月刊地震予報

月刊地震予報144)日本海溝域茨城沖の東北沖震源帯M6.0連続地震,琉球海溝域台湾沖M6.3,2021年9月の月刊地震予報

1.2021年8月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2021年8月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で12個0.234月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で8個0.700月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.059月分,南海・琉球海溝域で3個0.344月分であった(2021年8月日本全図月別).
 8月に起きた地震の最大は,琉球海溝域台湾沖の2021年8月5日M6.3で,日本全域の総地震断層面積規模はΣM6.6.M6.0以上の地震としては次に2021年8月4日茨城沖東北沖震源帯M6.0が続く.M6.0以上の地震の震度分布は,茨城沖M6.0で本州北東部が広く震度1以上を観測したが,これより規模の大きな台湾沖M6.3は八重山諸島に限られている(図421)

図421. 2021年8月のM6.0以上のCMT解の震度分布.
 2021年8月4日東北沖震源帯茨城沖M6.0・2021年8月5日琉球海溝域台湾沖M6.3の震度分布.
赤色×:震央,1-3:震度.気象庁HomePageより.
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2.年間地震動向

 2020年9月から2021年8月までのCMT解による年間地震活動(図422)は,日本海溝域Japanでのみ総地震断層面積がPlate運動面積の2.13年分と大きく超過し,他の海溝域では0.1以下と静穏であった.日本海溝域では,2021年2月までPlate運動面積の蓄積(図422上図JapanのBenioff図左下端から右上に向かう灰色直線)に沿って積算地震断層面積が増大したが,2021年2月13日M7.3(月刊地震予報138)による大きな段差でPlate運動面積を上回り,3月20日M6.9 (月刊地震予報139)と5月1日M6.8(6794>月刊地震予報141).の2つの段差の後の静穏化の中で8月4日M6.0が起った.琉球海溝域RykNnkのBenioff曲線には8月5日M6.3の段差が認められる.

図422.2020年9月から2021年8月までの日本全域年間CMT解の海溝距離断面(左図)と地震断層面積変遷(右図).
 海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時間経過で,開始(下2020年9月1日)から終了(上2021年8月31日)までの設定期間.右図右端の数字は2020年と2021年の月数である.設定期間を150等分した等分期間2.4day(右上図左下端)毎に地震断層面積を集計している.
 Benioff図(上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4では4分の1に縮小している.下縁の鈎括弧内の数値[8.0] [7.6] [7.3] [7.3] [7.6]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震の地震断層面積として解放された場合の規模で,日本全域では毎年M8.0の地震が1個起ることを意味している.上図右下端の(6.2step)は,等分期間2.4日以内にM6.2以上の地震が起ればBenioff曲線に段差が生じることを示している.
 日本海溝域Japanでは累積地震断層面積がPlate運動面積の2.13(右上のBenioff図上縁)倍とBenioff図枠を大幅に超過して重なるので,右隣の千島海溝域Chishimaの枠を右方にずらしてある.
 地震断層移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は断層面積規模で,等分区間「2.4day」に前後区間を加えた約1週間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算(2002>速報36)した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積の規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
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3.日本海溝域茨城沖の東北沖震源帯M6.0連発地震

 2021年8月4日5時33分に日本海溝域茨城県沖海溝距離76km深度18kmの島弧下部地殻・太平洋Slab境界の東北沖震源帯でM6.0Pが起った(図421左,図423).
 2021年8月4日M6.0の震央は,海溝傾斜方位(図423右下の主歪軸方位図中央横線TrDip)とPlate運動方位(図423右下図のSub紫色折線)が一致する鹿島小円北部に位置する.この震源域では,8月3日0時35分から8月4日13時40分の間にM4.7PからM6.0PのCMT解6個が震減距離10km以内で連発した.これに先行して2021年5月29日8時21分M5.3P・9時4分M5.0P・10時2分M5.7Pの連発地震があった.先行した5月29日の連発地震の震央も8月4日M6.0から20km以内に収まっている.
 連発地震の圧縮主歪軸方位は主歪軸方位図(図423右下図)下端に重なり会うPink色丸印である.主歪軸方位図の中央横線が基準の島弧側へのSlab上面傾斜方位で,下端は時計回りに180°回転した海溝側傾斜である.Slab上面傾斜と逆の海溝側傾斜の主圧縮軸方位は,摩擦のあるSlab上面に沿う剪断歪が解放された地震であることを意味する(月刊地震予報107 6648>月刊地震予報136).

