月刊地震予報147)宮古島沖M6.5,鳥島沖M6.4,2021年12月の月刊地震予報

1.2021年11月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2021年11月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で12個0.377月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で4個0.069月分,伊豆・小笠原海溝域で4個1.091月分,南海・琉球海溝域で4個0.544月分であった(2021年11月日本全図月別).総地震断層面積規模はΣM6.7で.M6.0以上の地震は,11月11日琉球海溝域宮古島沖TrPhRk深度115㎞M6.5Toと11月29日伊豆海溝域鳥島沖TrPcI深度90㎞M6.4Toの2個である(図441).

図441.2020年12月から2021年11月までの日本全域年間CMT解
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とMは,2021年11月のM6.0以上の地震・過去1年間の最大地震(月刊地震予報138).
 地震断層面積変遷(右上下図)については図422説明参照(6921>月刊地震予報144).
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 これらの地震の震度分布を図示した(図442).M6.5の宮古島沖の地震の場合は八重山諸島から琉球列島にかけて震度3に達しており(図442左),鳥島沖の地震では小笠原諸島から伊豆諸島・関東地方・東北地方にかけて震度2までとなっている(図442右図).

図442. 2021年11月のM6.0以上の地震の震度分布.
 左図:2021年11月11日宮古島沖M6.5.
右図:2021年11月29日鳥島沖M6.4.
赤色×:震央,1-3:震度.気象庁HomePageより.
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2.宮古島沖琉球海溝震源帯M6.5To深度115km

 2021年11月11日0時45分,琉球海溝域八重山小円区宮古島沖の琉球海溝軸から7㎞外側の深度115kmでM6.5Torが発生した(図443).この深度は琉球海溝地震帯TrPhの琉球Slab上面から108㎞のSlab下底部に当たる.

図443.2021年11月11日宮古島沖地震帯M6.5Toの琉球海溝域半年間主歪軸方位図.
 左図:震央は北北西向き青色線.北西‐南東向きの曲線はPhilippine海Plateの南華Plateに対する2°(222㎞)間隔のEuler緯線.
中図:海溝距離断面図.数字とM:地震発生年月日と規模.
右上図:海溝軸から海溝距離dTr=200kmの海溝軸に沿う島弧側縦断面図と移動平均地震断層面積規模曲線areaM.
右中図:時系列図.右端の数字は2021年6月から半年間の月数.左端が移動平均地震断層面積規模曲線areaMと積算地震断層面積曲線Benioff.
右下図:主歪軸方位図.中央横線が基準の海溝傾斜方位TrDip.
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 本地震は,本年8月5日の花蓮沖(月刊地震予報144)と10月24日の台湾の地震(月刊地震予報146)に続き,琉球Slab深部で起こっている.衝突している台湾では逆断層型であったが,今回の宮古島沖と花蓮沖は引張過剰の正断層型である.海溝から同心円状屈曲して沈込むSlab深部は短縮するため圧縮歪が蓄積するはずであるが,引張歪による地震が今回発生したことが注目される.
 琉球海溝域の特異な点は,「台湾の衝突」と逆行する「琉球列島の移動」である.台湾の衝突は,脊梁山脈に鎮座する旧日本領最高峰の新高山(玉山3997m)を隆起させるとともに地殻下底のMoho面を地表に露出させ,草木の根の伸長よりも大きな隆起速度は,植生のない「月世界」と呼ばれる景観を造っている.
 琉球列島がPlate運動に逆行していることは,衛星測距が開始されて間もなく判明した(図444).琉球列島の南東方向への移動は,背弧の沖縄海盆の拡大を支持するとともに,その拡大が琉球列島にも及んでいることを物語っている.ただし,琉球海溝の外側の南大東島は,Plate運動方向の北西方向に移動している.

図444.衛星測距によるPlate運動に逆行する琉球列島(after新妻,2007).
左下角の矢印の長さが年間2cmの移動量.
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 台湾の衝突は脊梁山脈とその東側の海岸山脈の間を通る南華PlateとPhilippine海Plateの境界で起こっている.海岸山脈の南側は台湾小円区,北側は花蓮小円区に属し,Plate境界は花蓮から大きく屈曲して琉球海溝軸に続いている.琉球海溝から台湾までの沈込・衝突境界に沿うCMT解の最大深度は,琉球小円区で256㎞,八重山小円区と花蓮小円区境界で250㎞であるが,海岸山脈沿いは87㎞と浅くなっている(図445右上の縦断面図).

