2022年7月29日 発行
1.2022年6月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2022年6月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で15個0.329月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で4個0.073月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.425月分,南海・琉球海溝域で10個0.681月分であった(2022年6月日本全図月別).総地震断層面積規模はΣM6.7で.最大地震は琉球海溝域の琉球海溝域台湾の2022年6月20日 M6.4poである.M6.0以上の地震は,6月21日伊豆海溝域小笠原の M6.1+pを加えて2個である.

図474.2021年1月から2022年6月までの日本全域18ヶ月間のCMT解
震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とMは発生年月日と規模.
地震断層面積変遷(右上下図):右縁の数字は月数(図422説明参照(月刊地震予報144).
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南海・琉球海溝域では0.681月分と2021年11月から活発な活動を継続している.伊豆海溝域でも2022年4月からの活動を継続し,日本海溝域では2022年3月からの活動が続いている.

図475.2022年6月のM6.0以上の地震の震度分布.
最大地震の2022年6月20日 琉球海溝域台湾 M6.4poについては震度1以上の分布が公開されていないので割愛し,6月21日伊豆海溝域小笠原 M6.1+pのみ掲載する.
最大地震の琉球海溝域台湾2022年6月20日M6.4poについては震度1以上の分布が公開されていないが,2022年6月21日伊豆海溝域小笠原M6.1+p では小笠原諸島に最大震度2の震度分布があった.
3.琉球海溝域台湾2022年6月20日 M6.4po
琉球海溝域台湾小円区北縁の海岸山脈深度0㎞の琉球海溝震源帯TrPh台湾震源区Twで2022年6月20日10時05分M6.4poが発生した(図476).この震源区は,Philippine海Plateが沈込めず海岸山脈として台湾に衝突しているPlate境界で,24個のM6.0以上のCMT解があり,その最大は2022年3月31日深度55㎞のM7.0Peである.

図476.琉球海溝域の2021年1月から2022年6月までの18ヶ月間のCMT解.
震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図下)の数字とMは2022年6月の最大地震発生年月日と規模.震央地図の黒色円は最大地震から震央距離100㎞の範囲.
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本地震から震央距離100㎞以内には,ここ18ヶ月間に,琉球海溝震源帯TrPhのM6.0以上のCMT解が,2021年10月24日TrPhTw M6.3Pr(刊地震予報146),2022年1月3日TrPhRk M6.3+p(刊地震予報149),2022年3月23日TrPhTw M6.6Po (月刊地震予報151),2022年5月9日TrPhRk M6.6+p(月刊地震予報153)の4個ある.これらは全て逆断層型(図476の赤色)である(図476左図).
琉球海溝全域CMT解では,琉球海溝震源帯TrPhの逆断層型と沖縄海盆震源帯RifPhOkwの正断層型(図476の黒色)が半分ずつを占めて,2021年11月から正断層型と逆断層型CMT解の積算地震断層面積が直線的に増大している(図476右中時系列図左端のBenioff曲線).
琉球海溝域の地震活動が.沖縄海盆拡大から琉球海溝沈込への移行期にあり(月刊地震予報144),今後,M7級の琉球海溝震源帯の巨大地震に警戒が必要である.
4.2022年6月21日伊豆海溝震源帯小笠原区 M6.1+p
2022年6月21日16時14分伊豆海溝震源帯TrPc小笠原震源区Ogの深度48㎞でM6.1+pがあった(図474・図475・図477).

図477.伊豆海溝域の2021年1月から2022年6月までの18ヶ月間のCMT解.
震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図下)の数字とMは地震発生年月日と規模.震央地図の黒色円は今回の地震M6.1から震央距離100㎞の範囲.海溝距離断面図と縦断面図(右上図)の+印は今回の地震の震源.
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先月2022年5月の伊豆海溝震源帯の連発地震(月刊地震予報153)は先月中に終息し,活動域を南方の小笠原震源区に移した.作図間隔(3.6day:図477右中図左端下凡例)の3倍10.8日間に1個のCMTもない2022年1月4日から4月1日までの基底状態終了後の活動が北側の鹿島小円南区から伊豆小円南北区に限定されていたが,今回の地震が小笠原小円区で起こり,活動域が南方に拡大した.
5.能登震源区 M5.4+p震度6弱への東北日本弧からの歪伝搬
2022年6月19日15時08分に西南日本海岸震源帯能登震源区JscPhNotoの深度13㎞でM5.4+pが起こった.最大震度は6弱(図474・図478右)で鳥居倒壊などの被害があった.2020年3月13日にも能登震源区で,規模が0.1大きいM5.5Pが起き,今回より震度1以上の分布範囲が広かったが,最大震度は5強と小さかった(図478中図).

