東日本巨大地震の前震・本震・余震の震央を記入した赤色立体地図

新妻地質学研究所へようこそ

2011年3月11日午後2時46分、東日本巨大地震発生。

大地震に伴う津波は、海難災害です。救命胴衣を着けていれば
犠牲者数を大幅に減らすことができます(月刊地震予報97)。
津波対策では何より先に救命胴衣の準備を。

月刊地震予報173 (2024年3月29日)地震の「断層長円」と主歪軸表示,2024年1月1日能登半島M7.5とM5.9,2024年2月の月刊地震予報

1.2024年1月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2024年1月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で24 個3.062月分,千島海溝域で2個0.018月分,日本海溝域で6個0.326月分,伊豆・小笠原海溝域で2個0.066月分,南海・琉球海溝域で14個で8.031月分であった(2024年1月日本全図月別).
 2024年1月の総地震断層面積規模はΣM7.5で,最大地震は,2024年1月1日能登半島のM7.5(7.6)で,M6.0以上の地震は2024年1月9日能登のM5.9(6.1)があった(括弧内は初動規模).
 2024年1月までの日本全域2年間のCMT解は375個で,その総地震断層面積規模はΣM8.0,Plate運動面積規模はM8.2で,その比は0.441である(図542の中図上).Benioff曲線(図542右図上左端Total/4)には東北前弧沖震源帯ofAcJの2022年3月M7.3(月刊地震予報151)と琉球海溝域の歪解放周期更新の2022年9月M7.0(月刊地震予報157)の2つの大きな段が緩い傾斜の静穏期の中に認められる.2023年9月から千島・伊豆・琉球海溝域のM6級の活動によってTotal/4のBenioff曲線の全体的傾斜が増大していたが,2023年12月28日択捉M6.5(月刊地震予報172,)に続き2024年1月1日能登M7.5が起こり最大の段を加えた.
 

図542 .2024年1月までの日本全域2年間CMT解.
 左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.数字とMは,2年間のM7.0以上のCMT解に加え2024年1月のM6.0以上のCMT解年月日・規模.
 右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間の開始(下端2022年2月1日)から終了(上端2024年1月31日)までの730日間で,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36特報5).
 Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
 階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積のPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.2] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.2の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.2step)は,等分期間2.9日以内にM6.2以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
 地震断層移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分期間「2.9day」に前後区間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,逆断層型を赤色・横擦断層型を緑色・正断層型を黒色.
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2.地震の「断層長円」と主歪軸表示

 地震とは,Plate運動に伴い累積した歪が解放される際に発生する振動である.地震によって解放される歪の定量的表示は,地震予報に必要である.
 地震活動とPlate運動を結び付ける方法として,累積地震断層面積のBenioff曲線(特報5月刊地震予報122月刊地震予報143)を使用してきた.しかし,震央地図や断面図上の震源位置には,小さな地震の見落防止の為,対数表示の地震規模Magnitude Mに比例した円直径や線長を使用してきた.
 地震の規模と地震断層の大きさの関係は,松田(1975)によって経験的に求められている.地震断層の長さLとずれDは,地震の規模差「+ΔM」が「1.0」大きくなると4倍になり,+ΔM0.5なら2倍になる.地震断層に沿う移動面積Sfは,地震断層の長さLにずれDを乗じて算出でき,ΔM1.0で16倍,ΔM0.5で4倍になる(新妻他,2005).この地震断層移動面積Sfの総和は,Plate境界に沿って集積する歪面積と直接比較検討できる(図543).

図543.地震の規模と断層長円の関係.
 規模差ΔM1.0なら断層長は4倍,ΔM0.5で2倍になり,地震断層面積は16倍と4倍になる.

 地震断層長Lを直径とする円(「断層長円」図543右)を震央地図に描くと,震央から地震断層が伸びる範囲が円周になり,地震の規模を直観的に把握できる.更に,この円の面積は断層移動面積に対応するので,Plate運動面積と比較できる.地震断層面積とPlate運動面積の定量的表示に使用しているBenioff図に対応する時系列図の地震発生位置に断層長円を描けば,どの程度の地震がどの程度の間隔で発生すればPlate運動面積歪の累積に対応できるかを検討できる.
 歪が強度限界まで累積して破壊する際の震動が地震であるが,地震によって解放される歪方位から累積歪とPlate運動の関係を知ることができる.Plate沈込境界では,Plate運動方位に主圧縮P歪軸を持つ逆断層型と主引張T歪軸を持つ正断層型がある.海洋Slabが同心円状屈曲して沈込を開始するには(図544の左図),Slab表層が伸長して正断層型・深層では圧縮して逆断層型,屈曲Slabが平面化するには,Slab表層が圧縮して逆断層型・深層は伸長して正断層型に逆転する.海洋Slabに沈込まれる島弧地殻・Mantleは圧縮あるいは伸長して逆断層型あるいは正断層型の地震が起こる(図544の左図).これらは,何れも強度限界を超えた歪による座屈Bucklingと展張Extentionによる初生断層であり,主歪軸傾斜方位はSlab沈込方位になる.
 Slabと島弧地殻・Mantleとの境界に歪を累積させるには,境界面に沿う滑りを摩擦によって停止させる必要がある.摩擦によって停止しているPlate境界面にはPlate境界面に沿う圧縮力とPlate境界面に直交する摩擦の抗力が合成された剪断Shearing歪が累積し,限界に達すると定期的に地震を発生させる(図544の右図).Plate運動による圧縮方位と境界に直交する摩擦抗力が合成された剪断歪の主圧縮P歪軸傾斜方位は,Plate沈込傾斜方位と逆になる.希ではあるが,境界面のPlate運動と摩擦が完全に釣り合って歪軸傾斜角が0になる場合もある.Plate境界面とは限らず,既存断層面の再活動で解放される歪も剪断歪であるので,座屈による新規断層の活動か既存断層の再活動であるかの判定も,主歪軸傾斜方位で可能である.
 震源の「断層長円」表示の円内に主歪軸方位を記入すれば,地震規模の直観的把握とともに発震機構の解明も可能になる.

