速報44)周縁隆起帯の作図・太平洋プレート沈み込みによる小規模地震の多発と浜通地震・2013年8月の地震予報

1.周縁隆起帯の作図

海上保安庁水路部の海図を紹介したDietz(1954)は,北西太平洋の海溝外側に高まりが存在することを指摘し,周縁隆起帯(Marginal Swell)と名付けた(新妻,2010).周縁隆起帯は海洋プレートが海溝に沿って沈み込む際の弾性変形によって形成されると考えられ(山路, 2000),プレートダイナミクスに重要な役割を担っている.海溝域の地震活動においても,周縁隆起帯は海洋プレートの歪蓄積域となり,東日本大震災本震のような巨大地震を起こす原因となっている(特報1).
周縁隆起帯は単なる海底地形の高まりに留まらず,正の重力異常を伴っている.日本近海海底地形図(海上保安庁水路部,1965)における海底地形の高まり,および日本近海のジオイド高と世界の重力異常(大久保編,2004)に基づき,周縁隆起帯嶺線の緯度・経度を読み出した.

図103 日本全域図における周縁隆起帯.  周縁隆起帯(Marginal Swell)を紫色線で示した.1994年以降のM6.0以上の太平洋プレートの地震は全て周縁隆起帯より島弧側で起こっている,断面図表示範囲を示した海溝側の小円区枠(綠色線)付近を通過している.

図103 日本全域図における周縁隆起帯.
 周縁隆起帯(Marginal Swell)を紫色線で示した.1994年以降のM6.0以上の太平洋プレートの地震は全て周縁隆起帯より島弧側で起こっている,断面図表示範囲を示した海溝側の小円区枠(綠色線)付近を通過している.

図103は、周縁隆起帯嶺線を紫色線で加えた震源震央分布図(日本全図)である.周縁隆起帯は断面表示範囲を示す海溝側の小円区分枠(綠色線)付近を通過しており,太平洋プレートでは全てのCMT発震機構解震源が周縁隆起帯より島弧側に位置している.1994年以降、周縁隆起帯に最も近くで起ったM6.0以上の地震は2012年10月1日のマリアナ海溝外189kmのM6.1である(速報32).南海トラフの周縁隆起帯は東方で南海トラフに近付き,銭州海嶺に到っている.

2.太平洋プレート沈み込みによる小規模地震の多発と浜通地震

2013年7月には,日本全域で31個の地震があり(2013年7月日本全図月別),地震面積比は0.14月分とプレート相対運動の7分の1と少なかった.地区毎の地震面積比は,千島海溝域で0,日本海溝域で0.43月分,琉球南海域で0.04月分,伊豆マリアナ海溝域で0.22月分と少ない.日本海溝域の0.43月分の地震面積比は2013年6月の0.07月分を引き継いで少なく,東日本大震災の前月2011年2月0.45月分の状態である.ただし,地震数は日本全域で31個,日本海溝域で24個と東日本大震災前の最大30個と10個を上回り,CMT発震機構解に掲載される地震の中で小さな地震が多数起っていることが分かる.

3.2013年8月の地震予報

日本海溝域では2013年6月の東日本大震災以前の静穏に引き続き地震面積比は小さい.これらの地震は太平洋プレート・スラブ内で主に起っており,スラブ不足の最上小円区では,海溝外と海溝域でスラブ屈曲沈み込みに伴う圧縮過剰正断層型(紫色),スラブ過剰の襟裳・鹿島小円区ではスラブ衝突に伴う逆断層型が起り,沿岸域の三陸沖・宮城県沖・福島県沖では屈曲スラブ平面化に伴う引張過剰逆断層型(黄色)とスラブ-マントル衝突に伴う逆断層型地震が起こっている(2013年7月東日本月別).浜通でも1個のCMT発震機構解が報告され,3個の自動発震機構解(2013年7月東日本IS月別)が報告されている.
2013年5月の太平洋プレート屈曲沈み込み(速報42)から1ヶ月を経て,屈曲スラブの平面化が盛んになり,M7級の三つ目の宮城県沖地震の再来が心配される.また,浜通の地震が活発化していることから,島弧マントルとスラブの衝突に関連する宮城県北部地震への警戒も必要である.
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速報43)東日本大震災前に戻った日本海溝域の地震活動と琉球南海域の活発化・2013年7月の地震予報

1.東日本大震災前に戻った日本海溝域の地震活動と琉球南海域の活発化

 2013年6月には,日本全域で21個の地震があり(2013年6月日本全域月別),地震面積比は0.29月分とプレート相対運動の3分の1と少なかった.地区毎の地震面積比は,千島海溝域で0.13月分,日本海溝域で0.07月分,琉球南海域で0.60月分,伊豆マリアナ海溝域では0と少ない.日本海溝域の0.07月分の地震面積比は2010年11月の0.03月分に次いで少なく,初めて東日本大震災以前の状態まで戻った.琉球南海域では1994年からの平均地震面積比0.51を越え,活発である.