図423. 茨城県沖の日本海溝域東北沖震源帯M6.0連発地震
2020年9月から2021年8月までの年間日本海溝域CMT解の主歪軸方位.
数字とM:M6.8以上のCMT解と2021年8月4日M6.0の震源.
時系列図(右中図)右縁の数字は2020年と2021年の月数.
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 今回の連発地震最大の2021年8月4日M6.0の主歪軸方位を基準とした歪軸方位偏角は15°以内て,ほぼ一定に保たれている.同一小円方位には,連発地震後の8月27日M5.1P海溝距離143kmが島弧Mantle・Slab境界面の前弧沖震源帯,8月22日M5.3Pe海溝距離16kmの島弧上部地殻・Slab境界面の日本海溝地震帯でも起っており,その主圧縮軸方位は主歪軸方位図の下端と上端の海溝側傾斜で,偏角は12°と25°と近接し,同一剪断歪場における地震であることを示している.
 大地震の前には前震が繰り返し,連発地震となる.前震の主歪軸方位は本震で主歪が解放されるまで主歪方位を保つことが東北沖平成巨大地震M9.0(速報29)・熊本地震M7.3(速報79)・鳥取県西部地震M6.1(月刊地震予報)で知られている.今回の連発地震の主歪方位が5月から8月まで一定に保たれていることと,両隣の島弧沖震源帯から日本海溝震源帯までの広い範囲のSlab上面で保たれていることは,広大な剪断歪場が形成されていることを物語り,大地震の発生が心配される.
 今回の2021年8月4日M6.0の震源域は2011年3月11日東北沖平成巨大地震の茨城沖誘導地震M7.9の東方で,1677年11月4日の延宝地震M8.0の北方に位置する(図424).1611年12月2日慶長地震M8.1によって慶長歪蓄積周期の歪が解放され,新たに開始した平成歪蓄積周期最初の大地震が延宝地震である(月刊地震予報122).現在は,2011年3月11日東北沖平成巨大地震によって平成歪蓄積周期の歪が解放され,新たな歪蓄積周期を開始した.最初の巨大地震が何時何処で起るかは,地震予報における最大の課題であるが,その有力候補として延宝地震(1677年)に対応する地震が挙げられる.

図424.1600年以降のM6.5以上の日本海溝域歴史被害地震・震度観測地震・CMT解.
2021年8月4日M6.0(桃色×印)を図397(6712>月刊地震予報138)に加筆.
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 日本海溝域の平面化地震帯・東北沖地震帯・日本海溝地震帯のM6.5以上のCMT解・震度観測地震の総地震断層面積は,1952年M8.2までPlate運動面積蓄積直線(図425右図左下のBenioff図左下端から右上へ伸びる灰色直線)に沿って増大していたが,1994年まで静穏化し,2003年M8.0と2011年平成M9.0が大きな段差を形成している.海溝距離断面図(図425中図)では襟裳小円区(上図)にのみ海溝距離150km以上の太平洋Slab中軸部に震源が分布し,鹿島小円区(下図)には海溝外地震が分布せず,日本海溝域の南北による地域差が認められる.