図544.主歪軸傾斜方位によるPlate運動によるSlab沈込の発震機構判定.
 左図:海溝に沿う海洋底Slab沈込みに伴うSlab屈曲・平面化と島弧地殻・Mantleとの衝突による発震機構.
 右図:Slab表面に沿うPlate運動が摩擦によって停止して累積する剪断歪.既存断層面に沿う運動が摩擦で停止している場合も剪断歪が累積する.
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 日本海溝域12327個全地震記録の「断層長円」表示では,Plate運動歪が解放されていなかった最上小円区中央で2011年3月11日に東北弧沖平成巨大地震M9.0が発生した(図545).震央地図ではPlate運動方位PC-NAに沿っており(図545の左震央地図),海溝距離断面図ではその傾斜方位が海溝側であり(図545の中海溝距離断面図),太平洋Slab上面に沿う摩擦によって累積した剪断歪の解放であることが分かる(図455右下主歪軸傾斜方位図上縁).

図545.日本海溝域の歴史・観測・CMT解地震12327個の「断層長」円表示.
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 南海Trough域の5611個の全地震記録の「断層長円」表示(図546)では南海Troughに沿う巨大歴史被害地震が繰り返されてきたが,発震機構の分かる1994年以降のCMT解は極めて限られている.今回2024年1月の能登半島地震がCMT解最大で,歪軸方位がPlate運動PH-AMに沿っており,主歪軸傾斜がPlate沈込方位で(図456右下主歪軸傾斜方位図中央),座屈歪が解放されたことを示している.次大は2004年9月の東海道沖M7.3・M7.5である.この主歪方位はほぼ南北で北西のPlate運動方位と異なっているが,主歪軸傾斜方位はPlate運動方位と逆で(図455右下主歪軸傾斜方位図の上縁)摩擦のあるSlab上面に集積した剪断歪の解放であることが分かる.

図546.南海Trough域の歴史・観測・CMT解地震4982個の「断層長」円表示.
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3.2024年1月1日能登半島地震M7.5と1月9日M5.9

 西南日本海岸能登震源区JscPhNotoの能登半島で1月1日16時10分深度15(16)㎞でM7.5(7.6)pの能登半島地震とそれに誘発されて富山海底峡谷の深度13(27)㎞で1月9日17時59分M5.9(6.1)Pが起こった(括弧内は初動震源).能登半島地震の最大震度は7に達し,本州・四国・九州が震度2以上でほぼ覆われた.本州に衝突している丹沢・伊豆・関東域では震度3と周囲の震度4より小さい.北海道でも震度1が観測された(図547左).誘発地震M5.9の最大震度は5弱で,ほぼ同心円状に震度を減衰させて本州太平洋岸で震度1になっている(図547右).

図547.2024年1月1日能登半島地震M7.5(7.6)と1月9日誘発地震M5.9(6.0)の震度分布.
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 2024年1月の能登震源区では,CMT解17個,IM解25個,速報解100個報告されている.
 最大地震のCMT解によると,発震機構型は逆断層型で,その主圧縮歪軸傾斜方位は西北西310°に8°傾斜しており(図548右上左図),地震断層面の走向は北東N40E,傾斜は南東に85°とほぼ直立している(図548右上右図).深度は,破壊開始の初動が16㎞で.主破壊のCMT深度は15㎞で,破壊は垂直上方に進展している.この深度は,地殻/Mantle境界のMoho面直上に位置している(図548右下図).Moho面直下のMantle最上部は,日本列島で最強の大黒柱となっており,今回の能登半島地震は日本列島を支える大黒柱の破損と言える.松田(1975)の地震規模と地震断層の関係によって算出される地震断層長は40㎞で,ずれが3.16mである(図548左図の黒丸).

図548.2024年1月1日M7.5のCMT解.
 左図:震央地図で,赤○が震央,黒○が地震断層長40㎞.
 右上図:左が主圧縮P歪軸傾斜方位で西北西310°に8°傾斜,
      右が地震断層走向で北東N40E,傾斜は南西に85°.
 右下図:海溝距離断面図,地表面・Moho面・沈込Slab面.赤○が震源.
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 2023年12月から2024年1月の速報解100個の震央が能登半島の海岸線内側の陸域に限られて分布していることは,今回のような地震に伴う隆起によって能登半島の地形が形成・保持されていることを示している(図549).2023年12月の1個は能登半島の真南の36°緯線上の西南脊梁飛騨震源区BkbPhHida M3.9np(黄緑色).

図549(4).能登半島における2023年12月から2024年1月の速報解震央分布.
 発震機構不明?(灰色×)は103個中66個.

 能登半島は,1)Philippine海Plateの丹沢・伊豆がAmur Plateに衝突して大屈曲している中央構造線Median Tectonic Line (MTL)とほぼ並行して能登半島が日本海に突出し,2)Amur Plateの日本海底が北米Plateの東北日本に沈込む富山湾のAM-NA Plate境界に面している.また,3)太平洋PC Plateが沈込む北米Plateの東北日本に接している(図550左端図).
 1月1日の最大CMT解の主圧縮P歪軸方位を1)から3)のPlate運動のEuler緯線と比較すると,中央構造線 Median Tectonic Lineを屈曲させている丹沢・伊豆衝突のPH-AM に最も良く合致している(図550右図).