2.2013年7月の地震予報

 日本海溝域では初めて東日本大震災以前の静穏さを取り戻したが,2013年5月には太平洋プレートの屈曲沈み込み過程地震が起っているので(速報42),この太平洋プレート沈み込みの影響による地震活動の再発に警戒が必要である.これまでの大きな地震活動の前に静穏期があることからも,引き続き注意を要する.
 千島海溝域では,2012年7月以来活発な地震活動の続く得撫島付近で(速報29速報41),6月3日から6日にかけてM5.0からM5.2の衝突逆断層P型地震6個がスラブ上面付近で連発したことから,今後の活動に警戒が必要である.
 フィリッピン海プレート運動の活発化が琉球南海域に現われており,西南日本から琉球海溝域では今後の地震活動に注意が必要である.

速報42)2013年5月のマリアナスラブ先端の伸張と太平洋プレート屈曲沈み込み・2013年6月の地震予報

1.2013年5月のマリアナスラブ先端の伸張と太平洋プレート屈曲沈み込み

2013年5月には,日本全域で27個の地震があり(2013年5月日本全国月別),地震面積比は2.29とプレート相対運動の2倍以上であった.この大きな地震面積比は,2013年5月14日に伊豆小笠原域のマリアナ海溝スラブで起ったM7.3がほぼ1年分の地震面積を持っていたことによる.他の区域の地震面積比は,千島海溝域で0.03月分,日本海溝域でも0.56月分,琉球南海域で0.10月分と極めて少なく,2013年4月の日本全域活発化(速報41)から静穏化し,奇数月の静穏化を継続している.

マリアナ海溝スラブのM7.3の深度は619kmと,1994年9月以来のマリアナ海溝域地震の最深記録であった2007年10月31日M7.1の216kmを大幅に更新したばかりでなく,2002年6月3日M6.1の小笠原海溝域最深記録521kmも100km近く更新した.そのため,本速報の日本全域の震央震源図の表示枠組を変更した.

このような震央震源図表示枠組の変更は,千島海溝域で2011年5月25日M5.4の深度585kmが2004年11月7日M6.0の最深記録507kmを更新した後,2012年8月14日M7.3の654km(速報30)が大幅更新した時に次ぐもので,東日本大震災以後,太平洋スラブの深発地震面の先端がマントル深部に伸張していることを示している.

2013年5月の日本海溝域では,地震面積比が半月分であったが,東日本大震災以降に現われた太平洋プレートの屈曲沈み込みを示す地震(特報1)―海洋プレート深層の押広正断層-t型(紫色)・海洋プレート浅層の引裂正断層T型(紺色)・海溝軸から島弧側の移動調整nt型(空色)―が起り,現在も太平洋プレートが沈み込んでいることを示している.また,宮城・福島県沖では屈曲したスラブが平面化する際の地震―引剥逆断層+p型―が起っている(2013年5月東日本月別).

日本海溝・伊豆海溝・相模トラフが交わる海溝・海溝・海溝型プレート三重会合点付近で衝突逆断層P型(ピンク色)の海溝外地震が起っており,太平洋プレートの押力に対してスラブ過剰のためにスラブ引力が小さくなっていることが分かる.最上小円区北縁のスラブ中層で正断層t型(黒色)が起っているが,その引張主応力軸方位は49°であり,スラブ不足の最上小円区におけるスラブが沈み込むための裂開と考えられる.

浜通域では2013年1月31日のM4.7以来,5月13日・15日にM4.5・M4.4の正断層t型地震が起った.M4.0以下の地震も採録している自動発震機構解(2013年5月東日本IS月別)では7個の地震を採録している.

2.2013年6月の地震予報

太平洋プレートは日本海溝に沿って沈み込みを継続していることから,再来が予想される3つ目の宮城県沖地震への警戒が必要である.また,浜通地震も活発化していることから,その後に予想される宮城県北部地震にも注意が必要である.

マリアナ海溝の最深地震の発生と房総沖の三重会合点付近の地震は,フィリッピン海プレートに異変が現われているとも考えられるので,関東から西南日本・琉球海溝・台湾の地震活動の活発化に警戒が必要である.