月刊地震予報184 (2025年1月29日)千島平面化得撫uBdCUr震源区M6.8np,2025年1月の月刊地震予報
2025年1月29日 発行
1.2024年12月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2024年12月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で7個0.521月分,千島海溝域で2個1.375月分,日本海溝域で2個0.062月分,伊豆・小笠原海溝域で3個0.316月分,南海・琉球海溝域で0個であった(2024年12月日本全図月別).
2024年12月の総地震断層面積規模はΣM6.9で,最大地震は2024年12月27日の千島小円区深度171㎞の千島平面化得撫uBdCUr震源区M6.8npで,M6.0以上はこれ1個のみである.
最大地震2024年12月27日M6.8の震度分布は,震源から離れた北海道と本州北部についてしか観測点不在のため得られていない.海溝輪郭が島弧側に凸に屈曲している千島海溝と日本海溝の会合点から沈込む太平洋Slabは過剰となり,机の角のTableclothのように襞ができる.その襞となる屈曲部で震度1で,襞の外縁で震度2と大きくなっている(図597).この震度分布は千島海溝と日本海溝から沈込む太平洋Slabが一連であり,Slabに襞ができていることを示唆している.
2024年12月までの日本全域2年間のCMT解は377個で,その総地震断層面積規模ΣM8.0の,Plate運動面積規模M8.3に対する比は0.545である(図598の中図上).日本全域のBenioff曲線(図598右図上左端Total/4)には2024年1月1日能登半島M7.5(月刊地震予報173),2024年4月3日の台湾海溝震源帯M7.4(月刊地震予報176),2024年8月8日九州小円区深度36㎞の日向灘M7.0(月刊地震予報180)の3つの段が認められ,それ以降静穏化していたが,2024年末に千島海溝域(図598右図右端A)に3つ目の段が認められ,Total/4(図598右図左端)にも4段目の兆しが出ている.

図598 .2024年12月までの日本全域2年間CMT解.
左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長である(月刊地震予報173)が,この期間の地震規模は小さいので実際のCMT規模に1.5を加えΔM+1.5とし,8倍拡大.数字とMは,M7.0以上及び2024年12月のM6.0以上のCMT解発生年月日・規模.
右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間開始(下端2023年1月1日)から終了(上端2024年12月31日)までの731日間で,右図右端の数字は年月数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36;特報5).
Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積ΣMのPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.3] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.3の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.1step)は,等分期間2.9日以内にM6.1以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
地震断層面積移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「2.9day」に前後期間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,座屈逆断層型pdを橙色・剪断逆断層型psを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色.
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2.千島平面化得撫uBdCUr震源区M6.8np
2024年12月27日21時47分,千島平面化得撫uBdCUr震源区の深度171㎞でM6.8npが発生した.それに先立ち,東北東(方位53°)120㎞で千島平面化松輪uBdCMtw震源区の深度205㎞でも2024年12月8日にM4.8ntが発生している.
千島海溝域の過去2年間CMT解Benioff曲線(図598)には,2024年1月の能登半島地震の2024年8月の日向灘の地震に同期する段差と2024年12月の本地震による段差が認められるが,それらの総地震断層面積はPlate運動面積の4分の1以下の0.238と小さい.しかし,過去約百年間の観測地震記録では,0.564と倍以上に達している(図599).また,そのBenioff曲線は,傾斜がPlate運動累積面積と同程度の活動期(図599右中時系列図左端の桃色)と殆ど増加しない静穏期(空色)が繰り返している(月刊地震予報180,新妻,2024).