図550.2024年1月1日能登半島地震を駆動したPlate運動.
 左図:日本列島の海底地形とPlate境界図.NA=北米,PC=太平洋,AM=Amur,PH=Philippine海.
 右3図上図:Plate相対運動のEuler緯線とCMT解圧縮歪軸方位
 右3図下図:主歪軸傾斜方位図.中央横線が基準の海溝傾斜方位.Sub(紫色折線)がPlate相対運動方位.
 MTL:中央構造線 Median Tectonic Line.
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 襲来した大地震が前震の場合には,より大きな本震の襲来に警戒が必要である.2005年4月熊本地震では,最大前震後の小休止の際に損傷した自宅に戻って死傷者が出たことから(速報79),本震の終了判定は防災上重要である.
 本破壊を発生させる歪の一部が前もって解放されるのが前震であるので,前震と本震で歪方位に差はない.順次発生する前震の主歪軸方位は変化しないが,本震が起これば,本破壊の歪と平衡状態にあった押引逆の歪も余震として開放される.前震から本震終了まで発生しなかった押引逆の地震は,本震が終了した目安になる(速報79).
 速報解によれば,最大地震2024年1月1日16時10分M7.6の歪軸方位に対して,押引逆の歪軸方位の最初の地震は(図551右時系列図右端のStrainπ図の橙色),2024年1月3日06時32分M4.5pであった.この押引逆地震の速報によって1月1日の最大地震から2日半後に本震終了を確認できる.数日の精査後に公開されるCMT解にも,押引逆の2024年1月3日18時48分M4.7+prがある.
 速報解103個中66個が主歪軸方位不明であったが(図548の?および×印),これは海側の観測点不足によるものと考えられ,北方沖合の舳倉島にも地震計設置が望まれる.

図551.速報解による能登半島地震の本震終了判定.
 左の時系列図左の「Strain Π」歪軸方位偏角π図は,2024年1月1日M7.6の主歪軸方位を基準(左端)とした偏角で中央縦線より右側(黄緑色と橙色)が押引逆歪軸方位.
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 能登半島は,西南日本海岸能登震源区JscPhNotoの最大震度5強の2020年3月13日M5.5P穴水と最大震度6弱の2022年6月19日M5.4+p珠洲によって多くの被害を被っていた.特に,玖珠M5.4は規模に対して震度が大きく,非双偶力成分比nonDCが+24%と上下方向[82+83°]の主引張T歪が水平方向[327+3°]の主圧縮P歪の2.38倍あり,神社の鳥居が抜け,倒壊した(月刊地震予報154).その3ヶ月前の2022年3月16日には,東北日本前弧沖阿武隈震源区ofAcJAbk M7.4p(月刊地震予報151)の震度6強によって東北新幹線は車輪が浮き上がりrailから大きく逸脱し17両中16両が脱線して10日間運休した.震源に近い福島県相馬では電信柱が地中に1m以上突き刺さったと新聞報道されたが,電線が抜けるのを引き戻したのであろう.一般の建造物は上載荷重によって安定化しているため大きな引張過剰(正の非双偶力成分比)の地震や剪断歪による垂直な主引張歪軸を持つ地震には脆弱である.また,これらの震動は表層岩石も突上げ,引き剥がすため,後の豪雨によって広域な土砂崩れを発生させるので警戒と対策が必要である.
 これらのの被害のあった阿武隈と能登震源区では,東北日本海岸沖出羽震源区oJscJDw の新潟・山形地震2019年6月18日M6.7pの余震が2019年11月まで続く中,能登震源区では初の群発地震速報解2019年8月27日M3.8そして2020年3月13日穴水M5.5P,阿武隈震源区では2019年8月4日M6.4pから誘発地震が起こっていた(月刊地震予報154).
 このように西南日本海岸能登震源区JscPhNotoの群発地震は,東北日本弧との関係によって開始されたが,2019年以前は西南脊梁飛騨震源区BkbPhHidaの群発地震と関連しながら起こっている(図552).
 能登震源区JscPhNotoのCMT解は2007年から31個あり;
 2007年に3月25日M6.6P冨来(とき),M5.3P穴水,3月26日M5.1-np冨来沖と能登半島西部で集中的に起こった後,静穏化して2019年の群発地震の開始と,2020年3月13日M5.3P穴水が起こった.2021年9月16日M4.9Pから2023年5月10日M4.8Prまで能登半島北東端の珠洲および珠洲沖で起った後静穏化していた.
 2007年から2022年6月19日M5.1+pまでの主圧縮P歪軸傾斜方位は全てPlate運動方位で座屈による初生断層であるが,2022年6月20日M4.9+p以後2023年5月までPlate運動方位と逆傾斜の剪断歪による既存断層再活動も10個中4個出現していた.
 西南脊梁飛騨震源区BkbPhHidaのCMT解は,能登震源区と連動していることが注目される.小円区は足柄小円西区に属し,糸魚川‐静岡線ISLを跨いで分布する.1998年7月12日M5.0Pから8月16日にM5.5からM5.5のp1個np2個で開始,2011年2月27日から12月1日まで東北弧沖巨大地震と交互に活動(速報55
 2016年2月3日から2018年12月20日までのM4.2-M6.2のp6個np3個nt2個が散発.
能登穴水2020年3月13日M5.3に続き2020年4月23日から9月19日にM4.7-M5.2のnp13個連発.
能登珠洲2021年9月16日M4.9に続き,2021年9月19日M4.6-np125[323.1]で終息している.

