月刊地震予報87)マリアナの地震,浜通地震と主応力軸入替比較による応力場逆転判定,2017年1月の月刊地震予報

1.2016年12月の地震活動

気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2016年12月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で13個0.270月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で9個1.020月分,伊豆・小笠原海溝域で3個0.730月分,南海・琉球海溝域で1個0.002月分であった(2016年12月日本全図月別).
2016年12月のM6以上の地震は,マリアナの2016年12月14日M6.3+nt8kmと浜通の2016年12月28日M6.3-tr11kmの2個である.

2.マリアナの地震

マリアナで2016年12月14日11時01分M6.3+nt8kmが起こった.震源は,マリアナ小円区北端の小笠原海台小円区との境界に近いマリアナ諸島北端ウラカス島Farallon de Pajaros北方で,海溝距離85kmのマリアナ海溝から沈込むスラブ上面より上の島弧外縁地殻内である(図202)

図202.2016年12月14日マリアナの地震M6.3の主応力軸方位.
左:海溝距離-深度断面図,震央地図(左下),右:縦断面図(上),時系列図(中)地震断層面積ベニオフ図(左端),主応力軸方位図(下),TrDip:海溝傾斜方位,Sub:プレート運動方位.


マリアナ・小笠原海台小円区のCMT解は1996年7月7日以降53個あるが,今回のCMT解と2005年12月26日の西の島付近M5.6t0kmの2個を除き全て下部マントル上面まで同心円状屈曲したまま沈込むスラブ内地震である.
今回のマリアナ島弧外縁地殻内地震の発震機構は引張過剰引張横擦断層+nt型(空色)であり,背弧側でマリアナ海盆が拡大していることと調和的である.この発震機構nt型のCMT解はマリアナ・小笠原海台小円境界に沿う小笠原海台小円区南東縁で多数分布する.この小円区境界は,小笠原・マリアナ海溝軸が小笠原海台の衝突によって最も屈曲する部位に当たり,スラブ傾斜方位とプレート運動方位の差が大きい.従って,スラブ傾斜とプレート運動とのいずれがスラブ内応力を支配しているかを検討するのに適している.引張主応力T軸方位(△)は,海溝傾斜方位(TrDip直線)とプレート運動方位(紫折線)の間に分布するが,前弧側の200km以浅の地震では海溝傾斜方位(TrDip直線)に集中し,背弧側の200km以深の地震ではプレート運動方位(紫折線)に近付き,震源深度によって異なっている.今回の地震のT軸方位は海溝傾斜方位であり,スラブ傾斜が支配する200km以浅と同じ応力場で起こったことを示している.

3.浜通の2016年12月28日M6.3-tr11km地震と主応力軸入替比較による応力場逆転判定

今回2016年12月28日M6.3-tr11kmの起こった浜通では,2011年3月11日東日本大震災本震M9.0の1か月後の2011年4月11日17時16分,M7.0-tr6kmが起こり,地表に活断層が現れた.この地震が浜通で最大であるので,この地震の主応力方位を基準として以後の解析に使用する.
基準地震の発震機構型は「-tr」で,正断層型であるが,引張T軸が小円方位と異なる側方正断層tr型である,非双偶力成分比が-5%より小さい場合負とするが,基準地震の場合には限界値に近い-39%であり,圧縮P主応力が卓越し,引張T主応力と中間N主応力がほぼ等しい引張応力である.
発震機構は互いに直交する3つの主応力の軸方位と強度値で表される.3つの主応力は圧縮P主応力・引張T主応力・中間N主応力からなるが,地下の岩体に働くのは圧縮P応力と引張T応力のみで,中間N主応力はP軸とT軸の載る平面に直交する軸と定義される.主応力値は引張を正,圧縮を負とし,NはPとTの中間の値を持つ.PとNの差とTとNの差が等しい場合,発震機構は双偶力であり,0でない場合は非双偶力が加わったとみなし,CMT解ではその差を非双偶力nonDC成分比として表される(震源震央分布図の解説).
非双偶力成分比が正の場合は,TとNの差がPとNの差より大きく,Tの引張力が優勢でP・Nともに圧縮力であるが,Pの圧縮力が減少してNの圧縮力より小さくなると,圧縮力の大きいN軸がP軸に入替る.負の非双偶力成分比の場合は,Pの圧縮力が優勢でN・Tとも引張力になり,Tの引張力が減少しNの引張力より小さくなるとN軸とT軸が入替る(図203).このように圧縮応力や引張応力の方位が変わらなくとも,その強度の変化に伴い主応力軸が入替るので,応力場の比較には主応力軸の入替も考慮する必要がある.

