月刊地震予報183)西南日本海岸越前JscPhEcz震源区M6.2,西南海溝九州TrPhKys震源区M6.1,陸奥湾の連発地震と東北脊梁下北BkbJSmk震源区,2024年12月の月刊地震予報
2024年12月30日 発行
1.2024年11月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2024年11月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で21個0.264月分,千島海溝域で1個0.021月分,日本海溝域で6個0.057月分,伊豆・小笠原海溝域で6個0.390月分,南海・琉球海溝域で8個で0.508月分であった(2024年11月日本全図月別).
2024年11月の総地震断層面積規模はΣM6.6で,最大地震は2024年11月26日能登域深度10㎞のM6.2pb,次大が2024年11月17日琉球小円区深度29㎞のM6.1Tで,M6.0以上のCMT解はこの2個であった.規模は小さいが2024年11月16日から20日まで陸奥湾で連発地震があった.
2024年11月17日西南海溝九州TrPhKys震源区深度29㎞ M6.1Tの震度分布は,(図589左上)では,最大震度3で沖縄本島から中国・四国西部まで震度1以上であった.11月26日西南日本海岸越前JscPhEcz震源区深度10㎞ M6.2pb(図589左下)では,震央部の最大震度5弱から震度1まで同心円状に本州を覆っている.陸奥湾連発地震最大の11月20日東北脊梁下北BkbJSmk震源区深度10㎞ M4.8+psでは最大震度4で震央の陸奥湾を同心円状に覆っている(図589右上).
2024年11月までの日本全域2年間のCMT解は378個で,その総地震断層面積規模はΣM8.0,Plate運動面積規模はM8.3で,その比は0.527である(図590の中図上).Benioff曲線(図590右図上左端Total/4)には2024年1月1日能登半島M7.5(月刊地震予報173),2024年4月3日の台湾海溝震源帯M7.4(月刊地震予報176),2024年8月8日九州小円区深度36㎞の日向灘M7.0(月刊地震予報180)の3つの段が認められ,それ以降は静穏化している.
2.西南日本海岸越前JscPhEcz震源区M6.2pb
2024年11月26日西南日本海岸越前JscPhEcz震源区の深度10㎞でM6.2pbが発生した.この震源区は,能登半島西岸を境界として西南日本海岸能登JscPhNoto震源区と接している.能登JscPhNoto震源区では2024年1月1日「能登半島地震」M7.5が発生したが,その歪軸は北北西‐南南東の伊豆丹沢衝突方位であった(月刊地震予報173).
本地震の越前JscPhEcz震源区のCMT解歪軸方位は北西-南東で太平洋PC-北米NA Plate方位に揃っている(図591中).両震源区の南側の西南脊梁飛騨BkbPhHida震源区でも越前JscPhEcz震源区と同じPC-NAに揃っている(図591左).
CMT解の時系列図(図591中行)において,飛騨BkbPhHida震源区(図591左列)のBenioff 曲線には4個の段があるが,2番目の段は2011年3月11日M9.0の東北弧沖平成oAcJHs巨大地震の前震に対応していた(速報55).それに先行する越前JscPhEcz震源区の最初で最大の段2007年3月25日M6.6PbについてはM9.0始動との関連が予想される.
西南日本海岸越前JscPhEcz震源区では126個の地震が記録されているが(図592),その9大地震は;
6] 2007/3/25 M6.6Pb
3] 1961/8/19 M7.0 「北美濃地震」
7] 1952/3/7 M6.5 「大聖寺沖地震」
1] 1948/6/28 M7.1 「福井地震」
9] 1930/10/17 M6.3
9] 1892/12/11 M6.3 死者1.
8] 1892/12/9 M6.4
1] 1858/4/9 M7.1 「飛越地震」死者426.
4] 1855/3/18 M6.8 死者12.
4] 1640/11/23 M6.8 人畜の死傷多.
死者多数のM7級の活動がBenioff曲線の1600年代・1800年代・1900年代3つの段に認められるが,それに続き2000年代の活動期に入ったことも予想されることから,更なる警戒が必要である.
3.西南海溝九州TrPhKys震源区M6.1T
2024年11月17日西南海溝九州TrPhKys震源区の吐噶喇列島沖の深度29㎞Slab内でM6.1Tが起こった(図590).
琉球海溝域には,Philippine海Plate PHが南華Plate SC Plateに沈込んでおり,そのPlate運動累積面積(図593下図右端のBenioff図左下隅から右上方に伸びる直線)の3分の1ではあるものの,ほぼ一定の速度で地震断層面積として解放されている.しかし,震源帯別では,Benioff曲線に段差が認められ,前弧から背弧側へ「海溝TrPh」・「平面化uBdPh」・「拡大RifPh」と歪解放の震源帯が順次移行している(図592下右端図,月刊地震予報122,月刊地震予報159).
歪解放の最大地震帯である西南海溝TrPh震源帯の段差を歪解放周期の開始とするとCMT解は「0」から「3」までの4つの歪解放周期に区分できる.各歪解放周期は「海溝Tr解放期」・「平面化uBd解放期」・「裂開Rif解放期」を一巡する.
現在は,第3周期の海溝解放期 「3Tr」にあるが,平面化震源帯の段差が認められず,海溝震源帯の更なる段差も発達しており,海溝震源帯の更なる活動が危惧される.特にPlate衝突境界の台湾の地震活動に警戒が必要である.