図425.1922年1月から2021年8月までのCMT解・震度観測地震による,平面化地震帯・東北沖震源帯・日本海溝震源帯のM6.5以上の地震および2021年8月4日M6.0震源から震央距離20km以内の地震.
震央地図(左図)の数字とM:M8.0以上の地震の発生年と規模.
2021年8月4日M6.0から震央距離20km以内の地震を震央地図(左図)にPink色数字とMで示すとともに時系列図(右下図)の右縁に移動平均地震断層規模areaM・Benioff図.下端のPink色太線は縦断面位置を示す.
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 2021年8月4日M6.0の地震から震央距離20km以内の地震について,2年間に地震が起らない(この場合地震断層面積移動平均規模曲線が基線まで低下する)のは1930年~1935年・1967年~1972年・1995年~2004年の3回ある(図425右下図右端のareaM図).後の2回の空白期間は,平面化・東北沖・日本海溝の震源帯でもM6.5以上の地震のない空白期と重なるが,最初の空白期間には海溝外の日本海溝震源帯で1933年昭和三陸地震M8.1が起っている.
 今回の連発地震は,2016年以降,平面化・東北沖・日本海溝の震源帯でM6.5以上の地震が起っていない空白期が続く中で起った.このような連発地震域と各地震帯との対応は過去100年間に見当たらず,日本海溝域の地域性とともに平成歪蓄積周期末期と新たな歪蓄積周期開始期との相違とも考えられるが,今後の動向が注目される.

4.琉球海溝域台湾沖M6.3

 琉球海溝域の八重山・花蓮小円区境界の台湾沖において,2021年8月5日6時50分,M6.3T深度55kmが起った.これは琉球海溝震源帯Slab内の地震である (図421右図,図426).
 

 2021年の琉球海溝域では,2021年3月27日M6.2が八重山小円区の平面化震源帯Slab内で起っており(月刊地震予報139),Benioff曲線の段差となっている(図426の右中図の時系列図左端).
 2021年8月5日M6.3Tの引張主歪軸方位(図426右下の主歪軸方位図の青色三角印)は方位図の基準の中央横線上に位置し,Plate運動方位(図426右下の方位図のSub紫色折線)とは異なる.一方,2021年3月27日M6.2npの圧縮主歪軸方位(図426右下の方位図の黄緑色丸印)は,対照的にPlate運動方位の紫色折線上に位置する.
 琉球海溝域地震のCMT解に震度観測地震と歴史被害地震も加え,1922年以降100年間2472個の地震について,古い震源図上に新しい震源を加えた震央地図と海溝距離断面図(図427左図・中図)を作成した.発震機構の判明している1994年以降の彩色されたCMT解が,発震機構不明の以前の震源(灰色丸印)をほぼ覆っていることから,1994年前後で震源分布に大きな変動がなかったことが分かる.

 累積地震断層面積のBenioff曲線は,Plate運動面積の3分の1程度でほぼ一定に増大している(図427右中時系列図左端)ことが判明している(月刊地震予報139).
 時系列図の震源分布は一様でなく空白域があり,地震活動が断続的に変動している.しかし,最北端の九州小円区では空白域はなく地震活動が継続している.九州小円区は南海Troughと琉球海溝の接続部に当り,Philippine海Plateの沈込軸が島弧側に凸に屈曲している,島弧側へ屈曲した沈込境界に沿った沈込SlabはTable Clothのように過剰なSlab面積によって形成される襞(図332:月刊地震予報117)と関係していよう.
 琉球海溝域のCMT解の総地震断層面積は,Plate運動面積の4分の1ではあるが,ほぼ一様に増大している.CMT解についても一様に増大しているが,琉球海溝・琉球平面化・沖縄海盆の震源帯の各Benioff曲線には同期しない段差が認められ,Plate運動による歪が琉球海溝から平面化そして沖縄海盆の震源帯順に移行伝播していることが分かる(月刊地震予報139の図409).
CMT解に震度観測地震・歴史被害地震を加えた100年間(図428)についても検討する(図428).

