速報58)福島沖地震M7.0の応力場オイラー回転解析・2014年8月の地震予報

1.2014年7月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2014年7月の地震個数と,プレート運動面積に対する総地震断層面積の比(速報36)は,日本全域で27個1.225月分,千島海溝域で4個0.835月分,日本海溝域で15個5.085月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.618月分,南海・琉球海溝域で6個0.034月分であった(2014年7月日本全図月別).
 日本全域の地震断層面積比が1.225月分と,地震断層面積がプレート相対運動面積を上回ったのは,2013年10月以後,9か月ぶりである. 2014年に入ってからの地震断層面積比も0.325に増加したが,1997年の0.114に次いで小さい状態が続いている(日本全国年別).
 気象庁が公開している初動発震機構解(精査後)では, 2014年5月3日から5月16日まで連発した飛騨の地震は(速報55),6月30日M3.4に再発し,7月22日から26日にM3.2-4.0の地震が3個起こっている(西南日本IS月別).

2.2014年7月のM6.0以上の地震

1)2014年7月1日M6.2iPcp深度539km鳥島沖

 伊豆スラブ最深部最大の地震である.2014年5月12日M4.9np深度544kmのこの震源域における最深新記録に5km及ばなかったが,マグニチュード最大記録であった1999年1月15日M5.8を0.4更新した(図129).伊豆スラブの地震活動は,西ノ島噴火活動とともに活発化している(速報48).

図129.2014年7月1日鳥島沖地震M6.2.  伊豆小円南区1994年9月から2014年7月までのCMT解震源の主応力軸方位.今回の地震は発震機構型に合わせ赤色で年月日とマグニチュードを記入した.この震源域の最深記録とこれまでの最大マグニチュードの震源に近接している.

図129.2014年7月1日鳥島沖地震M6.2.
 伊豆小円南区1994年9月から2014年7月までのCMT解震源の主応力軸方位.今回の地震は発震機構型に合わせ赤色で年月日とマグニチュードを記入した.この震源域の最深記録とこれまでの最大マグニチュードの震源に近接している.

2)7月12日M7.0EafT深度33km福島沖

 2014年に入って日本全域で初めて起こったM7.0以上の地震で,日本海溝から沈み込む太平洋スラブ上面付近で起こった.

3)7月21日M6.4mCsmp深度30km択捉島沖

 深度80km以浅の千島スラブ上面付近から千島列島マントルに連続する震源域の北西縁で起こった.この震源域では,これまで根室半島沖と得撫島沖(速報41)の地震活動が活発で,択捉島沖はその間に挟まれた地震活動の少ない地域であった.今回の地震は得撫島側の活動域の西縁で起こった.千島海溝域のM6.0以上の震源は1994年9月以降31個あり,震源域の西方移動が時系列図で認められる(図130).1994年から2003年までの西方移動後,2006年に千島弧東部から開始した地震活動が2010年に択捉島沖まで西方移動している.本地震後2014年7月26日にM4.9p・M5.0Pが根室半島沖と得撫島沖で起こっている.

図130.2014年7月21日択捉島沖地震M6.4  千島小円区の1994年9月から2014年7月までのCMT解震源の主応力軸方位.左の震央地図と断面図および右上の十断面図には全ての震源を示した.縦断面図上の赤矢印は今回の震源位置を示す.右下の時系列図にはM6.0以上の震源のみ示した.

図130.2014年7月21日択捉島沖地震M6.4
 千島小円区の1994年9月から2014年7月までのCMT解震源の主応力軸方位.左の震央地図と断面図および右上の十断面図には全ての震源を示した.縦断面図上の赤矢印は今回の震源位置を示す.右下の時系列図にはM6.0以上の震源のみ示した.