4.陸奥湾の連発地震と東北脊梁「下北BkbJSmk」震源区
2024年11月16日M4.6+bpから下北半島西方の陸奥湾の「東北脊梁BkbJ震源帯」で連発地震が開始し,11月20日M5.1+psを最大として11月21日M4.1psまで続いた.
東北脊梁震源帯BkbJは北海道渡島半島から信越域まで連なる脊梁活火山帯に沿い,北から渡島Osm・下北Smk・陸羽Rik・栗駒Krk・蔵王Zao・猪苗代Inw・日光Nik・信越Sezの8つの震源区に区分される(図594左端図).
東北脊梁下北BkbJSmk震源区は恐山・八甲田山の活火山を含み,1858年M6.0以降30個の地震が記録されている(図595). 東北脊梁下北BkbJSmk震源区の9大歴史地震は;
8] 2024/11/20 M4.8+ps
8] 1986/8/10 M4.8
2] 1978/5/16 M5.8
2] 1978/5/16 M5.8
7] 1972/4/25 M5.1
4] 1947/3/15 M5.5
6] 1946/7/9 M5.2
5] 1930/12/6 M5.3
1] 1858/9/29 M6.0
最大は,最初の1858年9月29日M6.0で,米倉潰れ道路亀裂発生し,それに先行し津波被害が大きく死者5の1856年8月23日前弧沖下北ofAcJSmk M7.5,土蔵破損と堤水門破損の1858年7月8日前弧沖下北ofAcJSmk M7.3,死者426の1958年4月9日「飛越地震」JscPhEcz M7.1が起こっている(宇佐美,2003). 2024年11月も,東北脊梁下北BkbJSmk震源区の連発地震と西南日本海岸越前JscPhEcz震源区が起こっており,両震源区の関連が予想される.
次大の1978年5月16日の2個のM5.8については負傷者2が報告されている(宇佐美,2003).それに先行し,死者25の1978年1月14日「伊豆大島近海地震」PfcIK M7.0,1978年3月7日伊豆Slabの WdtiPcGi M7.2,1978年3月23日択捉oAcCEtr M7.0,1978年3月25日択捉oAcCEtr M7.3があり,後には死者18の1978年6月12日「宮城県沖地震」ofAcJKksM7.4,1978年7月23日台湾TrPhTw M7.1,1978年7月30日琉球TrPhRk M7.4,1978年12月6日択捉fAcCEtr M7.2があり,M7.0級の多発期に起こっている.10年以上静穏化の続く千島海溝域(/7961>月刊地震予報175)の活動と関連していることは,今回の連発地震が千島海溝域のM8級地震の前駆活動とも考えられるので,警戒が必要である.
東北脊梁BkbJ震源帯の歴史地震は,島弧上部地殻内で発生して甚大な被害を与え,現在も脊梁が隆起していることを顕示している(宇佐美,2003,図596).9大歴史地震と被害は;
4] 2008/6/14 BkbJKrk M7.0ps 大規模山体崩壊,死者・不明者23.
4] 1902/1/30 BkbJRik M7.0 家屋倒潰焼失,死者1.
3] 1896/8/31 BkbJRik M7.2 「陸羽地震」千屋断層・川舟断層が形成,死者2百以上.
2] 1847/5/8 BkbJSez M7.4 「善光寺地震」山崩れ水没,温泉停止・噴上.死者8千以上.
4] 1683/10/20 BkbJNik M7.0 山崩れによる湖生じ,40年後に決壊して大洪水.
4] 1683/6/18 BkbJNik M7.0 寺院の石垣残らず崩れ,赤薙山北方崩,前・余震多数.
4] 1659/4/21 BkbJInw M7.0 城石垣崩れ,死者48.
9] 1611/9/27 BkbJInw M6.9 若松城の石垣悉く崩れ殿守破損,大寺破損,死者3700余.
1] 818/?/? BkbJNik M7.5 山崩れ圧死者多数.
脊梁震源帯は日本列島の中央を貫き,居住域に近接して直下型地震となる為,多大な被害を齎すが,再来間隔が長く不意打ちされることが多く,その対策に地震予報が期待される.他震源区や他震源帯との関連についての解析,及びその力学的裏付けが急務である.
5.2024年12月の月刊地震予報
伊豆弧北端の丹沢・伊豆衝突による西南日本の土台骨を破損した2024年1月1日能登半島地震M7.5(月刊地震予報173)後の2024年4月の台湾M7.4Psおよび2024年8月の日向灘M7.0psに続き11月の吐噶喇沖M6.1Tは,琉球海溝域の歪解放が西南海溝TrPh震源帯で継続していることを示しており,更なる活動が心配される.特に,衝突境界である台湾での地震に警戒が必要である.
2024年8月にはOkhotskでM6.5Pbその10日後にKamchatkaでM7.0psが発生している千島海溝域では,この2つの活動を含めても,2年間のPlate運動歪に対する総地震断層面積は0.179と数分の1に過ぎず,静穏期は10年以上も続いており,M8級巨大地震襲来が懸念されている.2024年11月の東北脊梁下北BkbJSmkの連発地震はその前触れとも考えられるので警戒が必要である.
引用文献
宇佐美龍夫(2003)日本被害地震総覧.東京大学出版会(東京),605p.