図478.能登震源区2022年6月19日M5.4最大震度6弱と2020年3月13日M5.5Pおよび東北日本海岸沖出羽震源区2019年6月18日M6.7pのの震度分布
能登震源区の今回の活動期間には,東北日本海岸沖震源帯出羽震源帯oJscJDwと東北日本前弧沖震源帯阿武隈震源区ofAcJAbkの活動もあるので,それらの関連について述べる.
これら3つの震源区は,2016年11月22日阿武隈震源区M7.4-t(月刊地震予報86)以降約3年間,M5.8を超すCMT解のない静穏期であったが,2019年6月から2022年6月にM6.0以上の地震が発生する活動期に移行した.
3震源区のCMT解の総地震断層面積を図幅に合わせた積算地震断層面積曲線(図479上図左端縁Total CMTのBenioff)には,2019年6月18日M6.7からの最初の段[I],2021年2月13日M7.3の2つ目の大きな段[II],2022年3月16日の3つ目の大きな段[III](図479上図左端縁の赤色I・II・III)が認められる.

図479.JscPhNoto M5.4+pへの東北日本弧からの歪伝搬.
Total 総計,西南日本海沿岸帯JscPh能登震源区Noto,東北日本弧沖震源帯ofAcJ阿武隈震源区Abk,東北日本海沿岸沖震源帯oJscJ出羽震源区Dw.
CMT:Centroid Moment Tersor主要動重心発震機構,IM:Initial Motion 初動発震機構,Prel:Preliminary 速報発震機構解.
時系列図(上図):左端縁の赤色I・II・IIIはTotal CMTBenioff曲線の段差番号.
震央地図(下左図),海溝距離断面図(下右図):〇印・数値・MはCMT観測網整備の契機となった奥尻地震津波の震源・発生年月日・規模.
東北日本弧は,太平洋Slabと日本海Slabに沈込まれており,Slab沈込に伴って海面上に押上げられ島弧となっている.島弧下の上部Mantleは,深度増加に伴い高温になるため地震が発生せず,情報に乏しかった.しかし,東北日本海沖震源帯渡島震源区oJscJOsmの奥尻島を襲った1993年7月12日M7.8の津波(図479)を契機に整備されたCMT解観測網によって,主歪軸方位(発震機構)に加え地震断層面(速報33)や主歪比(速報37;月刊地震予報148)を算出できる非双偶力成分比nonDCを含むCMT解が気象庁から1994年9月以降のM4.0以上の地震について公表され,東北日本弧の上部Mantleを介した歪伝達についての解析が可能になった.
2016年以降静穏期の続いた東北日本弧では,東北日本海岸沖震源帯出羽震源区oJscJDwの新潟・山形地震2019年6月18日M6.7(月刊地震予報118;図478左;図479上右端)によって日本海Slabが走向傾斜N27E32Eの地震断層面に沿って沈込み,東北日本弧の地殻と上部Mantle表層を押上げた.震源域では,8ヶ月後の2019年11月11日M3.8pまでに初動発震機構IM解10個の余震が続いた(図479右端).