図203.非双偶力nonDC成分比と主応力値の関係・主応力値変化による主応力軸入替.

応力場の比較は,基準とする主応力軸方位を回転し,比較する主応力方位に一致させるオイラー極と回転角を算出する方法が用いられる(特報4).主応力軸を入替た基準主応力方位を比較主応力方位に一致させるオイラー回転も算出比較すれば,主応力軸入替について検討できる.
主応力軸入替は6通りできる.その2つは,変化するP・T強度とN強度との相対関係による入替で,N軸がP軸あるいはT軸と直接入替るPN・TNである.
もう一つの直接入替はP軸とT軸の入替PTである.この入替は,岩体に作用する圧縮P応力と引張T応力という逆作用への応力入替なので,応力場の逆転を意味する.このような入替は岩体の破壊・歪の解放・地震断層面の摩擦抵抗の喪失など大地震の際に起こる.
残る2つの入替は,PT逆転応力場において変化するP軸強度・T軸強度とN軸強度との相対関係に対応する2段階入替PTN・TPNである.
水平なP軸とN軸および垂直なT軸の逆断層p型の主応力軸方位を基準orgとすると,PN入替で発震機構型は側方逆断層pr型・TN入替で圧縮横擦断層np型になる.逆極性へのPT入替で正断層t型になり,PTN入替で引張横擦断層nt型・TPN入替で側方正断層tr型になる(特報6,図204).

図204. 6つの主応力軸入替と発震機構型
P:圧縮主応力軸,T:引張主応力軸,N:中間主応力軸,イタリック:発震機構型,org~TPN:主応力軸入替.

これらの主応力軸入替した基準主応力方位を比較主応力方位に一致させるオイラー回転角を6通り算出する.その中で最小のオイラー回転角を与える主応力軸入替を用いて応力場極性を定義する.主応力軸入替が,基準org(黒・紫)・TN(緑)・PN(青)の場合に「正応力場」,PTN(空)・TPN(橙)・PT(赤ピンク)の場合に「逆応力場」と定義する.正極性の場合はオイラー回転角を応力極性回転角とし,逆極性の場合は180から算出オイラー回転角を減じて応力極性回転角とする.90度以下は正極性で,90度以上が逆極性と容易に判別できる.
基準とした2011年4月11日17時16分M7.0-tr6kmの翌日の2011年4月12日6時18分M6.4-np15kmの震央は方位348°北北西方12kmに位置する.この震央位置関係を今後「km12(348)」と震源深度のkmの次に記す.このCMT解の主応力軸方位のオイラー回転角は,無入替orgで88.3°になるが,TN入替で61.0°・PN入替で69.7°・PT入替で92.1°・TPN入替で71.3°,そしてPTN入替で最小の45.0°になる.最小のPTNは逆極性であるので,応力極性回転角は135.0°になる(図205).この逆極性は,基準地震M7.0後この地震M6.4までに応力場逆転を含む本破壊が終了していたことを示している.この二つの地震の間には,M4.5~5.9のCMT解4個あり,先の2つはTN入替で25.2・23.6°であるが,後の2つは入替なしで回転角が37.4・25.7°と基準地震M7.0と同じ応力場極性を保持したままのM4.5~5.9の小規模な破壊の末に応力場逆転によるM6.4が起こったのであろう.これらの浜通地震は深度0~15kmの上部地殻で起こっている.

