速報49)2013年12月の地震予報

1.2013年11月の地震活動

 2013年11月のCMT解の地震個数とプレート運動面積に対する総地震断層面積の比は,日本全域で24個0.168月分,千島海溝域で2個0.297月分,日本海溝域で18個0.372月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.189月分,南海・琉球海溝域で2個0.014月分であった(2013年11月日本全図月別).
 日本全域で0.168月分の地震断層面積は,今年に入って8月に次ぐ静穏さであった.日本海溝域の地震個数は10月の13個から18個に増えたが,地震断層面積比は6.464から0.372に急減し,小さな地震が多数起ったことが分る(2013年11月東日本月別).
 11月の地震活動で注目される地震の月日・マグニチュード・発震機構型(震源震央分布解説)・深度を列記する;

  1. 千島得撫島沖地震:11月25日M6.0p30km.
  2. 宗谷海峡:11月25日M5.2 pr22km.
  3. 津軽海峡西方の日本海:11月23日M4.7p30km.
  4. 日本海溝スラブの正断層型地震:11月10日M4.8To49km.
  5. 関東のスラブ上面逆断層型地震:11月3日M5.1p63km・10日M5.5p64km・16日M5.3p72km.
  6. 伊勢湾下のスラブ地震:11月19日M5.7p344km.

2.地震予報

 得撫島沖では2012年7月から地震活動があり(速報29),今後の活動に警戒が必要である.
 宗谷海峡域は東日本震災後に地震活動が見られるようになった地域として今後の活動の進展が注目される.
 日本列島の日本海沿岸には北米プレートの下にアムールプレートが沈み込むプレート境界があり,1983年日本海中部地震M7.7や1993年北海道南西沖地震M7.8を起こして津波被害をもたらした.津軽海峡西方の今回の地震は,プレート境界よりも西側のアムールプレート表層で起っている(2013年11月日本全図月別).
 日本海溝外で正断層型地震が起っていることは,太平洋プレートの屈曲沈み込みが進行していることを示している.
 2013年には関東の日本海溝スラブ上面で正断層型地震が主体であったが,逆断層型地震が3個連続的に起ったことは,関東下の応力状態が変化したことを示唆していることも考えられ,首都圏の地震に警戒が必要である.伊勢湾下の日本海溝スラブの南に接する伊豆海溝スラブの地震も,その変化に関係していることも考えられる.

速報48)西之島噴火と沈み込みスラブ

1.西之島噴火

 2013年11月20日16時20分ごろ海上保安庁の航空機が,小笠原諸島の西之島南南東500mの海上に,直径200mの新たな島ができているのを確認した.中央付近にある火口から爆発的に黒い噴煙が噴き出して高さ約600mに達し,白い湯気はさらに高く上がっているとの報道がなされている.12月4日の国土地理院の航空機観測によると,島の南西寄りにある大きな火口とは別に,島の中央付近にも小さな火口があり,波浪浸食され難い溶岩流も確認されている.最も高い場所の標高は約27mに達し,面積は東京ドームに匹敵する約5万m2と見積もられている.西之島は,1973年9月11日~1974年の噴火によって東方に拡大したが,今回の噴火は40年ぶりにこの東側で起った.

2.太平洋スラブ裂け目と西之島噴火

 西之島は小笠原小円中心の東方に位置し,小笠原諸島の父島西北西に在る(図105).また同島は同心円状屈曲したまま上部マントル底まで沈み込む小笠原海溝スラブと,平面的に沈み込む伊豆海溝スラブとの境界に在る太平洋スラブの裂け目上に位置する(速報45).

図105.西之島周辺の赤色立体地図(アジア航測社提供).  小笠原海溝に小笠原海台が衝突し,その北西側の高まりに小笠原諸島が海面上に顔を出している.西側の南北方向の小笠原海盆に隔てられ西之島が位置する.西之島は伊豆七島から南に続く火山フロント上にあり,その北には1952年噴火の明神礁,1902年噴火の鳥島.南には1984年噴火の北硫黄島,1957年噴火の硫黄島がある.

図105.西之島周辺の赤色立体地図(アジア航測社提供).
 小笠原海溝に小笠原海台が衝突し,その北西側の高まりに小笠原諸島が海面上に顔を出している.西側の南北方向の小笠原海盆に隔てられ西之島が位置する.西之島は伊豆七島から南に続く火山フロント上にあり,その北には1952年噴火の明神礁,1902年噴火の鳥島.南には1984年噴火の北硫黄島,1957年噴火の硫黄島がある.

