東日本巨大地震の前震・本震・余震の震央を記入した赤色立体地図

新妻地質学研究所へようこそ

2011年3月11日午後2時46分、東日本巨大地震発生。
今、仙台、東北、日本、環太平洋、地球で何が起こっているのか?

プレートテクトニクス一筋で
地球科学を研究してきた仙台在住の著者が考えます。

月刊地震予報97)地震予知体制の変換と地震予報・津波対策に救命胴衣を

1.地震予知体制の変換と地震予報

1.1) 南海トラフ地震の予知・予測の断念

「南海トラフ地震の予測と防災」作業部会が「6月17日地震学会シンポジウム」において,「南海トラフ地震の予知・予測を継続できない」と公表したと新聞が2017年6月22日に報じた.
作業部会が予知・予測を断念した理由として以下の4つを挙げている.
① 震源域の半分で大地震が起き「割れ残り」が生じた場合
② 一回り小さい地震が起きた場合
③ 東日本大震災前にみられた現象が多数観測された場合
④ 東海地震の判定基準にあるような地殻変動が見られた場合
これら全ての場合に対応できないと報道された.

1.2) 対応できないとされた理由への対応

作業部会は上記のように対応できない4つの理由を挙げたが,近年急速に整備の進んでいる気象庁の発震機構解公表体制を活用すれば,充分対応可能である.すなわち;
 ①・② 大地震を起こす応力場がどの程度の広がりをもち,継続しているかは,前震の応力場極性解析(速報55速報58月刊地震予報86月刊地震予報87特報4特報6,)によって判定可能である.
 ③ 東日本大震災前後の応力場極性変化は,熊本地震や鳥取県中部地震にも適用できたので(速報79月刊地震予報85,),南海トラフ地震にも適用できるであろう.
 ④ 地震は,応力が地下の岩石に働いて破壊する力学現象である.地震には地表の地殻変動も伴うかもしれないが,主役を担っている地下応力場を直接監視することが最も重要である.地下応力場は,高密な日本の地震計測網による常時観測によって得られる発震機構解を使用すれば監視できる.

1.3) 中央防災会議の「地震予知を前提とした対応の大転換」

 中央防災会議の有識者会議が9月26日に防災担当相に「確度の高い予測は困難」と指摘し,従来の地震予知に代わり,異常現象を観測した場合に住民避難を促す仕組み検討することや,地震・津波の観測体制強化を求める報告書を提出したと2017年9月27日の新聞は報じた.
これは約40年続けられてきた地震予知を前提とした対応の大転換である.新たな防災対策が定まるまでの暫定的な南海トラフ巨大地震への対応としては,前震や地殻変動などの異常現象を観測した場合や巨大地震発生の可能性が高まった場合,気象庁が新たに「南海トラフ地震に関連する情報」を発表し警戒を呼び掛けるとのことである.

1.4) 「南海トラフ地震に関連する情報提供」の可能性

 地下岩石の巨大破壊が,先行する小さな破壊を全く伴なはず起こるとは考え難い.先行する破壊が「前震」で巨大破壊が「本震」となる.気象庁はホームページでM4.0以上の発震機構解を2時間以内に「速報」,2-3日以内に「精査後」として公開しており,巨大地震の前震を見逃すとは考えられない.
巨大地震が起こる場合,本震域の破壊強度の小さな箇所から順次破壊し前震となるので,本震域では前震が連続的に起こることが予想される.この連続して起こる前震は,「連発地震」(速報66)として識別でき,発震機構の定量的比較解析対象として(速報29速報58),監視できる.
発震機構の定量的比較による応力場極性を解析すれば,「震源域の応力場極性は本震まで一定に保たれる」という破壊力学的性質に基づき(月刊地震予報87),応力場極性が保たれていれは「前震」,その後の応力場極性が逆転した場合には「本震」と判定できる.
大きな地震が起こった時にその発震機構の応力場極性が保持されている前震の場合には「更に大きな本震が来るかもしれませんので厳重な警戒をして下さい」,大きな地震の後に応力場極性の逆転した地震が確認される本震の場合には「先ほどの地震が本震と予想されます.同程度の余震に注意して下さい」と情報提供が可能である.
これらの情報が,その観測事実(発震時刻,震源,規模,発震機構)と推論の根拠(地震活動の推移・応力場極性・沈込スラブとの関係など)とともに提供されれば,住民の安心・安全と地震災害対策のために威力を発揮するであろう.将来的には,対象範囲を「南海トラフ地震」に限定せず,全国展開されることが期待される.

