東日本巨大地震の前震・本震・余震の震央を記入した赤色立体地図

新妻地質学研究所へようこそ

2011年3月11日午後2時46分、東日本巨大地震発生。
今、仙台、東北、日本、環太平洋、地球で何が起こっているのか?

プレートテクトニクス一筋で
地球科学を研究してきた仙台在住の著者が考えます。

月刊地震予報95)関東地方連発地震・浜通連発地震・2017年9月の月刊地震予報

1.2017年8月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2017年8月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で17個0.066月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で9個0.171月分,伊豆・小笠原海溝域で0個,南海・琉球海溝域で8個0.171月分であった(2017年8月日本全図月別).
2017年8月の最大地震は8月16日琉球スラブM5.7np深度192(スラブ深度+72)kmで,M6以上の地震はなかった.今年に入ってからのCMT解は133個で比が0.107と1割に留まっている.これは1997年の0.107と同率最低の静穏さである.
連発地震は,2017年8月2~17日関東地方千葉・五霞・下妻震源密集域(特報7)のM3.2~5.0と2017年8月2~27日浜通のM3.2~5.5であった(2017年8月東日本IS月別).

2.関東地方の連発地震

2017年8月2日から17日にM3.2~5.0の連発地震が関東平野下丹沢スラブの千葉・五霞・下妻震源密集域(特報7)で起こった.
丹沢スラブは丹沢地塊の衝突によってフィリピン海プレートから北米プレートの南端に転移して太平洋スラブの上に垂れ下がっているが,伊豆地塊の衝突進行によって北西方向に押され,日本海溝から伊豆海溝への接続部の太平洋スラブ突出部に接触し地震を起こしている.太平洋スラブとの接触による地震の規模が最大であり,その発震機構は太平洋スラブ運動方向の太平洋スラブ上面に沿う剪断応力による.接触部より上位の丹沢スラブでは発震機構が異なる.
丹沢スラブと太平洋スラブ上面の接触によるCMT解最大の2005年7月23日M6.0P73(+17)kmを基準(P92+10T258+80N1+2)に応力場極性区分(月刊地震予報87)を今回最大のCMT解(括弧内は初動解)に適用すると;
2017年8月10日9時36分M5.0p 64(+2)km org=9.9 (10.0) °
と基準区分orgの偏差角が10°とほぼ一致し,今回の最大地震は太平洋スラブ上面から深度2kmにあり,17kmの基準と共通している(図244).

図244.2017年7-8月の丹沢スラブ地震の初動発震機構解の応力場極性区分.
左:震央地図,×印は基準とした2005年7月23日の丹沢スラブ最大地震M6.0Pの震央,円は基準から半径50kmの範囲.中:海溝距離断面図,+印は基準の震源位置.右上:縦断面図.右下:時系列図.

最大地震に先行する2個のCMT解(括弧内は初動解)は;
2017年8月3日13時45分M4.6+p46km(-30)km PexN=34.5(47.2);org=59.3(51.3)
2017年8月2日7時15分M4.6+p48(-22)km PexN=30.8(44.5);org=64.0(51.9)
と,基準応力場からの偏差角が約60°で発震機構が異なり,圧縮主応力P軸と中間主応力N軸が入替(PexN)っている.又,非双偶力成分比が正(+p)で引張過剰のため,圧縮P応力と中間N応力の大きさの差が小さく,圧縮力の減少によって容易にPexNを起こす.震源位置が太平洋スラブ上面から上20~30kmと今回の最大地震と異なっている.この震源位置は太平洋スラブとの接触部より上の丹沢スラブ内で,今回の最大地震と異なる.接触部から上方に離れると圧縮応力が減少し,主応力軸入替PexNが起き,非双偶力成分も正になる.
太平洋スラブとの接触部よりも上の丹沢スラブ内の地震が先行していることは,接触部のみならず丹沢スラブ全体が太平洋スラブ沈込の障害となり,丹沢スラブ上部に破壊が起こると太平洋スラブに対する抵抗力が低下し,接触部に剪断破壊が起ったと予想される.
初動解は破壊開始時の応力場に当たるが,CMT解は最大破壊時の応力場に対応する.基準区分orgの偏差角が初動解(括弧内)よりCMT解の方が大きいことは,破壊進行とともに接触部からの影響が減少していることを示唆している.
今回の活動は8月13日2時07分に逆極性のTPexNであるM3.7p74(-2)kmの後の8月17日5時03分M3.2p66(+3)km org=15.8で終了している.2017年7月にもほぼ同所で初動解6個があるがM3.5以下と小さい.

