月刊地震予報185)日向灘の西南海溝九州TrPhKys震源区深度38㎞ M6.7ps と西南近海台湾nShPhTw震源区深度18km M6.1+bp,Philippine海Plate沈込境界の地震活動記録,2025年2月の月刊地震予報

1.2025年1月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2025年1月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で16個0.447月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で4個0.063月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.103月分,南海・琉球海溝域で11個で1.131月分であった(2025年1月日本全図月別).
 2025年1月の総地震断層面積規模はΣM6.8で,最大地震は2025年1月13日の九州小円区日向灘深度38㎞の西南海溝九州TrPhKys震源区M6.7psで,M6.0以上はこれに2025年1月21日の台湾小円区台湾南西部深度18kmの西南近海台湾nShPhTw震源区M6.1+bpが加わる.
 最大地震2025年1月13日M6.7の震度分布は,吐噶喇列島北端から関東北西端に及び,最大震度5弱は震央の日向灘で,九州・四国・中国地方は震度2以上でおおわれるが,伊勢湾・琵琶湖・敦賀湾で震度1と小さくなり,伊勢湾・琵琶湖・敦賀湾低地帯に西南日本地殻境界の存在を示唆している(図601左).2025年1月21日M6.1では,震度1が八重山列島に分布している(図601右).

図601.2025年1月のM6.0以上のCMT解震度分布.
 2025年1月13日西南海溝九州TrPhKys震源区深度38㎞ M6.7ps (左)・2025年1月21日西南近海台湾nShPhTw震源区深度18km M6.1+bp (右).
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 2025年1月までの日本全域2年間のCMT解は381個で,その総地震断層面積規模ΣM8.0のPlate運動面積規模M8.3に対する比は0.557である(図602の中図上).日本全域のBenioff曲線(図602右図上左端Total/4)には2024年1月1日能登半島M7.5(月刊地震予報173),2024年4月3日の台湾海溝震源帯M7.4(月刊地震予報176),2024年8月8日九州小円区深度36㎞の日向灘M7.0(月刊地震予報180)の3つの段が認められ,それ以降静穏化していたが,2024年末に千島海溝域(図602右図右端A)に3つ目の段が認められ,Total/4(図602右図左端)にも4段目の兆しが出たが頭打ち状態にある.
 

図602 .2025年1月までの日本全域2年間CMT解.
 左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長である(月刊地震予報173)が,この期間の地震規模は小さいので実際のCMT規模に1.5を加えΔM+1.5とし,8倍拡大.数字とMは,M7.0以上及び2025年1月のM6.0以上のCMT解発生年月日・規模.
 右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間開始(下端2023年2月1日)から終了(上端2025年1月31日)までの731日間で,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36特報5).
 Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
 階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積ΣMのPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.3] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.3の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.1step)は,等分期間2.9日以内にM6.1以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
 地震断層面積移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「2.9day」に前後期間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,座屈逆断層型pdを橙色・剪断逆断層型psを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色.
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2.日向灘の西南海溝九州TrPhKys震源区/38㎞ M6.7ps と西南近海台湾nShPhTw震源区/18km M6.1+bp 

 2025年1月13日21時19分,日向灘の西南海溝九州TrPhKys震源区深度38㎞でM6.7psが発生した.本震源区の最大地震は1662年10月31日M7.8であるが以後の記録は1899年11月25日M7.1に飛び,次いで次大の1923年7月13日深度44㎞ M7.3から活動期に入る(図603).1970年以降の静穏期を経て,2024年8月8日に最大CMT深度36㎞ M7.0psの発生で「南海トラフ臨時情報(巨大地震注意)」が出され,本地震に至っている.今後の活発化に警戒が必要である.
 2025年1月21日1時17分,西南近海台湾nShPhTw震源区深度18km M6.1+bpが発生した.本震源区では本地震に続き,1月25日深度18㎞M5.2+pb・1月26日深度14㎞M5.2pb・1月30日深度13㎞M5.1pbと規模を減少させながら連発している.本震源区の最大の活動期は,1904年11月6日深度7㎞ M6.1に次ぐ3個のM7.1最大地震1906年3月17日深度6㎞・1906年3月17日深度6㎞・1941年12月17日深度12㎞である(図603).以後最大CMT1994年9月16日M6.8pbまで空白域になっていた.
 琉球海溝の東西端に位置する両震源区の活動期が1900年代と共通していることから,連動関係にあると言えるが,両地震の震度分布が完全に分離していることは(図601),沈込むPhilippine海Plate側の連動を示唆している.