図205.浜通震源域上部地殻の浜通地震のCMT解の応力極性回転図.
左:震央地図,右:海溝距離-深度断面図(上),縦断面図(中),応力極性回転角(下),+:基準主応力方位地震(2011年4月11日M7.0).

浜通地震の最初のCMT解は,東日本大震災本震後の2011年3月15日16時03分M4.9-t0km26(212)org32.4-14%である.
初動発震機構解では最初に2003年2月20日3時25分M3.5tr11km15(290)TN41.3があり,次に東日本大震災本震後の2011年3月12日10時12分M4.8t11km10(37)TN50.0である(図206).

図206.浜通震源域上部地殻の浜通地震の初動発震機構解の応力極性回転図.
左:震央地図,右:海溝距離-深度断面図(上),縦断面図(中),応力極性回転角(下),+:基準主応力方位地震(2011年4月11日M7.0).

基準地震M7.0から震央距離50km以内を「浜通震源域」と呼び検討すると,上部地殻内(UC)の浜通地震の下には下部地殻から上部マントルの島弧モホ(LC)・太平洋スラブ上面からスラブ深度20kmまでのスラブ上面(TS)・スラブ深度20~40kmのスラブ中部(MS)・スラブ深度40~60kmのスラブ下部(LS)にCMT解38個・初動発震機構解222個がある(図207).

図207.浜通震源域の初動発震機構解の応力極性回転図.
左:震央地図,右:海溝距離-深度断面図(上),縦断面図(中),応力極性回転角(下),+:基準主応力方位地震(2011年4月11日M7.0).

浜通震源域のスラブ上面深度別応力場極性算出入替軸個数・発震機構型個数は

期間 応力場極性算出入替軸個数 発震機構型個数
      上部地殻(UC)
CMT 2011/3/15~2016/12/28 org18/19tn16pn1|ptn1tpn0pt0/0 -t9/13#t14/5T11/3
IS     2003/2/20~2016/12/31 org144/314tn280pn30|ptn28tpn7pt0/0 np30p15/2t432/316nt9
      島弧モホ(LC) -40~0km
CMT 2011/3/16~2016/9/7 org0/1tn4pn1|ptn0tpn0pt0/0 #t1/0T4/0
IS     2011/3/20~2013/8/12 org0/5tn7pn1|ptn1tpn0pt0/0 np1p1/1t9/2
      スラブ上面(TS) 0~20km
CMT 2005/10/22~2015/5/15 org0/3tn2pn0|ptn185pn0pt0/1 P1/0#p3/2+p9-t2/0#t2/0T4/0
IS     1998/1/22~2016/7/19 org0/4tn9pn2|ptn55tpn4pt44/2 np5p65/5t37/2nt6
      スラブ中部(MS) 20~40km
CMT 2010/8/3~2013/3/21 org0/1tn0pn0|ptn1tpn0pt3/0 P1/0#p0/0+p3/0
IS     1998/6/8~2016/9/15 org0/3tn7pn0|ptn5tpn9pt19/2 np6p27/6t1/3nt1
      スラブ下部(LS) 40~60km
CMT 1998/4/9~2012/8/26 org0/1tn2pn0|ptn0tpn0pt0/0 #t1/0T2/0
IS     1998/4/9~2016/12/31 org1/16tn22pn0|ptn1tpn2pt1/0 np1p1/0t30/6nt5