図552.能登地域の1994年以降の全CMT解の「断層長円」表示.
 西南日本海岸能登震源区JscPhNotoの地震と西南脊梁飛騨震源区BkbPhHidaの群発地震が関連して起こっている.主歪軸傾斜方位図(右下図)で主要震源は図中央のPlate運動方位(紫色Sub)に沿う新規断層の座屈歪解放で,上下端の既存断層の再活動による逆傾斜方位の剪断歪解放は少ない.
 ISL:糸魚川‐静岡線. MTL:中央構造線.
 「断層長円」表示では.M5.0以下の震源は点として表示される.
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 能登域は都近郊に位置し,大地震記録の記録漏れは少ないと予想されるが,最初の記録は,享保1729年M7.0に於ける30%以上の潰家である(宇佐美,2003).次は,明治1892年志賀M6.4・M6.3である.
 明治以降のM6.0以上の記録は,1933年穴水M6.0,1993年珠洲北方M6.6,2007年冨来M6.6,2023年珠洲M6.2がある.
 今回の2024年1月1日珠洲M7.5を含め,1729年享保M7.0の震源を避け,切れ残った所に集積した歪が初生断層により群発地震と2023年珠洲M6.2を前震として解放している.

図553.西南日本海岸能登震源区JscPhNotoの江戸時代以降の地震記録の「断層長円」表示
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2024年能登半島地震M7.5は,能登域において「安政‐昭和」大地動乱期を代表する1891年濃尾地震M8.0に次ぐ規模である(図554),

図554.能登域の江戸時代以降の地震記録
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 能登は,1500万年前の日本海拡大以前,南米のTiticaca湖とPoopo湖のような,北海道渡島半島から佐渡・隠岐・壱岐・大和堆・朝鮮半島北東部に跨るAsaa大陸東縁の巨大淡水湖底であった.(図555:新妻,2007).日本海拡大によって水深3500mの大和海盆で大和堆から分離した後,水深1000mの大和堆頂の水深から海面上に顔を出し,能登半島となって奥能登丘陵高洲山を標高570mまで隆起させた.今回の地震は,この一連の地質過程が現在も進行し,中央構造線を屈曲させる丹沢・伊豆衝突が関係していることを示した.能登と佐渡の間の富山海底峡谷は水深3500mの大和海盆の続きである,

図555.1500万年前の日本海拡大以前にAsia大陸東縁(左下図)に南米のTiticaca湖とPoopo湖のような(左図)巨大淡水湖が存在したことを示す淡水産浮遊性珪藻化石産地(桃色○).等深線:1000,2000,4000m(左・中図).

4.2024年2月の月刊地震予報

 2024年1月1日の年始早々,2019年から地震活動が活発であった能登半島で,これまでの被害地震記録を大幅に上回るM7.5が襲った.正月であった為か,通常なら発生後1時間以内の速報解公開が遅れていたように感じられた.本震終了判定に速報解を使用しているので,休日と無関係に発生する地震に対応する体制の確立と,沖合島嶼への観測点の充実が期待される.
 新聞やTelevision報道では,今回の地震が活断層の再活動とされているが,主歪軸方位は,1729年享保M7.0で切れ残った部分に新たに断層が形成されたことを示している.
 復旧を困難にしている交通網・給水管の深刻な被害は,鳥居が抜けた2022年6月19日M5.1+p珠洲による地表岩石の浮き上がり・引き剥がしとの関連が予想され,その関連も考慮した対策が望まれる.
 能登半島地震の主歪軸方位から,Philippine海Plate運動による丹沢・伊豆衝突による中央構造線の屈曲と関連していることが示唆されたが,丹沢や伊豆に連なるSlabが沈込んでいる関東地域で地震活動が活発化していることは,この予想を裏付けている.関東地方同様,Philippine海Plate運動と関係している西南日本・琉球海溝域・伊豆海溝域の活動にも警戒が必要である.
 得撫島等の千島列島中央部でM8級の巨大地震が,2013年から続く静穏期終了後に予想されるので警戒が必要である.

引用文献

 松田時彦 (1975) 活断層から発生する地震の規模と周期について. 地震第2輯, 28, 269-283.
 新妻信明(2007)プレートテクトニクス―その新展開と日本列島―.共立出版,292p.
 新妻信明・籐間 俊・伊藤広和・吉本拓二(2005)地殻活動観測所における光波測距による中部日本の歪と2004年新潟県中越地震との関係.静岡大学地球科学研究報告,32, 11-24.
 宇佐美龍夫(2003)日本被害地震総覧.東京大学出版会(東京),605p.

月刊地震予報172)2023年12月16日の伊豆海溝域MarianaM5.7,12月28日の千島海溝域択捉M6.5,2024年1月の月刊地震予報

1.2023年12月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2023年12月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で14 個0.233月分,千島海溝域で1個0.554月分,日本海溝域で7個0.120月分,伊豆・小笠原海溝域で6個0.194月分,南海・琉球海溝域で0個であった(2023年12月日本全図月別).
 2023年12月の総地震断層面積規模はΣM6.6で,最大地震は,2023年12月28日択捉のM6.5(6.6)で,M6.0以上の地震は2023年12月16日MarianaのM5.7(6.3)があった(括弧内は初動規模).
 2023年12月までの日本全域2年間のCMT解は358個で,その総地震断層面積規模はΣM7.8,Plate運動面積規模はM8.2で,その比は0.322である(図538の中図上).Benioff曲線(図538右図上左端Total/4)には東北前弧沖震源帯ofAcJの2022年3月M7.3(月刊地震予報151)と琉球海溝域の歪解放周期更新の2022年9月M7.0(月刊地震予報157)の2つの大きな段が緩い傾斜の静穏期の中に認められる.2023年9月から千島・伊豆・琉球海溝域のM6級の活動によってTotal/4のBenioff曲線の全体的傾斜が増大しており,M7級地震に警戒が必要である.
 