各震源帯の上位3位の地震(鈎括弧内の数字は順位)を新しい順に示すと;
 琉球海溝震源帯(図428右下)
[1] 1984年11月15日M7.8花蓮小円区,
[3] 1978年7月30日M7.4八重山小円区,
{2} 1972年1月25日M7.5八重山小円区,
{3}1947年9月27日M7.4八重山小円区.
琉球平面化震源帯(図428左下)
[3] 2011年11月8日M7.0tr琉球小円区,
[1] 1959年4月27日M7.7八重山小円区,
[2] 1958年3月11日M7.2八重山小円区,
[3] 1926年6月29日M7.0琉球小円区.
琉球島弧震源帯(図428右上)
[3] 2016年4月16日M7.3+nt九州小円区熊本地震
[1] 1999年9月21日M7.7 +p台湾小円区集集地震,
[3] 1951年11月25日M7.3台湾小円区
[2] 1922年9月2日M7.4八重山小円区.
 沖縄海盆震源帯(図428左上)
[2] 2015年11月14日M7.1+nt琉球小円区,
[1] 1938年6月10日M7.2八重山小円区,
[3]1922年9月15日M7.0花蓮小円区.
である.
 琉球海溝震源帯(図428右下)の総地震断層面積のPlate運動面積に対する比は0.21で,琉球海溝域全体の0.34(図427)の3分2を占め,Benioff曲線はほぼ一様に増大するが,2}・{3}・{1}の大地震を含む1960年から1985年まで傾斜が大きく,活発化している.
 琉球平面化震源帯(図428左下)の総地震断層面積の比は0.04で,1958・1959年{1}・{2}による大きな段差によって特徴付けられる.この段差は琉球海溝震源帯(図428右下)の活発化に先行している.両震源帯の活発化の前に空白域が広がるが,この広がりも琉球平面化震源帯が先行している.
 沈込Slabと島弧地殻・Mantleが衝突している琉球島弧震源帯(図428右上)の総地震断層面積の比は0.07で,Benioff曲線は1952年まではほぼ一様に増加したが1999年の集集地震M7.7[1]まで静穏化し,1960年から1985年まで活発化した琉球海溝震源帯(図428右下)・琉球平面化震源帯(図428左下)とは対照的である.
 背弧海盆が拡大している沖縄海盆震源帯(図428左上)の総地震断層面積の比は0.02と最小で空白域の拡大が最も大きいが,大局的に琉球島弧震源帯(図428右上)と類似している.2000年以降は九州小円区から花蓮小円区まで活動が活発で2015年M7.1[2]が起っており,2016年M7.3熊本地震{3}の起った琉球島弧震源帯{図428右上}と類似している.

4.2021年9月の月刊地震予報

 M6.5以上の地震は起っていないが,2021年2月から活発化した日本海溝域茨城沖の延宝地震震源付近で連発地震が継続し,巨大地震の前震の可能性もあることから警戒が必要である.
 静穏化中の琉球海溝でもM6.3が起り,Philippine海Plate沈込に新たな動きが開始されることも考えられるので警戒が必要である.

月刊地震予報143)2021年7月13日千島海溝域得撫島沖M6.2のBenioff図解析,2021年8月の月刊地震予報

1.2021年7月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2021年7月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で14個0.130月分,千島海溝域で2個0.253月分,日本海溝域で4個0.087月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.074月分,南海・琉球海溝域で6個0.057月分であった(2021年7月日本全図月別).
 日本全域総地震断層面積比は2021年1月の0.085月分から,2021年2月の1.786月分への急増の後,3月には0.647月分,4月に0.044月分に静穏化したが,5月に0.612月分へ活発化して,6月に0.041月分に静穏化し,7月に0.130月分と活発化に転じている.
 8月に起こった最大の地震は,千島海溝域2021年7月13日M6.2得撫島沖であり.日本全域の総地震断層面積規模はΣM6.4で,最大地震の他にM6.0以上の地震はなかった.

2.2021年7月13日千島海溝域得撫島沖M6.2のBenioff図解析

 千島海溝域の得撫島沖で2021年7月13日9時30分M6.2pr深度30kmがあった(図416).

図416. 2021年5月16日十勝沖M6.1・2021年7月13日得撫沖M6.2の震度分布.
赤色×:震央,1-3:震度.気象庁HomePageより.
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 2021年の千島海溝域では3月3日択捉沖M5.9・5月16日十勝沖M6.1(月刊地震予報141)と今回の7月13日得撫沖M6.2が起り,巨大地震の前兆か心配される(図417).