ここで、CMT:CMT解,IS:初動解.orgの「/」の左側が回転角25°以下,ptの「/」の右側が回転角155°以上.発震機構型のTと+pは非双偶力成分比+5%以上の正断層型と逆断層型,-tとPは非双偶力成分比-5%以下の正断層型と逆断層型,#tと#pは±5%以下の正断層型と逆断層型.tとpの「/」の左側が海溝傾斜方位の直方の個数,右側が側方の個数である.
応力場は,スラブ上面深度によって極性を変え,
      上部地殻(UC)無入替(org)優勢,
      島弧モホ(LC)がTN入替優勢の正極性,
      スラブ上面(TS)がPTN入替優勢の逆極性,
      スラブ中部(MS)がPT入替優勢の逆極性,
      スラブ下部(LS)がTN入替優勢の正極性(図207)と異なっている.
発震機構型も異なり,
      上部地殻(UC)で圧縮過剰正断層-t型,
      島弧モホ(LC)で引張過剰正断層T型,
      スラブ上面(TS)で引張過剰逆断層+p型,
      スラブ中部(MS)で引張過剰逆断層+p型,
      スラブ下部(LS)で引張過剰正断層T型が優勢である(図208).
スラブでは非双偶力成分が正の引張過剰であり,スラブが引張られていることを反映し,スラブ上面に接している島弧モホもスラブに引き摺られ引張過剰になっている.スラブ上面の引張過剰逆断層+p型の地震は,スラブ表面が海溝に沿って同心円状屈曲して伸長し,スラブが深発地震面に平面化する際に短縮されて起こる(特報1).
島弧地殻上部では圧縮過剰になっており,その過剰な圧縮は垂直方向に働き,島弧地殻を突き上げ,正断層型優勢になっている.突き上げによる正断層型のため,CMT解で側方正断層-tr型が13,直方正断層-t型が9「-t9/13」とT軸方位に変化が大きい.この下からの突き上げは,直下の島弧モホのスラブ上面に沿う引張優勢と異なり,その間に力学的断絶が存在する.島弧モホの震源は浜通震源域東縁に分布し,浜通地震の上部地殻の下にはスラブの上の楔型マントルがある.東日本大震災本震によるスラブの50m沈込(速報28)が楔型マントル突き上げをもたらしたのであろう.
最初の上部地殻の浜通地震2003年2月20日3時25分M3.5tr11kmは,気仙沼のスラブ平面化地震(特報1)2003年5月26日18時24分M7.1P72kmの3か月前であり,4か月後には十勝沖で2003年9月26日4時50分M8.0p45kmが起こっている(図208).

図208.M7以上の日本海溝域CMT解と浜通震源域CMT解の主応力方位図.
左:震央地図,数字はM7以上のCMT解の年月日,円の範囲が浜通震源域,中:海溝距離-深度断面図,右:縦断面(上),時系列図,左端は浜通震源域の地震断層面積ベニオフ図.