この余震期間に,太平洋Slab沈込を阻止していた東北日本弧上部Mantle表層縁の東北日本前弧沖震源帯阿武隈震源区ofAcJAbkで誘発地震が2019年8月4日M6.4pから開始された.島弧地殻縁の西南日本海岸震源帯能登震源区JscPhNotoでも余震期間の2019年8月27日にM3.8が誘発され,2020年3月13日にM5.5Pが発生した[I](図478中;図479上左中).
7ヶ月の静穏期の後,阿武隈震源区で東北新幹線を10日間停止させた2021年2月13日M7.3(月間地震予知138)[II],3か月の静穏期の後に東北新幹線を脱線させた2022年3月16日M7.4P(月刊地震予報151)[III]が起こった.この2つのCMT解は,太平洋SlabのMantleがSlabのMoho付近の地震断層面N9E46WとN12E49Wに沿って沈込んだことを示している(図479下右上).この間の能登震源区の地震活動は,阿武隈震源区と交互していたが,2022年4月以降は同日内にも起り,両震源区間の相補的活動から同時活動へと密接さを増し,今回の2022年6月19日M5.4+pに到った.
能登震源区のCMT解の発震機構は逆断層P型(図479の赤色)で,圧縮P歪軸は島弧地殻に沿いほぼ水平で(図479下右下),それに直交する引張T軸はほぼ垂直である.
それらの歪比T/Pは,
非双偶力成分比nonDCが「0」の場合には;双偶力状態で,「1」であるが,
正の引張過剰の場合には; T/P = ( 1 + nonDC) / ( 1 – 2*nonDC) で,
負の圧縮過剰の場合には; T/P = ( 1 + 2*nonDC) / ( 1 – nonDC) である.
T/Pは,[I]の2020年3月13日に0.69,[II]を経た2021年9月16日に0.75と増加したが7割程度に留まっていた.2022年3月10日には0.92と同程度にまで増大した.[III]を経た2022年6月19日には2.85と3倍近くにまで増大した.翌2022年6月20日も2.85を保持していることから,この比が局地的あるいは一過性ではないと考えられる.
島弧地殻の上下引張歪は,地殻引き降しによって増大する.地殻を引き降ろせるのは,地殻下の上部Mantleであるが,能登震源区の島弧地殻下の上部Mantleは太平洋Slab上面まで続いている.太平洋Slabが東北日本前弧沖震源帯から沈込めば,背弧側のSlab上面が低下して上部Mantleの体積を増大させる.上部Mantle体積の増大は上部Mantleを減圧し,島弧地殻を下に引き降し,上下引張歪を増大させる.
能登震源区の引張歪比が,太平洋Slab沈込に対応する阿武隈震源区の地震活動[II]・[III]に追随して増加していることは,太平洋Slabの沈込に伴う島弧上部Mantleの減圧が島弧地殻の引張歪を増大させていることを支持する.引張過剰の歪T/P=2.85が2022年6月19日M5.4+pによって上下方向の震動として解放されたため,垂直に建立された鳥居が倒壊したのであろう.一方,2020年3月13日M5.5P震度5強はP型で圧縮過剰のT/P=0.69で上下歪が小さかったことが,被害を少なくしたのであろう.