この活動期と静穏期の境界を活動期の最初と最後の大地震とすると,2024年12月の現在は,2013年5月24日 M8.3Pb WdtiCdKamc 632kmまでの第3活動期の後に続く第3静穏期にあり,第4活動期の開始のM8級大地震を待っている状態にある;発生年月日・規模発震機構型・震源区 /深度;[地震個数]・総地震断層面積規模ΣM/Plate運動集積面積規模M・最大地震max;
第3静穏期 [262] ΣM7.9/M8.5 max2020/3/25 M7.5Pb TrCKamcP/53km
2013/5/24 M8.3Pb WdtiCdKamc/632km
第3活動期 [504] ΣM8.7/M8.7 max2007/1/13 M7.8Te TrCMtwte/10km
1994/10/4 M8.2左逆 oAcCEtr/28km
第2静穏期 [864] ΣM8.3/M8.8 max1993/1/15 M7.5? uBdJErm/101km
1969/8/12 M7.8逆 oAcCEtr/38km
第2活動期 [357] ΣM8.7/M8.7 max1958/11/7 M8.1逆 oAcCEtr/13km
1952/11/5 M8.2? oAcCKamc/0km
第1静穏期 [375] ΣM8.4/M8.9 max1937/2/21 M7.6? TrCEtr/12km
1923/2/4 M8.3? oAcCKamc/1km
静穏期の総地震断層面積規模のPlate運動面積規模との差ΔMは-0.5から-0.6で,地震として開放される断層面積はPlate運動面積の4分の1以下で,残る4分3は歪として累積し,活動期のΔMは0.0と累積するPlate運動歪をそのまま地震断層面積として開放している.活動期の活動が停止し,静穏期となるのは,累積していた歪が地震として開放され尽くすからであろう.

図599.千島海溝域(Kamchatka小円区・千島小円区・襟裳小円北区)観測地震の地震断層長円表示.
左図:震央地図,右下方への曲線は北米Plateに対する太平洋Pllate運動PC-NAのEuler緯線.Plate運動のEuler極と回転角は上縁,Euler緯線の緯度と年間速度cm/yearは右縁に表示.
中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長である(月刊地震予報173).数字とMは,M8.0以上と今月2024年12月のM6.0以上の地震発生年月日・規模.
右図:時系列図の縦軸は,設定期間開始(下端1922年1月1日)から終了(上端2024年12月31日)までで,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間150.5day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36;特報5).
階段状のBenioff曲線(右中図左端)は,左下隅から右上隅に届くように合わせ,上縁に総地震断層面積ΣM9.1のPlate運動面積に対する比「0.564」を示した.設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模はM9.3で,この規模の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.右中図右下端の(M7.6step)は,等分期間150.5日以内にM7.6以上の地震がBenioff曲線に段差与える.
地震断層面積移動平均規模図areaM(右中図左端)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「150.5day」に前後期間を加えた451.5日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.
areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,不明?を灰色・座屈逆断層型pdを橙色・剪断逆断層型psを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色.
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千島海溝域(Kamchatka小円区・千島小円区・襟裳小円北区)全域(Total 図600上左端)の総地震断層面積のPlate運動面積に対する比は「0.564」であるが,その半分以上の「0.309」を担っているのは島弧地殻と太平洋Slab上面の島弧沖oAc震源帯(図600下右端から2番目)で,次いで「0.094」が下部Mantle上面に突入する太平洋Slab先端の和達Wdti震源帯(図600下左端)と「0.090」の太平洋Slabが同心円状屈曲して沈込を開始する海溝Tr震源帯(図600下右端),そして「0.017」の平面化uBd震源帯(図600左から2番目)である.これら9割以上の歪を地震として開放している4つの震源帯の中で,通常想定されているPlate境界面の摩擦抵抗によって蓄えた剪断歪を解放する剪断逆断層型ps(赤色)は島弧沖oAc震源帯のみで,残りの半分近くは太平洋Slabの同心円状屈曲・平面化(正断層型t黒色)・下部Mantle上面への突入(座屈逆断層型pd橙色)地震によって蓄えた歪を開放している.
第3活動期末の和達Wdti震源帯 M8.3以外の活動期・静穏期境界大地震は,島弧沖oAc震源帯が占め,活動期内の最大地震も島弧沖oAc震源帯および海溝Tr震源帯である.しかし,静穏期内に歪を破壊限界まで蓄積し最大地震として開放しているのは海溝Tr震源帯と平面化uBd震源帯で,島弧沖oAc震源帯を含まない.静穏期に島弧沖oAc震源帯は破壊限界に達せず歪を蓄積しているのであろう.
Benioff曲線にはほぼ一様に増大する震源帯と明確な段を持つ震源帯がある.一様に増大するのは平面化uBd震源帯(図600下左から2番目)と前弧沖ofAc震源帯(図600下右から3番目)であるが,歪の蓄積と解放が釣り合って平衡状態にあるものと考えられる.