図445.琉球Slabと台湾の琉球海溝震源帯TrPh・平面化震源帯PhuBdのCMT解.
左図:震央地図.北西‐南東の曲線は南華Plateに対するPhilippine海PlatePH-SCのEuler緯線.
中図:海溝距離断面図.
右上図:海溝距離dTr=+200㎞で海溝軸に沿う島弧側縦断面図.
右中図:時系列図.右縁の数字は西暦年数.
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 琉球海溝には比較的平坦な西Philippine海盆底が沈込んでSlabとなっているが,台湾には断裂帯で切断された古第三紀の西Philippine海盆拡大軸が沈込み,断層によって幾重にも切断され折重なり,海岸山脈を形成している.琉球海溝のSlab長は傾斜を考慮すると300㎞に達するが,海岸山脈沿い震源の最大深度87㎞は断層によって切断されて付加していることを示している.
 台湾の衝突は琉球Slabを断層で切断し,幾重にも折重なっているが,折重なり度合が次第に減少し,折り重なりのないSlabに連続すると仮定すると,海溝軸は海洋側に屈曲する(新妻,2007).Plate運動に逆行する琉球列島の中で台湾に最も近い与那国島で移動速度が最大であることは(図444),折り重なり度合いが次第に減少していることを支持する.
 沖縄海溝域のCMT解の地震断層を積算するBenioff曲線は,地震断層面積のPlate運動面積に対する比が0.36と小さいが,ほぼ一様に増大している(図446右図右端のTotal).しかし,沖縄海盆震源帯Okw・平面化震源帯PhuBd・琉球海溝震源帯TrPhの主要震源帯では,M7.0以上の地震による明確な段差が認められる(図446右図).各震源帯の段差は同期せず互い違いに起こり,全体として一つの系として歪を各震源帯に循環させながら解放している(月刊地震予報139).
最後の大きな段差は,沖縄海盆震源帯Okw最大の2015年11月14日M7.1(速報74}で,その前の大きな段差は平面化震源帯の2011年11月8日M7.0,その前は琉球海溝震源帯TrPhの2010年2月27日M7.2であり,琉球海溝震源帯から平面化震源帯そして沖縄海盆震源帯へと海溝から背弧側に移行している.
 一つ前の周期は琉球海溝震源帯TrPhの2001年12月18日M7.3の段差から開始し,平面化震源帯PhuBdの2005年10月16日M6.5,そして沖縄海盆震源帯Okwの2007年4月20日M6.7へと移行している(図446右図).

図446.琉球海溝域の沖縄海盆震源帯Okw・平面化震源帯PhuBd・琉球海溝震源帯TrPhのCMT解変遷.
左図:全CMT解震央分布図.北西‐南東の曲線はPhilippine海Plateの南華Plateに対するEuler緯線.
中図:全CMT解震源の海溝距離断面分布.
右図:左から沖縄海盆震源帯Okw・平面化震源帯PhuBd・琉球海溝震源帯TrPh・全TotalのCMT解地震断層面積時系列図.areaMは移動平均地震断層面積規模曲線,Benioffは地震断層面積積算Benioff曲線.
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 現在は,沖縄海盆震源帯Okw最大地震2015年11月14日M7.1に続く琉球海溝震源帯TrPhのM7.0以上の大地震を待つ状態にある.琉球海溝震源帯のPlate境界面は摩擦によって固着しているが,拡大によって容積を増加させた沖縄海盆下のMantle圧の減少が,海洋底と共にPlate運動してきた随行Mantleを引き込んでいる.背弧側に引き込まれる随行Mantleは琉球Slab底を掃引し,引張歪を蓄積させ,今回の宮古島沖M6.5と花蓮沖M6.3のSlab底正断層型地震を起こしたと考えられる.
 琉球Slab上面と島弧地殻との境界面の摩擦力より随行Mantleの掃引による琉球Slab底の引張歪や,沖縄海盆からのMantle押しが上回れば,境界面に沿う剪断歪が解放される大地震が起こる.震源は海底面に近いために巨大津波も伴うであろう.
 琉球海溝域の沈込Plate境界面に関係する最大地震は,以下の3個であり,いずれも台湾で起こっている.
  ・CMT解で,1999年9月21日M7.7の集集地震
  ・観測地震で,1984年11月15日M7.8
  ・歴史被害地震で,1920年6月5日M8.3

3.伊豆海溝域鳥島沖TrPcI深度90㎞M6.4To

 2021年11月29日21時40分,伊豆海溝域鳥島沖の伊豆海溝軸から15㎞海溝外の深度90㎞でM6.4Toが発生した(図447).

