月刊地震予報95)関東地方連発地震・浜通連発地震・2017年9月の月刊地震予報

1.2017年8月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2017年8月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で17個0.066月分,千島海溝域で0個,日本海溝域で9個0.171月分,伊豆・小笠原海溝域で0個,南海・琉球海溝域で8個0.171月分であった(2017年8月日本全図月別).
2017年8月の最大地震は8月16日琉球スラブM5.7np深度192(スラブ深度+72)kmで,M6以上の地震はなかった.今年に入ってからのCMT解は133個で比が0.107と1割に留まっている.これは1997年の0.107と同率最低の静穏さである.
連発地震は,2017年8月2~17日関東地方千葉・五霞・下妻震源密集域(特報7)のM3.2~5.0と2017年8月2~27日浜通のM3.2~5.5であった(2017年8月東日本IS月別).

2.関東地方の連発地震

2017年8月2日から17日にM3.2~5.0の連発地震が関東平野下丹沢スラブの千葉・五霞・下妻震源密集域(特報7)で起こった.
丹沢スラブは丹沢地塊の衝突によってフィリピン海プレートから北米プレートの南端に転移して太平洋スラブの上に垂れ下がっているが,伊豆地塊の衝突進行によって北西方向に押され,日本海溝から伊豆海溝への接続部の太平洋スラブ突出部に接触し地震を起こしている.太平洋スラブとの接触による地震の規模が最大であり,その発震機構は太平洋スラブ運動方向の太平洋スラブ上面に沿う剪断応力による.接触部より上位の丹沢スラブでは発震機構が異なる.
丹沢スラブと太平洋スラブ上面の接触によるCMT解最大の2005年7月23日M6.0P73(+17)kmを基準(P92+10T258+80N1+2)に応力場極性区分(月刊地震予報87)を今回最大のCMT解(括弧内は初動解)に適用すると;
2017年8月10日9時36分M5.0p 64(+2)km org=9.9 (10.0) °
と基準区分orgの偏差角が10°とほぼ一致し,今回の最大地震は太平洋スラブ上面から深度2kmにあり,17kmの基準と共通している(図244).

図244.2017年7-8月の丹沢スラブ地震の初動発震機構解の応力場極性区分.
左:震央地図,×印は基準とした2005年7月23日の丹沢スラブ最大地震M6.0Pの震央,円は基準から半径50kmの範囲.中:海溝距離断面図,+印は基準の震源位置.右上:縦断面図.右下:時系列図.

最大地震に先行する2個のCMT解(括弧内は初動解)は;
2017年8月3日13時45分M4.6+p46km(-30)km PexN=34.5(47.2);org=59.3(51.3)
2017年8月2日7時15分M4.6+p48(-22)km PexN=30.8(44.5);org=64.0(51.9)
と,基準応力場からの偏差角が約60°で発震機構が異なり,圧縮主応力P軸と中間主応力N軸が入替(PexN)っている.又,非双偶力成分比が正(+p)で引張過剰のため,圧縮P応力と中間N応力の大きさの差が小さく,圧縮力の減少によって容易にPexNを起こす.震源位置が太平洋スラブ上面から上20~30kmと今回の最大地震と異なっている.この震源位置は太平洋スラブとの接触部より上の丹沢スラブ内で,今回の最大地震と異なる.接触部から上方に離れると圧縮応力が減少し,主応力軸入替PexNが起き,非双偶力成分も正になる.
太平洋スラブとの接触部よりも上の丹沢スラブ内の地震が先行していることは,接触部のみならず丹沢スラブ全体が太平洋スラブ沈込の障害となり,丹沢スラブ上部に破壊が起こると太平洋スラブに対する抵抗力が低下し,接触部に剪断破壊が起ったと予想される.
初動解は破壊開始時の応力場に当たるが,CMT解は最大破壊時の応力場に対応する.基準区分orgの偏差角が初動解(括弧内)よりCMT解の方が大きいことは,破壊進行とともに接触部からの影響が減少していることを示唆している.
今回の活動は8月13日2時07分に逆極性のTPexNであるM3.7p74(-2)kmの後の8月17日5時03分M3.2p66(+3)km org=15.8で終了している.2017年7月にもほぼ同所で初動解6個があるがM3.5以下と小さい.