3.東日本大震災に対応する発震機構の変化

 東日本大震災前後で地震活動が最も顕著に変わった震源域として,西之島海域の小笠原小円区と小笠原海台小円区の境界部があげられる(図106).この境界部では小笠原海溝域の100km以浅と,西之島域の400km以深で地震が起こっており,地震活動が大震災前後で変わったのは400km以深の西之島震源域である.

図106.1994~2013年小笠原海溝域の引張主応力T軸方位分布.  震源は海溝から同心円状屈曲したまま上部マントル底の660kmまで達している.マントルのカンラン石(α)がスピネル型(β)に相転移する深度410km不連続面の下に,逆断層型地震と圧縮横ずれ断層(np)型地震が起っている.  右図は海溝側から見た断面図(右上)と時系列図(右下)で,横軸はMariana小円区・小笠原海台小円区・小笠原小円区の方位角である.時系列図で顕著なのは,海台・小笠原小円区境界の410km不連続面より下に2011年の東日本大震災前はスラブ屈曲に沿うT軸を持つ逆断層型地震(赤色),震災後は水平で海溝軸に沿うT軸を持つ圧縮横ずれ断層(np)型地震(黄緑色)が起っていることである.

図106.1994~2013年小笠原海溝域の引張主応力T軸方位分布.
 震源は海溝から同心円状屈曲したまま上部マントル底の660kmまで達している.マントルのカンラン石(α)がスピネル型(β)に相転移する深度410km不連続面の下に,逆断層型地震と圧縮横ずれ断層(np)型地震が起っている.
 右図は海溝側から見た断面図(右上)と時系列図(右下)で,横軸はMariana小円区・小笠原海台小円区・小笠原小円区の方位角である.時系列図で顕著なのは,海台・小笠原小円区境界の410km不連続面より下に2011年の東日本大震災前はスラブ屈曲に沿うT軸を持つ逆断層型地震(赤色),震災後は水平で海溝軸に沿うT軸を持つ圧縮横ずれ断層(np)型地震(黄緑色)が起っていることである.

 上部マントルの深度410kmには地震波速度不連続面が存在する.この不連続面は,マントル主要鉱物のカンラン石(α)がスピネル型(β)に相転移する温度圧力に対応している.この相転移反応の温度/圧力係数が正であるため,低温のスラブは,周囲の高温のマントルに比較して早く相転移して高密度になり,浮力を失い下方に続くスラブを圧縮する.このスラブ傾斜方向の圧縮主応力は,西之島域の地震活動と対応している.同域における震源は,同心円状屈曲スラブの上面から下面にわたって分布している.
 東日本大震災の前後で変ったのは発震機構である.大震災前に逆断層p型(赤色)であった発震機構が,大震災後に圧縮横ずれ断層np型(黄綠色)に変化した.この発震機構の変化は,スラブ面に直交していた引張主応力T軸が(図106左断面図で横棒;右図で点状),海溝軸に並行になったことによる(図106左断面図で点状;右図で横棒).すなわち震災前には,スラブ面に直交していた引張応力強度が海溝軸に並行する引張応力よりも大きかったので,中間主応力N軸が海溝軸に並行して逆断層型であったが,震災後には,海溝軸に沿う引張応力が増大してN軸がT軸に入れ替わったため,横ずれ断層型に変化したのである.
 日本海溝スラブは伊豆スラブを介して小笠原スラブに接続しているので,この発震機構の変化は大震災によって沈み込みを再開した日本海溝スラブの引張力が,小笠原スラブの応力場に影響を及したことを示している.
 ただし,発震機構型の変換を示す地震は,厳密には東日本大震災直前の2011年1月13日に既に起っており,大震災直前に日本海溝スラブ深部が変化を開始していたことを示唆している.

4.火山噴火と伊豆小円区の地震活動

 西之島噴火活動と地震活動の関連を調べるため,M6.5以上の伊豆海溝スラブ内地震を検討した(図107).東日本大震災から西之島噴火までに,2012年1月1日M7.0と2013年9月4日M6.8の2つの地震が410km不連続面付近で起っている.

図107.伊豆海溝・小笠原海溝域の1994年~2013年M6.5以上のスラブ内震源分布と時系列図.

図107.伊豆海溝・小笠原海溝域の1994年~2013年M6.5以上のスラブ内震源分布と時系列図.