そしてスラブ下部で2005年1月1日5時13分M5.0T89km起きた後,
東日本大震災未遂に当たる一連の地震が,
      本震域の金華山はるか沖で2005年8月16日11時46分M7.2p42km,
      海溝外の東誘発地震域で2005年11月15日6時38分M7.2to45km,
      南誘発地震域の茨城県沖で2008年5月8日1時45分M7.0p51km,
      宮城岩手県境で2008年6月14日8時43分M7.2p8km,
      北誘発地震域北東の十勝沖で2008年9月11日9時20分M7.1p31kmが起こったが,
その間,浜通震源域のスラブ上部で2005年10月22日22時12分M5.6+p52kmが起こっている.
浜通震源域のスラブ中部2010年 8月3日7時30分M4.6+p82km・スラブ上部2010年9月30日21時47分M4.8p51km・2011年 1月1日8時01分M4.7P49kmの後,
      東日本大震災前震2011年3月9日11時45分M7.3p8km・
      東日本大震災本震2011年3月11日14時46分M9.0p24km・
      北誘発地震2011年3月11日15時08分M7.4P32km・
      南誘発地震2011年3月11日15時15分M7.6p43km・
      東誘発地震2011年3月11日15時25分M7.5-to34km(特報1,特報4,2929速報42)に続き,
浜通地震の最初の初動発震機構解2011年3月12日10時12分M4.8t11kmの後,
      スラブ上部で2011年3月14日8時41分M4.6t49km・
      2011年3月14日15時52分M5.2pr52kmが起こり,
      最初のCMT解2011年3月15日16時03分M4.9-t0kmが起こった.
11個の上部地殻CMT解およびスラブ下部と上部のCMT解2個の後,
      スラブ上部2011年4月7日11時40分M4.9T51kmの半日後,
      平面化地震である一つ目の宮城県沖地震4月7日23時32分M7.2+p66kmが起こり,
スラブ上部・中部の地震を挟み4日後に,
      基準地震2011年4月11日17時16分M7.0-tr6km に到り,
      応力場逆転地震2011年4月12日14時07分M6.4-np15kmが起こる.
そして,17個の上部地殻CMT解の後,
      島弧モホ2011年6月4日1時00分M5.5T30kmと2個の上部地殻CMT解,
そしてスラブ上部2011年7月8日3時35分M5.6+p55kmの2日半後に
      日本海溝付近の二つ目の宮城県沖地震2011年7月10日9時57分M7.3+nt34kmが起こり,
      2個の上部地殻地震が続き,4個のスラブ地震と9個の上部地殻地震があった.
2012年には2個の上部地殻地震と5個のスラブ地震の後,
      上部地殻2012年10月17日9時43分M4.5-tr7kmと
      スラブ上部2012年10月24日16時05分M4.5-t51kmに続き,
      海溝域で2012年12月7日17時18分M7.3Te49kmが起こり(速報35速報38),
      2個のスラブ地震が続いた.
2013年には4個の上部地殻地震と4個のスラブ地震の後,
      上部地殻2013年9月9日9時04分M4.4T10km,
      スラブ上部2013年9月30日22時37分M4.4t49km・
      2013年10月11日17時22分M4.3T52kmに続き,
      海溝外で2013年10月26日2時10分M7.1-to56kmが起こり(速報47),
      スラブ上部2013年12月25日7時41分M4.2+p49km,
      上部地殻2013年12月31日10時03分M5.4Tr7kmが続いた.
2014年には上部地殻地震1個とスラブ地震1個の後,
      スラブ上部2014年6月16日5時14分M5.8+p52km・
      上部地殻2014年7月10日17時58分M4.8t5kmの1日半後,
      福島はるか沖2014年7月12日4時22分M7.0T33kmが起こり(速報58),
      上部地殻2014年7月16日17時24分M4.6Tr13kmが続いた.
2015年にはスラブ上部2015年5月15日12時30分M5.0+p51kmと上部地殻2015年 11月20日8時15分M4.3t10kmに留まった.
これらの経過は,浜通震源域の上部地殻の地震とスラブの地震が密接に関係していることと,スラブの地震が日本海溝域のM7以上の大地震と密接な関係にあることを示している(図208).
今回の浜通地震2016年 12月28日21時38分M6.3-tr11kmも非双偶力成分が-24%と楔型マントルからの突き上げによって起こっており,主応力軸回転はorg29.9°と基準地震2011年4月11日17時16分M7.0-tr6km と同一応力場で起こっている.今回の規模M6.3は基準地震の1日後の2011年4月12日14時07分M6.4-np15kmに次ぐ.2つ目のM6以上の浜通地震である.応力場逆転を伴う本破壊を起こした基準地震M7.0で歪が解放されたとすると,5年間でM6.3の歪が蓄積したことになる.同心円状屈曲スラブの平面化が楔型マントルを通して島弧地殻に歪を蓄積していれば,平面化地震活動の活発化が今回の浜通地震に結び付く.2016年の浜通震源域スラブのCMT解は7月27日の1個のみであるが,東北東に隣接する福島県沖震源域では2016年11月22日5時59分M7.4-t25km(月刊地震予報86)を含む19個のCMT解が公表されている.この活発なスラブ地震活動が今回の浜通地震を起こしたと考えられる(図209).