2.津波対策に救命胴衣を

 東日本大震災犠牲者約2万人の多くが津波によるものであった.しかし,同じ被災現場からの生存者もいる.東松島市では小学生が帰宅中に津波に襲われたが,胸いっぱい息をため,あお向けに浮くことによって一命を取り留めたという.
迫り来る津波に呑み込まれる恐怖は想像を絶するが,上昇する海面の上に載って浮けば生き残れる可能性は大きい.救命胴衣を着用していればその可能性は更に大きくなるであろう.
予想される津波高より標高の低い住宅・学校・幼稚園・保育所には救命胴衣を常備し,そこに通う児童・生徒には横断バックの代わりに救命胴衣を持ち歩かせてはどうだろう.津波防災訓練には救命胴衣を着用し,プールでの救命胴衣着用浮遊訓練も有効であろう.
来る南海トラフ地震では,静岡県のように震源上に位置していれば,歩くこともままならない強い揺れの後,高台に逃げる間もなく津波が襲来する.筆者にも東海地方沿岸部に住む子供がいるが,犠牲を最小に留めるために提案する.

月刊地震予報96)海溝外太平洋スラブ地震・久慈沖地震・伊豆スラブ地震・秋田県仙北連発地震・2017年10月の月刊地震予報

1.2017年9月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2017年9月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で14個0.380月分,千島海溝域で1個0.070月分,日本海溝域で6個1.419月分,伊豆・小笠原海溝域で4個0.820月分,南海・琉球海溝域で3個0.038月分であった(2017年9月日本全図月別).
2017年9月の最大地震は9月21日の日本海溝外M6.3で,M6以上の地震は,9月8日小笠原M6.1,9月27日久慈沖M6.1を加え,3個であった.
今年に入ってからのCMT解は147個で面積比が0.137と1割代に留まっている(2017年9月日本全図年別).
連発地震は,秋田県仙北の2017年9月8日M5.2npと9月13日M3.2ntであった(2017年9月東日本IS月別).

2.海溝外の太平洋スラブ地震M6.3

2017年9月21日1時37分に日本海溝外でM6.3to深度53(スラブ深度+47)kmがあった.
 太平洋スラブPcSlab海溝外地震のCMT解はこれまで235個報告されており,最大は小笠原沖2010年12月22日M7.8T,平均がM6.1,最小がM4.0であった,震源は海溝距離0-189kmと深度0-105(+99)kmの範囲にあり,地震断層面積のプレート運動面積に対する比は0.111で,太平洋スラブ沈込面積の1割を担っている.東日本大震災前年の2010年に最大に達した地震断層面積の対数は極大・極小を繰返しながら直線的に減少している.2016年から2017年かけての極小は異常な減少を見せたが,その後の極大はこれまでの傾向を保っている(図247).

図247.太平洋スラブ海溝外地震CMT解の主応力軸方位.
 左図:震央地図,中:海溝距離断面図,右上:縦断面図,右下:時系列図,右下図左端(logArea):総地震断層面積の168.6日移動平均の対数曲線で彩色は発震機構型による線形内部配分.