図603.琉球海溝域の1600年以降の西南海溝九州TrPhKys震源区・西南近海台湾nShPhTw震源区地震記録の地震断層長円表示.
 左図:震央地図.中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長(月刊地震予報173).両震源区の地震規模は小さいのでΔMを+1.0とし,震源円の直径を4倍に拡大.数字とMは,M7.0以上と今月2025年1月のM6.0以上の地震発生年月・規模.
 右図:時系列図の縦軸は,設定期間開始(下端1600年1月1日)から終了(上端2025年1月31日)までで,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間621.0day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36特報5).
 階段状のBenioff曲線(右中図左端)は,左下隅から右上隅に届くように合わせ,上縁に総地震断層面積ΣM8.3のPlate運動面積M9.8に対する比「0.016」を示した.設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模はM9.8で,この規模の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.右中図右下端の(M6.7step)は,等分期間621.0日以内にM6.7以上の地震がBenioff曲線に段差与える.
 地震断層面積移動平均規模図areaM(右中図左端)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「621.0day」に前後期間を加えた1863日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,不明?を灰色・座屈逆断層型pdを橙色・剪断逆断層型psを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色.
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3.Philippine海Plate沈込境界の地震活動記録

 西南日本には日本書記を始め650年以降の詳細な記録が残っている(図604).総地震断層面積規模ΣM9.6のPlate運動面積規模M10.2に対する比は0.161と6分の1である.ただし,1700年までの記録は西南日本に限られていることに注意が必要である(図604).西南日本の南海Troughに沿って定期的に巨大地震が発生し(図604右中図左縁の文字は年号),移動平均地震断層面積areaM曲線に高い峰と地震断層積算面積のBenioff曲線に階段状増大を与えている(図604右中図左端).Benioff図左下角から右上方への斜線は累積するPlate運動面積であるが,「安政」から「昭和」までのBenioff曲線傾斜にPlate運動累積傾斜を上回る時期があることは,1700年以降に異変が起こったことを示している.

図604.650年以降のPhilippine海Plate沈込域地震記録の地震断層長円表示.
 左図:震央地図.中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長(月刊地震予報173).
 右図:時系列図の縦軸は,設定期間開始(下端650年1月1日)から終了(上端2025年1月31日)までで,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間2009.0day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36特報5).
 階段状のBenioff曲線(右中図左端)は,左下隅から右上隅に届くように合わせ,上縁に総地震断層面積ΣM9.6のPlate運動面積M10.2に対する比「0.161」を示した.設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模はM10.2で,この規模の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.右中図右下端の(M8.0step)は,等分期間2009.0日以内にM8.0以上の地震がBenioff曲線に段差与える.
 地震断層面積移動平均規模図areaM(右中図左端)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「2009.0day」に前後期間を加えた6027日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.左縁の文字は,東海・東南海・南海地震の年号.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,不明?を灰色・座屈逆断層型pdを橙色・剪断逆断層型psを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色.
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 1600年以降は江戸幕府による城改築に対する監視が全国に広がると共に,台湾の記録も加わり地震記録の質量が向上した(図605).ただし,琉球・八重山域の1900年以前の記録はない.総地震断層面積規模ΣM9.4のPlate運動面積規模M9.8に対する比は0.334と3分の1であるが,1900年から1922年にかけては総地震断層面積規模がPlate運動面積を上回っていることがPlate運動累積面積傾斜をBenioff曲線傾斜から読み取れる.

図605.1600年以降のPhilippine海Plate沈込域地震記録の地震断層長円表示.
 左図:震央地図.中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長(月刊地震予報173).
 右図:時系列図の縦軸は,設定期間開始(下端1600年1月1日)から終了(上端2025年1月31日)までで,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間621.0day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36特報5).
 階段状のBenioff曲線(右中図左端)は,左下隅から右上隅に届くように合わせ,上縁に総地震断層面積ΣM9.4のPlate運動面積M9.8に対する比「0.334」を示した.設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模はM9.8で,この規模の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.右中図右下端の(M7.9step)は,等分期間621.0日以内にM7.9以上の地震がBenioff曲線に段差与える.
 地震断層面積移動平均規模図areaM(右中図左端)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「2009.0day」に前後期間を加えた6027日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.左縁の文字は,東海・東南海・南海地震の年号.「平成」は東北弧沖平成巨大地震発生時2011年3月11日を加筆した横線.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,不明?を灰色・座屈逆断層型pdを橙色・剪断逆断層型psを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色.
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 1922年以降は地震観測網が全国に張り巡らされ,震源と規模が決定されている(図606).総地震断層面積規模ΣM9.1のPlate運動面積規模M8.9に対する比は0.511と半分以上になった.「昭和」1944年東南海M7.9・1946年南海M8.1の二つの峰以前には最初の大きな峰の他にも多数の峰もあってPlate運動面積累積を上回っているが,以後はほぼ一定な傾斜を保っている.日本海溝域の「平成」巨大地震の影響も見当たらない.