図209.浜通震源域と福島県沖震源域のCMT解についての応力極性回転図.
左:震央地図.中:海溝距離-深度断面図,上2つが福島県沖震源域,下が浜通震源域,右:縦断面図(上)と時系列図・応力極性回転角.+:基準主応力方位地震(2011年4月11日M7.0).

今回の地震後,初動発震機構解6個・速報解9個公表されているが,応力場極性は逆転していないことから,前震とも考えられるので更に大きな地震に警戒が必要である.ただし,浜通震源域では基準地震M7.0で応力場逆転を含む本破壊を起こしていることから,M7.0の歪は蓄積できず,大きくともM6.5程度と予想される.

4.2017年1月の月刊地震予報

熊本地域の地震は,2016年11月に速報解が1個・初動解が3個と鎮静化している.2016年10月21日鳥取県中部M6.6震源域の地震も,2016年12月に初動解が2個と鎮静化している.
フィリピン海プレートの沈込域のCMT解は1個・0.002月分と2012年11月の0個以来の最低を記録した.2012年11月の4カ月後の2013年3月から6月には台湾を始め西南日本の地震が続いたことから嵐の前の静けさと考え,警戒が必要である.
大正関東地震M8.2や東南海地震M8.2と関連する福島県沖地震域の南西に接する浜通地震域でもM6.3の地震が起ったが,本震に到ったどうか分らないので警戒が必要である.2016年12月にM6以上の地震のあった浜通とマリアナに挟まれている関東地方の地震に厳重な警戒が必要である.

速報51)2014年2月の地震予報

1.2014年1月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2014年1月の地震個数と,プレート運動面積に対する総地震断層面積の比は,日本全域で13個0.084月分,千島海溝域で2個0.084月分,日本海溝域で7個0.168月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.117月分,南海・琉球海溝域で3個0.039月分であった(2014年1月日本全図月別).
 日本全域で0.084月分となり、このような0.1月分を下回る地震断層面積比は,2012年9月(0.069月分)を除いて,東日本大震災前の2010年1月からこれまでなかった.このまま地震活動が静穏化すれば,東日本大震災前の水準まで低下することになる.
 1月のM5.5以上の地震の月日・マグニチュード・発震機構(震源震央分布図の解説)・深度は;

  1. 千島海溝域: 1月11日M5.5 p 30km.
  2. 日本海溝域: 1月4日M5.6 -t 50km(2014年1月東日本月別).
  3. 伊豆海溝域:1月18日M5.6 P 30km.
  4. 琉球海溝の八重山域  :1月9日M5.5 Pr 70km.

2.2014年2月の地震予報

 日本海溝域の最上小円区では,2013年12月にCMT発震機構解が公表されなかったが,2014年1月4日に海溝軸付近で同心円状屈曲に伴う圧縮過剰正断層-t型地震が起こった.今後,屈曲スラブが平面化する地震の発生が予想されるので,三つ目の宮城県沖地震の再来に警戒が必要である.
 福島県浜通域の地震は東日本大震災後に活動を始めたが,2014年1月にも自動初動発震機構解(2014年1月東日本IS月別)に2個, CMT発震機構解(2014年1月東日本月別)に1個の地震が公表されている.日本全域の地震活動静穏化にもかかわらず活動を続けていることから,宮城県北部地震の再来も念頭に警戒が必要である.