図538 .2023年12月までの日本全域2年間CMT解.
 左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.数字とMは,2年間のM7.0以上のCMT解に加え2023年12月のM6.0以上のCMT解年月日・規模.
 右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間の開始(下端2022年1月1日)から終了(上端2023年12月31日)までの730日間で,右図右端の数字は年月数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36特報5).
 Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
 階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積のPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.2] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.2の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.2step)は,等分期間2.9日以内にM6.2以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
 地震断層移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分区間「2.9day」に前後区間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,逆断層型を赤色・横擦断層型を緑色・正断層型を黒色.
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2.2023年12月16日MarianaのM5.7

 伊豆海溝域のMariana小円区で12月16日18時50分深度10㎞の伊豆前弧震源帯のMariana震源区fAcPcMでM5.7が起こった.本破壊のCMT規模はM5.7であるが,破壊開始の初動規模はM6.3で,初動地震断層面積が5倍大きい.
 本地震は,先月2023年11月24日10㎞M6.9Tr(月刊地震予報171)の後続地震で,太平洋Plateが伊豆・小笠原海溝に沿って同心円状屈曲Slabとして沈込む際に,Slab上面と接する島弧地殻・MantleとのPlate境界に沿う伊豆前弧震源帯のMariana震源区fAcPcMの島弧地殻・Mantle側で起こった(図538,図539).
 伊豆前弧震源帯fAcPcの記録は,1902年まで遡ることできる.最初の2個は伊豆海溝域最大規模のM7.9で,Mariana小円区で1902年9月22日,海台小円区で19014年11月24日に起こっている(Seno & Eguchi, 1984;図539).本地震M5.7と先月のM6.9は,1900年代初頭の巨大地震の中間に位置し,未解放の歪が限界に達して解放を開始したと考えられるのでM8級の巨大地震に警戒が必要である.
 先月と今月の地震の非双偶力成分比は+24%と+11%で,引張T歪が圧縮P歪の2.4倍と1.4倍の引張過剰である.引張歪軸傾斜方位は330+20°と323+26°の北西で,震源の北緯20.4°と20.7°におけるPlate運動PC-PH方位303°と301°より24°と22°時計回り回転しており(図537右下図の主歪軸傾斜方位図の左下の青色△が紫色のSub折線の下方に位置している),Coliolis力を受けていることを支持する.
 同じ発震機構で,初動が主動より大きいこととCoriolis力による主引張歪軸方位の緯度程度の時計回り回転(月刊地震予報170月刊地震予報171)が確認されたことは,震源域の破壊・摩擦状況が変化しておらず,震源域の歪解放が開始された段階であることを示唆している.

図539.伊豆前弧震源帯fAcPcの歴史・観測震源図.
 数字とM:最大規模M7.9の発生年月日と規模.2023年のM6.0以上の発生年月日と規模.
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3.2023年12月28日択捉のM6.5

 千島溝域の択捉島南東沖深度40㎞で,2023年12月28日13時20分M6.5Pが起こった(図538).破壊開始の初動規模はM6.6で,初動地震断層面積は本破壊地震断層面積より1.3倍大きい.
 震度分布は,北海道沿岸で震度2,東北日本沿岸の仙台湾まで震度1を記録し,千島海溝から日本海溝へ連続したSlabが震動を伝えており,その接続部の襟裳岬付近に最大震度3がある(図540).
 本地震は,太平洋Slab上面が島弧地殻と衝突している千島弧沖震源帯択捉震源区oAcCEtrの太平洋Slab上面深度25㎞で発生した.非双偶力成分比は-9%でT/P=0.75の圧縮過剰で,地震断層面の走向はN76Eと海溝軸に並行し,傾斜は35SEの海洋側に傾斜する逆断層で,Plate境界面における衝突による剪断歪を解放している.
 千島弧沖震源帯択捉震源区oAcCEtrでは,66個のCMT震源が北緯44.0±0.5°東経148.6±0.9°で起こっているが,2022年8月16日M5.2pからのCMT震源7個は北緯44.1±0.2°東経149.0±0.2°と数分の1の範囲に集中し(図538),連発地震となっている.この集中域には,2023年9月29日M5.9P(月刊地震予報169)も含まれている.