 海溝外には,スラブ沈込による引張応力と海洋プレートによる押応力のみが働いているので,海溝外地震の発震機構型はいずれの応力が優勢であるかを判定できる(速報).正断層型ならスラブ引張力,逆断層型なら海洋プレート押力が優勢である.スラブ沈込を島弧地殻が停止させるとスラブ引張力が海溝外に及ばず逆断層型地震が起こる.正断層型と逆断層型の海溝外地震の総断層面積を用いれば定量的に比較できる.
 これまでのCMT解は正断層型が94.1%と圧倒的に多いことは,スラブ引張応力が太平洋プレートの沈込を支配していることを示している.海溝外地震の年間総地震面積は,東日本大震災前には全期間平均の88%しかないが,震災後は130%と5割増加し,沈込障害除去後の海溝外における引張力増大を示している.また,全期間で4.5%を占める逆断層型は,東日本大震災前の2010年以前に6.2%も占めていたのに,震災後に1.7%と4分の1に減少している.東日本大震災本震がスラブ沈込障害を除いたことを示している(表24).

表24.東日本大震災前後の太平洋スラブ海溝外地震断層面積の比較.

期間 年間断層 面積比% 全体年間比
正断層型 逆断層型 横擦断層型
東日本大震災後 98.0 1.7 0.3 1.30
東日本大震災前 91.8 6.2 2.0 0.88
合計 94.1 4.5 1.4 1.00

 固着して沈込めないでいた太平洋スラブの沈込を再開したのが東日本大震災本震であろう(特報1).この固着解除は太平洋スラブ上面の摩擦力が剪断力より減少すれば起こるが,この減少の主役を,①太平洋プレート押力の増大あるいは②太平洋スラブ沈込引張力の増大のいずれが担っていたのであろうか.
 太平洋スラブ引張力と太平洋プレート押力が均衡した定常スラブ沈込状態において,固着域が発生すると,固着は太平洋プレート押力を妨げ,固着域前面の逆断層型海溝地震を起こす.固着は太平洋プレート押力を減少させるとともに固着域下方のスラブ引張力を増大させる.固着域下方のスラブは周辺域に連続しているので周辺域でも引張力優勢になり正断層型海溝外地震を起こす.
 固着域の海溝外では太平洋プレート押力がプレート運動の進行とともに増大し,固着解除直前に最大に達する.固着のない周辺域の太平洋スラブが通常通り沈込めば,周囲の太平洋スラブと連続している固着域下方のスラブ引張力を増大させるとともに,周辺域海溝外の引張力も最大になる.
 海溝外地震断層面積曲線(図247:右下図左端logArea)では正断層型(黒色)の増大が2011年3月以前に認められることは,①の太平洋プレート押力の増大でなく,②太平洋スラブ引張力の増大が東日本大震災の固着解除の主因であることを示している.
 固着解除した太平洋スラブ引張力増大に千島海溝や伊豆・小笠原海溝からのスラブ沈込が関与していることは2010年以前からの正断層型海溝外地震によって知ることができる(図247).太平洋スラブ張力増大については,スラブ先端の下部マントルへの沈込の関与も予想される(速報68).太平洋スラブの下部マントル上面深度660km以下では,ウラジオストックで2009年4月18日M5.0+np深度671km,小笠原の2015年5月30日M8.1t深度682km(速報68)・2015年6月3日M5.6-t深度695km(速報69)が起こっている.低温のスラブ先端は下部マントル上面を通過できず停滞して沈込引張力を低下させるが,一度通過すると後続のスラブを引摺込み引張力を急増させスラブ崩落に到ることも考えられる(速報68).東日本大震災を招いた太平洋スラブ引張力の増大が2009年4月から既に開始されていた太平洋スラブの下部マントルへの崩落であれば,東日本大震災はこれまで日本人が経験したことのない地震活動の序章であったことになる.
 時系列図(図247:右下図)において2011年3月11日の東日本大震災の横線の上の最上小円区に多数の正断層型地震(黒・紫・青色)が分布しているが,2016年から2017年に掛けて様相が変化し,地震断層面積(logArea)の谷の後に増大している.これらの地震個数は少ないことから,大きな海溝外地震が起こっていることを示している.千島海溝・小笠原海溝域でも大きな海溝外地震が起こっており,太平洋スラブの下部マントルへの崩落も考えられ,1933年3月3日の昭和三陸地震M8.1のような巨大海溝外地震へと発展する可能性がある.
 

