月刊地震予報191)2025年7月30日Kamchatka半島沖M8.8,悪石島地震の連発地震,2025年8月の月刊地震予報

1.2025年7月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2025年7月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で40個107.959月分,千島海溝域で2個318.911月分,日本海溝域で5個0.098月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.090月分,南海・琉球海溝域で31個0.372月分であった(2025年7月日本全図月別).
 2025年7月の総地震断層面積規模はΣM8.8で,最大地震は2025年7月30日の千島小円区深度44㎞の千島弧沖Kamchtka震源区oAcCKamcのM8.8psで,M6.0以上は最大地震のみであった.
 2025年7月までの日本全域2年間のCMT解は399個で(図616),その総地震断層面積規模ΣM8.8のPlate運動面積規模M8.3に対する面積比は5.118倍である(図616の中図上).日本全域と千島海溝域のBenioff曲線(図616右図上左端Total/4と右端Chishima[A])は今月の最大地震M8.8の巨大な段差に隠され他の段差は見え難いが,琉球南海域(図616右図上左端の右側のRykNnk[D])には,2024年1月1日能登半島M7.5(月刊地震予報173),2024年4月3日の台湾海溝震源帯M7.4(月刊地震予報176),2024年8月8日九州小円区深度36㎞の日向灘M7.0(月刊地震予報180)の3つの段が認められ,それ以降静穏化していたが,2024年末に台湾(月刊地震予報185)の4つ目の段が認められる.千島海溝域は,2025年に入り完全無CMTを保ってきたが(図616右下地震断層面積移動平均規模areaM図右端A),5月31日に5月最大地震M6.1が起こり(月刊地震予報189),6月22日にも6月最大地震M6.0が続き半年ぶりに活動期入していた(月刊地震予報190).琉球南海域[D]では6月22日に悪石島連発地震が開始され,千島海溝域で7月30日にM8.8の最大地震に至っている.
 

図616 .2025年7月までの日本全域2年間CMT解.
 左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長である(月刊地震予報173)が,この期間の地震規模は小さいので実際のCMT規模に1.0を加えΔM+1.0とし,4倍拡大.数字とMは,M7.0以上のCMT解発生年月日・規模.
 右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間開始(下端2023年8月1日)から終了(上端2025年7月31日)までの731日間で,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36特報5).
 Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
 階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積ΣMのPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.3] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.3の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.1step)は,等分期間2.9日以内にM6.1以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
 地震断層面積移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「2.9day」に前後期間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,座屈逆断層型pdを橙色・剪断逆断層型psを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色.
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2.2025年7月30日Kamchatka半島沖M8.8