図540.2023年12月28日の千島弧沖震源帯択捉震源区oAcCEtr深度40㎞のM6.5Pの震度分布.
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 千島海溝域の地震記録は,明治三陸地震1896年M8.5後の1897年11月23日M7.9・1899年5月8日M6.9からある(Seno & Eguchi, 1983).総地震断層面積規模ΣM9.2は,Plate運動面積規模M9.4の66%に達し,Plate運動歪の主要部分が地震によって解放されている(図541).時系列のBenioff図(図541左中図左端)で作図開始の1885年から1930年までは,Benioff図の左下端から右上端を結ぶPlate運動面積累積斜線に累積地震断層面積Benioff曲線が沿っているが,1930年から1950年まで静穏化してBenioff曲線の増加はなく真上に向かい,1950年から1970年まではPlate運動面積斜線に並行に増大する活動期で,1970年から1990年まで静穏化し,1990年から2013年まで活動期,2013年から静穏化している.
 千島海溝域の地震活動は,ほぼ20年毎に活動期と静穏期を繰り返すが,活動期の地震断層面積はPlate運動面積にほぼ等しく,Plate運動歪が地震によって解放されているが,静穏期には地震で解放されず,そのまま蓄積されていることを意味している.弾性反発説(Reid,1911)では,地震間に蓄積した歪が次の地震によって解放され,単純な階段状のBenioff曲線になる.しかし,千島海溝域の活動期初期のBenioff曲線にそのような段差は認められない.
 千島小円区とKamchatka小円区の小円中心は共通で島弧側に位置し,千島海溝軸の輪郭は太平洋側に凸の弧状を成しているので,太平洋Slabは沈込むに従いSlab面積不足が増大し,沈込めなくなる.このSlab面積不足によるSlab沈込停止が,20年毎に訪れる静穏期と考えられる.Slab沈込停止の静穏期でも南北に接続する日本海溝とAleutian海溝との境界域では,海溝軸の輪郭が島弧側に凸なため,沈込みSlab面積過剰となる.この余剰Slabが千島海溝中央部に移行してSlab不足を緩和し,Slab沈込みを開始させ,活動期になるのであろう.縦断面時系列図(図541右中)では,活動期に震源分布が北方のKamchatka小円区に広がり,この予想を支持する.
 北米Plateに対する太平洋Plateの速度PC-NAは,年間8.3cmであるので(図541左図右縁),20年間で16.6cm沈込毎にSlab不足による停止と活動を繰り返していることになる.16.6cmの地震断層のずれD(m)は, D = 10 0.6M-4 (松田,1975)に基づきM8.0と算出される.現在の静穏期は2013年から開始しており,2033年から活動期に入ることが予想される.静穏期直前に下部Manlte上面付近で2012年8月14日M7.7p深度610㎞(速報30)・2013年5月24日M8.3P深度632㎞・2013年10月1日M6.7-np深度590㎞が発生していることは,Slab深部の沈込みによってSlab上部の面積不足が限界に達し,沈込停止に至ったと考えられる.
 Slab面積不足による沈込停止のない千島海溝両端部から最も遠い千島海溝中央部では,Slab面積不足が補われ難く沈込停止している期間が長期間に及ぶであろう.沈込めなかった期間のPlate運動面積が海溝外の太平洋底の圧縮歪を増大させ,千島海溝中央部の摩擦抵抗限界を超えてM8.0以上の巨大地震が予想される.

図541.1895年以降の千島海溝域の地震活動.
 震央地図(左)の左上から右下に向かう曲線は太平洋 PCの北米 NAに対するPlate運動.下縁にPlate運動のEuler極定数,右縁はEuler緯度と年間速度(cm).
 Benioff図の幅は,総Plate運動面積M9.4に併せてあり,ΣM9.2の総地震断層面積は66%に達している.現在は2013年からの静穏期にある.
 〇印が震源.CMT解については発震機構によって彩色し,〇印の初動震源の中心から出る直線の先端がCMT震源.数字とMは地震発生年月日と規模.
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4.2024年1月の月刊地震予報

 千島海溝域では10月1個M5.3・11月1個M5.1と静穏化していたが,2023年12月に択捉沖M6.5Pが起こった.この震源域の緯度0.2°範囲の約20㎞以内で2022年8月16日M5.2pから7個のCMTが起こっており,連発地震となっている.この連発地震は,M7級の前震とも考えられるので警戒が必要である.得撫島等の千島列島中央部でM8級の巨大地震について警戒を呼び掛けていたが,2013年から続く静穏期終了後に予想される.
 伊豆海溝域では,伊豆前弧震源帯Mariana震源区で11月のM5.9Tに続き12月にもM5.7Tが発生した.これらの発震機構に変化が認められず,M7級の地震や津波・火山噴火にも警戒が必要で,ある.

引用文献

松田時彦 (1975) 活断層から発生する地震の規模と周期について. 地震第2輯, 28, 269-283.
Reid, H.F.(1911) The mechanics of the earthquake, vol. 2 of the California Earthquake of April 18, 1906: Report of the State Earthquake Investigation commission: Carnegie Institution of Washinton Publication 87, C192 p.2 vols.
Seno, T. & Eguchi, T. (1983) Seismotectonics of the western Pacific region. Geodynamics of the western Pacific-Indonesian region, Geodynamics Series, 11, American Geophysical Union, 5-40.

月刊地震予報171)2023年11月19日・24日の伊豆海溝域MarianaM5.9とM6.9,2023年12月の月刊地震予報

1.2023年11月の地震活動

 気象庁が公開しているCMT解によると,2023年11月の地震個数と総地震断層面積のPlate運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で11 個0.682月分,千島海溝域で1個0.012月分,日本海溝域で3個0.290月分,伊豆・小笠原海溝域で3個4.132月分,南海・琉球海溝域で4個0.041月分であった(2023年11月日本全図月別).
 2023年11月の総地震断層面積規模はΣM7.0で,最大地震は,2023年11月24日MarianaのM6.9(7.5)で,M6.0以上の地震は2023年11月19日MarianaのM5.9(6.5)があった(括弧内は初動IM規模).
 2023年11月までの日本全域2年間のCMT解は361個で,その総地震断層面積規模はΣM7.8,Plate運動面積規模はM8.2,その比は0.317である(図534の中図上).Benioff曲線には東北前弧沖震源帯ofAcJの2022年3月M7.3(月刊地震予報151)と琉球海溝域の歪解放周期更新の2022年9月M7.0(月刊地震予報157)の2つの大きな段が緩い傾斜の静穏期の中に認められる(図534右図上左端のTotal/4).2023年9月から千島・伊豆・琉球海溝域のM6級の活動によってTotal/4のBenioff曲線の全体的傾斜が増大しており,M7級地震に警戒が必要である.
 

