月刊地震予報193)2025年10月の月刊地震予報

1.2025年9月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2025年9月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で6個7.045月分,千島海溝域で2個20.793月分,日本海溝域で1個0.013月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.081月分,南海・琉球海溝域で2個0.008月分であった(2025年9月日本全図月別).
 2025年9月の総地震断層面積規模はΣM7.8で,最大地震は2025年9月19日のKamchatka小円区深度20㎞の千島弧沖Kamchatka震源区oAcCKamcM7.8psで,この他にM6.0以上の地震はなかった.
 2025年7月までの日本全域2年間のCMT解は383個で(図626),その総地震断層面積規模ΣM8.9のPlate運動面積規模M8.3に対する面積比は5.769倍である(図626の中図上).日本全域と千島海溝域のBenioff曲線(図625右図上左端Total/4と右端Chishima[A])は先月2025年7月30日の最大地震M8.8(月刊地震予報191)の巨大な段差に隠され他の段差は見え難いが,琉球南海域(図626右図上左端の右側のRykNnk[D])には,2024年1月1日能登半島M7.5(月刊地震予報173),2024年4月3日の台湾海溝震源帯M7.4(月刊地震予報176),2024年8月8日九州小円区深度36㎞の日向灘M7.0(月刊地震予報180)の3つの段が認められ,それ以降静穏化していたが,2024年末に台湾(月刊地震予報185)の4つ目の段が認められる.千島海溝域は,2025年に入り完全無CMTを保ってきたが(図626右下地震断層面積移動平均規模areaM図右端A),5月31日に5月最大地震M6.1が起こり(月刊地震予報189),6月22日にも6月最大地震M6.0が続き半年ぶりに活動期入していた(月刊地震予報190).琉球南海域[D]では6月22日に悪石島連発地震が開始され,千島海溝域で7月30日のM8.8最大地震(月刊地震予報191)に続き9月19日M7.8が起こっているが歪軸方位は変化しておらず,千島海溝域の歪完全解放に至っていない.
 

図626 .2025年9月までの日本全域2年間CMT解.
 左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.数字とMは,M7.0以上のCMT解発生年月日・規模.
 右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間開始(下端2023年10月1日)から終了(上端2025年9月30日)までの731日間で,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36特報5).
 Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
 階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積ΣMのPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.3] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.3の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.1step)は,等分期間2.9日以内にM6.1以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
 地震断層面積移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「2.9day」に前後期間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,逆断層型pを赤色・横擦断層型nを緑色・正断層型tを黒色.
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2.2025年10月の月刊地震予報

 2025年6月22日から7月16日までの悪石島連発地震は,正極性と逆極性の主歪軸傾斜方位が並走する特異な活動であるとともに,琉球海溝全域のPlate運動歪の70%以上も解放した.1850年以降の琉球海溝域の歴史地震では,1920年から1940年までの総地震断層面積がPlate運動面積とほぼ等しかったこともあり,これまでの3分の1程度に留まる静穏な活動が異常で,今回の悪石島地震が正常に戻る先駆けかも知れず心配していたが,9月17日にM4.7・M4.8が起こり,琉球海溝全域活発化について警戒が必要である.
 長期に渡る静穏期と下部Mantle上面付近の2012年8月14日M7.7深度610㎞(速報30)・2013年5月24日M8.3深度632㎞に基づき,2011年3月11日東北弧沖平成巨大地震M9.0と下部Mantle上面の地震活動(月刊地震予報173,新妻,2024)を参考に,千島海溝域の巨大地震の来襲を予報してきたが(月刊地震予報166月刊地震予報175月刊地震予報180月刊地震予報182月刊地震予報184月刊地震予報188),2025年7月30日にKamchatka半島半島沖M8.8が起こった(月刊地震予報191).9月19日にもM7.8が起こっているが歪軸方位は変化しておらず,千島海溝域の歪は解放されていない.数年から10年以内に更なるM9級の超巨大地震が千島海溝の中央部の得撫島域に予想されるので警戒が必要である.

参考文献

新妻信明(2024)2011年3月11日の東北弧沖平成巨大地震M9.0と太平洋Slabの下部Mantleへの沈込および千島海溝域の巨大地震.日本地質学会山形年会,131,T7-O-8.