図417.2021年千島海溝域のCMT解発震機構方位.
数字とM:発生年月日と規模.時系列図(右中図)右端の数字は2021年の月数.
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 日本全域のCMT解は日本列島を覆うように分布しているが(図418上左図:震央地図), 1994年9月のCMT解観測以前については1922年1月から震度分布観測地震があり,遜色のない分布が認められる(図418下左図:震央地図).
 海溝から沈込む海洋底Slabに沿う震源の分布は,千島海溝域(A),日本海溝域(B),伊豆・小笠原海溝域(C),南海・琉球海溝域(D)で異なっている(図418右図:海溝距離断面図).沈込む海洋底Slabと島弧間のPlate運動によって蓄積する歪により地震が発生するが,海溝域による震源分布の相違は,歪を蓄積する位置や規模が異なっているからであろう.

図418.日本全域のCMT解発震機構方位(上)および震度観測震源(下).
 左図:震央地図,右図:海溝距離断面図.
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 蓄積する歪の規模や地震としての解消をBenioff図(特報5)を用いて解析する(図419).Benioff図の横軸は海溝域のPlate運動によって海溝から沈込む海洋底の面積であり,縦軸は作図開始(下:1994年9月)から終了(上:2021年7月)までの経過時間である.この縦軸には2年毎に横線区切と右端に10年毎の西暦年数を付してある.2011年3月11日の東北沖巨大地震(本予報では年号を入れて「東北沖平成巨大地震」と呼ぶ)の横線も加えてある.海溝配列に合わせ,右から左に千島海溝域Chishima(A),日本海溝域Japan(B),伊豆・小笠原海溝域OgsIz(C),南海・琉球海溝域RykNnk(D)と日本全域TotalのBenioff図を配列した.各海溝域のBenioff図の幅は,各海溝域のPlate運動面積に比例させてあり,日本全域については4つの海溝域総計の4分1(Total/4)にした.各海溝域のPlate運動面積は図下端の鈎括弧内に[9.2] [8.8] [8.5] [8.5] [8.8]のように規模を示す.日本全域のPlate運動面積の規模はM9.2で,Plate運動による歪が1個の地震で開放されれば,その地震の規模がM9.2になることを意味する.
 枠の左下端から積算を開始したPlate運動積算直線(灰色)は右上端に到達する.CMT解の地震断層面積の積算も枠の左下端から出発し,逆断層型(p pr赤色)・横擦断層型(np nt緑色)・正断層型(t tr灰色)の順に右方に積算した曲線がBenioff曲線である.右端の黒色曲線が総地震断層面積である.総地震断層面積のPlate運動面積に対する比は上端の数字「1.45 0.36 1.31 6.07 0.82」と示した,日本全域では,Plate運動の1.45倍の地震が発生しており,南海・琉球海溝域では3分の1しか発生していない,比が1を超えると,総地震断層面積曲線は海溝域枠から右外にはみ出す,1.45の日本全域は右隣のD ,1.31のCについてはBの上にはみ出させ重ねて作図した(図419上).
 東北沖平成巨大地震M9.0によって6.07倍になっている日本海溝域(B)については,図の右端を遥かに越えてしまう(図419上).そこで,期間終了までの総地震断層面積Benioff曲線が枠右上端に到達するよう横軸を伸縮させ,全てのBenioff曲線を枠内に収めたのが図419の下図である.横軸の伸縮によってPlate運動直線の傾斜は変化し,比が1以下であれば枠右縁と交差し,1以上であれば枠上縁と交差する.伸縮合致させた場合には総地震断層面積のPlate運動面積比の数字の後に「F」を付して区別し,下縁の鈎括弧内の数値には総地震断層面積規模を[9.3] [8.5] [8.6] [9.1] [8.7]と示す.日本海溝域(B)ではPlate運動面積規模がM8.5 であるが(図419上),総地震断層面積はその6.07倍でその規模がM9.1である(図419下).
 Benioff図は開始から終了までの作図期間を150等分した等分割期間毎に地震断層面積を集計している.その分割期間は下縁左端に日数で「65.5days」と示した.Benioff曲線の横軸座標が変化する地震断層規模は下縁右端に(7.4step)と示した.約2ヶ月の分割期間内にM7.4以上の地震が発生すればBenioff曲線は右に変化する.