図534 .2023年11月までの日本全域2年間CMT解.
 左図:震央地図,中図:海溝距離断面図.数字とMは,2年間のM7.0以上のCMT解に加え2023年11月についてはM6.0以上のCMT解年月日・規模.
 右図:時系列図は,海洋側から見た海溝域配列に合わせ,右から左にA千島海溝域Chishima,B日本海溝域Japan,C伊豆・小笠原海溝域OgsIz,D南海・琉球海溝域RykNnk,日本全域Total,を配列.縦軸は時系列で,設定期間の開始(下端2021年12月1日)から終了(上端2023年11月30日)までの730日間で,右図右端の数字は年数.設定期間の250等分期間2.9day(右下図右下端)毎に地震断層面積を集計・作図(速報36特報5).
 Benioff図(右上図)の横軸はPlate運動面積で,各海溝域枠の横幅はこの期間のPlate運動面積に比例させてあり,左端の日本全域Total/4のみ4分の1に縮小.
 階段状のBenioff曲線は,左下隅から右上隅に届くように横幅を合わせ,上縁に総地震断層面積のPlate運動面積に対する比を示した.下縁の鈎括弧内右の数値[8.2] [7.9] [7.6] [7.5] [7.9]は設定期間のPlate運動面積が1個の地震として解放された場合の規模で,日本全域ではこの間にM8.2の地震1個に相当するPlate運動歪が累積する.上図右下端の(M6.2step)は,等分期間2.9日以内にM6.2以上の地震がTotal/4のBenioff曲線に段差与える.
 地震断層移動平均規模図areaM(右下図)の横軸は地震断層面積規模で,等分区間「2.9day」に前後区間を加えた8.7日間の地震断層面積を3で除した移動平均地震断層面積を規模に換算した曲線である.右下図下縁の「2,5,8」は移動平均地震断層面積規模「M2 M5 M8」.右下図上縁の数値は総地震断層面積(km2単位)である.
 areaM曲線・Benioff曲線の発震機構型による線形比例内分段彩は,逆断層型を赤色・横擦断層型を緑色・正断層型を黒色.
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2.2023年11月19日の伊豆海溝域MarianaM5.9

 伊豆海溝域のMariana小円区の深度612㎞で,2023年11月19日13時01分M5.9prが起こった.破壊開始の初動規模はM6.4で,破壊開始震動が本破壊震動の10倍近く大きい.
 本地震の深度612㎞は下部Mantle上面660㎞から48㎞上で,下部Mantleにほぼ真下に垂れ下がる同心円状屈曲Slabの末端に位置する(図534).本震源域では2013年5月14日M6.8p深度620㎞と2010年3月8日M6.0p深度463㎞が在り,本地震は3個目で,同心円状屈曲Slabが下部Mantleにほぼ真下に垂れ下がる「伊豆和達δ震源帯WdtiPcD」の様相が明確になった.本震源域は,これまで海台小円区に分布する同心円状屈曲Slabが下部Manlte上面に載る「伊豆和達α震源帯WdtiPcAlf」の南方延長としていたが,「伊豆和達δ震源帯WdtiPcD」の「伊豆和達δMariana震源区WdtiPcDM」と呼ぶことにする(図535).
 「伊豆和達δMariana震源区WdtiPcDM」の3個のCMT解の発震機構は全て逆断層p型である(図535右下の主歪軸傾斜方位図).Slabには,Slab重による下方引張歪が予想されるが,Slab先端が下部Mantleに突入すれば下部Mantleからの浮力を受け,上方圧縮歪が集積する.今回の地震の逆断層型発震機構はSlab先端が下部Mantleに突入して浮力を受けていることを示唆する.

図535.伊豆和達δ震源帯WdtiPcDと伊豆和達α震源帯WdtiPcAlfの観測震源分布.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とMは,「伊豆和達δ震源帯WdtiPcD」の観測震源発生年月日と規模.
 海溝距離断面図で観測震源発生年月日と規模を付けていない同心円状屈曲するSlab上面より下側に分布する震源が「伊豆和達α震源帯WdtiPcAlf(紺色)」である.「伊豆和達δ震源帯WdtiPcD(紫色)」の震源は,同心円状屈曲Slab上面を深度410㎞付近から離脱してほぼ垂直に垂れ下がる様に分布している.
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 「伊豆和達δ震源帯WdtiPcD」の震源区は,小笠原小円区の「伊豆和達δ小笠原震源区WdtiPcDog」のみであったが(月刊地震予報170),「伊豆和達δMariana震源区WdtiPcDM」が加わり,海台小円区の「伊豆和達α震源帯WdtiPcAlf」を間に挟んで南北に分離することになる(図536).
 「伊豆和達δ震源帯WdtiPcD」が分離して分布する小笠原小円区とMariana小円区の小円中心は,島弧側に位置し,「伊豆和達α震源帯WdtiPcAlf」が分布する海台小円区では海洋側に位置している.小円中心が島弧側に位置する小円区では,海溝に沿って沈込んだSlabの面積が沈込に伴って不足し,海洋側に位置する小円区では,過剰になる.下部Mantle上面付近に到達したSlab先端が垂直に垂れ下がって下部Mantleに突入するか同心円状屈曲したまま横たわるとSlab過不足との関連を示唆している.
 Mariana震源区と小笠原震源区に分離した「伊豆和達δ震源帯WdtiPcD」の観測地震の[節番号]・発生年月日・深度・規模・発震機構・(初動規模)は;
 Mariana 小笠原
[6] 2023年11月19日612㎞M5.9pr(6.5)
[5] 2018年2月6日490㎞M5.3np(5.6)
[4] 2015年10月20日325㎞M5.6np(5.8)
2015年6月15日390㎞M4.9P(5.5)
2015年6月3日695㎞M5.0-t(5.6)
2015年5月30日688㎞M7.9t(8.1)
[3] 2013年5月14日620㎞M6.8p(7.3)
[2] 2010年3月8日463㎞M6.0p(6.5)
[1] 2009年9月23日435㎞M5.2p(5.7)
2009年5月26日462㎞M4.7+np(5.0)
[0] 1993年3月20日366㎞(M4.7)
[-1] 1985年12月3日436㎞(M6.0)
[-2] 1970年5月20日350㎞(M7.1)
である.「伊豆和達δMariana震源区WdtiPcDM」の観測地震が2010年以降に限られているのは,観測限界外であったとも考えられるので2010年以前に起こっていなかったは不明であるが,小笠原震源区とMariana震源区の活動は同期していない.