3.久慈沖の地震M6.1

2017年9月27日5時22分に久慈沖でM6.1p深度35(+4)kmがあった.
東北地方三陸海岸の北部に位置する久慈地域は,逆断層型地震が頻発する地域である.今回の地震の圧縮P軸傾斜が海溝側傾斜であることは剪断力による破壊であることを示し,島弧マントルが屈曲スラブ上面と接触し引摺られて起こす「久慈沖震源域(oKuj)」の地震活動であると判定できる(図248).

図248.久慈沖震源域のCMT解(左)・IS解(右)の主応力軸方位と歴史地震の震央(右).
 左:震央地図,右上:海溝距離断面図,右中:縦断面図,右下:時系列図,右下左端(logArea):総地震断層面積の168.6日移動平均の対数曲線で彩色は発震機構型による線形内部配分.最右下端:歴史地震とCMT解の地震断層面積積算Benioff図と時系列図.

太平洋スラブを日本海溝に沿って屈曲して沈込ませているのは,東北日本弧の地殻とマントルであるが,島弧地殻・マントルの強度は深度とともに上昇する温度のため減少する.地殻は石英を主体とする上部地殻と長石を主体とする下部地殻に区分されるが,下部地殻は上部地殻より高温でも強度が大きく,下部地殻の中でも温度の低い上面は強度が極大になる.カンラン石を主体とするマントルはさらに高温でも強度が大きく,マントル上面のモホ面付近で極大になる.久慈沖震源域は,東北日本弧モホ面付近の強度極大部が太平洋スラブに接触して同心円状屈曲させている現場である.
久慈沖震源域のCMT解はこれまで61個あり,M6.0以上は5個ある.スラブ上面からの深度は0~+16kmの範囲にあり,今回の地震は+4kmで,スラブ上面に沿う剪断応力によるスラブ上面下の破壊による地震である.
最大のCMT解は東日本大震災当日2011年3月11日15時08分の誘発地震M7.4Pであり,今回の地震M6.1pは,1995年1月7日M7.2+p・2010年7月5日M6.2p・2011年6月23日M6.9Pに次ぎ5番目に大きい(表25).今回の震央は震源域の北端に位置している.最大地震M7.4Pの震央は,震源域中央の海溝寄にある.

表25.久慈沖震源域の歴史地震とM6.0以上のCMT解
距離・方位:基準震源からの震央距離と方位,番号:宇佐美(2003)の地震番号で括弧内はSeno &Eguchi(1983)の地震番号,応力場:応力場極性解析区分と応力場偏角.

M 北緯° 東経° 深度
(km)
Slab
(km)
距離
(km)
方位° 番号 応力場
2017 9 27 5 22 6.1 p 40.267 142.455 35 +4 56 332 CMT org16.6
2011 6 23 6 50 6.9 P 39.947 142.590 36 +9 21 313 CMT org24.7
2011 3 11 15 8 7.4 P 39.820 142.767 32 +9 0 基準 CMT 基準
2010 7 5 6 55 6.2 p 39.657 142.652 34 +10 21 275 CMT org21.3
1995 1 7 7 37 7.2 +p 40.223 142.305 48 +13 60 319 CMT org15.6
1974 9 4 18 20 5.6 40.183 141.933 40 -5 82 300 613
1960 7 30 2 31 6.7 40.300 142.517 50 +20 57 338 (116)
1928 5 27 18 50 7.0 40.060 142.977 27 +7 32 34 449
1907 12 2 22 53 6.7 40.100 142.300 ? 50 308 369
1901 9 30 19 19 6.9 40.200 141.900 ? 85 300 345
1772 6 3 ? ? 6.8 39.350 141.900 ? 91 235 203