3.浜通の連発地震

2017年8月2~27日にM3.2~5.5の連発地震が浜通で起こった.浜通の地震は東日本大震災後の2011年4月11日17時16分にM7.0tr6(-58)kmが起こったが,大震災前には2003年2月20日3時25分にM3.5tr11(-61)kmの初動発震機構解が1個のみであった.大震災後は2011年3月12日10時12分M4.8t11(-53)kmから初動発震機構解805個と2011年3月15日16時03分M4.9-t0(-65)kmからCMT解62個ある.
浜通の初動解地震断層面積の46.9日間対数移動平均曲線(図245)によると,東日本大震災後2015年6月までの4年2カ月間ほぼ直線的に減衰している.対数で表した地震活動の直線的減衰は大地震後の余震活動の特徴とされ,大森公式と称されている(例えば,宇津,2012).

図245.浜通地震の初動発震機構解の主応力軸方位.
左:震央地図.中:海溝距離断面図.右上:縦断面図.右下:時系列図.logArea:地震断層面積の対数移動平均曲線(色分けは発震機構比率の線形配分),平均期間は46.9日.

浜通での最大地震M7.0のCMT解を基準(P32+81T245+8N154+5)にした応力場極性区分(月刊地震予報87)では,逆極性応力場の地震は2015年12月25日17時02分M3.5np17(-49)kmPTexN=134.8までしか起こっていない(図246).

図246.浜通地震の初動発震機構解の応力場極性区分.
左:震央地図,×印は基準とした2011年4月11日の浜通最大地震M7.0-trの震央,円は基準から半径50kmの範囲.中:海溝距離断面図.左上:縦断面図,右下:時系列図.StressPolarityΠ:0から90までが正極性,90から180までが逆極性.

浜通の地震活動の対数の直線的減衰も2015年7月30日17時16分M4.2t8(-60)km以降不規則な増減を繰り返すようになった.この不規則活動も2016年12月28日21時38分M6.3tr11(-51)km gn=27.5(月刊地震予報87)以後その変動幅を増大させている.2017年に入り,M4.5以上の地震のCMT解(括弧内初動解)応力場極性区分は;
2017年8月27日11時26分M4.8-t11(-51)km TexN=9.9(7.3)
2017年8月26日4時20分M4.7tr8(-62)km TexN=19.2(30.3)
2017年8月2日2時02分M5.5tr9(-56)km org=39.1(41.2)
2017年6月19日5時51分M4.5tr6(-65)km org=26.4(28.9)
2017年4月20日2時13分M4.5tr6(-53)km org=(40.4)
の5個が起こっている.2016年2個,2015年0個,2014年3個,2013年5個,2012年4個,2011年56個であり,2017年の5個は異常な増大である.

4.2017年9月の月刊地震予報

2017年8月の日本全域CMT個数は16個と先月21個より減少し,地震断層面積のプレート運動面積に対する比も先月の0.228から0.064に減少している.今年に入ってからのCMT解は132個で比が0.107と1割に留まり,1997年の最低率0.107に並ぶ静穏さである.嵐の前の静けさは続いており警戒が必要である.
2017年7月に鹿児島湾で稀発地震が起こったが(月刊地震予報94),2017年8月24日14時34分にもM4.4+nt7(-50)kmが起こっている.1893年にここで知覧の地震が起こったのは,日本の地震活動史上最も地震活動が激しかった明治動乱期であり,当地の地震に注意する必要がある.この動乱期には濃尾地震・明治三陸地震の他に東京周辺でM7以上の地震が起こっているので,首都圏でも警戒が必要である.
関東平野下に沈込む丹沢スラブの連発地震が起こり,太平洋スラブとの接触が主因であることが応力場極性区分解析によって明らかになった.今後の応力場解析により丹沢スラブの力学機構が解明され,関東地方のM7以上の地震への対応の道も拓かれることが期待される.
浜通の地震活動は,東日本大震災からの活動を脱却し,新たな活動を開始したようである.福島県沖の島弧地殻底の地震活動とも関連し(月刊地震予報89),日本海溝域の今後の活動にも警戒が必要である.