 2025年7月30日8時24分に千島海溝域の深度44㎞でKamchatka半島南部沖の千島弧沖Kamc震源区oAcCKamc M8.8が発生した(図617).発震機構は速報に公開されず,8月になってから世界のCMT解として公表された.圧縮P主歪傾斜方位が南東127°へ22°で(図617右下の歪軸方位図の上縁),太平洋/北米Plate境界面傾斜方位の北西308°(図617右下の主歪軸傾斜方位図の中央線)の逆方位で,剪断逆断層型psである.P軸傾斜は,Plate境界面に沿うPlate運動にPlate境界面と直交する摩擦抗力が合成されると逆方位になる(月刊地震予報136).
 本地震に伴って500-550cmの津波がKamchatka半島南端の幌筵Paramusiru島を襲った.気象庁は8時37分に太平洋沿岸に津波注意報を発令したが9時40分に津波警報へ切り替え,11時51分石巻に50cm,13時52分久慈に130cmの津波が到来した.20時45分に津波警報を津波注意報に切り替え,7月31日16時30分までに全ての注意報を解除した.
 釧路市などで震度2を観測したと新聞報道されたが,気象庁の同地震についての震度分布は公表されていない.
 千島海溝の輪郭は太平洋側に凸の弧状を呈し(千島小円),その北端のKamchatka半島東方沖でAleutian海溝,南端は襟裳沖で日本海溝と太平洋側に凹の境界で接続している.太平洋側に凹のPlate境界から沈込む太平洋SlabはTable掛がTableの角で襞を作る様に過剰になりながら沈込む.しかし,太平洋側に凸の千島海溝中央部の得撫Urp・新知Sms・松輪Mtwでは,沈込む太平洋Slabが不足し,南北の余剰分を引寄せなければ沈込めない.余剰Slabの引寄せが限界に達すれば,Slabが裂けるか海溝外側の太平洋底まで押込まなければ沈込めなくなり,太平洋底の押込みも破壊限界に達すれば海溝外地震を起こす(速報28).2009年1月16日千島海溝松輪震源区TrCMtw深度30㎞ M7.4Pb海溝距離-90㎞ は,この海溝外地震で,千島海溝中央部から沈込むSlabが面積欠乏状態に達していることを示している.この面積不足状態は,Slabと島弧地殻のPlate境界面に直交する垂直抗力を増大させ,剪断歪の解放を拒み,より大きな剪断歪蓄積を継続させる.
 海溝から沈込むSlabは海溝軸輪郭の凹凸によって沈込が制御されると共に,沈込むMantleの相転移にも支配される.Mantleは深度増大に伴う温度・圧力の増大に対応し,Mantleを構成する鉱物を変化させる.Mantleを構成する鉱物組合せである鉱物「相」は,温度・圧力の増大とともに「相転移」する.Mantleは410㎞以浅で橄欖石olivine「α相」,深度410㎞から550㎞ではwadsleyite「β相」,550㎞から660㎞ではrigwoodite「γ相」を,660km以深はperovskite(ここでは「δ相」とする)を主要鉱物とする.「α相」が上部Mantle,「β相」と「γ相」がMantle漸移帯,「δ相」が下部Mantleである(大谷,2018,月刊地震予報119).
 「α相」から「β相」と「β相」から「γ相」の転移は,低温ほど転移し易いが,「γ相」から「δ相」へは逆に低温ほど転移し難い.低温の底層水で冷却された海洋底が沈込んだSlabは容易に加熱せず,「α相」から「β相」と「β相」から「γ相」へは先行転移し,Slab沈込を加速する.下部Mantle上面の「γ相」から「δ相」へは転移が難く,Slabは下部Mantle上面で浮力を受けて押上げられる.この通過し難さがSlabの破壊強度を上回れば,下部Mantle上面付近でSlab下端が座屈破壊して地震pbを発生する.Slab下端が下部Mantleに突入すれば,Slab上端の島弧地殻との境界面を固着させていた垂直抗力を低下させ,長期間集積してきた剪断歪を巨大地震として解放する.
 太平洋側に凸の千島海溝域のほぼ中央部から太平洋Slabは,Plate相対運動PC-NAの-15°Euler緯線に沿って沈込んでいるが,その緯線付近で2012年8月14日深度610㎞ M7.7が起こり(速報30),その北西側で翌2013年5月24日深度632km M8.3が起こっていた.これらの発震機構型は,主圧縮P歪軸傾斜方位が,Slab傾斜方位にほぼ一致する(図617右下主歪軸傾斜方位図の中央線)座屈逆断型pbである.座屈逆断層型は,Slabの破壊強度以上の歪が蓄積されて解放されたことを意味し,Plate運動によるSlab沈込と下部Mantle上面境界の通過障害による歪がSlabの破壊強度を越えたことを示している.約1000kmにも及ぶ太平洋Slabの下端が沈込めず停滞していれば,その上端が接する島弧地殻を突上げ,摩擦抵抗を増大させ,巨大な剪断歪を蓄積する.Slab下端の沈込停滞が解除され,Slab上端と島弧地殻間の摩擦抵抗が減少すると,そこに蓄積していた剪断歪が島弧外震源列oAcの巨大地震として解放される.
 日本海溝輪郭が太平洋側に凸に突出している最上小円区から沈込んだ太平洋Slab先端では,通過し難い深度660㎞の下部Mantle上面より50㎞上の1999年4月8日深度610㎞ M7.1に続き,2002年9月15日深度670㎞ M6.4・2009年4月16日深度680㎞ M5.2の下部Manlte地震が起こった.この下部Mantle地震の2-9年後に,Slabと島弧地殻のPlate境界である東北弧外平成震源区oAcJHsで数百年集積してきた剪断歪が2011年3月11日東北弧沖巨大地震M9.0によって解放された(月刊地震予報122,新妻,2024).
 千島海溝域でも2012年8月と2013年5月に下部Mantle上面付近で座屈逆断層ps型地震の発生を根拠に,その12年後の2024年から2025年に巨大地震が予測されていた(月刊地震予報172月刊地震予報175月刊地震予報180,新妻,2024地質学会山形年会).今回のKamchatka沖地震M8.8は正しく予報されていた地震である.
 8月3日にはKljucevskaja火山が600年ぶりに噴火して6kmの噴煙を上げ,地震当日にも噴火が見られたとの新聞報道があった.活火山下の地殻内には液体のMagumaが溜っており,地殻歪が増大すると歪計同様にMagmaを地表まで押上げ,噴火を起こす.Plate境界歪を解放した本地震に伴う噴火は,Magma溜り周辺の地殻圧縮歪の増大を示唆している.この火山の標高は4688mとEurasia域最大で,この標高までMagmaを押上げる地殻歪が継続していることになる.
 活火山は,沈込Slab過剰の襞形成域の千島小円区南西部の北海道およびその東方の択捉島までとKamchatka小円区のKamchatka半島に分布しており,Slab不足の千島小円区北東部の得撫島から分布しない(図617左の震央分布図).CMT解も急減し,2006年11月M7.7・2007年1月M7.8が孤立して起こっているにすぎない.
 1994年9月からのCMT解の総地震断層面積累積Benioff曲線は(図617右中図左縁)は,ほぼPlate運動面積累積直線(図617右中図左縁の左下端から右上がりの灰色直線)に接するように剪断逆断層ps型(赤色)が階段状に増大したが,2013年の段以降静穏化を保ち,次の段の襲来が予測されていた(特報5).しかも最後の段の2012年8月M7.7と2013年5月M8.3は下部Mantle上面付近のSlab下端の座屈逆断型(橙色)(図617中下海溝距離断面図)であることから,巨大地震が想定され,遂に2025年7月30日に本地震M8.8が起こり,解放した地震断層面積歪はPlate運動面積の1.3倍に達した.