最大地震M7.4Pの発震機構(P111+35T297+55N203+3)を基準にすると今回の地震(P104+22T320+64N200+14)の応力場偏角はorg=16.6°とほぼ一致している.久慈沖震源域のCMT解61個の全てが基準区分orgに入り,59個の応力場偏角が25°以内であることは,極めて安定な応力場の保持を示している.
CMT解は,1995年1月7日M7.2+p(org=15.6)の後途絶え,2004年8月10日M5.8p(org=18.5)から活動を開始し,東日本大震災後の2011年に活動が最大になった後,2012年・2015-2016年に活動が低下したが,2016年から活発化して今回の地震に到っている.初動発震機構解は1997年12月23日M5.2p(org=25.0)から活動を連続的しているが,活動の盛衰はCMT解と類似している.
 久慈沖震源域の歴史地震は,1772年から1974年にM5.6からM7.0の6個があり,その最大は1928年5月27日M7.0で,CMT解最大の2011年3月11日M7.4Pより小さい(表25;図248右下端;宇佐美,2003).久慈沖震源域最大の地震が東日本大震災本震当日誘発地震であることは,東日本大震災本震域と同様にこの久慈沖震源域も数百年に及ぶスラブ固着域であったことを示唆する.東日本大震災に誘発されて固着を解消したが,今回の地震はその北端で起こっており,未だ固着を解消していない北側の歪集中が限界に達しつつある兆候であるとも考えられるので警戒が必要である.

4.伊豆スラブ地震M6.1

 2017年9月8日2時26分に小笠原の伊豆スラブでM6.1p深度475(+277)kmがあった(図249).震源は伊豆小円南区と小笠原小円区の境界付近のほぼ垂直に沈込む伊豆スラブ南端に位置している.

図249.伊豆・小笠原・Mariana海溝域の太平洋スラブCMT解の主応力軸方位.
 左上:震央地図,左下:縦断面図,中上下図・右上下図:小円区海溝感面図

 伊豆・小笠原海溝域の震源は殆ど太平洋スラブ内にあり,海溝から同心円状屈曲して沈込開始を開始する深度100kmまでと平面化する300kmから500kmに集中している.平面化震源深度は南に向かって深くなるが,平面化スラブ傾斜も南に向って増大している.平面化スラブ傾斜が大きければ同心円状屈曲から平面化する深度が大きくなることと調和的である.
伊豆小円南区・小笠原小円区の深度400~600kmのM6.0以上の平面化地震CMT解は18個ある.その最大は2000年8月6日M7.2P深度445(+299)kmであり,その発震機構(P281+59T53+22N152+21)を基準とすると,15個が基準区分orgでその中の11個が応力場偏角25°以内にある.今回の地震も基準区分orgで応力場偏角が2.1°とほぼ一致し,典型的な平面化地震である.
 2015年6月3日最深地震M5.6-t深度695kmは太平洋スラブが下部マントルに沈込んだことを示したが,今回の平面化地震の応力場が2000年の最大地震とほぼ一致していることは,下部マントルの沈込の影響がまだ現れていないのか,または2000年の段階で既にその影響下にあったのか注意深く見守る必要がある.

5.秋田県仙北の連発地震

 秋田県仙北地域,田沢湖南西方の横手盆地北部大曲付近で2017年9月8日22時23分M5.2np深度9(-93)km・9月13日4時00分M3.2nt深度10(-92)kmの連発地震があった.今回の連発地震の震源は1896年8月31日M7.2陸羽地震が起こった陸羽震源域の南西縁にある(図250).発震機構解は初動IS(2017年9月東日本IS月別)のみでCMT解は公表されていない.