引用文献

宇津徳治(2012)地震学.共立出版,376p.

月刊地震予報94)ウラジオストック沖M6.3・鹿児島湾希発地震・三陸沖連発地震・2017年8月の月刊地震予報

1.2017年7月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2017年7月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で21個0.228月分,千島海溝域で1個0.006,日本海溝域で13個1.218月分,伊豆・小笠原海溝域で3個0.042月分,南海・琉球海溝域で4個0.107月分であった(2017年7月日本全図月別).
2017年7月の最大地震は7月13日ウラジオストック沖M6.3-np深度603(スラブ深度+92)kmで,M6以上の地震は最大地震1個のみある.今年に入ってからのCMT解は116個で比が0.113と1割強に留まっている.これは1997年の0.107に次ぐ静穏さである.
これまで地震記録がなかったあるいは極めて希にしか起こらなかった地域の地震を,「希発地震」と名付け地震予報で今後取り上げる.2017年7月には鹿児島湾で希発地震が起こった.これまで月間地震予報で取り上げた希発地震には,2016年6月の渡島半島(月刊地震予報81)と2016年7月・9月の朝鮮半島(月刊地震予報82・84,)がある.
連発地震は,福島沖で2017年7月6~8日,明治三陸地震域で2017年7月22~24日,北海道胆振2017年7月1日~16日に起こった.鹿児島湾の希発地震も連発地震であった.

2.ウラジオストック沖太平洋スラブ地震M6.3

2017年7月13日4時48分ウラジオストック沖太平洋スラブでM6.3-np603(+92)kmが起こった.その2日前の2017年7月11日22時35分には樺太南端太平洋スラブでM4.8np354(+135)kmが起こっている.ウラジオストック北西方太平洋スラブでは2016年1月2日13時22分に下部マントル上面(深度660km)以深の地震M5.7P681(+77)kmも起こっている(速報76;図218).

図218.ウラジオストック沖の太平洋スラブ地震2017年7月13日M6.3-np603(+92km)のCMT解を基準にした応力場極性区分.

今回の地震は発震機構型境界になっており,以浅の地震が圧縮横擦np型であるのに対し,より深い地震が逆断層型になっている.ウラジオストックの太平洋スラブ地震の多くが大陸域下で起こっているが,今回の地震は日本海盆下で起こっており,震央距離が最も近い2017年1月13日2時04分M5.5+np540(+89)kmでも160km離れている.
今回のCMT解を基準(P290+32T21+2N115+58)にこれまでのCMT解の応力場極性を解析すると,北方(方位5°)震央距離234(深度差-6)kmで起こった2000年2月13日11時57分M4.8np597(+82)kmの応力場方位角差は5.0°と同一応力場(図218:黒色)である.
これらより北方の580km以深の地震は応力場方位角差が54.0~90.7°と応力場が異なる.基準主応力軸方位を保持したまま引張主応力T軸と中間主応力N軸の入替NexT(図218:青色)で比較すると方位角差は8.1~48.1°に収まり,側方引張応力が垂直引張応力より増大して主応力軸が入替っている.580km以深の震源は南北に500kmの範囲に広がっているが,今回の地震はその最南端部にあり,同じ応力軸入替境界が230kmに渡り連続している.この境界より上,深度528kmまでは基準応力場区分orgn(図218:黒・紫色)であるが,528km以浅では再びTexN(図218:青色)になる.

3.鹿児島湾の希発地震

九州小円区・琉球小円区境界南側鹿児島湾の上部地殻で2017年7月11日と15日にM3.4~5.3のIS解が3個あった(2017年7月西南日本IS月別;図219).最大は最初の7月11日11時56分M5.3nt10(-47)kmで,CMT解もある. 2017年3月11日21時10分にもIS解M3.9nt10(-47)kmがある(2017年3月西南日本IS月別).これらの震央間距離は1km以内で,最大のCMT解を基準(P219+20T125+10N10+67)とした応力場方位差も7.5~23.4°と小さく同一応力場で起こっている.

図219.鹿児島湾希発地震2017年3月11日・7月11日・15日の初動発震機構型主応力軸方位.
 半径50kmの円の中心と+印が希発地震.