3.浜通の連発地震

2017年8月2~27日にM3.2~5.5の連発地震が浜通で起こった.浜通の地震は東日本大震災後の2011年4月11日17時16分にM7.0tr6(-58)kmが起こったが,大震災前には2003年2月20日3時25分にM3.5tr11(-61)kmの初動発震機構解が1個のみであった.大震災後は2011年3月12日10時12分M4.8t11(-53)kmから初動発震機構解805個と2011年3月15日16時03分M4.9-t0(-65)kmからCMT解62個ある.
浜通の初動解地震断層面積の46.9日間対数移動平均曲線(図245)によると,東日本大震災後2015年6月までの4年2カ月間ほぼ直線的に減衰している.対数で表した地震活動の直線的減衰は大地震後の余震活動の特徴とされ,大森公式と称されている(例えば,宇津,2012).

図245.浜通地震の初動発震機構解の主応力軸方位.
左:震央地図.中:海溝距離断面図.右上:縦断面図.右下:時系列図.logArea:地震断層面積の対数移動平均曲線(色分けは発震機構比率の線形配分),平均期間は46.9日.

浜通での最大地震M7.0のCMT解を基準(P32+81T245+8N154+5)にした応力場極性区分(月刊地震予報87)では,逆極性応力場の地震は2015年12月25日17時02分M3.5np17(-49)kmPTexN=134.8までしか起こっていない(図246).

図246.浜通地震の初動発震機構解の応力場極性区分.
左:震央地図,×印は基準とした2011年4月11日の浜通最大地震M7.0-trの震央,円は基準から半径50kmの範囲.中:海溝距離断面図.左上:縦断面図,右下:時系列図.StressPolarityΠ:0から90までが正極性,90から180までが逆極性.

浜通の地震活動の対数の直線的減衰も2015年7月30日17時16分M4.2t8(-60)km以降不規則な増減を繰り返すようになった.この不規則活動も2016年12月28日21時38分M6.3tr11(-51)km gn=27.5(月刊地震予報87)以後その変動幅を増大させている.2017年に入り,M4.5以上の地震のCMT解(括弧内初動解)応力場極性区分は;
2017年8月27日11時26分M4.8-t11(-51)km TexN=9.9(7.3)
2017年8月26日4時20分M4.7tr8(-62)km TexN=19.2(30.3)
2017年8月2日2時02分M5.5tr9(-56)km org=39.1(41.2)
2017年6月19日5時51分M4.5tr6(-65)km org=26.4(28.9)
2017年4月20日2時13分M4.5tr6(-53)km org=(40.4)
の5個が起こっている.2016年2個,2015年0個,2014年3個,2013年5個,2012年4個,2011年56個であり,2017年の5個は異常な増大である.

4.2017年9月の月刊地震予報

2017年8月の日本全域CMT個数は16個と先月21個より減少し,地震断層面積のプレート運動面積に対する比も先月の0.228から0.064に減少している.今年に入ってからのCMT解は132個で比が0.107と1割に留まり,1997年の最低率0.107に並ぶ静穏さである.嵐の前の静けさは続いており警戒が必要である.
2017年7月に鹿児島湾で稀発地震が起こったが(月刊地震予報94),2017年8月24日14時34分にもM4.4+nt7(-50)kmが起こっている.1893年にここで知覧の地震が起こったのは,日本の地震活動史上最も地震活動が激しかった明治動乱期であり,当地の地震に注意する必要がある.この動乱期には濃尾地震・明治三陸地震の他に東京周辺でM7以上の地震が起こっているので,首都圏でも警戒が必要である.
関東平野下に沈込む丹沢スラブの連発地震が起こり,太平洋スラブとの接触が主因であることが応力場極性区分解析によって明らかになった.今後の応力場解析により丹沢スラブの力学機構が解明され,関東地方のM7以上の地震への対応の道も拓かれることが期待される.
浜通の地震活動は,東日本大震災からの活動を脱却し,新たな活動を開始したようである.福島県沖の島弧地殻底の地震活動とも関連し(月刊地震予報89),日本海溝域の今後の活動にも警戒が必要である.

引用文献

宇津徳治(2012)地震学.共立出版,376p.