われた.拡大したばかりの拡大軸を覆った西南日本の地殻は溶融し,那智の滝・小豆島・大崩山・屋久島などの外帯火成活動を起した(高橋,1986).日本海拡大によって覆われた四国海盆は,比海Plate運動によって700万年前から西南日本の下に沈込でいる.中国地方に達した拡大軸も通常のSlabのようにMagmaを供給しているが,地震を起す程冷却していないと考えられる.中国地方ではSlab地震は観測されていないが,その上の地殻には横擦断層型の直下型地震が観測されている(図323).そのIS解292個の深度は1-33kmで,横擦断層n型81%・逆断層p型11%・正断層t型8%と横擦断層型が圧倒的に多い.横擦断層型の深度は1-25km,主応力軸方位(方位・傾斜・標準偏差)は(P288+8±25T197+1±25N107+82±24)で中間主応力N軸傾斜が82とほぼ垂直で圧縮主応力P軸方位が288とPlate運動方位に沿っている.
 地下の岩石が温度上昇によって部分溶融状態になると剪断応力を伝達できず,その境界域ではP軸とT軸が境界面に沿い,N軸が境界面に直交する.境界面が水平に近ければN軸が垂直になり,発震機構は横擦断層型になる.Slab地震が起らずその上の地殻内で横擦断層型地震が優勢な中国地方の下にはほぼ水平な部分溶融境界の存在が想定される.
 部分溶融状態のMantle圧力が増大すれば風船を膨らませるように,境界面は拡大するので境界面に沿う引張応力が生じ,減少すれば圧縮応力が生ずる.この変化は,CMT解の非双偶力成分比nonDCの増大と減少として現れる.中国地方地殻のCMT解17個の平均nonDCは引張過剰の+6.3±9.3%であり,2011年3月の東北沖巨大地震前の4個は-0.5±11.7%と大きくばらつく負の圧縮過剰であるが,地震後の13個では+8.4±7.7%と正の引張過剰で,Mantle圧力増大を示している(図325).特に2011年6月4日M5.2+np11km+21%・11月21日M5.4+np12km+14%・11月25日M4.7+nt12km+24%の増加は顕著で,巨大地震による西南日本の応力解放の定量的資料を提供してくれる.
 横擦断層型IS解方位は,巨大地震後の65個で(P282+5±25T192+2±20N80+84±23)
巨大地震前の167個で(P291+9±25T200+0±26N115+81±24)
P軸・T軸いずれの方位も8-9°減少している(図326).日本海溝からの北東方向の圧縮力によって比海Plate運動の北西にほぼ沿う圧縮主応力P軸方位が 8.5°回転していたが,巨大地震によって解放されて戻ったとすれば,日本海溝からの圧縮力は南海Troughからの圧縮応力の15%(=tan(8.5))と算出できる.

 図325 中国地方の地殻内横擦断層型CMT解の非双偶力nonDC成分比.
2,011年3月東北沖巨大地震直後の2011年6月から11月に+12%以上(青色)が集中している.震央地図と断面図の主応力方位軸の長さは規模MにnonDC成分%の絶対値の10分の1を乗じて拡大して示してある.正の場合は引張応力T軸,負の場合は圧縮P軸方位.
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図326 中国地方の地殻内横擦断層型IS解の圧縮主応力P軸方位.
2,011年3月東北沖巨大地震前後の比較(右下図).
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 Moho以深の上部Mantle内には別府湾の急傾斜Slabの上方延長として瀬戸内深部震源域が瀬戸内海以南に分布する(図327).その上を日向震源域の震源も覆うが,これらの震源は瀬戸内海北縁に沿って途絶える(図323).この北縁に当たる海溝距離280-307kmのIS解37個のN軸方位は342+5±53と北北西水平であるので,これに直交する東北東の瀬戸内海北縁に沿う垂直な部分溶融面が震源分布の北縁を規定していると言える.この西方の九州では,別府湾付近で多少陸域に入り込むが,宮崎から鹿児島への日向灘海岸線が震源分布西縁になっている.

図327 急傾斜Slab上方に続く南海小円区の瀬戸内深部震源域のIS解主応力方位.
瀬戸内海北縁に沿って分布を断つ.
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 九州では急傾斜Slabより上のMantleに震源は分布しないが,上部地殻には2016年4月16日の熊本地震M7.3nt12km(速報79)に代表される直下型地震のIS解469個があり,横擦断層型55%・正断層型39%・逆断層型6%である(図328).
 横擦断層型優勢は,水平に近い部分溶融境界面の存在を示唆する.主応力軸方位は(P258 +20±46T170+1±28N74+68±49)で,南南東のT軸方位が最も集中が良く,Plate運動の北西方に近い.この南南東方向の引張応力は別府-島原地溝帯の拡大に対応している.CMT解56個の非双遇力成分nonDC比は+4.6±13.2%と正の引張過剰で,部分溶融圧増大が優勢であることを示している(図329).