2017年3月11日より前の最短震央距離地震のIS解は,北北東方(17°)に43km の2016年4月16日21時06分M4.4p18(-47)kmであり,CMT解は北北西方(335°)に70kmの1997年5月13日M6.4+nt9(-84)kmである.
この希発地震南東の大隅半島から南西の薩摩半島下にはスラブ内震源があり震源面を成している(図219).震源面の傾斜は大隅半島下では緩く,鹿児島湾で深度70kmに達し,薩摩半島下では急斜している.今回の希発地震は急斜震源面の北東縁上方の地殻上部で起こっている.
今回の震源から40km以内には、2017年3月11日より前の地殻内IS解・CMT解は無いが,歴史地震には西方(289°)震央距離12㎞の知覧で1893年9月7日M5.3がある.この地震では土蔵・石垣・堤防が破損し,地辷もあった(宇佐美,2003).その後1893年9月30日まで多数の余震があり,翌年1894年1月4日M6.3が起こっている.
この知覧の地震の前には1891年10月28日濃尾地震M8.0・1893年6月4日択捉M7.8があり,その後に1894年3月22日根室南西沖M7.9・1894年6月20日東京湾北部M7.0・1894年10月7日東京湾北部M6.7・1894年10月22日庄内地震M7.0・1895年1月18日霞ヶ浦M7.2・1896年1月9日鹿島灘M7.3・1896年6月15日明治三陸地震M8.5・1897年11月23日カムチャツカM7.9と巨大地震が続き,石橋(1994)の大地動乱の時代であった(図220).1890年から10年間の総地震断層面積は,日本全域のプレート運動面積の95%に達し,日本の地震記録における最高比になっているので「明治動乱期」と呼ぶことにする.これに次ぐ高比率は1950年からの82%「昭和動乱期」,1850年からの80%「安政動乱期」であり,1700年からの78%「宝永動乱期」が続く.

図220.1894年1月知覧の地震M6.3を含む「明治動乱期」の日本列島巨大地震の震央図とベニオフ図.
 ベニオフ図左:「明治動乱期」,右:1600年から1990年,右端は「動乱期」名.

4.明治三陸震源域・胆振の連発地震

明治三陸地震域で2017年7月22日10時46分M5.0p17(+1)kmと24日0時35分M5.7P14(+0)kmが連発した(2017年7月東日本月別).これらの震央間距離は14kmで,応力場方位角差は5.9と小さく,同じ応力場に起こっている.東日本大震災本震CMT基準の応力場方位は6.3・11.3と同じ応力場である.日本海溝域の応力場は,東日本大震災前は本震と同じ応力場の地震が主体であったが(図221),本震後は逆応力場の地震が急増した(図222),しかし、明治三陸震源域では東日本大震災本震の応力場が補強・拡充されている.

図221.東日本大震災前(1994/9/23~2011/3/10)の日本海溝域CMT解の大震災本震基準応力場極性区分.
 半径50kmの円の中心と+印が2017年7月22日・24日明治三陸震源域連発地震.最上小円断面図の大+印は東日本大震災本震.

図222.東日本大震災後(2011/3/12~2017/7/30)の日本海溝域CMT解の大震災本震基準応力場極性区分.
 半径50kmの円の中心と+印が2017年7月22日・24日明治三陸震源域連発地震.最上小円断面図の大+印は東日本大震災本震.

北海道の胆振で2017年7月1日23時45分M5.1p27(-71)kmを先頭に7月3日から7月16日までM3.2~3.4のIS解3個が続いた(2017年7月東北日本IS月別).先頭の地震が最大で,そのCMT解(P88+10T342+57N184+31)基準のIS解の応力場方位は10.6~23.9°と差がなく,最大地震のCMT解とIS解の差は19.0°であった.これらのIS解の震央距離も3km以内に収まっている.