図536.伊豆海溝域で裂けて沈込む太平洋Slab.
 震源帯名は上から同心円状屈曲を開始する「伊豆海溝TrPc」(黒色),屈曲Slabと島弧地殻・Mantleの衝突による「伊豆前弧fAcPc」(橙色),引き裂かれる前の「伊豆和達島弧WdtiPcAc」(青色),横臥状に同心円状屈曲したまま深度660㎞の下部Mantle上面に載る「伊豆和達αWdtiAlf」(紺色),垂直に下部Mantle上面を突き抜く「伊豆和達δWdtiPcD」(紫色),深度550㎞のγ相への相転移面で押し流される「伊豆和達γWdtiPcG」(緑色),深度410㎞のβ相への相転移面で押し流される「伊豆和達βWdtiPcB」(黄緑色).日本海溝から沈み込むSlabの「東北和達震源帯列WdtiJ」(薄紫色).引き裂かれたSlabの隙間からPlate運動に随行してきた太平洋底下のMantleが流出する.
 「伊豆和達δWdtiPcD」(紫色)の分布を小笠原小円区のみとしていたが(月刊地震予報131月刊地震予報170),2023年11月19日612㎞M5.9prに基づきMariana小円区にも分布していることが判明した.
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3.2023年11月24日の伊豆海溝域MarianaM6.9

 伊豆海溝域のMariana小円区で11月24日18時05分深度10㎞のM6.9Trが在った.破壊開始の初動規模はM7.5で,破壊開始震動が本破壊の10倍近く大きい.
 本地震は,太平洋Plateが伊豆・小笠原海溝に沿って同心円状屈曲Slabとして沈込む際に,Slab上面と接する島弧地殻・MantleとのPlate境界に沿う「伊豆前弧震源帯fAcPc」のMariana震源区fAcPcMの島弧地殻・Mantle側で起こった(図537).非双偶力成分比は+24%で,引張T歪が圧縮P歪の2.4倍の引張過剰である.引張歪軸傾斜方位は330+20°で,北緯20.4°の震源におけるPlate運動PC-PH方位303°から27°時計回り回転しており(図537右下図の主歪軸傾斜方位図の左下の青色△が紫色のSub折線の下方に位置している),Coliolis力を受けていることを支持する.
 Coriolis力によって,正断層型CMT解の引張T歪軸方位がPlate運動方位から緯度程度の時計回り回転することが千島海溝域と琉球海溝域の琉球裂開沖縄震源区で認められているが,伊豆海溝域では反時計回り回転が認められおり,伊豆弧の西南日本との衝突の影響が予想されていた(月刊地震予報170).本地震は,伊豆海溝域の最南端Marianaに位置し,西南日本との衝突の影響が及ばないことと大きな引張過剰であることから,Coliolis力による回転が認められたのであろう.
 「伊豆前弧沖Mariana震源区fAcPcM」のCMT解3個の[節番号]・発生年月日・深度・規模・発震機構・(初動規模)は:
[3] 2023年11月24日10㎞M6.9Tr(7.5)
[2] 2016年12月14日16㎞M6.1+nt(6.3)
[1] 2007年1月31日24㎞M6.7-np(7.1)
である.

図537.伊豆小笠原海溝域の「伊豆前弧震源帯fAcPc」の観測地震.
 震央地図(左図)と海溝距離断面図(中図)の数字とMは,発生年月日・規模.
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4.2023年12月の月刊地震予報

 千島海溝域は静穏化しているが,2023年9月にM6級の地震が2個起こった後,10月1個M5.3・11月1個M5.1と静穏化しているが,2-3月周期で活動していることから,得撫島域のM8級の巨大地震に警戒が必要である.
 伊豆海溝域は,11月にMarianaでM6.9・M5.9が発生したが,10月にも伊豆裂開震源帯RifIのM6.3が起こり,八丈島の津波と硫黄島の噴火があり,警戒が必要である.
 琉球海溝域では,11月にΣM5.6と静穏化しているが,2022年9月に歪解放周期第4節第1小節の西南海溝震源帯のM7.4が起き,2023年9月に第2小節の舞台となる西南平面化震源帯uBdPhでM6.3,2023年10月に第3小節の舞台となる西南裂開沖縄震源区RifPhOkwでM5.7が起こっており,第4節の第2小節への移行が予想される.第2小節では被害地震が少ないが,次の第3小節では前の第3節の第3小節で2016年4月の熊本地震M7.1が起こっている.また,第-1節の第3小節で最大地震M7.2が今回の震源域で起こっており津波も伴っていたことから,今後に経過を注意深く見守る必要がある.