図480.2019年から2022年の東北日本における新幹線脱線・鳥居崩壊を含む被害地震についての歪伝達とPlate運動(新妻,2022).
東北日本弧の3つの震源区は東北日本の島弧地殻・上部Mantle表層の周縁部に位置し,島弧地殻・上部Mantle表層の歪伝達によって相互に作用している.出羽震源区では日本海Slabが,阿武隈震源区では太平洋Slabが島弧地殻・上部Mantle表層に接しているが,CMT解から算出される地震断層面方位と歪軸方位から,地震に伴うSlab沈込と東北日本弧地殻・上部Mantle表層の押上げを判別できる.地殻と上部Mangtle表層が押上げられれば,水平圧縮歪が解放され,誘導地震を起こすとともに,阻止されていたSlab沈込を誘導する.太平洋Slabの沈込はSlab上面から上の島弧上部Mantleの体積を増大させ,島弧地殻の上下引張歪を増大させる.
2019年6月から開始された出羽震源区における日本海Slab沈込は,東北日本弧の地殻・上部Mantle表層の歪を減少させ,阿武隈震源区と能登震源区に誘発地震をもたらした.この誘発地震で上部Mantle表層の圧縮歪が減少し,阿武隈震源区では太平洋Slab沈込みが促され,能登震源区との相補的から同時的な地震活動が起き,太平洋Slabの本格的沈込みで,島弧上部Mantleを減圧して島弧地殻を引き下げ,T/Pを増大させたと結論できる.
6.2022年7月の月刊地震予報
琉球海溝域では,沖縄海盆拡大期の次に予想される琉球海溝震源帯のM7.0以上の大地震を待つ状態にあるのは変わらず(月刊地震予報147),警戒が必要である.
伊豆海溝域では,伊豆海溝震源帯の活動が北端の伊豆小円区から小笠原海溝域に拡大していることから,太平洋Slab沈込に伴う新たな活動に注意が必要である.
日本海溝域では,日本海溝から沈込む太平洋底を同心円状屈曲させている前弧沖震源帯で新幹線を脱線させた2022年3月16日M7.4Pが起こり,余震活動は数か月続くと予想されたが,3ヶ月目の6月にIM解の数も終息に向かっている.
引用文献
新妻信明(2022)日本海沿岸沖2019年6月18日M6.7,東北前弧沖2021年2月13日M7.3・2022年3月16日M7.4,能登2022年6月19日M5.4の地震活動伝搬および新幹線脱線と地震断層面・歪軸方位の関係.日本地質学会2022年会予稿集,
G5-P-6.
2022年6月30日 発行
1.初動発震機構解表示と東日本巨大地震呼称の変更
本月刊地震予報では,気象庁公開の精査済初動発震機構解をIS解と略記してきたが(震源震央分布図の解説),初動にInitial Shockを対応させていたからである.しかし,「地震学」(宇津,2012)・「岩波理化学辞典」(長倉・他,1998編)などで初動にInitial Motionを対応させていることから,本月刊地震予報においてもInitial Motionを使用し,IM解と略記することにする.
本地震予報では2011年3月11日の東日本大震災を起こした地震を東日本巨大地震と呼んできたが(速報1),日本全域の地震活動を一連の震源区Seismic Divisionからなる震源帯Seismic Beltに分帯して解析を進めている.東日本巨大地震は,この分帯で太平洋Slab上面と東北日本弧の下部地殻が衝突している東北日本弧沖震源帯oAcJの平成震源区Hsに属するので,今後,東北日本弧沖平成巨大地震,あるいは単に平成巨大地震と呼ぶことにする.
2.2022年5月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2022年5月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で23個0.508月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で9個0.604月分,伊豆・小笠原海溝域で8個0.842月分,南海・琉球海溝域で6個0.797月分で総地震断層面積規模はΣM6.9であった(2022年5月日本全図月別).最大地震は琉球海溝震源帯TrPhRk M6.6+pで,M6.0以上の地震は,5月22日 東北日本近海震源帯nShJ M6.0-ntと5月23日伊豆海溝震源帯TrPcK M6.1pを加え3個であった.

図466.2021年1月から2022年5月までの日本全域17ヶ月間CMT解
震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とMはM6.0以上の発生年月日と規模.
地震断層面積変遷(右上下図):右縁の数字は月数(図422説明参照(月刊地震予報144).
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M6.0以上の地震が無かったのは昨年の2021年8月と今年2022年2月と4月である(図466の右下図).この翌月2021年9月から,千島海溝域と伊豆海溝域で活発化し,2021年10月から琉球海溝域で定常的な地震活動が開始された.2022年の2月と4月の間の2022年3月16日には日本海溝域での最大地震M7.4(月刊地震予報151)が起こっている(図466の右上図).

図467.2022年5月のM6.0以上の地震の震度分布.
5月9日 TrPhRk M6.6+p,5月22日 nShJFtb M6.0-nt,5月23日TrPcKp M6.1p
2022年5月のM6.0以上の地震の震度分布(図467)は,2022年5月9日台湾沖TrPhRk M6.6では最大震度が3で,震度1以上は八重山諸島までであったのに対し,2022年5月22日東北近海震源帯nShJFtb M6.0は規模が小さいのに最大震度5で東北地方・関東地方そして中部地方まで震度1以上が観測されている.2002年5月23日の伊豆海溝震源帯TrPcK M6.0の最大震度は1で本州まで届いておらず,伊豆弧と琉球弧の地殻・Mantle構造が本州弧と異なることを示している.
3.2022年5月9日琉球海溝震源帯TrPhRk M6.6+pと沖縄海盆拡大連発地震
琉球海溝震源帯TrPhRk M6.6+pが八重山小円区西端の琉球海溝軸方位を北に急変する深度19㎞(Slab上面深度+3㎞)で発生した(図466).