5.2017年8月の月刊地震予報

2017年7月の日本全域CMT個数は,21個と先月18個より増加し,地震断層面積のプレート運動面積に対する比も0.228と増加している.しかし,今年に入ってからは116個と0.113で1割強に留まっている.これは1997年の0.107に次ぐ静穏さである.嵐の前の静けさは続いており警戒が必要である.
日本海溝から沈込む太平洋スラブ先端が下部マントル上面に達しているウラジオストック沖でM6.3が起こった.太平洋スラブの沈込が日本列島の地震活動を駆動していることから,今後の地震活動の動向に注意が必要である.
1997年以降の日本列島陸域の地震は初動IS発震機構解でほぼ網羅されているが,最近これまでIS解が報告されていなかった地域で地震が起こっている.このような希発地震は,日本列島の応力場に異変が生じていることを知らせてくれる.気象庁の観測記録のなかった北海道渡島半島で2016年6月に地震が起こり(月刊地震予報81),その後,2016年7月・9月に朝鮮半島で起こった(月刊地震予報8284).これに先立つ2015年5月に,伊豆・小笠原海溝から沈込む太平洋スラブ先端が下部マントルに突入していること示す地震が起こっており(速報68),日本列島の異変は太平洋スラブ沈込に由来しているとも考えられる.
2017年7月には鹿児島湾で希発地震が起こったが,ここでは1893年に知覧の地震が起こっている.知覧の地震が起こったのは日本の地震活動史上最も地震活動が激しかった明治動乱期である.この動乱期は濃尾地震M8.0から開始し,明治三陸地震M8.5へと続く.今回の鹿児島湾地震について濃尾地震に当たるのは2016年4月の熊本地震(月刊地震予報79)であろう.明治三陸地震の震源域では,東日本大震災本震と応力場方位の一致する連発地震が起こっていることからも警戒が必要である.明治動乱期には東京周辺でM7以上の地震が起こっているので,首都圏でも警戒が必要である.

引用文献

石橋克彦(1994)大地動乱の時代―地震学者は警告する.岩波新書,350,234p.
宇佐美龍夫(2003)日本被害地震総覧.東京大学出版会,605p.

月刊地震予報93)飛騨の地震M5.6・2017年7月の月刊地震予報

1.2017年6月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2017年6月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で18個0.074月分,千島海溝域で3個0.091,日本海溝域で4個0.027月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.016月分,南海・琉球海溝域で9個0.105月分であった(2017年6月日本全図月別).
2017年6月の最大地震は6月28日根室沖M5.7-t33(-3)kmで,連発地震は飛騨の2017年6月25日7時2分M5.6P7(-36)km・15時17分M4.7P7(-36)kmであり,M6以上の地震はなかった.飛騨の地震は,これまでの最大地震1998年8月16日M5.6np3(-57)kmと同規模である.

2.2017年6月25日飛騨の連発地震M5.6

今回の飛騨の連発地震のCMT解は2017年6月25日7時2分M5.6P・15時17分M4.7Pの2個であるが,初動発震機構IS解は6月28日までに9個あった.最大地震は最初の2017年6月25日7時2分M5.6であり,CMT解は圧縮過剰逆断層P型であるが,IS解は圧縮横擦断層np型と異なっている.
飛騨ではM5.5以上の地震が,1998年8月16日M5.6np・2011年2月27日M5.5P・2017年6月25日M5.6Pの3回起こっている.1998年8月16日の活動は1998年8月7日から1998年9月20日まで続きCMT解3個・これらの地震の総地震断層面積をマグニチュードに換算した総規模M5.7,IS解23個・総規模M5.9,であった.2011年2月27日の活動は2011年2月6日から2011年12月2日まで続きCMT解9個・総規模M6.0,IS解61個・総規模M6.0であった.今回の2017年6月25日の活動は2017年6月25日から2017年6月28日までにCMT解2個・総規模M5.6,IS解9個・総規模M5.6である.今回のみ最初の地震が最大地震となっている.総規模では,東日本大震災の前震と交互に起こった2011年2月のM6.0が最大である.
最初の最大地震1998年8月16日M5.6npのCMT解(P317+19T220+19N89+63)を基準とし,発震機構方位差・応力場極性の判別(月刊地震予報87)と震源位置を比較する.2011年2月27日のM5.5Pの震央は南東24kmに位置し,CMT解(P144+1T49+79N234+11)は,方位差が69.1°と大きいが,非双偶力成分比が-30%と圧縮過剰で,T軸とN軸との強度差が小さく入替易く,T軸とN軸の入替TexNで22.6°となる.入替のないP軸方位144°は317°の基準とは逆方位でほぼ一致している.今回の2017年6月25日の震央は基準から南方51kmと最も離れており,CMT解(P118+3T5+81N208+8)も逆断層型であるが,IS解(P121+10T219+37N18+51)は圧縮横擦断層型と異なり,基準からの方位差は85.1°・38.1°と異なっている.方位差の大きなCMT解は非双偶力成分が-20%と圧縮過剰であり,T軸強度とN軸強度の差が小さく入替易く,応力軸入替TexNによって方位差は30.4°となる.
これら3つのM5.5以上の飛騨地震では,応力軸入替のないP軸方位は,フィリピン海プレートとアムールプレートの相対運動の方位および逆方位とほぼ合致している.フィリピン海プレートは南部フォッサマグナを境界として日本列島中部に衝突している.このプレート運動による歪の蓄積が破壊限界強度を越えて飛騨の地震が起こしている.プレート運動による圧縮応力が働き,上下に伸長するのが逆断層型で,左右に伸長するのが横擦断層型である.この相違は主応力軸入替TexNによって起こる.