図250.秋田県仙北の連発地震と陸羽震源域の地震.
 左:震央地図,右上:海溝距離断面図,右中:縦断面図,右下:時系列図.右下左端:地震断層面積積算Benioff図.陸羽震源域では総計M7.5分の地震が起こっている.その殆どを1986年6月15日の明治三陸地震M8.5に続く1986年8月31日陸羽地震M7.2と1914年3月15日の秋田県仙北地震M7.1が占めている.

本連発地震は,震源距離が1km以下の同所連発地震である.本震源の西方2kmでは,1914年3月15日に秋田県仙北地震M7.1があり,死者94,負傷者324,家屋全壊640,半潰575,最大推定加速度450ガルが報告されている(表27;宇佐美,2003).

表26.2017年9月の秋田県仙北連発地震および陸羽震源域の歴史地震とM6.0以上のCMT解
距離・方位:基準震源からの震央距離と方位,番号:宇佐美(2003)の地震番号,応力場:応力場極性解析区分と応力場偏角.

M 北緯° 東経° 深度
(km)
Slab
(km)
距離
(km)
方位° 番号 応力場
2017 9 13 4 0 3.2 nt 39.488 140.423 10 -92 1 162 IS org20.8
2017 9 8 22 23 5.2 np 39.500 140.418 9 -93 0 基準 IS 基準
1998 9 3 16 58 6.2 P 39.805 140.900 8 -72 53 50 CMT TPexN134.9
(org97.4)
1986 8 10 17 50 4.5 ? 40.678 140.815 10 -81 135 14 655
1986 5 26 11 59 4.7 ? 40.082 141.205 10 -59 93 46 654
1914 3 28 2 50 6.1 ? 39.200 140.400 ? 33 183 399
1914 3 15 4 59 7.1 ? 39.500 140.400 ? 2 270 398
1896 8 31 17 6 7.2 ? 39.500 140.700 ? 24 90 317
1896 8 31 16 37 6.4 ? 39.600 140.700 ? 27 65 317
1896 8 23 15 56 5.2 ? 39.700 140.800 ? 39 56 317
1843 4 29 ? 6.0 ? 39.450 140.700 ? 25 103 246
1823 9 29 ? 6.0 ? 40.000 141.100 ? 80 46 232

 本連発地震の9月8日M5.2npの発震機構(P222+34T325+18N78+50)を基準とすると,9月13日M3.2nt(P212+16 T308+21N87+63)の応力場偏角は20.3°とほぼ一致しており,震源域の応力場は9月8日のM5.2npの後にも保持されていることを示している.今後の応力蓄積によって更に大きな地震が起こることが心配されるので警戒の必要がある.

6.2017年10月の月刊地震予報

2017年9月の日本全域CMT個数は14個と先月17個より減少したが,地震断層面積のプレート運動面積に対する比は先月の0.066から0.380に増加している.今年に入ってからのCMT解は147個で比が0.137の1割に留まり,1997年の最小比0.107と2014年の次席比0.280の間に位置する静穏さである.嵐の前の静けさは続いているが,次第に総地震断層面積は増加している.
今月のM6.0以上の地震と連発地震の活動は,いずれも太平洋スラブ沈込増大と関係している.太平洋スラブの下部マントルへの崩落も考慮し,巨大海溝外地震・巨大海溝内地震・内陸地震に警戒が必要である.

引用文献

Seno,T. &Eguchi,T.(1983) Seismotectonics of the western Pacific Region. Geodynamic Series, 11, American Geophysical Union, 5-40.
宇佐美龍夫(2003)日本被害地震総覧.東京大学出版会,605p.

月刊地震予報95)関東地方連発地震・浜通連発地震・2017年9月の月刊地震予報

1.2017年8月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2017年8月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で17個0.066月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で9個0.171月分,伊豆・小笠原海溝域で0個,南海・琉球海溝域で8個0.171月分であった(2017年8月日本全図月別).
2017年8月の最大地震は8月16日琉球スラブM5.7np深度192(スラブ深度+72)kmで,M6以上の地震はなかった.今年に入ってからのCMT解は133個で比が0.107と1割に留まっている.これは1997年の0.107と同率最低の静穏さである.
連発地震は,2017年8月2~17日関東地方千葉・五霞・下妻震源密集域(特報7)のM3.2~5.0と2017年8月2~27日浜通のM3.2~5.5であった(2017年8月東日本IS月別).

