速報75)2015年の地震活動と2016年1月の地震予報

1.2015年12月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2015年12月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で5個0.032月分,千島海溝域で1個0.089月分,日本海溝域で2個0.014月分,伊豆・小笠原海溝域で0個,南海・琉球海溝域で2個0.003月分と静穏であった(2015年12月日本全図月別). 最大地震は2015年12月13日千島のM5.8であり,M6以上の地震はなかった.
 2015年12月の日本全域月間CMT解個数5個は,東日本大震災後の最少記録である.一方,CMT解よりも小さな地震について初動発震機構解(精査後)が求められているが,その個数は日本全域で48個であった(2015年12月東北日本(月別)IS2015年12月西南日本(月別)IS).この初動発震機構解の月間個数は,東日本大震災の2011年3月154個・4月336個を頂点として,2012年に39~89個,2013年に43~71個,2014年に27~50個,2015年11月までは28~44個と減少している.この減少傾向の中で,2015年12月の48個は多く,CMT解の少なさと対照的である.

2.2015年の地震活動と2016年1月の地震予報

2015年は多彩な地震活動が日本列島を襲った年であった(図174).海溝から沈込むスラブは深度660kmの下部マントル上面より下に沈込めないことが常識とされてきたが,それを覆して小笠原スラブの深度682kmで5月30日にM8.1(速報68)さらに6月3日に深度695kmでM5.6が起こり,太平洋スラブの下部マントルへの突入を確実にした(速報69).もし,スラブが下部マントルに突入するとペロブスカイトへ相転移するため浮力を失い下部マントルに崩落するものと考えられている.5月末から6月の下部マントル地震の後8月にはマリアナ海溝外地震M6.1(速報71,),9月には伊豆スラブ内地震M6.1・M5.2・M4.7が起こっており(速報72),太平洋スラブの活発な沈込を裏付けている.太平洋スラブの下部マントルへの崩落については,地質記録以外に頼るものは存在せず,予想が困難であるが,従来考えられていた活動を遙かに上回る東日本大震災のような活動も起こりうることを前提に警戒が必要である.

図174.2015年の日本全域CMT解の主応力軸方位図・ベニオフ図・地震断層面積対数移動平均図.  ベニオフ図(右上)の各海溝域の幅は1年間のプレート運動面積であり,黒色斜線がプレート運動の積算面積,赤色曲線が地震断層積算面積.左端のTotalは各海溝域合計の4分の1(特報5).  対数移動平均図(右下)の横軸は地震断層面積(km2)の対数(速報68).  右図右端の数値は2015年の月数.

図174.2015年の日本全域CMT解の主応力軸方位図・ベニオフ図・地震断層面積対数移動平均図.
 ベニオフ図(右上)の各海溝域の幅は1年間のプレート運動面積であり,黒色斜線がプレート運動の積算面積,赤色曲線が地震断層積算面積.左端のTotalは各海溝域合計の4分の1(特報5).
 対数移動平均図(右下)の横軸は地震断層面積(km2)の対数(速報68).
 右図右端の数値は2015年の月数.

日本海溝域では,東日本大震災から活発化した海溝外地震が1月14日にも起こり(速報64),太平洋底が日本列島下のスラブに引張られていることを示しているが,明治三陸地震震源域で2月17日のM6.9に続き25日まで連発地震が起き(速報65),5月13日には三陸沖の金華山北方で平面化する太平洋スラブ上面でM6.8が起こっている(速報68).12月には大きな地震が異常に少なく,小さな地震が多数起こったが,太平洋スラブ平面化域に集中していることから(2015年12月東北日本(月別)IS),太平洋スラブ平面化域における地震活動に警戒が必要である.
西南日本域では,プレート運動の十分の1程度の地震活動しか起こっていないことが心配されていたが,琉球海溝南西端付近の与那国近海で4月20日M6.8に続き26日まで連発地震が起こった(速報67).その後,11月14日沖縄トラフ北端で沖縄トラフ最大のM7.1が起こった(速報74).フィリピン海プレートは,南部フォッサマグナと台湾の衝突帯によって沈込を拒まれている.台湾の衝突は琉球海溝南西部の屈曲と沖縄トラフの拡大に関連していることから,与那国における屈曲の進行と沖縄トラフの拡大を示す2015年の地震は,フィリピン海プレート運動の障害を除去するものあり,今後の地震活動の活発化に警戒が必要である.台湾で被害の大きかった1999年9月集集地震M7.7の前年1998年5月に八重山沖でM7.7が起こっていることから,2016年から2017年に台湾における地震も心配される.
 2015年12月のCMT地震の激減と小地震の頻発は,通常の地震活動の増減と異なり,嵐の前の静けさに当たり,2016年には活発な地震活動が予想されることから,警戒が必要である.