速報50)2013年の地震活動・関東沖正逆周期・2014年1月の地震予報

1.2013年12月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2013年12月の地震個数と,プレート運動面積に対する総地震断層面積の比は,日本全域で24個0.618月分,千島海溝域で4個0.841月分,日本海溝域で15個0.671月分,伊豆・小笠原海溝域で3個2.017月分,南海・琉球海溝域で2個0.006月分であった(2013年12月日本全図月別).
 日本全域で0.618月分の地震断層面積比は,10月の1.419に次ぐ今年4番目に高い活動度であった.以下,海溝域別に見てみると,
1)日本海溝域では,東日本大震災直前の2010年11月以後,最大の地震活動を維持してきた最上小円区が12月に無地震になった.この無地震を補って活動したのが,鹿島小円北区に属する第一鹿島海山の日本海溝への衝突による地震(図118),関東沖の同心円状屈曲スラブ上面付近の地震,および福島県浜通域の地震である(2013年12月東日本月別).

図118.日本海溝で衝突している第一鹿島海山の両脇で2013年12月23日に起こったM5.9とM5.3の震央.  富士山よりもはるかに巨大な第一鹿島海山が太平洋プレートに載って日本海溝に衝突しながら沈み込んでいる.その両脇で2013年12月23日の15時57分にM5.9 p 42kmと18時11分にM5.5 P 59kmが起こった.

図118.日本海溝で衝突している第一鹿島海山の両脇で2013年12月23日に起こったM5.9とM5.3の震央.
 富士山よりもはるかに巨大な第一鹿島海山が太平洋プレートに載って日本海溝に衝突しながら沈み込んでいる.その両脇で2013年12月23日の15時57分にM5.9 p 42kmと18時11分にM5.5 P 59kmが起こった.

2)沖縄南海域の地震活動は,今年,静穏であったが,12月の0.006月分は11月の0.014月分を下回る今年最低の活動度である.
3)12月の地震活動で注目される地震の月日・マグニチュード・発震機構(震源震央分布図の解説[cmt_2])・深度は;
①国後島沖地震: 12月9日M6.4 -t 30km,12月13日M5.5 +p 11km.
②第一鹿島海山域の海溝域地震: 12月23日18時11分M5.5 P 59km・15時56分M5.9 p 42km(図118)
③関東のスラブ上面地震:11月に逆断層型地震が起こり注目されたが(速報49),12月には逆断層型地震とともに正断層型地震も起こった.ただし,起こる時期を異にしている.
④浜通域地震:12月31日M5.4 T 7km.
⑤伊豆・小笠原海溝域地震:マリアナ小円区の12月18日M6.6 -t 0km海溝外地震,小笠原海台小円区の12月10日M5.6 +nt 138km,伊豆小円南区の12月18日M5.3 p 452km

2.2013年の地震活動を振り返る

 2013年のCMT解の地震個数とプレート運動面積に対する総地震断層面積の比は,日本全域で318個0.677年分であり,震災前(1994-2010年)の比0.915年分よりも少ない.日本海溝域の205個1.156年分は,震災前の1.359年分を下回った.南海・琉球海溝域の58個0.219年分は,これまでの0.487年分の半分以下である(2013年日本全図年別).
 2013年のM7.0以上の地震は,得撫島沖4月19日M7.0 T 125km,マリアナ屈曲スラブ5月14日M7.3 p 619km,日本海溝外10月26日M7.1 -t 56kmであった(図119).

図119.2013年の太平洋プレート沈み込み域の震源震央と時系列.  左図:震央地図と海溝距離・深度断面図.右図:海溝長・深度断面図と時系列図(数字は月).震源記号は主応力軸方位.   海溝距離・深度断面図中の文字は2013年のM7.0以上の地震.伊豆小円区(伊)では7月以後,逆断層型地震が400km付近で起こっている.

図119.2013年の太平洋プレート沈み込み域の震源震央と時系列.
 左図:震央地図と海溝距離・深度断面図.右図:海溝長・深度断面図と時系列図(数字は月).震源記号は主応力軸方位.
海溝距離・深度断面図中の文字は2013年のM7.0以上の地震.伊豆小円区(伊)では7月以後,逆断層型地震が400km付近で起こっている.

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