2.関東地方の連発地震

2017年8月2日から17日にM3.2~5.0の連発地震が関東平野下丹沢スラブの千葉・五霞・下妻震源密集域(特報7)で起こった.
丹沢スラブは丹沢地塊の衝突によってフィリピン海プレートから北米プレートの南端に転移して太平洋スラブの上に垂れ下がっているが,伊豆地塊の衝突進行によって北西方向に押され,日本海溝から伊豆海溝への接続部の太平洋スラブ突出部に接触し地震を起こしている.太平洋スラブとの接触による地震の規模が最大であり,その発震機構は太平洋スラブ運動方向の太平洋スラブ上面に沿う剪断応力による.接触部より上位の丹沢スラブでは発震機構が異なる.
丹沢スラブと太平洋スラブ上面の接触によるCMT解最大の2005年7月23日M6.0P73(+17)kmを基準(P92+10T258+80N1+2)に応力場極性区分(月刊地震予報87)を今回最大のCMT解(括弧内は初動解)に適用すると;
2017年8月10日9時36分M5.0p 64(+2)km org=9.9 (10.0) °
と基準区分orgの偏差角が10°とほぼ一致し,今回の最大地震は太平洋スラブ上面から深度2kmにあり,17kmの基準と共通している(図244).

図244.2017年7-8月の丹沢スラブ地震の初動発震機構解の応力場極性区分.
左:震央地図,×印は基準とした2005年7月23日の丹沢スラブ最大地震M6.0Pの震央,円は基準から半径50kmの範囲.中:海溝距離断面図,+印は基準の震源位置.右上:縦断面図.右下:時系列図.

最大地震に先行する2個のCMT解(括弧内は初動解)は;
2017年8月3日13時45分M4.6+p46km(-30)km PexN=34.5(47.2);org=59.3(51.3)
2017年8月2日7時15分M4.6+p48(-22)km PexN=30.8(44.5);org=64.0(51.9)
と,基準応力場からの偏差角が約60°で発震機構が異なり,圧縮主応力P軸と中間主応力N軸が入替(PexN)っている.又,非双偶力成分比が正(+p)で引張過剰のため,圧縮P応力と中間N応力の大きさの差が小さく,圧縮力の減少によって容易にPexNを起こす.震源位置が太平洋スラブ上面から上20~30kmと今回の最大地震と異なっている.この震源位置は太平洋スラブとの接触部より上の丹沢スラブ内で,今回の最大地震と異なる.接触部から上方に離れると圧縮応力が減少し,主応力軸入替PexNが起き,非双偶力成分も正になる.
太平洋スラブとの接触部よりも上の丹沢スラブ内の地震が先行していることは,接触部のみならず丹沢スラブ全体が太平洋スラブ沈込の障害となり,丹沢スラブ上部に破壊が起こると太平洋スラブに対する抵抗力が低下し,接触部に剪断破壊が起ったと予想される.
初動解は破壊開始時の応力場に当たるが,CMT解は最大破壊時の応力場に対応する.基準区分orgの偏差角が初動解(括弧内)よりCMT解の方が大きいことは,破壊進行とともに接触部からの影響が減少していることを示唆している.
今回の活動は8月13日2時07分に逆極性のTPexNであるM3.7p74(-2)kmの後の8月17日5時03分M3.2p66(+3)km org=15.8で終了している.2017年7月にもほぼ同所で初動解6個があるがM3.5以下と小さい.