図216.飛騨地震の初動発震機構IS解の1998年8月16日の飛騨最大地震CMT解を基準にした震央距離・方位・深度差と発震機構方位差・応力場極性・方位差.

今回の飛騨連発地震のIS解265個の応力場極性を判定すると,正極性が217個・総規模M6.3,逆極性が48個・総規模M5.5である(図216).これらの発震機構型は逆断層p型と横擦断層np型を主体とするが,そのP軸方位は正極性では北西方向のプレート相対運動方位とその逆方位(図217:左下図中央付近の紫折線)であるが,逆極性では東西方向と異なる(図217:右下図).
東西方向の圧縮応力は,飛騨地域の跡津川断層・阿寺断層・根尾谷断層や近畿の主要活断層の変位に対応することから,「太平洋の力」(Huzita, 1980)と呼ばれている.現在観測されている地震活動では少数の逆極性応力場であるが,歴史地震では巨大変位を起こしており,防災上注目される.

図217.飛騨地震の初動発震機構IS解の1998年8月16日の飛騨最大地震CMT解を基準にした応力場極性別,主応力軸方位の比較.

これまでの飛騨の最大地震1998年8月16日M5.6np3kmは,西南日本最大地震1998年5月4日M7.7-nto36kmの3か月後である(表23).これらの地震の前には,1995年1月17日阪神淡路地震M7.3nt16km,1997年3月26日沖縄トラフ最大地震M6.6+nt12kmがあり, 1998年8月16日の飛騨地震後,1999年9月21日台湾最大の集集地震M7.7+p0km,南海トラフ最大地震2004年9月5日M7.4Pe44km ,2007年4月20日沖縄トラフ最大更新地震M6.7T21km,2011年2月6日に開始した飛騨地震とともに前震を開始した東日本大震災が3月11日に本震に到った(速報55).
今回の飛騨連発地震は,沖縄トラフ最大更新地震2015年11月14日M7.1+nt17km(速報74)・2016年2月6日台湾南部地震M6.4(月刊地震予報77)・2016年4月16日熊本地震M7.3+nt12km(月刊地震予報79)そして2016年10月21日M6.6+np11km鳥取県中部地震(月刊地震予報85)の8ヶ月後に起こっている.