図447.2021年11月29日伊豆海溝域鳥島沖深度90㎞M6.4Toの2019年6月から2021年11月までの半年間の伊豆海溝域のCMT解の主歪軸方位図.
左図:震央地図.西北西‐南東方向の曲線は太平洋PlateのPhilippine海Plateに対する2°毎(222㎞)のEuler緯線でPlate運動PC-PHの方位に沿っている.
中図:海溝距離断面図.数字とMはM6.0以上の地震の発生年月日と規模.
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 発震機構は引張過剰の正断層型Toである.主引張歪方位は東北東でEuler緯線に斜交し,伊豆海溝軸方位に直交する海溝傾斜方位を向いている.
 海溝軸から太平洋底は同心円状屈曲して沈込み太平洋Slabとなる.同心円状屈曲するとSlab表層付近は伸長して引張られるが,深部では圧縮されることから深度90㎞で引張過剰の正断層型の発震機構は,同心円状屈曲による圧縮を上回る引張歪の蓄積を意味する.
 同心円状屈曲した太平洋Slab上面は伊豆弧地殻に固着し,Slabが沈込めない状態にあれば,Slabに行く手を遮られた太平洋底と共にPlate運動してきた随行Mantleが下方に流出する.このMantle下方流がSlab下面を掃引して引張歪を蓄積させる.
 随行Manlteの背弧側への流出は,上部Mantleのα相からβ相へとβ相からγ相への相転移境界深度410㎞と550㎞に沿いSlabを押し上げて翼状Slab(月刊地震予報119月刊地震予報131)を形成している(図448).深度300㎞からほぼ垂直に沈込むSlab上面より背弧側に分布する過去半年間のCMT震源にも翼状Slab震源が認められる(図447).

図448.伊豆海溝域のCMT解.

 海溝軸域の深度50㎞以深の沈込Slab底の地震活動は,随行Mantleの背弧側への流出による掃引に由ることが予想され,伊豆海溝域に特徴的な翼状Slabも随行MantleがSlabを押し上げて形成されると考えられる.CMT解地震断層面積の移動平均規模areaMの時系列比較をすると,海溝軸域Slab深部の地震活動は,翼状Slabβと翼状Slabγとの地震活動が共に大きい時に起こっており,随行Mantleの背弧側流出を支持している.

図449.鹿島小円南区・八丈小円区・伊豆小円北区・南区の海溝軸域深度50㎞以深と翼状Slabβ・翼状SalbγのCMT解.
左図:震央地図.
中図:海溝距離断面図
右図:海溝軸域深度50㎞以深と翼状Slabβ・翼状Salbγの地震断層面積移動平均規模areaM比較.
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 今回の2021年11月29日の鳥島沖M6.4の震源では,翌日の11月30日15時53分にM5.4toが起こっている.この連発地震の震央距離差は6㎞,深度差は62㎞であり,歪軸偏角は2.3°と殆ど一致し,この深度範囲に同一歪場が広がっていることを示している.
 観測地震の最大規模はM6.6であるが,同規模の地震が以下の5個ある.
  ・1970年12月8日深度212㎞
  ・1982年9月6日深度180㎞
  ・2001年4月15日深度0㎞M6.6to
  ・2009年8月13日深度57㎞M6.6P
  ・2015年5月31日深度45㎞M6.6to
今回の連発地震が前震としても本震と予想される規模はM6.6程度が予想される.

4.2021年12月の月刊地震予報

 海溝から背弧側に地震活動が循環する琉球海溝域では,沖縄海盆拡大最大地震2015年11月14日M7.1の次の琉球列島・台湾の巨大地震の準備段階に入っている.巨大地震前には巨大地震と同じ歪軸方位の前震が連発地震として起こることから,連発地震の歪軸方位に注意し,警戒が必要である.
 伊豆海溝域では鳥島沖の海溝軸付近で連発地震が起こっているが,それが前震としても本震はM6.6程度と予想され,津波の発生も心配されるので警戒が必要である.
 2021年11月の琉球海溝域と伊豆海溝域のM6.0以上の地震は,海洋底と共にPlate運動してきた随行Mantleの背弧側流出による掃引歪によると考えられる.随行MantleはSlabに行く手を阻まれ,300㎞程度の琉球Slabや翼状Slabでは,その下端や裂目から背弧側に流出すると考えられる.この流出Mantleは日本全域に及ぶことが予想されるので,検討が必要である.

引用文献

新妻信明(2007)背弧海盆の拡大と衝突によるスラブ重複.「プレートテクトニクス―その新展開と日本列島―」,5.17章,共立出版,126-129.