図328 九州地方の直下型地殻地震のIS解主応力軸方位.
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図329 九州地方の直下型地殻地震のCMT解非双遇力成分nonDC比.
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2-3 沖縄Trough拡大とSlab下Mantleの行方

 別府-島原地溝帯南西方の沖縄Troughでは背弧拡大が進行している.沖縄TroughのCMT解131個は,横擦断層型51%・正断層型49%と横擦断層型優勢である. nonDC比が+6.1±14.4と引張過剰で部分溶融部の拡大を示し,海底拡大の進行と対応している.主応力軸方位は(P239+45±45T155+0±21N67+45±45)とT軸の集中が良く,海溝軸方位の変化とは関係なく北西方へのPlate運動方位に揃っている(図330の右下図中央付近の紫色折線Sub).

図330 沖縄TroughのCMT解非双遇力成分nonDC比.
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 T軸方位がPlate運動方位に揃うことは,収束するPlate運動方向と逆方向に拡大していることを意味し,「何故,収束境界域で背弧海盆が拡大するか」というPlate Tectonics確立期以来の謎の本質を具現している.琉球海溝沿いのSlab最大深度250kmは410kmのMantle遷移帯上面に達しておらず,Slab先端の下部をSlab下Mantleが潜り抜けられる.海洋底表層が島弧地殻との摩擦抵抗のため沈込めなくとも,海洋底深部の部分溶融MantleはPlate運動を保持し,Slabの最深部を通過して背弧側に噴き出すことができる.島弧に固着したSl;abの下からPlate運動方向に噴き出すMantleは「作用・反作用の法則」に従い,島弧とSlabをPlate運動と反対方向に押し返すため,背弧側にはPlate運動方向の引張応力が発生する.
 また,Slab沈込に伴いSlab上面深度が増大するが,その増大はSlab下Mantle体積の過剰を生む.その過剰MantleをSlab下から除去しなければ沈込を続行できない.過剰MantleがSlab下を通過できれば背弧の拡大圧は定常的に増大する.
 衛星測距により別府-島原地溝帯・沖縄Trough南縁の九州南部と琉球列島が比海Plate運動方向とは逆に南下していることが判明し,台湾衝突による海溝軸の後退が提案されている(新妻,2007).海溝軸後退による沖縄Trouph拡大であれば,海溝軸方向が拡大方向と関係しているはずである.しかし,拡大方向は海溝方向とは無関係にPlate運動方向に揃っており,Slab下Manlteの背弧側放出による拡大が主体であることが判明した.Plate Tectonicsの謎であった背弧海盆拡大の解決には,二次元の地球表面幾何学から三次元の地球表層幾何学への拡張が必要であったと言える.

2-4 沈込境界軸屈曲によるSlab過剰ひだと急傾斜Slab

 九州から吐噶喇列島の急傾斜Slabは部分溶融Mantleの圧力と関係しているのであろうか.もし,背弧側に噴出した部分溶融MantleがSlab上面を押して急傾斜させているのであれば,N軸方位が押されるSlab上面に直交するはずである.
Slabが急斜する100km以深の震源のN軸方位は,22+21±34とSlab上面に直交せず Slab上面走向に並行している(図331).N軸方位がSlab面に沿っていることは,Slab外のMantleの関与を否定し,Slabの伸長や屈曲によるSlab内応力場が支配的であることを示している.
 南海小円区・琉球小円区の東西境界はほぼ並行し,海洋底がそのままSlabとして沈込めるが,その間の九州小円区で沈込境界軸方位が南西から南南西へ屈曲している.島弧側に凸のTrough軸に沿ってSlabが沈込むには,Tableの角でTable Clothがひだを作るように,沈込Slab面積が過剰になる.九州-吐噶喇の急傾斜Slabが過剰Slab面積を生む沈込境界軸屈曲部に位置しており,過剰Slab面積を急傾斜Slab形成によるSlabひだによって消化しているのであろう(図332).
Slab表面積が過剰になればその下のMantleも過剰になる.この過剰Mantleは急傾斜Slabの下から背弧側に供給され別府-島原地溝帯と沖縄Troughの拡大を担うので,これらの拡大が九州から開始されることも沈込境界方位の変換と符号する.