年月日時分 smallcir小円区 海溝距離km M発震機構型 深度(スラブ上面)km 震央距離(方位)/深度差km 「発震機構方位差org 極方位・伏角org 応力場極性区分 極性方位差
2017/6/28(18:23) 足柄西 129 M3.5p 5(-38) 53(186.2)/+2 67.1 126-21 TexN 39.4
2017/6/27(8:40) 足柄西 127 M3.3p 7(-36) 51(183.2)/+4 88.3 120-38 TPexN 134.0
2017/6/27(2:09) 足柄西 129 M3.3p 5(-38) 52(186.3)/+2 79.5 126-10 TexN 29.8
2017/6/26(0:38) 足柄西 129 M3.5np 5(-38) 51(185.4)/+2 32.8 336-58 org 32.8
2017/6/25(23:29) 足柄西 129 M3.6np 6(-37) 51(184.3)/+3 34.2 347-62 org 34.2
2017/6/25(23:13) 足柄西 128 M3.6np 6(-37) 51(184.6)/+3 33.7 334-55 org 33.7
2017/6/25(15:17) 足柄西 127 M4.7P 7(-36) 52(184.1)/+4 89.6 314-23) TexN 44.9
2017/6/25(15:16) 足柄西 127 M3.4p 7(-36) 52(184.3)/+4 80.0 309-18 TexN 40.5
2017/6/25(9:48) 足柄西 128 M3.5p 6(-37) 52(185.6)/+3 82.2 137-24 TexN 28.3
2017/6/25(7:02) 足柄西 128 M5.6np 7(-36) 51(184.0)/+4 55.5 116-24 TexN 52.3
2017/6/25(7:02) 足柄西 128 M5.6P 7(-36) 51(184.0)/+4 76.4 319-18 TexN 35.9
2016/10/21(14:07) 紀南 324 M6.6+np 11(-132) 鳥取県中部 33.9 147-84 org 33.9
2016/4/16(1:25) 九州 269 M7.3+nt 12(-90) 熊本地震 62.8 91-73 PexT 146.6
2016/4/1(11:39) 東南海 56 M6.5p 29(+11) 紀伊沖 95.1 338-15 TexN 34.7
2016/2/06(04:57) 台湾 60 M6.4+pr 16(-1) 台南 85.9 204-35 PTexN 134.5
2015/11/14(05:51) 琉球 352 M7.1+nt 17(-151) 沖縄トラフ最大更新 102.1 107-14 PTexN 129.9
2014/11/22(22:08) 足柄西 182 M6.7P 5(-66) 47(30.2)/+2上越 38.3 255+7 org 38.3
2014/8/29(4:14) 南海 133 M6.0P 18(-27) 日向灘 92.1 122-0 TexN 36.7
2014/3/14(2:06) 南海 286 M6.2Tr 8(-46) 周防灘 81.6 106-11 TPexN 128.0
2013/4/17(17:57) 駿河 -89 M6.2+npo 9(+3) 三宅島 32.5 154-8 org 32.5
2013/4/13(5:33) 紀南 192 M6.3+pr 15(-61) 淡路島 92.5 289-24 TPexN 145.4
2011/11/8(11:59) 琉球 333 M7.0tr 217(+65) 琉球スラブ 69.3 13-25 PexT 141.7
2011/3/15(22:31) 足柄西 12 M6.4npe 14(+5) 富士山 57.4 126+12 TexN 46.1
2011/2/27( 足柄西 158 M5.5P 4(-54) 24(218.9)/+1 49.1 205+42 org 49.1
2010/2/27(5:31) 琉球 22 M7.2+nt 37(+27) 琉球スラブ 84.7 106-27 PexN 39.2
2009/9/3(22:26) 琉球 209 M6.0t 167(+101) 薩摩半島 92.2 116-4 TexN 48.8
2009/8/11(5:07) 駿河 11 M6.5+nte 23(+14) 駿河トラフ 69.0 168+45 PexT 129.8
2007/4/20(10:45) 八重山 247 M6.7T 21(-66) 沖縄トラフ最大更新 71.5 71+26 TexN 50.3
2007/3/25(9:41) 足柄西 291 M6.9P 11(-116) 能登 53.7 308-35 org 53.7
2006/6/12(5:01) 南海 262 M6.2t 145(+33) スラブ内 71.3 330-26 TexN 45.2
2005/11/22(0:36) 琉球 198 M6.0T 146(+85) スラブ内 95.0 100-3 TPexN 133.7
2005/3/20(10:53) 九州 385 M7.0+nt 9(-188) 福岡県北部 76.3 139-69 PexT 140.5
2004/9/8(23:58) 東南海 -5 M6.5Po 36(+28) 紀伊沖 84.2 356+10 TexN 40.3
2004/9/7(8:29) 東南海 4 M6.5Pe 41(+33) 紀伊沖 90.2 153+17 TexN 33.7
2004/9/5(23.57) 東南海 5 M7.4Pe 44(+35) 紀伊沖 67.2 3+25 TexN 54.2
2004/9/5(19:07) 東南海 10 M7.1Pe 38(+29) 紀伊沖 92.8 155+17 TexN 34.6
2002/3/31(15:52) 花蓮 0 M7.0Pe 55(+49) 台湾花蓮 62.3 270+55 PexN 33.4
2002/3/26(12:45) 八重山 17 M7.0+po 0(-6) 八重山沖 29.6 293+38 org 29.6
2001/12/18(13:02) 八重山 51 M7.3Tr 8(-6) 八重山沖 3.7.3 328+5 org 37.3
2001/3/24(15:27) 南海 279 M6.7Tr 46(-75) 広島沖 74.9 80+13 PexN 31.7
2000/10/6(13:30) 紀南 336 M7.3-nt 9(-140) 鳥取県 50.8 43-57 PexT 133.7
2000/7/1(16:01) 駿河 -69 M6.5npo 16(+10) 三宅島 40.8 56-10 org 40.8
2000/6/25(15:34) 琉球 87 M6.0P 36(+15) 大隅半島沖 96.6 331-30) TexN 52.9
2000/6/7(6:16) 足柄西 337 M6.2P 21(-128) 敦賀沖 89.0 128-29 TexN 40.4
2000/6/6(23:57) 琉球 13 M6.2pe 28(+19) 屋久島沖 71.7 134-5 TexN 24.5
1999/9/21(02:47) 台湾 57 M7.7+p 0(-16) 蒐集地震 53.4 224+9 PexT 136.1
1999/1/24(9:37) 琉球 98 M6.6T 40(+16) 種子島 105.8 103+16 PTexN 140.6
1998/8/16(3:31) 足柄西 161 M5.6np 3(-57) 基準 基準 基準 基準 基準
1998/5/4(08:30) 八重山 -123 M7.7-nto 35(+29) 八重山沖 94.3 116+9 Texn 39.7
1997/6/25(18:50) 南海 364 M6.6-np 8(-155) 山口県 59.9 161-59 PexT 124.0
1997/5/24(2:50) 駿河 85 M6.0-t 23(-3) 浜名湖沖 92.2 285+8) PTexN 131.0
1997/3/26(17:31) 九州 252 M6.6+nt 12(-78) 川内 90.5 114+78 PexT 156.2
1996/10/19(23:44) 九州 111 M6.9P 34(+7) 日向灘 84.0 335-14 TexN 30.7
1996/10/18(19:50) 九州 107 M6.4p 38(+12) 種子島沖 85.2 337-12 TexN 29.3
1995/1/17(5:46) 東南海 227 M7.3nt 16(-78) 阪神淡路 57.6 106-66 PexT 136.4

