月刊地震予報179)2024年7月8日小笠原海台小円区深度575㎞のM6.2-tr・2024年8月の月刊地震予報

1.2024年7月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2024年7月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で17 個0.154月分,千島海溝域で3個0.034月分,日本海溝域で6個0.113月分,伊豆・小笠原海溝域で5個0.740月分,南海・琉球海溝域で3個で0.040月分であった(2024年7月日本全図月別).
 2024年7月の総地震断層面積規模はΣM6.4で,最大地震は,2024年7月8日小笠原海台小円区深度575㎞のM6.2で,M6.0以上の地震は最大地震のみである.
 2024年7月までの日本全域2年間のCMT解は383個で,その総地震断層面積規模はΣM8.0,Plate運動面積規模はM8.3で,その比は0.493である(図574の中図上).Benioff曲線(図574右図上左端Total/4)には琉球海溝域の歪解放周期更新の2022年9月M7.0(月刊地震予報157)と2024年1月1日能登半島M7.5(/7879>月刊地震予報173)の2つ目の大きな段に続き,2024年4月3日の台湾海溝震源帯のM7.4が3つ目の段として加わった(月刊地震予報176).台湾の段に伊豆海溝域C・日本海溝域Bも呼応している.千島海溝域AのareaM曲線(図574右下図)も呼応しているが,規模が小さくBenioff曲線に現れていない.千島海溝域では2024年6月最大のM5.9があり,小さな段を形成し,2023年12月の段から半年ぶりである.この段を加えてもPlate運動面積に対する総地震断層面積の比は0.066と,他の海溝域の0.27から0.88より1桁小さい静穏期を継続しており,数か月毎に訪れる次の段への警戒が必要である(月刊地震予報175).
 

図574 .2024年7月までの日本全域2年間CMT解.
 左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.震源円の直径は地震断層長であるが,直径が小さいので実際のCMT規模に2を加えΔM+2.0とし,16倍に拡大してある.数字とMは,2024年6月の最大CMTと,M7.0以上のCMT解年月日・規模.
 右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間の開始(下端2022年8月1日)から終了(上端2024年7月31日)までの731日間で,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36特報5).
 Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
 階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積のPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.3] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.3の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.1step)は,等分期間2.9日以内にM6.1以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
 地震断層移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「2.9day」に前後期間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,座屈逆断層型を橙色・剪断逆断層型を赤色・横擦断層型を緑色・正断層型を黒色.
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2.2024年7月8日小笠原海台小円区深度575㎞のM6.2-tr

 2024年7月8日5時01分小笠原海台Pl小円区の伊豆和達γ震源帯WdtiPcGでM6.2-trが発生した(図575).破壊開始の初動震源深度は598㎞,主破壊のCMT震源深度は575㎞で破壊が上方伸展している.非双偶力成分nonDC比は-14%でT/Pは0.63の西南西(P59+1)への押出過剰である.
 海洋底に随行してきたMantleは,海洋底の沈込によって行き場を失って背弧側に押し出されSlabを翼状に浮き上がらせる.この浮揚力がSlab面に直交する引張力と釣り合うと圧縮横擦断層np型(図575の黄緑色〇印)に変換する.この圧縮横擦断層np型のCMTが深度550㎞に集中しているが,Mantleのβ相からγ相への相転移が深度550㎞であることから,相転移に伴うSlabの浮揚と考えられる.Mantleの相転移の際にγ相の微細結晶が形成され曲がり易くなることも相転移との関係を支持する.
 本地震震源は,浮揚する伊豆和達γ震源帯WdtiPcGの最南西端に位置している.

図575.伊豆小笠原海溝域の伊豆和達γ震源帯WdtiPcGのCMT解断層長円表示.
 数字とMは,2024年7月の本震源発生年月日と規模.
 伊豆和達γ震源帯WdtiPcGは,伊豆小円北区南端から小笠原海台小円区北縁に分布し,深度550㎞付近で背弧側に浮揚する.
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 伊豆小笠原海溝域の深発地震は裂けて多数の震源帯に分離している.それぞれの震源帯は,Mantle相転移に対応し,背弧側に浮揚,あるいは垂直に相転移面を貫いたり,横臥褶曲状に載っている(図576).
 2024年7月の本震源は伊豆和達γ震源帯WdtiPcG(緑色)南下縁に位置しており,多数の震源帯に裂けて分離する機構検討に貴重な情報を提供してくれる.伊豆小笠原海溝域は,地震観測網から離れており情報が少なく,今後のCMT解の積み重ねが期待される.

図576.伊豆小笠原海溝域のMantle相転移に対応する太平洋Slabの分離と翼状形態.
 数字とMは,2024年7月の伊豆和達γ震源帯WdtiPcG(緑色)南下縁の本震源発生年月日と規模.
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3.2024年8月の月刊地震予報

 千島海溝域では, 過去2年間のBeioff曲線において2023年12月の段から半年以上の静穏期が続いていたが,2024年6月に段を形成した.しかし,この2年間のPlate運動面積に対する総地震断層面積の比は0.066と他の海溝域の0.27から0.88よりも桁違いに小さく,数か月間隔で繰り返す次の活動にM8級巨大地震に警戒が必要である(月刊地震予報175).
 日本列島の土台骨の上が破損した2024年1月1日能登半島地震M7.5(月刊地震予報173)の影響が出てくることが予想される.関東・東北日本・西南日本域の直下型地震への警戒が必要であるとともに,その原因となった伊豆・丹沢の衝突の進行による,相模・駿河・南海Trough・琉球海溝の地震にも警戒が必要である.