図617.1994年から2025年7月までの千島海溝域CMT解地震断層長径円表示.
地震断層長径円の直径は2倍拡大(ΔM=+0.5)
数字とMはM7.5以上のCMT解年月日と規模.
△:活火山,北から2つ目の赤塗りつぶしが今回噴火したKljucevskaja火山.
 階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積ΣMのPlate運動面積に対する比「1.314F」を示した.
 地震断層面積移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間45.2日に前後期間を加えた日数の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,座屈逆断層型pdを橙色・剪断逆断層型psを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色.
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 1994年9月以降,Plate運動面積歪の1.3倍がCMT解で解放されているが,Plate運動面積を上回る歪は1994年以前に蓄積されていたはずである.1850年から現在までの千島海溝域地震記録(気象庁Catalog;宇津,1999;:宇佐美,2003;Seno,T.&Eguchi,T.,1983;渡辺,1998)のBenioff曲線は,1890年以降ほぼPlate運動面積累積直線(図618右図中左端)に沿って階段状に増大しているが,総地震断層面積ΣM9.4のPlate運動面積M9.6に対する比は0.731である.今回の本地震M8.8の段に匹敵する段は1920年に認められる.この段で注目されるのは,深度410㎞の上部Mantle下面上の地震活動,1918年1月31日深度350㎞ M7.8・1921年10月12日深度405km M6.3・1924年5月28日深度393㎞ M7.1である(図618中下海溝距離断面図).上部Mantle下面の「α相」から「β相」への転移は比重を増大させSlabを引張る.このSlab引が,Slab上端の島弧外震源列oAcで剪断歪を1918年9月8日得撫沖M8.0と1923年2月4日Kamchatka沖M8.3によって解放したのであろう.
 千島海溝域中央の太平洋側に凸出している得撫Urp・新知Sms・松輪Mtwは,千島弧沖震源帯oAcC最大の剪断歪を蓄積可能で,最長の再来周期で,超巨大地震を起こす.これまでの最大地震は,1920年の段の1918年9月8日M8.0であるが,その後空白域となり(図618右時系列図),2006年11月15日M7.7と2007年1月13日M7.8を起こしてから再び空白域になっている(図617右時系列図).2013年以後の最後の静穏期までに集積した歪が今回のKamchatka沖大地震oAcCKmc M8.8で解放されたか定かでないので,今後5年から10年以内にM9級の超巨大地震に警戒が必要である.