図331 100km以深の急傾斜Slab内IS解のN軸方位.
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2-5 Plate運動の鍵を握る日向震源域の震源移動周期

 日向灘は,Slabの島弧Mohoへの沈込から急傾斜Slabに変換する島弧Moho付近の震源分布域である.北縁の瀬戸内海では瀬戸内海深部震源域の上に載る.
 日向震源域にはCMT解が40個あるが,M6.0以上の地震は
2019年5月10日M6.3P25km(P119+22T307+67N210+3)
2014年8月29日M6.0P18km(P127+25T284+63N33+10)
1996年12月3日M6.7P38km(P119+33T313+56N213+6)
1996年10月19日M6.9P34km(P132+19T317+71N223+2)
いずれも南方の逆断層型でSlab沈込の剪断応力場で起っている.今回の地震M6.3の規模は第3位である(図333).

図333 日向震源域のCMT解主応力軸方位.
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 日向震源域のIS解410個は,正断層型62%・逆断層型26%・横擦断層型12%で,正断層型の主応力軸方位は(P128+71±28T270+17±35N3+9±37)とT軸が西方で北西方のPlate運動方位に近く別府-島原地溝帯と沖縄Troughの拡大と関連している.逆断層型は(P125+32±26T294+62±19N33+3±29)とP軸傾斜が南東方とPlate運動方位と逆方位なのでSlab上面に沿う剪断応力場を示す.正断層型の震源深度は深く北方に分布し,逆断層型は浅く南方に分布している(図334).

図334 日向震源域のIS解主応力軸方位.
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 時系列図(図334の左中図)で右から左へ震源が左上がり直線に沿って配列している.この配列は,中国地方の部分溶融Mantle圧によって開始した正断層型破壊が,別府-島原地溝帯の部分溶融圧を受けてMoho面下のMantleを破壊しながらSlab上面に達し,Plate運動による逆断層型破壊に至っていることを示している.大地震となるSlab上面に沿う沈込は,Slab以深の過剰Mantleを背弧側に放出して別府-島原地溝帯の拡大圧を上昇させ,次の正断層型破壊を開始させる応力場変動周期を駆動するであろう.今回のM6.3に至る一連の変動周期は2014年初に開始している.
 予想されている南海Trough巨大地震もSlab沈込の剪断応力場による逆断層型地震である.今回の地震では,応力場極性の逆転が起っておらず(図322)巨大地震の前震であることも考えられ(特報4月刊地震予報87),南海Trough全域に進展することも考えられる.また,本震に至っていない連発地震が台湾から琉球海溝に沿っても起っているので,琉球海溝全域に及ぶ巨大地震に進展することも考えられる.これらを見分けるため,今後の日向震源域の動向に十分な注意を払うとともに,厳重な警戒が必要である.

3.2019年6月の月刊地震予報

 日向灘で脈震を含む連発地震が起きたが,応力場極性の逆転に至っておらず,巨大地震の前震とも考えられるので,南海Trough地震や琉球海溝地震に厳重な警戒が必要である.巨大地震には広域に及ぶ前震を伴うと予想されるので,今後の前震や脈震に注意が必要である.本地震予報によって西南日本のPlate運動と応力場の関係を明らかにできたので,更なる解析を進め,巨大地震の前に適切な地震予報を実現するために全力を尽くす所存である.

引用文献

高橋正樹(1986)日本海拡大前後の“島弧”マグマ活動.科学,56,103-111.
巽 好幸(1995)沈み込み帯のマグマ学.東京大学出版会,186p.
新妻信明(2007)プレートテクトニクス―その新展開と日本列島―.共立出版,292p.

月刊地震予報116)台湾花蓮の地震M6.5と琉球海溝外連発地震,東北沖震源帯明治三陸沖M6.2,東北沖巨大地震M9.0の歪蓄積,2019年5月の月刊地震予報

1.2019年4月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解によると,2019年4月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で12個0.396月分,千島海溝域で2個0.060月分,日本海溝域で2個0.730月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.256月分,南海・琉球海溝域で6個0.659月分であった(2019年4月日本全図月別).2019年2月の1割以下から回復し,4月に4割近くに達した.
最大地震は2019年4月18日台湾花蓮M6.5,次大は4月11日日本海溝三陸沖M6.2で,M6.0以上はこの2個である.4月4日から14日まで琉球海溝外で連発地震があったが,4月13日から14日の2個の地震が24時間以内に起こり,脈震(月刊地震予報115)になった.

