月刊地震予報190)2025年6月悪石島連発地震・2025年7月の月刊地震予報

1.2025年6月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2025年6月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で25個0.230月分,千島海溝域で3個0.260月分,日本海溝域で4個0.325月分,伊豆・小笠原海溝域で0個,南海・琉球海溝域で18個0.261月分であった(2025年6月日本全図月別).
 2025年6月の総地震断層面積規模はΣM6.6で,最大地震は2025年6月22日の千島小円区深度29㎞の千島弧沖根室震源区oAcCNmrM6.0Psで,M6.0以上は最大地震のみであった.
 最大地震の震度分布は(図613 ), 北海道東部と東北地方北部まで震度1以上となっている.最大の震度3は北海道南東岸に沿って分布している.

図613.2025年6月22日6時23分深度29㎞千島弧沖根室震源区oAcCNmrM6.0Psの震度分布(気象庁HPによる).
 Clickすると拡大します.

 最大地震M6.0が起こった千島弧沖根室震源区oAcCNmrでは.6月19日8時8分にM5.9,6月22日0時5分千島海溝根室震源区TrCNmr深度23㎞のM4.9psが起こっていたが,ほぼ同期して琉球海溝域吐噶喇列島悪石島近海の西南拡大沖縄震源区RifPhOkw・西南太平洋岸琉球震源区PfcPhRkで6月22日2時52分から30日18時33分までに最大M5.5で15個のCMT解が連発した(2025年6月日本全図月別).
 2025年6月までの日本全域2年間のCMT解は366個で(図614),その総地震断層面積規模ΣM8.0のPlate運動面積規模M8.3に対する比は0.541である(図614の中図上).日本全域のBenioff曲線(図614右図上左端Total/4)には2024年1月1日能登半島M7.5(月刊地震予報173),2024年4月3日の台湾海溝震源帯M7.4(月刊地震予報176),2024年8月8日九州小円区深度36㎞の日向灘M7.0(月刊地震予報180)の3つの段が認められ,それ以降静穏化していたが,2024年末に千島海溝域(図614右図A)と台湾(月刊地震予報185)に(図614右図D)4つ目の段が認められ,Total/4(図614右図左端)にも4段目の兆しが出たが頭打ち状態にあった.Dの4つの段の1・3・4の段とほぼ同期する段がAの千島海溝域にも認められる.
 2025年に入って完全無CMTを保ってきた千島海溝域(図614右図右端A)では,5月31日に月最大地震M6.1が起こり,6月22日にも月最大地震M6.0が続き半年ぶりの活動期入りしたが,琉球海溝域のDでは悪石島連発地震が開始された(2025年6月日本全図月別).
 

図614 .2025年6月までの日本全域2年間CMT解.
 左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長である(月刊地震予報173)が,この期間の地震規模は小さいので実際のCMT規模に1.5を加えΔM+1.5とし,8倍拡大.数字とMは,M7.0以上と2025年6月最大のCMT解発生年月日・規模.
 右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間開始(下端2023年6月1日)から終了(上端2025年6月30日)までの731日間で,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36特報5).
 Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
 階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積ΣMのPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.3] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.3の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.1step)は,等分期間2.9日以内にM6.1以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
 地震断層面積移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「2.9day」に前後期間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,座屈逆断層型pdを橙色・剪断逆断層型psを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色.
 Clickすると拡大します.

2.悪石島の連発地震

 2025年6月22日から開始した悪石島地震は,6月30日までにCMTを15個連発した(図615).その最大規模はM5.5であるが,総地震断層面積規模はM6.1で,この間の琉球海溝全域のPlate運動面積規模のM6.2の62%に迫っている.琉球海溝域の地震活動は(1)琉球海溝に沿う同心円状屈曲する西Philippine海底への琉球弧地殻・Mantleの載り上げ,(2)同心円状屈曲Slabの平面化,(3)背弧拡大,そして再び(1)海溝域に戻る歪解放周期を繰り返してきた(月刊地震予報139).現在の歪解放周期は,2022年9月18日西南海溝台湾震源区TrPhTwの M7.4から開始されている(月刊地震予報157).しかし,今月の2025年6月11日まで(1)のPlate境界で西南海溝台湾震源区TrPhTwでM5.9が継続しているのに,(2)平面化歪の解放は2025年3月23日M5.1のみである.平面化できていない同心円屈曲Slabの歪と(3)背弧拡大歪が共に解放されたため,悪石島地震による総地震断層面積が琉球海溝全域のPlate運動歪の62%にも達しているのであろう.
 悪石島の載る吐噶喇列島の北方延長に位置する九州霧島の新燃岳は2018年6月27日以降休止していたが,2025年3月から山体膨張が観測され,2025年6月22日から噴煙500mを伴う噴火を開始している.火山の載る地殻・Mantleの上載荷重は液体のMagma圧力となり,上昇すれば噴火活動として現れる.新燃岳の噴火と悪石島の過大な地震活動がほぼ同期していることは,両地域の地殻・Mantleに共通する歪に支配されていることが予想される. 

図615 .2025年6月の琉球海溝域CMT解の地震断層長径図.
 左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長である(月刊地震予報173)が,この期間の地震規模は小さいので実際のCMT規模に2.0を加えΔM+2.0とし,16倍拡大.
△印:活火山.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,剪断逆断層型psを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色.
 Clickすると拡大します.

3.2025年7月の月刊地震予報

 悪石島の連発地震では,琉球海溝全域のPlate運動歪の62%にも及ぶ歪が解放されている.海溝から背弧に循環する琉球海溝域のほぼ一様な歪解放で解放されるのはPlate運動歪の3分の1程度にすぎないことから,今回の悪石島連発地震は歪解放の様相を変えたとも考えられる.1850年以降の琉球海溝域の歴史地震では,1920年から1940年までの総地震断層面積がPlate運動面積とほぼ等しかったこともあり,これまでの3分の1程度の静穏な活動が異常で,今回の悪石島地震が正常に戻る先駆けとも考えられるので琉球海溝全域の警戒が必要である.
 巨大地震の来襲が心配される千島海溝域は2025年1月から無CMTを続けてきたが,半年ぶりにCMT活動を再開した.4ヶ月以上の無CMTは,局部歪の解放によるPlate境界摩擦の広域均質化による摩擦強度強化し,2025年5月の最大地震M6.1も起こっており,巨大地震の前兆とも考えられ,注意深く見守る必要がある.