図419.日本全域・全海溝域のBenioff図.
 各海溝域図の幅はPlate運動面積に比例させてあり,灰色のPlate運動面積積算直線と逆断層型(赤色)・横擦断層型(緑色)・正断層型(灰色)の地震断層面積を左から右へ積算したBenioff曲線を示す.右縁の数字は西暦年数.上図はPlate運動面積基準,下図は総地震断層面積基準.
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 日本全域では東北沖平成巨大地震に対応する大きな段差があるが,その前後の総地震断層面積曲線はPlate運動面積直線とほぼ並行し,Plate運動による歪がほぼ定常的に地震として解放されていることを示している.千島海溝域(A:図419右端)のBenioff曲線は2013年M8.3(逆断層型:赤色)と2007年M8.2(正断層型:灰色)の大きな段差の巨大地震とその前後の静穏期によって特徴付けられる.
 千島海溝域では,1922年からの震度分布地震とSeno & Eguchi (1983)をCMT解に併せると,M6.0以上の地震が290個,総地震断層面積規模はΣM9.1に達する(図420).巨大地震と長い静穏期の交互する千島海溝域は,1930年から1950年までの長い静穏期後,1970年まではPlate運動面積増加に沿って増大し,以後1994年までの静穏期を経て活動期に入っている.

図420. 千島海溝域のM6.0以上のCMT解・震度分布地震の震源分布.
 海溝距離断面図(左図)・震央地図(左図右下)・時系列図(右中図)の数字「1-7」はM8.0以上の震源(本文参照).時系列図右縁の数字は西暦年数.
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 千島海溝域では1922年以降M8.0以上の地震が7個(図420)あり;
   1. 2013年5月24日Kamchatka西方沖深度609km M8.3,
   2. 2007年1月13日松輪東方沖深度30km M8.2,
   3. 1994年10月4日択捉沖深度28km M8.2,
   4. 1963年10月13日択捉沖深度0km M8.1,
   5. 1958年11月7日択捉沖深度13km M8.1
   6. 1952年11月5日Kamchatka沖0kmM8.2
   7. 1923年2月4日Kamchatka沖0kmM8.3
これらの地震は,時系列図(図420右中図)左縁のBenioff曲線の段差に対応し,地震断層面積移動平均規模areaM曲線の嶺に対応する.
 震源分布にも周期的変動が認められる.1930年から1950年までの静穏期の末期には,千島小円区で殆ど地震が起らず空白になっている.この様な空白は東北沖平成巨大地震の前にも認められ,この対応が正しければ,今後,Plate運動に沿ってM8.0級の地震が連発することも考えられる.

3.2021年8月の月刊地震予報

 静穏化していた千島海溝域の地震活動が活発化しており,今後の地震活動の推移に警戒が必要である.

引用文献

Seno, T. & Eguchi, T. (1983) Seismotectonics of the western Pacific region. Geodynamics of the western Pacific-Indonesian region, Geodynamics Series, 11, American Geophysical Union, 5-40.

月刊地震予報142)2021年7月の月刊地震予報

1.2021年6月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2021年6月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で14個0.041月分,千島海溝域で1個0.022月分,日本海溝域で7個0.103月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.045月分,南海・琉球海溝域で4個0.034月分であった(2021年6月日本全図月別).日本全域総地震断層面積比は2021年1月の0.085月分から,2021年2月の1.786月分への急増の後,3月には0.647月分,4月に0.044月分に静穏化したが,5月に0.612月分へ活発化して,6月に0.041月分に静穏化した.
 6月に起こった最大の地震は,日本海溝域の2021年6月20日M5.4で,太平洋Slabの前弧震源帯(月刊地震予報141)より深部の深発地震面(速報34)上部で起った.日本全域のCMT総地震断層面積規模はΣM6.0で,M6.0以上の地震はなかった.

2.2021年7月の月刊地震予報

 2021年には地震活動の増減を繰返しているが,南海Trough域や日本海溝域・千島海溝域の巨大地震の準備段階にあることも考えられることから(月刊地震予報141),今後の地震活動の推移を見守る必要がある.