2.2019年4月18日台湾花蓮の地震M6.5と琉球海溝外連発地震

 2019年4月18日14時01分に台湾の花蓮でM6.5Pe20kmがあった.琉球海溝が与那国で大屈曲して台湾東海岸に上陸する花蓮では死傷者の出た2018年2月7日M6.7-npo10km(月刊地震予報102月刊地震予報103)以来の地震である(図314).その後,琉球海溝外152kmの海溝外最遠地震2018年7月25日M5.3(月刊地震予報108)が起り,2018年8月14日から琉球海溝域連発地震(月刊地震予報109),2018年10月23日から与那国連発地震(月刊地震予報110)が起った.

図314 琉球海溝域2018年1月-2019年4月のCMT解主応力方位.
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 2019年2月16日には沖縄TroughM5.5nt12km(月刊地震予報114)があった.沖縄Troughは日本列島において海洋底拡大が進行している海域で地震活動も活発で131個のCMT解がある.その発震機構型には逆断層型が無く,横擦断層型67・正断層型64と拡大海域であることを特徴付けている.引張T軸方位は横擦断層型も正断層型もPlate運動方位に沿っており,Plate運動による拡大であることを示している(図315).震源深度増大とともに正断層型が増加することは,浅所では静岩圧による垂直方向の圧縮P応力がMantleの上昇によって相殺されていることを示している.

図315 沖縄TroughCMT解主応力方位図.
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今回の琉球海溝外連発地震の最初で最大の2019年4月8日13時12分M5.6-to45kmを基準にすると震央距離/深度差と応力場偏角は,4/+0km38.0・3/+2km18.6・3/+0km20.1と震源距離4km以内,応力場偏角38°以内と一致しており,大地震の前震とも考えられるので警戒が必要である.この連発地震中に南西方の海溝軸上で208/+37km23.9が起こっており,応力場偏角に差がないことは,この応力場に琉球海溝域が広く覆われていることを示している.台湾花蓮の地震M6.5はこの連発地震の4日後に起こっている.

3.2019年4月11日の東北沖震源帯明治三陸地震域M6.2

2019年4月11日17時18分M6.2P5kmが三陸沖の島弧地殻内で起こった.本地震の圧縮P軸傾斜方位(図316右下図の○印)が主応力軸方位図の中央付近の紫色折線(Sub)のPlate運動方位から180°異なる逆方位に当たる上縁に位置しており,太平洋Slab上面に沿う剪断応力場にあることを示している(月刊地震予報107).

図316 日本海溝域2019年3月-4月CMT解主応力方位図.
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 その後,4月15日5時28分に釧路沖の太平洋Slab上部でM5.1P43kmと4月23日2時45分三陸沖の太平洋Slab深部でM5.6p57kmがPlate運動方位と逆P軸傾斜の剪断応力で起っている.本地震基準の応力場偏角は25.2と8.7°と殆ど変わらず,2019年3月11日の茨城沖の脈震(月刊地震予報115)も22.6・15.4°と差がなく,日本海溝域が太平洋Slab上面に沿う一様な剪断応力場にあることを示している.

4.東北沖巨大地震M9.0の歪は何時から蓄積されていたのか

地震の規模と地震断層の長さ・ずれの関係(松田,1975)から東北沖巨大地震M9.0の地震断層面積は7.94km2と算出されるが,この歪みは何時から蓄積されていたのかを検討する.
東北日本の地震活動と日本海溝に沿う太平洋Plateの沈込を定量的に解析するため,太平洋Plateの沈込面積と全地震の地震断層面積(地震断層の移動面積)を積算した総積算地震断層面積(2002速報36)を比較した.総積算地震断層面積を地震断層面積とする1つの地震の規模を総地震断層面積規模とし,Plate運動面積との比較に用いる(月刊地震予報106).中村一明(談)はBenoff(1954)が導入した弾性反発説(Reid, 1910)の表示法を高く評価し,伊豆大島の火山噴出物解析に使用した(Nakamura, 1964).この表示法は活断層について用いられ,広く知られるようになった.中村の高い評価に基づきこの表示法を Benioff図と呼ぶことにする(特報5).
 大正関東大震災後の1923年9月2日から東日本大震災前の2011年3月10日までの地震760個の総地震断層面積はBenioff図で斜直線のPlate運動面積増大に沿って階段状に増加し(図317の右中図左端),東北日本の地震活動が太平洋Plateの日本海溝に沿う沈込に起因していることを示している.また,その総地震断層面積は巨大地震と同じ7.94km2で総地震断層面積規模はM9.0と等しいが,その間のPlate運動面積の1.10倍になり,地震活動はPlate運動より1割多く消費していたことになる.