3.2017年7月の月刊地震予報

2017年6月の日本全域CMT個数は,18個と先月2017年5月の13個から増加したが,地震断層面積のプレート運動面積に対する比は0.074と先月の0.205より減少し,先々月の1割以下に逆戻りした.2017年前半を0.093の1割以下に保ち,1997年の年間最低記録0.107を凌いでいる.嵐の前の静けさは続いており警戒が必要である.
最も警戒を要するのがフィリピン海プレート衝突・沈込域である.2017年6月のCMT解数9個・比0.105とプレート運動の1割しか消化されていない.フィリピン海プレート運動に敏感に反応するとともに東日本の太平洋プレート運動とも関係の深い飛騨で連発地震が起こった.今後予想される巨大南海トラフ地震に備えて表23を作成した.今回はその兆候に迫るに到らなかったが,解析を進める予定である.応力場極性によってフィリピン海プレートと太平洋プレートの影響を分離できたことは今後の解析に役立つであろう.
先月の宮古島沖連発地震(月刊地震予報92)は, 2017年5月9日10時54分M6.4と5月30日15時20分M5.3であるが,この発震機構方位差が22.0°とほぼ一致しており,震源域の応力は5月9日M6.4によって解放されず,5月30日まで保持していることを示していた.2017年6月3日2時26分にも南南西15km でM5.3+nt50/68(+54)kmが起こったが発震機構方位差17.3と最初の地震と変化せず,応力場は保持された状態のまま6月末まで地震が起こっていない.今後の動静に警戒が必要である.
日本海溝域の三陸沖でも5月20日に連発地震が起こったが(月刊地震予報92),以後,6月末まで地震は全く起こっていない.
千島海溝域では,2016年10月の1個0.155以降,4か月間0.003以下であったが,2017年3月に4個0.022と活動を再開し警戒を呼び掛けていた.2017年4月には3個0.054, 5月には2個0.070, 6月には3個と0.091と着実に比を増大させているので警戒が必要である.

引用文献

Huzita, K. (1980) Role of the Median Tectonic Line in the Quaternary tectonics of the Japanese Islands. Memoirs of Geological Society of Japan, 18, 335-348.