図468.2022年5月9日琉球海溝震源帯M6.6から震央距離100㎞以内の1922年から2022年5月までの100年間の地震活動.
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本地震から震央距離100㎞以内には,ここ17ヶ月間に2021年10月24日M6.3P(月刊地震予報146)・2022年1月3日M6.3+p(月刊地震予報149)を含むM6.0以上のCMTが30個あり,最大は最初の2001年12月18日M7.3Trである(図468右中図の彩色震源).
震央距離100㎞以内の過去100年の観測地震では,CMT以前の発震機構不明震源(図468の灰色)の地震断層面積が4分の3を占め,縦断面図における地震断層面積規模areaM曲線(図468右上図)では,灰色の峰部を発震機構型で彩色したCMTが積み上げており,CMT以前の地震の発生し易い震源域が1994以降のCMTも引き続き活動していること示している.
琉球小円区南西端久米島北西方の沖縄海盆震源帯RifPhOkwでは2022年2月9日M5.6Tから5月7日M5.7tまで14個の連発地震があった(図469右中図).最大地震は3月17日M5.9tで,総地震断層面積規模はΣM6.5に達している.

連発地震の深度は0から29㎞でSlab上面から61から89㎞上に位置し,最大地震からの震央距離は22㎞以内にある.最大地震の歪場からの偏角δは平均+21.3標準偏差16.2に収まっている.最大地震の地震断層面は走向212傾斜37の西北西へ37°傾斜で,引張T主歪軸傾斜がT156+2の北北西引張の正断層である.断層型は,5個が正断層・8個が低角正断層で,最後の2022年5月7日M5.7のみが走向233傾斜8の低角逆断層であり,2022年5月に変化している.
最大地震からの震央距離100㎞以内には22個のCMTがあるが,今回の連発地震が14個を占め,他の8個は2002年7月18日M5.6+ntから2008年8月5日M5.2ntの横擦断層型で今回の震源域の北東と南西方に位置しており重複していない(図470左の震央地図).1922年以降の全観測地震を含めても37個で,この100㎞震央範囲内最大地震も1980年3月3日M6.7から3月9日M5.4までの6個の連発地震であり,総地震断層面積規模はΣM6.8であった.
CMT以前の発震機構不明震源(図470の灰色)の地震断層面積が半分以上占めており,縦断面における地震断層面積規模areaM曲線(図470右上図)では,灰色の谷部を彩色したCMTが埋めており,1994年以前に地震の発生していなかったところで発生している.
この最大地震後の琉球海溝全域の最大地震は,今回の2022年5月9日M6.6の震央距離100㎞範囲内の1984年11月15日TrPhTw花蓮の M7.8であり(図468),沖縄海盆拡大震源帯の後に琉球海溝震源帯の地震が起こることと(月刊地震予報144),連発地震後の最大地震までの間隔が保たれば,2026年頃に琉球海溝震源帯でM8級地震の発生が危惧される.