 1994年以前については,1973年~1974年の西之島噴火前に,1972年2月29日M7.1・1972年12月4日M7.2が起っている(図108).また,観測船第5海洋丸遭難で31名の死者を出した1952年9月24日明神礁の噴火の後ではあるが,1953年11月26日房総沖地震M8.0が起っている.1984年3月~4月の北硫黄島北西方海底噴火に対しては,1984年3月6日M7.9が起っている.

図108.伊豆海溝・小笠原海溝域の1923年~1993年のスラブ内震源分布と時系列図.

図108.伊豆海溝・小笠原海溝域の1923年~1993年のスラブ内震源分布と時系列図.

5.西之島噴火と東日本大震災

 2011年3月11日の東日本大震災前の2010年12月から小笠原海溝域で大地震が起り(速報18),筆者は小笠原海溝スラブの挙動が伊豆海溝スラブを通じて日本海溝スラブに及び,東日本大震災が起ったのではないかと考えていた.
 今回の西之島噴火は日本海溝スラブ沈み込み再開による東日本大震災と関連していると考えられるが,前回の1973年~1974年西之島噴火に対応して日本海溝域でどのような地震活動があったのであろうか.噴火前の最も顕著な地震は,死者52人を出した1968年十勝沖地震M8.1(Seno & Eguchi,1983;理科年表などではM7.9とされている)である(図109).1968年十勝沖地震も太平洋プレートの沈み込み再開に対応していたとすれば,それ以後,1994年までの間に太平洋プレートの沈み込みが停止したことになる.

図109.日本海溝域の1923年~1993年M7.8以上の震源分布と時系列図.

図109.日本海溝域の1923年~1993年M7.8以上の震源分布と時系列図.

引用文献

Seno, T. & Eguchi, T.(1983) Seismotectonics of the Western Pacific region. in Geodynamics of the Western Pacific-Indonesian Region, Geodynamics Ser. 11, American Geophysical Union, 5-40.

速報30)2012年9月の地震予報:千島海溝スラブ最深地震,三つ目の宮城県沖地震か

1.千島海溝スラブ最深地震

 2012年8月には23個の地震が起こった[2012年8月日本全図(月別)].注目されるのは,8月14日千島海溝スラブ先端の深度654kmで起こった逆断層p型地震M7.3である.1994年以降の千島海溝スラブ先端では,東日本巨大地震後の2011年5月25日,深度585kmで起こったM5.4の横ずれ断層np型が最大深度であったが,その深度を約70km更新した.この深度は本速報に掲載している[日本全図]の断面図に表示できないので,今回表示深度範囲を拡大した.この最深地震は,先月の得撫(ウルップ)島沖地震(速報29)による沈み込み障害除去との関連が予想される.
 千島海溝スラブ先端地震と呼応するかのように,伊豆海溝スラブ先端でも8月18日に深度543kmでM5.2の横ずれnp型地震が起こっている.この深度は1998年2月7日深度552kmで起こったM6.4の逆断層p型地震に次ぎ,千島海溝スラブ先端と伊豆小笠原海溝スラブ先端における,太平洋プレート縁の地震活動が活発化していることを示している.

2.三つ目の宮城県沖地震か

 日本海溝域では14個の地震が起こり[2012年8月東日本(月別)],8月の総地震個数の半数以上を占め,東日本巨大地震の影響が続いていることを示している.8月30日早朝未明,岩手・宮城・福島県の太平洋沿岸を震度5強の地震が襲った.この地震の深度は60km,M5.6の逆断層p型であった.
 この地震は[速報26:2012年6月の地震予報]で警戒を呼びかけた「三つ目の宮城県沖地震」と関連していることは確かである.しかし,警戒を呼びかけた「三つ目の宮城県沖地震」の予想マグニチュードが7以上であるのに対し,今回の地震のマグニチュードは5.6と小さすぎる.来たるべき「三つ目の宮城県沖地震」の前震であるとも考えられるので,引き続き警戒が必要である.
 日本海溝スラブでは,8月8日に最上小円区の日本海溝でM4.5の正断層t型地震が起こっており,太平洋プレートのスラブ引が優勢であることを示している.福島県いわき沿岸の日本海溝スラブ上部でも8月26日,深度90kmでM5.2正断層t型の地震が起き,スラブ引優勢が示されている.このスラブ引優勢は千島海溝スラブ先端と伊豆海溝スラブ先端の地震活動と関連しているであろう.襟裳スラブ過剰域では8月3日深度44kmでM5.0の逆断層p型地震が起こっている.
 [2012年8月東日本(月別)IS]では,浜通でM3.5-3.8の正断層t・tr型・横ずれ断層np型地震が7個起き,東日本巨大地震の余震活動の継続を示している.