図618.1850年から2025年7月までの千島海溝域震源分布震源断層長径円表示.
地震断層長径円の直径は2倍拡大(ΔM=+0.5)
数字とMはM8.0以上の震源年月日と規模.
 階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積ΣMのPlate運動面積に対する比「0.731F」を示した.
 地震断層面積移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間265.5日に前後期間を加えた日数の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,座屈逆断層型pdを橙色・剪断逆断層型psを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色,不明?を灰色.
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3.悪石島の連発地震

 琉球小円区の島弧地殻で2025年6月22日から開始した悪石(あくせき)島地震は(月刊地震予報190),7月16日までにCMT45個を連発した.
 震源は,活火山列である吐噶喇(とから)列島の南部で,西南太平洋岸琉球震源区PfcPhRykと西南裂開沖縄震源区RifPhOkwとの境界部に位置している.しかし,両震源区に区分する震源分布境界を見出せず,西南太平洋岸「悪石」震源区PfcPh「Aks」を新設し,一つの震源区とした.震源深度は,最大が20㎞・最小が10㎞で,全て島弧地殻内に位置している.
 最大CMT2025年7月2日深度10km M5.7Trについては,最大が震度5弱で震度1以上が吐噶喇列島から奄美諸島に分布しているが,九州や沖縄には達していない(図619).

図619.2025年7月2日M5.7の震度分布.
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 CMT震源の琉球小円区方位の平均は東南東の115°で,海溝傾斜方位はこの逆方位295°で,Philippine海-南華Plate相対運動PH-SC方位305°の10°以内にある(図620).
 CMT震源の規模は,最大M5.7,最小minM4.6,平均m5.1で,震源位置は極めて狭い範囲に限定されるが,地震断層累積面積のBenioff曲線(図620右中左端Benioff図)は,Plate運動累積面積直線(図620右中左端Benioff図左下端から右上の斜直線)とほぼ並行に増大し,総地震断層面積規模はΣM6.5にも及ぶ.この25日間のPlate運動累積面積規模M6.6で,その7割以上に達しており,九州から台湾までの琉球海溝全域のPlate運動面積歪がこの狭い震源区で解放されていることになる.発震機構は,正断層型31個・横擦断層型13個・逆断層型1個で正断層型優勢である(図620).

図620.2025年6-7月の悪石島CMT連発地震発震機構型の地震断層長径表示.
地震規模が小さいので地震断層長径は16倍に拡大(ΔM+2.0).
左上から右下への曲線はPhilippine海-南華Plate相対運動Euler緯線.
△:活火山
 階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積ΣMのPlate運動面積に対する比「0.273F」を示した.
 地震断層面積移動平均規模図areaM(中上と右上・右中左端)は,等分期間0.2日に前後期間を加えた0.6日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.軸目盛「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,座屈逆断層型pdを橙色・剪断逆断層型psを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色.
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 地震として開放される歪の乱れは,主歪軸傾斜方位のEuler回転の乱れとして捉えることができる(速報87).主歪軸傾斜方位は,基準方位が与えられればEuler回転(図621のStrainΠ)として記述できる(特報4特報6).ただし,実際に働いている歪は主引張T歪軸と主圧縮P歪軸であり,主中間N歪軸はT軸とP軸に直交する主軸として付随的に設定される.
 歪の大きさは,引張歪を正,圧縮歪を負とした0を挟む一連の歪値で表わされる.正の引張T歪と負の圧縮P歪の大きさが等しく主中間歪が「0」であれば双偶力Double Coupleとなるが,等しくなければ非双偶力nonDouble Coupleで,主中間N歪軸の値は「0」から外れ,外れた部分が非双偶力成分εである.
 非双偶力成分比εは+42%から-30%と正負に大きな幅を持ち,歪解放の乱れが示唆され,新聞報道された衛星測距による急速な変動とも対応する.
 地下岩石中の震源には周囲からの岩圧によって圧縮歪が蓄積する.圧縮歪最小で歪値最大の方位が主引張T歪軸,圧縮歪最大で歪値最小の方位が主圧縮P歪軸である.歪値最小方位と最大方位が水平でそれらに直交する主中間N歪軸が垂直の横擦断層型の場合,震源深度が減じて載岩圧が減少し,垂直圧縮歪が減少して歪値が増大し,主引張T歪軸の歪値より大きくなると瞬時に,主引張歪T軸は垂直のN軸方位に入替り,逆断層型になる(図621凡例の青色TexN・tn).同様の入替は主圧縮P歪軸についても起こり,正断層型になる(図621凡例の空色PexN青色pn).この主歪軸入替が「横擦断層型」発震機構を「正断層型」・「逆断層型」から分離独立させているのである.
 主歪方位の最大の変化は,「正極性」から「逆極性」の押引を逆転させるP軸とT軸入替えであり,Euler回転角StrainΠも0°から180°に変化させるが(図621右中図左縁左端から右端),この逆転した主引張T歪軸あるいは主圧縮P歪軸も主中間N歪軸と入替ることから,6通りの歪軸入替が可能である.
 2025年7月2日の最大CMT M5.7Tの主歪軸傾斜方位を基準に,観測CMT主歪傾斜方位の主歪軸を6通り入替えてEuler回転を算出し,最小回転を与える主歪軸入替が「正極性」の場合は最小回転を回転角とし,「逆極性」の場合は最小回転角を180°から減じてを回転角とし,その歪軸入替に従い彩色したのが図621である.主歪軸入替に従う彩色は;
   入替なし・回転角25°以下or黒色・以上gn紫色,
   T軸N軸入替青色TexN・tn,
   P軸N軸入替空色PexN青色pn,
   P軸T軸N軸入替黄緑色PTexN・ptn,
   T軸P軸N軸入替赤色TPexN・黄緑tpn,
   P軸T軸入替・回転角155°以下赤色Pe・pt・以上桃色xt・赤色pt.
 Euler回転角の時系列図(図621右中時系列図左端のStrain Π)には,2つの列と左端の塊が見られる.塊には最大CMT,左列には6月22日の始CMT,右列には7月16日終CMTが属することから,「最大塊」・「始列」・「終列」と呼ぶことにする.「最大塊」が黒色or,「始列」が紫色gnと青色pn PexN,「終列」が赤色TPexN黄緑色PTexN tpn に彩色されている.「始列」と「終列」は全期間に渡り共存し,「最大塊」は期間のまんなかに限られている.
 「最大塊」は拡大している沖縄Trough背弧海盆中軸部に近い南西に位置し,「終列」は北東の火山列に沿い,「始列」は中央に位置している(図621中上海溝距離断面と右上縦断面のareaM図).
 震源深度の平均と標準偏差は,黒色orの「最大塊」は10±0㎞で最も浅く,「始列」の青色tnは14±4㎞で紫色gnは12±2㎞で深く,逆極性の黄緑色tpnと赤色ptnの「終列」は11±2㎞と少し深い(図622右中上左縁の縦断面深度areaM図).