3.浜通の連発地震

2017年8月2~27日にM3.2~5.5の連発地震が浜通で起こった.浜通の地震は東日本大震災後の2011年4月11日17時16分にM7.0tr6(-58)kmが起こったが,大震災前には2003年2月20日3時25分にM3.5tr11(-61)kmの初動発震機構解が1個のみであった.大震災後は2011年3月12日10時12分M4.8t11(-53)kmから初動発震機構解805個と2011年3月15日16時03分M4.9-t0(-65)kmからCMT解62個ある.
浜通の初動解地震断層面積の46.9日間対数移動平均曲線(図245)によると,東日本大震災後2015年6月までの4年2カ月間ほぼ直線的に減衰している.対数で表した地震活動の直線的減衰は大地震後の余震活動の特徴とされ,大森公式と称されている(例えば,宇津,2012).

図245.浜通地震の初動発震機構解の主応力軸方位.
左:震央地図.中:海溝距離断面図.右上:縦断面図.右下:時系列図.logArea:地震断層面積の対数移動平均曲線(色分けは発震機構比率の線形配分),平均期間は46.9日.

浜通での最大地震M7.0のCMT解を基準(P32+81T245+8N154+5)にした応力場極性区分(月刊地震予報87)では,逆極性応力場の地震は2015年12月25日17時02分M3.5np17(-49)kmPTexN=134.8までしか起こっていない(図246).

図246.浜通地震の初動発震機構解の応力場極性区分.
左:震央地図,×印は基準とした2011年4月11日の浜通最大地震M7.0-trの震央,円は基準から半径50kmの範囲.中:海溝距離断面図.左上:縦断面図,右下:時系列図.StressPolarityΠ:0から90までが正極性,90から180までが逆極性.

浜通の地震活動の対数の直線的減衰も2015年7月30日17時16分M4.2t8(-60)km以降不規則な増減を繰り返すようになった.この不規則活動も2016年12月28日21時38分M6.3tr11(-51)km gn=27.5(月刊地震予報87)以後その変動幅を増大させている.2017年に入り,M4.5以上の地震のCMT解(括弧内初動解)応力場極性区分は;
2017年8月27日11時26分M4.8-t11(-51)km TexN=9.9(7.3)
2017年8月26日4時20分M4.7tr8(-62)km TexN=19.2(30.3)
2017年8月2日2時02分M5.5tr9(-56)km org=39.1(41.2)
2017年6月19日5時51分M4.5tr6(-65)km org=26.4(28.9)
2017年4月20日2時13分M4.5tr6(-53)km org=(40.4)
の5個が起こっている.2016年2個,2015年0個,2014年3個,2013年5個,2012年4個,2011年56個であり,2017年の5個は異常な増大である.

4.2017年9月の月刊地震予報

2017年8月の日本全域CMT個数は16個と先月21個より減少し,地震断層面積のプレート運動面積に対する比も先月の0.228から0.064に減少している.今年に入ってからのCMT解は132個で比が0.107と1割に留まり,1997年の最低率0.107に並ぶ静穏さである.嵐の前の静けさは続いており警戒が必要である.
2017年7月に鹿児島湾で稀発地震が起こったが(月刊地震予報94),2017年8月24日14時34分にもM4.4+nt7(-50)kmが起こっている.1893年にここで知覧の地震が起こったのは,日本の地震活動史上最も地震活動が激しかった明治動乱期であり,当地の地震に注意する必要がある.この動乱期には濃尾地震・明治三陸地震の他に東京周辺でM7以上の地震が起こっているので,首都圏でも警戒が必要である.
関東平野下に沈込む丹沢スラブの連発地震が起こり,太平洋スラブとの接触が主因であることが応力場極性区分解析によって明らかになった.今後の応力場解析により丹沢スラブの力学機構が解明され,関東地方のM7以上の地震への対応の道も拓かれることが期待される.
浜通の地震活動は,東日本大震災からの活動を脱却し,新たな活動を開始したようである.福島県沖の島弧地殻底の地震活動とも関連し(月刊地震予報89),日本海溝域の今後の活動にも警戒が必要である.

引用文献

宇津徳治(2012)地震学.共立出版,376p.