図470.琉球海溝域沖縄海盆震源帯RifPhOkwの1922年から2022年5月までの100年間の観測地震.
左図:震央地図の円は2022年3月17日沖縄海盆震源帯M5.9から震央距離100㎞範囲.中上図:海溝距離断面図と右上図:縦断面図の+印は同震源位置.
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4.2022年5月22日東北日本近海震源帯双葉震源区nShJFtb M6.0-ntと東日本巨大地震2011年3月11日M9.0の歪蓄積
2022年5月22日12時24分に東北日本近海震源帯双葉震源区nShJFtbの深度5㎞(Slab上面深度‐31㎞)でM6.0-ntが鹿島小円北区の北東縁で起こった(図466).
本地震が起こった東北日本近海震源帯nShJは,東北日本弧の上部Mantleと地殻を震源とする震源帯であり,本震源帯の上部Mantleは2021年2月13日M7.3(月刊地震予報138)と2022年3月16日M7.4(月刊地震予報151)を起こした東北前弧沖震源帯ofAcJに連続して,太平洋Slab上面と衝突している.
東北日本近海震源帯nShJの全CMTは75個で最大は全北海道を停電にした2018年9月6日襟裳震源区の胆振地震M6.7である(月刊地震予報109).M6.0以上の最初のCMTは2011年3月12日M6.2tで,2011年3月11日の東日本巨大地震に誘導された地震が2012年3月まで続く(図471).
今回の東北日本近海震源帯nShJのM6.0を基準にしたのM6.0以上のCMTの震源区(E襟裳震源区,Kks金華山震源区,Ftb双葉震源区)・震央距離fm・方位()・深度差/震源距離<>は;
2022年5月22日M6.0-nt Ftb 基準
2018年9月6日 M6.7P E fm659(4)/+32<658>km
2016年11月24日M6.2-t Ftb fm45(353)/+19<49>km
2012年4月13日M6.0T Ftb fm19(5)/+27<33>km
2011年3月14日M6.2+nt Ftb fm43(215)/+27<51>km
2011年3月13日M6.2p Kks fm146(19)/+10<146>km
2011年3月12日M6.2t Ftb fm47(2)/+35<59>km
平成巨大地震に先行するCMT解は3個のみ(Ofu大船渡震源区);
2010年11月4日M4.4-nt E fm610(8)/+31<610>km
2010年7月27日M5.3P Ofu fm259(18)/+20<260>km
2000年8月27日M4.8+pr E fm610(9)/+25<610>km
である.

図471.日本海溝域の東北日本近海震源帯nShJの1922年から2022年までの100年間の観測地震.
左図:震央地図.最上小円の円は平成巨大地震から震央距離100㎞の範囲.観測地震の震央分布の左側の文字列は震源区名.
中図:海溝距離断面図.最上小円区の+印は平成巨大地震の震源.
右図:縦断面図(上),時系列図(中),主歪軸傾斜方位図(下).縦断面図の文字列は震源区名.
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東北日本近海震源帯nShJの過去100年間の観測地震は631個で総地震断層面積規模ΣM7.7であり,1994年以降のCMTは147個でΣM7.2である(図471).
最初のCMT解2000年8月27日M4.8+prから次のCMT解2010年7月27日M5.3Pの間の10年間に全く地震が起こらなかったことは,100年間の観測史上最も注目すべき出来事である.CMT再開半年後に平成巨大地震M9.0が発生している.この無CMT期以前にM6.0以上の観測地震は12個あり;
1962年4月30日M6.5 Kks fm220(354)/+14<+220>km
1944年2月1日M6.8 E fm585(9)/-5<+585>km
1937年1月20日M6.0 E fm572(13)/+8<+572>km
1937年1月7日M6.4 Kks fm216(23)/+8<+216>km
1935年9月18日M6.1 E fm607(16)/+13<+606>km
1931年11月4日M6.5 Kj fm303(7)/+10<+303>km
1931年6月9日M6.0 Ftb fm39(215)/+24<+46>km
1929年4月16日M6.1 Ftb fm44(208)/+23<+49>km
1927年4月22日M6.0 E fm658(10)/+37<+657>km
1924年9月18日M6.5 Ftb fm87(248)/+44<+97>km
1924年5月23日M6.0 E fm645(8)/-5<+645>km
1922年1月23日M6.5 Ftb fm82(328)/+17<+83>km
1931年11月4日M6.5以降,発生間隔が伸長し,2000年の無CMT期に到っている.地震断層面積移動平均規模areaM曲線(図471右中時系列図左端)は等比級数的減少を意味する等傾斜で減少し,2000年には作図間隔(244.7days)の3倍の移動平均期間2年間に1個のCMTもない基底に落ち込んだ.累積地震断層面積Beinoff曲線(図471右中時系列図左端)は,右上へ一定の傾斜の直線から,増加の程度を減少させ弓形の形態から増加の無い上方への直線に移行し,地震発生間隔の伸長が無CMT期に到ったことを示している.
弾性限界を超す歪場に物体が置かれると,歪集中する箇所で破壊が起こり局所歪場を均一化して全体の強度を増大させる.最初は破壊強度の小さな箇所の小さな歪集中によって均一化が開始されるが,歪場の増大に伴い破壊強度の大きな箇所への歪集中による大きな破壊に移行する.歪の局所集中を破壊によって最大強度に達する(図472;金川,2011).