図317 大正関東大震災から東日本大震災までの総地震断層面積の推移.
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表37.総歴史地震面積とPlate運動面積(単位:M9.0)

期間      Plate運動 地震活動 地震活動 歪蓄積
(東北日本) (東北日本) (西南日本) (東北日本)
2011年3月10日
(東日本大震災前日)
88年間 0.91個 1.00個 0.44個 (M8.7) -0.09個
1923年9月4日
(大正関東大震災翌日)
130年間 1.34個 1.00個 0.77個 (M8.9) +0.34個
1793年
698年間 7.22個 1.00個 1.55個 (M9.2) +6.22 個
1095年

 1923年の関東大震災までに総地震断層面積規模がM9.0になるには1793年からの130年間の地震150個が必要である(表37).その間のPlate運動面積はM9.0の1.34個分で,0.34個分しか東北沖巨大地震の歪に蓄積できず,1793年以前からの歪蓄積が必要である(図318).

図318 700年から東日本大震災までの総地震断層面積の推移.
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1793年以後の総地震断層面積規模は東北日本が西南日本より大きいが,以前は西南日本より小さくなっている.この逆転は,東北日本の歴史地震記録の不備が原因と予想される.この不備を西南日本の充実した歴史地震記録を用いて補う.1793年から2011年の総地震断層面積は,東北日本でM9.0の2個分に対し西南日本で1.21個分であるので,この比率を一定と仮定して西南日本の総地震断層面積から東北日本の総地震断層面積を算出し,Plate運動面積と比較する(表38).

表38.総歴史地震面積とPlate運動面積(単位:M9.0) [東北日本/西南日本=1/0.60]

期間      Plate運動 地震活動 地震活動 歪蓄積
(東北日本) (東北日本) (西南日本) (東北日本)
2011年3月10日
(東日本大震災前日)
88年間 0.91個 1.00個 0.44個 (M8.7) -0.09個
1923年9月4日
(大正関東大震災翌日)
130年間 1.34個 1.00個 0.77個 (M8.9) +0.34個
1793年
182年間 1.88個 [0.83個] 0.50個 (M8.7) +1.05個
1611年
(慶長三陸地震)
516年間 5.33個 [1.75個] 1.05個 (M9.0) +3.58個
1095年

1611年慶長三陸地震後から1793年までの東北日本の補正地震断層面積はM9.0の0.83個分になり,1.88個分のPlate運動面積から1.05個分を歪蓄積に充てることができる.この経過は,巨大地震用の歪は歪蓄積満了後にもPlate運動による歪を通常地震活動として消化しながら保持できることを示している.

5.2019年5月の月刊地震予報

 琉球海溝域では地震活動が活発化しているが,広域応力場が安定していることから,予想されている南海Trough巨大地震に警戒が必要である.
日本海溝域では太平洋Slab上面と島弧地殻の剪断応力に地震が広く起っており,その動静に警戒が必要である.
東北沖巨大地震以前は慶長三陸地震以後蓄積された歪を抱えた状態でPlate運動を地震活動として消化していたが,東北沖巨大地震によって歪を解放された後にどのような地震活動を展開するか注意深く見守る必要がある.特に西南日本に予想される巨大地震にも東北日本との強い相互関係が予想されるので発震機構に基づく力学的解析が不可欠である.
巨大地震の前震は連発地震(速報66)や脈震(月刊地震予報115)として捉えることが十分可能で,本震・前震の区別も応力場極性偏角(月刊地震予報99;月刊地震予報87)と規模差(月刊地震予報110)から判定でき,対症療法は完成の域に近付いているが,地震発生の力学への道はまだ先である.

引用文献

 Benioff, H.(1954)Orogenesis and deep crustal structure: additional evidence from seismology. Geological Society of America, Bulletin, 66,385-400.
 松田時彦(1975)活断層から発生する地震の規模と周期について.地震第2輯,28,269-283.
 Nakamura, K.(1964) Volcano-stratigraphic study of Oshima Volcano, Izu. Bulletin of Earthquake Research Institute, 42, 649-728.
Reid, H.F.(1911) The mechanics of the earthquake, vol. 2 of the California Earthquake of April 18, 1906: Report of the State Earthquake Investigation commission: Carnegie Institution of Washinton Publication 87, C192 p.2 vols.