3.2014年7月12日福島沖M7.0の応力場オイラー回転解析

 7月12日最上小円区南西縁の深度33kmで発生した引張過剰正断層T型地震は,海溝距離92kmの日本海溝から同心円状屈曲して沈み込む太平洋スラブ上面付近で起こった.
 この地震を起こした応力場を日本海溝域で起こったこれまでの地震の応力場と比較するために,今回の福島沖地震の主応力軸方位をどれだけ回転すればこれまでの地震の主応力軸方位に一致するかを,オイラー回転の極方位と回転角を用いて比較する解析を行った(速報29).
 非双遇力(nonDC)成分が「正」の場合には引張過剰で,圧縮主応力Pと中間主応力Nの差が小さいためP軸とN軸が入れ替わり易く,「負」の場合には圧縮過剰で,引張主応力Tと中間主応力Nの差が小さくT軸とN軸が入れ替わり易い(速報37).このような主応力軸が入れ替った主応力軸についても回転角を算出し,回転角の小さな回転角を作図と平均回転角算出に使用した.
 1994年9月以降の全CMT解1776個について算出した回転角の平均と標準偏差は66.7±22.8°であるが,東日本大震災翌日の2011年3月12日から2014年7月31日までの地震1397個について算出した平均回転角は63.9±23.6°(図131)と小さく,1994年9月1日から東日本大震災前の2011年1月31日までの地震343個の平均回転角は77.2±15.1°(図132)と大きい.この応力場平均回転角の減少は,日本海溝域の応力場が東日本大震災によって大きく変化したことを示している.東日本大震災による平均回転角の減少は,最上小円区の日本海溝軸付近で同心円状屈曲沈み込みによる太平洋スラブ内地震が多数起こったからである.

図131.2014年7月12日福島沖地震M7.0を基準とした東日本大震災以後の日本海溝域地震の応力場オイラー回転SeisEuRot.  震源位置の短線はオイラー極方位,線色は回転角(度).回転角の小さな多数の震源が最上小円区中軸と日本海溝軸の交点付近に集中している.

図131.2014年7月12日福島沖地震M7.0を基準とした東日本大震災以後の日本海溝域地震の応力場オイラー回転SeisEuRot.
 震源位置の短線はオイラー極方位,線色は回転角(度).回転角の小さな多数の震源が最上小円区中軸と日本海溝軸の交点付近に集中している.


図132.2014年7月12日福島沖地震M7.0を基準とした東日本大震災前の日本海溝域地震の応力場オイラー回転SeisEuRot.

図132.2014年7月12日福島沖地震M7.0を基準とした東日本大震災前の日本海溝域地震の応力場オイラー回転SeisEuRot.

 今回の福島県沖地震は,同心円状屈曲による日本海溝軸付近の地震域よりも南西方で,2011年4月7日の一つ目の宮城県沖地震に代表される太平洋沿岸の屈曲スラブの平面化に伴うスラブ上面に沿う震源域との中間に位置する.平面化地震の応力場の回転角は80°以上(ピンク色)で,同心円状屈曲に伴う回転角60°以下(緑色)と区別できる.
 図129・図130の右上に示した縦断面図と右下の時系列図を比較すると,東日本大震災によって日本海溝域の応力場が急変するとともに,地震数が急激に増大したことが分かる.特に最上小円区中軸部の日本海溝軸に沿う同心円状屈曲沈み込みによる太平洋スラブ内地震が顕著である.この地震活動の急激な変化は,停止していた太平洋スラブ沈み込みが東日本大震災によって再開したことを示す最も重要な根拠である(速報42 特報1).
 2011年の大震災直後には,応力場回転角の小さい(青色・緑色)同心円状屈曲による地震は最上小円区中軸部に限定され,今回の福島県沖地震(十字印)が起こった最上小円区南西縁では応力場回転角の大きい(ピンク色)地震が起こっていたが,2011年後半から今回の福島県沖地震のような応力場の地震も起こるようになり,同心円状屈曲沈み込み域が拡大していることを示している.

4.2014年8月の地震予報

 2014年7月の日本全域地震断層面積比は1.225月分と2013年10月以来始めてプレート運動面積を越えた.この地震断層面積の増大は7月12日に起こった福島県沖地震M7.0によっている.この地震は日本海溝から同心円状屈曲しながら太平洋スラブが現在も沈み込んでいることを示している.ただし,日本海溝軸と最上小円区中軸から離れた福島県沖でもM7.0の地震が起こったことは,太平洋同心円状屈曲沈み込みが東日本大震災本震付近から広域に拡大していることを示している.同心円状屈曲域の拡大が屈曲スラブ平面化にどのような影響を及ぼすか分かっていないので,今後の動静に警戒が必要である.
 伊豆海溝域のスラブ最深部の地震活動が活発になり,西ノ島の火山活動とともに警戒が必要である.
 千島海溝域のM6.0以上の震源域が西進していることから,根室半島沖の地震が今後数年以内に起こることが予想されるので警戒が必要である.