図472.三軸圧縮試機を使用した変形実験により得られた差応力(縦軸)‐歪(横軸)曲線の一例(金川,2011).
E:弾性限界点,Y:降伏点,M:最大強度,F:破壊.
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日本海溝域では,東北日本近海震源帯nShJが2010年に最大強度に達して地震活動を停止した後,東北日本弧沖震源帯oAcJで平成巨大地震が起こった.この巨大地震は東北日本下部地殻と太平洋Slab上面のPlate境界を50m変移させた(速報28).太平洋Slabは背後に連続する数千㎞の太平洋底が控えており,50m程度の歪は容易に蓄積できる.しかし,東北日本の下部地殻と上部Mantleの幅は数百㎞に満たないため50mの歪を蓄積することはできないものの,東北日本弧全域の下部地殻と上部Mantleが一体となりPlate境界面の歪を摩擦で支え,太平洋Plateを押え込んでいたが,限界に達して平成巨大地震M9.0が起こった.
東北日本近海震源帯nShJの地震活動では,平成巨大地震の起こった最上小円区の中央部と南側は1944年2月1日M6.8以降地震の起こらない空白域となり,1980年からはその範囲を拡大し,両隣の鹿島小円北区と襟裳小円南区へ空白域を拡大した(図471右中の時系列図).
平成巨大地震の謎は,1922年から巨大地震前までの総Plate運動面積規模がΣM9.0であるのに,その間に観測された総地震断層面積規模もΣM9.0で,「Plate運動による歪は地震によって解放されていたのに,平成巨大地震M9.0を起こした歪が何処に蓄積していたのか」という問題である(月刊地震予報116).1940年まで全域で活動していた東北日本近海地震帯nShJの地震活動が平成巨大地震域から遠方に退けられたのは,それまでにない大きな歪に抵抗するために近接域の歪集中域の歪も地震で解放しながら破壊強度を増大させていた事実は,平成巨大地震が100年以上前からの歪も蓄積できる特別な震源域であったこと示唆している.
平成巨大地震の震源は海溝軸輪郭が海洋側に凸の最上小円区のほぼ中央に位置いる(図471左震央地図の円中心).海洋側に凸の海溝から沈込む海洋底Slabは,沈込に伴ってSlab面積が不足するため張力が働き(速報13;速報28),島弧下部地殻と接するSlab上面が平面化するため,局所的歪集中が起き難く,巨大歪を蓄積できる.一方,海溝軸輪郭が島弧側に凸の襟裳小円区や鹿島小円区では,沈込に伴ってSlab面積が過剰になり,襞が形成され,襞の頂部のみが島弧下部地殻と接するため,接触面積が小さく大きな歪は蓄積できない.
5.2022年5月23日伊豆海溝震源帯TrPcK M6.1pへの連発地震
伊豆海溝域鹿島小円南区の伊豆海溝震源帯南鹿島震源区TrPcKで2022年5月23日0時17分深度37㎞(Slab上面深度+17㎞) M6.1pがあった.これは2022年5月17日から開始したCMT5個の連発地震最後の最大地震である(図473).
5月23日M6.1を基準した連発CMTの震源距離fm深度差・圧縮P主歪軸方位傾斜・地震断層の走向傾斜と型Ftは;
2022年5月5月23日0時17分M6.1p 基準 P89+29 Ft80_71sn
2022年5月5月18日12時52分M5.6p fm11(22)/-5<12>km P89+21 Ft359_88rv
2022年5月5月17日22時17分M5.6p fm20(41)/-31<37>km P89+20 Ft179_89nm
2022年5月5月17日16時20分M5.3p fm16(11)/-8<18>km P89+26 Ft359_89rv
2022年5月5月17日15時4分M5.6p fm20(24)/-4<20>km P88+17 Ft177_88nm
震央距離は20㎞以内に収まり,震源深度は4から31㎞上であるので,浅所における前震の後に基準とした最大CMTが起こった.最大CMT以前の総地震断層面積規模はΣM6.0である.発震機構型は全て逆断層p型であり,圧縮P主歪軸方位は東方88-89でPlate運動と逆方位で傾斜は17-29と大きな変化がないことから,最大CMTによっても歪は解放されておらず,より大きな地震への警戒が必要である.CMT解から算出される地震断層面傾斜は71-89とほぼ垂直で断層型は最大CMTのみが左横擦snで他は逆断層rvと正断層nmである.