図621.2025年6月22日M4.7始CMTを基準とする悪石島連発地震の主歪軸傾斜方位Euler回転exEu
地震規模が小さいので地震断層長径は16倍に拡大(ΔM+2.0).
図説明は図620説明参照.
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 「始列」と「終列」の共存は,島弧地殻下Mantleの地震活動支配を示唆する.地殻下Mantleの変動を知るため,震源深度20㎞の始CMTを基準にしたEuler回転exEu(図622)を検討する.基準を変えることによって深度の浅い「最大塊」は,青色のTexN tnに主軸入替により「始列」に加わるが,「終列」は赤色PTexNも残り黄緑色TPexN優勢になるが逆極性の黄緑色ptn tpn を保持している.
 同時進行する正逆歪極性歪の地震活動の要因としては,海洋底随行Mantle押しによる同心円状屈曲Slabの平面化,Slab先端からの随行Mantle噴出による沖縄海盆の拡大,海溝軸輪郭が海洋側に凹の南海Trough・琉球海溝接合部から沈込むSlab面積過剰による襞形成に伴うSlab急斜,Slab深度50-100㎞で開始する活火山活動,などが考えられる.

図622.2025年6月22日深度20㎞ M4.7始CMTを基準とする悪石島連発地震の主歪軸傾斜方位Euler回転exEu.
地震規模が小さいので地震断層長径は16倍に拡大(ΔM+2.0).
図説明は図620説明参照.
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 西南太平洋岸悪石震源区PfcPhAksでは2000年以降5回の地震活動がCMTとして記録されている(図623);
  2023年9月11日M5.4nt PTN
  2021年12月9日M5.9T Org
  2021年4月10日M5.3nt PTN
  2003年8月19日M5.2t TPN
  2000年10月2日M5.8T Org
 最大は2021年12月9日M5.9T(月刊地震予報148)で,今回の始CMT基準では,紫色gnの基準歪軸に属しているが,先行する2021年4月10日M5.3ntが黄緑色PTexN ptnの逆極性であり,2023年9月11日M5.4nt 黄緑色PTexN ptnへ引き継いでいることから,今回の正逆並走は2021年4月10日M5.3nt PTNに開始していたと言える.
 2003年から2021年までは長い静穏期が続いたが,最初の2000年10月2日M5.8Tは紫色 Orgの基準方位であるが,15分後のM5.9Tは逆極性の赤色PTexNであり,正極性と逆極性が並走する今回の活動が悪石震源区を特徴付けていると考えられる.