図606.1922年以降のPhilippine海Plate沈込域地震記録の地震断層長円表示.
 左図:震央地図.中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長(月刊地震予報173).
 右図:時系列図の縦軸は,設定期間開始(下端1922年1月1日)から終了(上端2025年1月31日)までで,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間150.6day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36特報5).
 階段状のBenioff曲線(右中図左端)は,左下隅から右上隅に届くように合わせ,上縁に総地震断層面積ΣM9.1のPlate運動面積M9.3に対する比「0.511」を示した.設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模はM9.3で,この規模の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.右中図右下端の(M7.5step)は,等分期間150.6日以内にM7.5以上の地震がBenioff曲線に段差与える.
 地震断層面積移動平均規模図areaM(右中図左端)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「150.6day」に前後期間を加えた452日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.左縁の文字は,東海・東南海・南海地震の年号.「平成」は東北弧沖平成巨大地震発生時2011年3月11日を加筆した横線.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,不明?を灰色・座屈逆断層型pdを橙色・剪断逆断層型psを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色.
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1994年以降はCMT観測網によって発震機構も検討可能になった(図607).1994年以降の総地震断層面積規模ΣM8.5のPlate運動面積規模M8.9に対する比は0.426と半分以下に減少している.
 琉球海溝域の沖縄海盆は,日本列島には珍しい拡大海盆である.琉球列島の衛星測距によると,Philippine海Plateの北西方向とは逆の南東方向に移動していることが確認され,その背弧の沖縄海盆が拡大していることが支持されている.この拡大は西Phillipine海盆底に随行して来た海盆底Mantleが琉球海溝に沿って沈込むと行き場を失いPlate運動方向である背弧側に流出するが,大陸Mantleに押し返され海溝をPlate運動方向と逆方向に移動させていると考えられる.
 Philippine海Plateが南華PlateのAsia大陸東縁と衝突している台湾は急激に隆起し,地殻/Mantle境界のMoho面まで地表に露出している.Plate境界面は固着して沈込めないので,Plate境界線の外側に順次Plate境界面が形成され新たなSlab先端が沈込み,Plate境界面を押上げる.Philippine海Plateの破壊限界に達するまで沈込むSlabは短冊状に切断され,台湾ではほぼ100%が重なり合うが,台湾から花蓮・八重山・琉球へと離れるとその比率は次第に減少すると考えられる.短冊状Slabの重複率が次第に減少するSlabの傾斜は急角から減少する(新妻,2007).琉球海溝域の震源分布はSlab傾斜の減少を支持している(図607中図海溝距離断面図).
 九州小円区以西の琉球海溝域の総地震断層面積はPlate運動累積面積の3分の1であるがほぼ一定に増大するBenioff曲線となる.しかし,震源帯毎に見ると,西南海溝TfPh震源帯・西南平面化uBdPh震源帯・西南裂開RifPh震源帯の順に地震による歪解放されていることから,これらの震源帯による歪解放期とそれらが繰り返す歪解放周期が認められる(刊地震予報147).

図607.1994年9月以降のPhilippine海Plate沈込域CMT記録の地震断層長円表示.
 左図:震央地図.中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長(月刊地震予報173).
 右図:時系列図の縦軸は,設定期間開始(下端1994年9月1日)から終了(上端2025年1月31日)までで,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間44.4day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36特報5).
 階段状のBenioff曲線(右中図左端)は,左下隅から右上隅に届くように合わせ,上縁に総地震断層面積ΣM8.5のPlate運動面積M8.9に対する比「0.426」を示した.設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模はM8.9で,この規模の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.右中図右下端の(M7.0step)は,等分期間44.4日以内にM7.0以上の地震がBenioff曲線に段差与える.
 地震断層面積移動平均規模図areaM(右中図左端)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「44.4day」に前後期間を加えた133日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.左縁の文字は,東海・東南海・南海地震の年号.「平成」は東北弧沖平成巨大地震発生時2011年3月11日を加筆した横線.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,不明?を灰色・座屈逆断層型pdを橙色・剪断逆断層型psを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色.
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3.2025年2月の月刊地震予報

 伊豆弧北端の丹沢・伊豆衝突による西南日本の土台骨を破損した2024年1月1日能登半島地震M7.5(/7879/>月刊地震予報173)後の2024年4月の台湾M7.4Psおよび2024年8月の日向灘M7.0psに続き11月の吐噶喇沖M6.1Tは,琉球海溝域の歪解放が西南海溝TrPh震源帯で継続していることを示しており,更なる活動が心配される.特に,衝突境界である台湾での地震に警戒が必要である.
 巨大地震の来襲が心配される千島海溝域は静穏化し,今後の活動再開に警戒が必要である.

引用文献

新妻信明(2007)プレートテクトニクス―その新展開と日本列島―.共立出版,292p.