図473.伊豆海溝海溝域の2021年1月から2022年5月までの17か月のCMT解.
左図:震央地図.円は2022年5月23日伊豆海溝震源帯南鹿島震源区TrPcK M6.1pから震央距離100㎞の範囲.
中図:海溝距離断面図.
右上図:縦断面図.
右中図:時系列図.
右下図:主歪軸傾斜方位図.
+印は2022年5月23日伊豆海溝震源帯南鹿島震源区TrPcK M6.1pの震源.
数字とMは最大CMTと今回のM6.1の発生年月日と規模.
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伊豆海溝域の2021年1月から2022年5月までの17ヶ月間のCMT解は36個あり,最大CMTは2021年11月29日伊豆海溝震源帯TrPcI M6.4Toである(月刊地震予報147).総地震断層面積規模はΣ6.9でありPlate運動面積(図473右中図のBenioff曲線下端の斜線)に対する比は0.213と小さいが,Benioff曲線には2021年8月から12月までの最初の段と2022年5月の今回の段があり,何れの段の傾斜もPlate運動面積斜線とほぼ同じである.最初の段には海溝外の最大CMTも含むが,主体は300㎞以深の深発翼震源帯にあり,Mantleの相転移と太平洋底に随行してきたMantleの太平洋Slab下端からの背弧側への吹き出しに関連している(月刊地震予報145).
6.2022年6月の月刊地震予報
日本海溝域では,日本海溝から沈込む太平洋底を同心円状屈曲させている前弧沖震源帯でM7.4が起こり新幹線を脱線させたが,この余震活動は数か月続くと予想される.今後,前弧沖震源帯を通過した同心円状屈曲Slabの平面化に伴う地震に警戒が必要である,これらの地震の深度は今回の前弧沖震源帯より深いため今回ほどの被害は出ないであろう.
琉球海溝域では沖縄海盆拡大期の次に予想される琉球海溝震源帯のM7.0以上の大地震を待つ状態にあり(/7052>月刊地震予報147),警戒が必要である.
伊豆海溝域では,半年前の沈込Slab下端からの随行Mantle吹出しによる深発翼震源帯の活動の後を受けて伊豆海溝震源帯の活動が活発化しており警戒が必要である.
引用文献
長倉三郎・井口洋夫・江沢 洋・岩村 秀・佐藤文隆・久保亮五(1998編)岩波理化学辞典.第5版,岩波書店(東京),1854p.
宇津徳治 (2012) 地震学.第3版,共立出版(東京),376p.
2022年5月31日 発行
1.2022年4月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解によると,2022年4月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で13個0.077月分,千島海溝域で1個0.005月分,日本海溝域で8個0.293月分,伊豆・小笠原海溝域で1個0.020月分,南海・琉球海溝域で3個0.084月分であった(2022年4月日本全図月別).総地震断層面積規模はΣM6.2で.最大地震は琉球海溝域の沖縄海盆震源帯M5.6tで,M6.0以上の地震は無かった.
2.2022年5月の月刊地震予報
日本海溝域では,日本海溝から沈込む太平洋底を同心円状屈曲させている前弧沖震源帯で2022年3月16日M7.4が起こり新幹線を脱線させたが,この余震活動は数か月続くと予想される.今後,前弧沖震源帯を通過した同心円状屈曲Slabの平面化に伴う地震に警戒が必要である.平面化の地震の深度は今回の前弧沖震源帯より深いため今回ほどの被害は出ないであろう.
琉球海溝域では沖縄海盆拡大期の次に予想される琉球海溝震源帯のM7.0以上の大地震が懸念される状態にあり(月刊地震予報147),警戒が必要である.