図623.2025年6月22日M4.7始CMTを基準とする西南太平洋岸悪石震源区PfcPhAskの全CMTの主歪軸傾斜方位Euler回転exEu
地震規模が小さいので地震断層長径は16倍に拡大(ΔM+2.0).
図説明は図620説明参照.
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 悪石震源区PfcPhAksと接する西南裂開震源帯RifPhでは,2016年4月14-20日に起こった熊本地震M7.0nt(速報79)起こっている.熊本地震は,始CMTの4月14日21時26分 M6.2から開始し,翌4月15日0時03分M6.0-ntから静穏化したため,避難所から帰宅者が出る中で翌4月16日1時25分に本震M7.0+ntが襲い多数の死傷者が出た.
 熊本地震について始CMTを基準として主歪軸Euler回転を解析すると(図623).ほぼ全区間が正極性の黒色orと紫色gnが占めるが,本震後にStrainΠが90を越す黄緑色PTexNの逆極性余震が現れる.前震と本震の間には正極性の地震しか起こらないのは,本震を起こす主歪方位が保持されるかれである.本震によって主歪が解放されれば主歪と平衡状態にあった逆極性の平衡歪も余震として解放される.この逆極性平衡歪の余震発生が確認できれば,その前に起きた大きな地震が本震であると判定できる.
 本震到来の認定が主歪軸傾斜方位のEuler回転解析で可能であることは,防災上重要であるが,2016年10月21日鳥取県中部地震M6.6npの本震判定にも威力を発揮している(月刊地震予報85).
 今回の悪石連発地震は最初から正極性と逆極性の地震が起こる極めて異例な地震であることが確認できる.琉球海溝域の地震活動は(1)琉球海溝に沿う同心円状屈曲する西Philippine海底への琉球弧地殻・Mantleの載り上げ,(2)同心円状屈曲Slabの平面化,(3)背弧拡大,そして再び(1)海溝域に戻る歪解放周期を繰り返してきた(月刊地震予報139).現在の歪解放周期は,2022年9月18日西南海溝台湾震源区TrPhTwの M7.4から開始されている(月刊地震予報157).しかし,今月の2025年6月18日まで(1)のPlate境界で西南海溝台湾震源区TrPhTwでM4.8psが継続しているのに,(2)平面化歪の解放は2025年3月23日M5.1.(3)背弧拡大も2025年1月19日M4.9 tのみである. 平面化できていない同心円屈曲Slabの歪と(3)背弧拡大歪が共に解放される特殊状態が,悪石島地震の異常活動を支えているのであろう.

図624 2016年4月熊本地震CMTの最大CMT基準とする主歪軸傾斜方位Euler回転exEu.
地震規模が小さいので地震断層長径は4倍に拡大(ΔM+1.0).
図説明は図620説明参照.
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3.2025年8月の月刊地震予報

 2025年6月22日から7月16日までの悪石島の連発地震は,琉球海溝全域のPlate運動歪の70%以上に解放した.1850年以降の琉球海溝域の歴史地震では,1920年から1940年までの総地震断層面積がPlate運動面積とほぼ等しかったこともあり,これまでの3分の1程度に留まる静穏な活動が異常で,今回の悪石島地震が正常に戻る先駆けかも知れず琉球海溝全域活動に警戒が必要である.
 巨大地震の来襲が予報されていた千島海溝域の巨大地震は,2025年7月30日Kamchatka半島半島沖M8.8として起こった.ただし,千島海溝の中央部ではまだ起こっていないのでM9級の超巨大地震が数年から10年以内に襲来することも考えられ,警戒が必要である.

引用文献

新妻信明(2024)2011年3月11日の東北弧沖平成巨大地震M9.0と太平洋Slabの下部Mantleへの沈込および千島海溝域の巨大地震.日本地質学会山形年会,T7-O-8.
大谷栄治(2018)地球内部の物質科学,現代地球科学入門シリーズ,13,共立出版,166p.:
Seno, T. & Eguchi, T. (1983) Seismotectonics of the western Pacific region. Geodynamics of the western Pacific-Indonesian region, Geodynamics Series, 11, American Geophysical Union, 5-40.
宇佐美龍夫(2003)日本被害地震総覧.東京大学出版会(東京),605p.
宇津徳治 (1999) 地震活動総覧.東京大学出版会(東京),876p.
渡辺偉夫(1998)日本被害津波総覧[第2版].東京大学出版会,238p.