明確な段を持つBemopffl曲線は図600上列の左端(Total)を除く島弧地殻・Mantleの震源帯であるが,いずれも第1静穏期と第2活動期内に収まっている.左から2番目の日本海岸沖oJsc震源帯は,日本列島地殻に日本海底が沈込むAmur Plateと北米PlateのAM-NA境界であるが,その段に先行して太平洋Plateと北米PlateのPC-NAによる日本列島地殻圧縮による近海nSh震源帯と太平洋岸Pfc震源帯の段が認められる.

図600.千島海溝域(Kamchatka小円区・千島小円区・襟裳小円北区)観測地震の活動期と静穏期における震源帯別地震断層面積移動平均規模曲線areaM・地震断層面積累積曲線Benioff.
桃色:活動期,空色:静穏期,赤数字:活動期番号,青数字:静穏期番号.縦軸の数値は年号.
areaM・Benioff曲線の発震機構型による線形内分比彩段は,灰色:?不明・橙色:座屈型逆断層・赤色:剪断型逆断層・緑色:横擦断層・黒色:正断層.
上列左端:全域Total,右端:海溝距離断面における震源帯.
上列(島弧地殻・Mantleの震源帯):日本海岸沖oJsc震源帯・日本海岸Jsc震源帯・近海nSh震源帯・太平洋岸Pfc震源帯.
下列(太平洋Slabの震源帯):和達Wdti震源帯・平面化uBd震源帯・前弧fAc震源帯・前弧沖ofAc震源帯・島弧沖oAc震源帯・海溝Tr震源帯.
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東北弧沖震源帯平成oAcJHs震源区の2011年3月11日M9.0については,太平洋Slabが深度660㎞の下部Mantle上面に先立って突入する東北和達δVladivostok WdtiJdVlad震源区の次々大・最大・次大地震が約十年前と1年前に在ったが;
2010/2/18 WdtiJdVladp M6.9pb 631㎞
2002/6/29 WdtiJdVlad+pb M7.2+pb 617㎞
1999/4/8 WdtiJdVlad+pb M7.1+pb 610㎞
千島海溝域でも約10年前に最大・次大地震そして規模は小さいが昨年・一昨年と起こっており;
2024/6/6 WdtiCdSmsP:1] M5.9Ps 深度607km
2021/9/3 WdtiCdUr M5.8+pb 深度601km
2013/5/24 WdtiCdKamc M8.3Pb 深度632km
2012/8/14 WdtiCdUr M7.7pb 深度610km
千島海溝域でもM8級の巨大地震の発生が危惧される.
M8.0以上の巨大地震はKamchatka域と択捉域でその間の得撫域が空白域となっており,今月の千島平面化震源帯の連発地震も起こっていることから(図599),第4活動期の前震とも考えられるので警戒が必要である.
3.2024年12月の月刊地震予報
伊豆弧北端の丹沢・伊豆衝突による西南日本の土台骨を破損した2024年1月1日能登半島地震M7.5(月刊地震予報173)後の2024年4月の台湾M7.4Psおよび2024年8月の日向灘M7.0psに続き11月の吐噶喇沖M6.1Tは,琉球海溝域の歪解放が西南海溝TrPh震源帯で継続していることを示しており,更なる活動が心配される.特に,衝突境界である台湾での地震に警戒が必要である.
2024年8月にはOkhotskでM6.5Pbその10日後にKamchatkaでM7.0psが発生し,2024年12月には千島平面化得撫uBdCUr震源区の深度171㎞でM6.8npが発生している.これらの活動を含めても,過去2年間のPlate運動歪に対する総地震断層面積は0.238と4分の1に過ぎず,2013年5月24日の太平洋Slab先端の下部Mantle突入以来10年以上続いている第3静穏期は,Slab沈込開始の同心円状屈曲とその平面化によるPlate歪の累積も解放しており,第4活動期開始の島弧沖震源帯のM8級巨大地震襲来が懸念される.今後の動向に警戒が必要である.
引用文献
新妻信明(2024)「2011年3月11日の東北弧沖平成巨大地震M9.0と太平洋Slabの下部Mantleへの沈込および千島海溝域の巨大地震」.日本地質学会,山形年会,T7-O-8..